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1章 家族

ロリ女神に任せたのが間違いでした

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父様から受け取った手鏡で自分の顔を見ると、私も息を飲んだ。
白い雪のようなふわふわとした髪と、同じように白い肌が熱の影響かほんのりピンクに色づいている。物凄く可愛い女の子なのだが、問題はそこではなく、父様も言ってたとおり瞳にあった。左目は母様と同じガーネットのような暗めの赤色の瞳。そして右目はなんと蜂蜜のような金色の瞳をしていたのだ。

(どういうこと?ゲームでは両目とも左目と同じく母様譲りの赤色だったはずだ。まさかこれがロリ女神の言ってた隠さざるを得ないもの…?)

私が手鏡の中の自分を食い入るように見ていると父様が手鏡を取りあげた。手鏡を追うように父様へ目を向けると父様はとても真剣な表情になっている。嫌な予感が段々強くなってる気がしつつ、父様に尋ねてみた。

「父様…この瞳がどんなものか知っていますの?」
「あぁ…。その瞳は多分、全知の瞳。数百年から数千年に一度、突然現れると伝承に残っている。その瞳を持つものは未来を見通し、一度見たものは忘れず、その者の使う魔法は辿り着けない領域へと達すると聞く。ただ、その瞳を持つ者が現れる時、必ずその者を巡って争いが起きるんだ…くそっ…!!なんでシノンに…!!」

父様がとても苦々しい顔をする。そんな父様の歪んだ顔もカッコイイなーとか軽い現実逃避をしつつ、頭の中は大変なことになっていた。
(あんのクソロリ女神ぃぃぃぃ!!なにが任せてくださいだ!!全然任せられないじゃないか!!たしかにこれは隠さなければ安眠ライフが遠のいてしまう、隠せば必然的に隻眼になり、たしかに令嬢としては大きなハンデになるのは分かるし縁談も大きく減るだろう…さらにこの瞳があれば魔法が使えなくて困ることはないし、全部の望みは叶ってる、叶ってるけども…!!他のはなかったのか…!!)

私がクソロリ女神への罵詈雑言を頭の中で吐き出していると、父様が意を決したように私に向き合う。自然と私の背筋も伸びる。

「シノン、いいかい?私は君に私と妻のように恋愛結婚をしてほしいと願っていた。だけれど、その瞳を持つということは隠し通さなければならないんだ。そうしないと、君は日常を送ることすらままならないだろう。君は今回の風邪による高熱で片目を失明したことにして、眼帯をしよう。そうなれば君は世間的には隻眼の女の子になってしまう。中には君を差別するものも現れるだろう…どうかそうすることでしか娘を守れない、役立たずな父様を許しておくれ…」

父様は先程よりもっともっとつらそうな顔をしている。父様がつらそうだと私もつらくなってくる。父様の握りしめ過ぎて少し震えている手に自分の手を重ねてふるふると首を横に振った。

「父様、私なら大丈夫です。私はこの領地で穏やかに暮らせればいいのです、ただ…」
「ただ、なんだい?父様に言っておくれ。」
「では、1つ聞きたいこととお願いがありますの。」
「あぁ、聞こう。」
「まず、聞きたいことなのですが、私のこの瞳について、この屋敷で働く皆様のうち何人かには伝えないといけないと思うのです。父様の信頼できる人達は何人程いらっしゃいますか?」
「それなら心配いらないよ。この屋敷で働く者達は身分は関係なく、私に忠誠を誓う実力者ばかりが揃っている。逆に皆に伝え、サポートをしてもらおう。」

さすが父様だ、なんとなくそんな気はしてた。ほとんど家にいない父様が自分の信頼できない者をこの屋敷にいれる訳ないのだ。

「さすが父様です!!」
「まあね、それでお願いは?」
「えっと、私…兄が欲しいんですの…」
「兄…?」

父様がちょっと困った顔をする。弟なら後妻を迎えればつくれるかもしれないが兄となるとそういう訳にはいかない。まあそんな母様一筋の父様に後妻を迎えさせたりなんてしないが。

「血が繋がってなくていいのです、ただ女性が領主になるわけにはいきませんし、私が結婚して婿を迎えるのは厳しいでしょう。ですから養子を迎えて、その子を次の領主にしてほしいのです。」
「シノン…君はそんなに聡明だったのか…」
「ま、まあそれは表向きの理由でして、本当は父様のお仕事の邪魔はしたくありませんし、かといって1人だと少し寂しいので頼りになる兄がほしいなと思いまして…ダメでしょうか?」

父様が呆気に取られてしまったため、慌てて理由を付け足したし、上目遣いでお願いしたので大丈夫なはずだ。案の定、父様は私の仕草の方に意識がいったらしく、5歳とは思えない発想についてはそれ以上追求しなかったし、了承をもらった。安眠ライフへ1歩近づいた…かな?
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