同級生で美少女の巫女さんが、陰キャの俺に興味を持って追いかけてくるのは何故なのか?

波瀾 紡

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【16:これ食べて】

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◆◇◆

 翌日は朝から平和だった。

 昨日の放課後、日和に改めて念押ししたから、今朝は軽く挨拶するくらいで済ませてくれた。

 ただ、日和に納得してもらうために、アイツにおごるたい焼きが二個になったのは痛手だ。
 あんことカスタードの2つ。どんだけたい焼き好きなんだよ。まあ安上がりでいいけど。

 昼休みの学食はどうしようか。

 また高木達に同席したら、席取りの苦労は避けられる。だけどアイツらに付き合うのもなぁ。




 迷って答えが出なかったけど、時間が経って否応なしに昼休みはやってきた。仕方ない。とりあえず学食に行こうか。

 そう思って高木達を見たら、向こうも三人で俺の方を見てる。一緒に行こうぜっていうジェスチャーもしてる。仕方ない。そうすっか。


「天心君、今日も学食?」
「うん?」

 急に神凪が訊いてきた。反射的に答えたけど……あれっ? 今、下の名前で呼ばれなかったか?

「じゃあ、これ食べて」

 神凪が俺の机に置いたものは、赤いハンカチに包まれた、四角い物体。

 何これ?
 ハンカチで包まれた、でっかい消しゴム?

 いや。食べてっていうことは、食べ物だよな。消しゴムを食えってか? それって明らかなイジメだよな。

 なんだか弁当箱のようにも見えるけど、もしかして神凪の手作り弁当?

 ……いやいやいや。それは、ないでしょ。

「何これ?」

 素直に訊いてみた。

「さて、なんでしょう?」
「赤いハンカチ」
「見たまま、言うな!」

 うわっ。鋭い目つきで睨まれた。
 地鎮祭でロリ神様に向けてたのと同じ、超攻撃的視線。

「ごめん」

 その視線が恐ろしくて素直に謝ったら、神凪はハッとした表情で、「おほほ」と作り笑顔を浮かべた。

「こ、これは何かなぁ?」
「私が作ったお弁当」

 今度は神凪も、素直に答えた。

 そんなことはあり得ない。きっとドッキリに違いない。弁当箱を開けると、キューッとか鳴りながら、変な玩具おもちゃが飛び出すんだろ。

「あの……迷惑だった?」

 俺が黙って神凪の顔を見てたもんだから、神凪は恐る恐る訊いてきた。

「いや、そんなことはないけど……なんで急に?」
「だって天心君、お母さんのお弁当が今日もないって言ってたから。それに色々助けてくれたお礼もしたかったし」

 助けたって言っても、確かに助けには行ったけど、役に立ってないしなぁ。でもなんだか本当に、普通に弁当のようだ。

 食わずにつき返すってのは、やっぱ鬼畜だよな。学食で並ぶ手間と、席を探す手間も省ける。ありがたくいただくか。

「ありがとう」

 赤いハンカチの結び目をほどくと、中から弁当箱が出てきた。

 一応、びっくり箱だという線も消えてはいない。慎重に蓋を開ける。


「うっわ、スゲー!」

 思わず感嘆の声が出た。簡単な声、じゃない。感嘆の声だ。

 なんだかおかずの種類が、めっちゃたくさんある。

 最近の母さんの弁当は、大きな卵焼き、大きなハンバーグ、キャベツ少々、はい以上。
 ──ってな感じになってる。


 でもこの弁当は、色んなおかずが少量ずつ、たくさんの種類が入ってる。

 きっと凄く手間がかかっただろうな。

「すっごく色んなおかずが入ってるな」
「でしょーっ? 卵焼き二切れ、ウインナー二個、えのきの肉巻き3つ、蒸した小エビ、スナップエンドウ、ベーコンのクレイジーソルト炒め、それと鶏ハムサラダ……」 
「わかった、わかったから! とにかく凄いよ」

 クックパッドのレシピ紹介かよ。

 ところでクレージ-ソルトって何? 狂った塩? もしかして、食べると狂うのか? 毒か?

「あ、ごめん。天心君が凄いって驚いてくれたから、ついついテンション上がっちゃって」

 え? 清楚を装ってるはずなのに、教室内でそんなテンションを上げて大丈夫なのか?

「クレージ-ソルトって何?」
「岩塩とハーブがミックスされた商品。美味しいよ」

 そうなんだ。毒ではなさそうだ。疑ってすまん、神凪。

 あ、神凪とこんなに親しげにしてて、大丈夫か?

 はっと気づいて教室内を見回した。

 ──うわっ。

 『陰かわ眺め会』の面々が三人並んで、すっごいジトッとした顔で俺を睨んでる。

 こりゃまずい。

 神凪や日和とは仲良くしないって、昨日約束したばっかなのに……

 神凪の弁当をここで嬉しそうに食べたら、あいつらに殺されそうだ。

 かと言って、今さら『やっぱいらない』なんて、神凪に失礼すぎて言えない。

 どうしたらいいんだ?


「あれぇ? 天心君、何ですかぁ、そのお弁当は?」

 トイレから帰ってきた日和が、俺の机の上を見て驚いた声を出した。

「あ、いや……弁当がないのを心配して、神凪が作ってきてくれたんだ」
「えぇ~ ずるーい。言ってくれたら私が作ったのにぃ」
「あら、月影さん。差し出がましいことして、ごめんなさいね」

 頬をぷーっと膨らませる日和に、神凪はなぜか勝ち誇ったような口調で言って、ほほほと笑う。コイツ、なんだかキャラ変わってないか?

 ふと見ると、『陰かわ眺め会』の面々は、さらにご立腹の顔をしてる。ヤバい。
こんな状況で、ここで弁当を食うなんてできない。
 
「あいたたたた」
「どうしたの? 大丈夫?」

 心配してくれる神凪を手で制して、彼女の耳元で囁いた。

「お腹が痛いからトイレ行ってくる。弁当は後で食べるから、置いといて」

 そして大慌てで、トイレに向かい、個室に入って便器に腰かけた。


 弁当に箸をつける前で良かった。食べ出した後なら、お腹痛いなんて嘘をついたらえらいことになるもんな。

 神凪の好意はありがたいけど、日和は文句言うし、高木たちは激怒してそうだし。

 やっぱあの弁当は、あいつらの前では食べられない。

 それに今日の神凪は、ちょっといつもとキャラが違うよな。あんまり無理に清楚を装うって感じじゃない。本性の攻撃的でもないし。

 なんか、普通の女の子って感じだ。
 ──いや違う。可愛いけど変な女の子って感じだ。

 いったい何があったのか?

 ん? もしかして、とうとう神凪にも厄介な霊か邪神が取り憑いたとか? その可能性はあるぞ。慎重に接しなきゃいけない。
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