同級生で美少女の巫女さんが、陰キャの俺に興味を持って追いかけてくるのは何故なのか?

波瀾 紡

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【37:二階堂幽です】

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 二階堂 ゆうと名乗ったその転校生は、小町こまち先生の指示で空いてる席に座った。最後列の俺の、右の右。つまりさくらの席の右隣だ。
 

「はじめまして。二階堂 幽です。よろしく」
「あ、神凪かんなぎさくらです」

 転校生は爽やかに笑って、さくらに挨拶してる。さくらは言葉少なに返しただけだけど、チラッと横顔を見たら、なんだか照れたような顔つきで、顔がほんのり赤い。

 さくらのヤツ、イケメンに挨拶されたからって照れくさそうになんかして。なんかちょっとムカついた。

 あれ? いや待て。なんでムカつく必要があるんだ?

「じゃあこのまま一限目の授業を始めまーす」

 一限目は小町先生の国語だ。先生はなんだか機嫌がいい。ゴールデンウィーク中に、何かいいことがあったんだろうか。

「あ、そうだ。二階堂君はまだ教科書がないから、隣の人が見せてあげてー」

 小町先生がそう言った瞬間、二階堂の声が聞こえた。

「さくらちゃん、見せてくれるかな?」
「あ、はい」

 いきなり下の名前で呼ぶかっ?
 しかも二階堂の右隣にも他の生徒がいるってのに、さくらをご指名とは。

 二階堂を見ると爽やかな笑顔で机を持ち上げて、さくらの机にピタッとくっ付けた。まるでそれが当たり前と言わんばかりの自然な行動だ。

 なんだかわからないけど、胸の奥がモヤっとして、無性に二階堂に対してムカついた。今までこんな気持ちになったことはない。なんでこんな感覚になるのか?

 さっきさくらが、俺のファンクラブを結成したとか言ったからか? さくらは俺のファンクラブ会員なのに、っていう嫉妬心。

 そうだっていう気もするけど、なんか違う気もする。

 ああ、わかんねー!

 でもそうやって理屈で考えてたら、ちょっとは気持ちが落ち着いてきた。でも二人の様子が気になって、授業の内容は全然頭に入ってこない。

 なーんて言い訳してるけど、普段も授業の内容なんて、あんまり頭に入らないんだけどな。だからこその成績下の下だ。


 とは言うものの──いつも以上に授業が頭に入らないのは確かだ。


 あーっ、二階堂のヤツ、顔をさくらに寄せ過ぎだって! 教科書を覗き込むふりをして、そんなに顔を寄せなくてもいいだろっ!



 ──いや、ホントに俺、おかしいな。

 さくらなんか人気女子だから近づこうとする男子は今までもいたし、高柳が仲良くなろうと近寄った時も、こんな気持ちにはならなかった。

 その後いろんな出来事があって、さくらとの距離は縮んだけど、だからといって、それだけでこんな気持ちになるもんだろうか。

 ああ、わからん!

 こんな感覚は生まれて初めてだから、よくわからない。とにかくあんまり気にしないようにしよう。



 国語の授業が終わって、小町先生は教室を出て行った。なのに二階堂は、授業で何かわからないことがあると言って、さくらにいろいろ質問をしている。

 二人並んで机に座ったままで、肩を寄せ合って何か話をしている。ああ、なんでそんなに近いんだよ。

 二人を見ているとなんだか胸の奥がモヤモヤして止まらないから、俺はトイレに行くことにした。




 トイレを済ませて洗面所で手を洗いながら、ふと鏡で自分の顔を見た。

 うわっ。引きつって、なんだか怖い顔してるよ。元々愛想なんてない自分の顔だけど、こりゃより一層酷いな。あはは。

 洗面の水で顔を洗って、頰をぱんぱん両手のひらで叩いた。まあこれでちょっとはマシになったかな。

 さぁ二時間目からはつまんないことに気を取られないで、しっかりと居眠りするぞ!


 そう気合い(?)を入れ直してトイレを出たら、ばったりとさくらと鉢合わせた。

「あ、天心君」
「あ、ああ。さくらか」
「どうしたの? なんだかキョドってるけど?」
「いや、別に」

 確かに思いがけずさくらと会って、焦って心臓がドキドキしてる。

「別にって……大丈夫?」

 大丈夫ってどういう意味だ?
 そんなに俺の顔色悪いかな? 調子悪そうに見えるのか?

「うん、大丈夫だって」
「ふーん。じゃあ良かった」

 さくらはにこっと笑って、女子トイレに入っていった。何か言いたそうな感じもあったけど、なんだったのかわからない。


 二時間目も三時間目も、二階堂はさくらと机をくっつけたまま、教科書を見せてもらってた。時おり二階堂が何かボソボソと喋って、さくらはクスクスと笑って楽しそうだ。何を話してるのかはわからない。

 二階堂が教科書を手に入れるまでは毎日こんなのが続くんだと考えたら、また胸の奥がもやもやする。ホントに俺、どうしてしまったんだろう。

 あんまりもやもやするのもいらんから、気をそらすために教師の話に耳を傾けたら、案外授業は面白かった。

 うまくいけば、成績上がるんじゃないの?
 いや、まあそんな簡単にいくわきゃないか。

 そんなことを考えて気を紛らわしてたら、ようやく午前中の授業が終わって、昼休みになった。


「さくらちゃーん、お弁当食べよ」

 日和がさくらに声をかけて、さくらの席で一緒に弁当を食べ出した。ホントに二人、仲良くなったなぁ。まあいいことだな。二人の雑談を聞くともなしに聞きながら、俺は自分の席で弁当を食べる。

「さくらちゃんのお弁当って、自分で作ったの?」

 さくらの席の向こう側から、二階堂の声が聞こえた。あいつも自分の席で一人で弁当を食べてて、隣の席のさくらの弁当を覗き込んでる。

「え? うん、そう」
「へぇ、凄い豪華な弁当だね。さくらちゃんって料理上手なんだね」
「あ、ありがとう」

 さくらは満更でもない様子で、笑顔を浮かべてる。ああ、またイライラしてきたよ。早く弁当食って、便所行こうっと。

「さくらちゃんの彼氏が羨ましいなぁ」
「いえ、彼氏なんていないし」
「ええっ、嘘!? さくらちゃんほど可愛い子に、彼氏がいないの? 信じられない。凄く素敵なのに」

 はぁ? なんだコイツ。髪をかき上げて、白い歯きらりんって感じで爽やかに笑ってるよ。まるで『僕が、彼氏に相応ふさわしい男だ』って言わんばかりだ。高柳もこんな感じで女子に攻めの姿勢を貫いてたけど……

 高柳の場合はチャラ男だし、女子からは相手にされてなかったもんなぁ。でも二階堂はイケメンだし、やっぱり女の子にはモテるんだろうか?

「そんなことないよ。でもありがとう」

 さくらは照れたような笑顔を二階堂に向けてる。高柳に、彼氏がいるのかと聞かれた時は、クールに『いいえ』って答えてたのに。ああ、またイライラする。


 心の中で一人勝手にイライラしたりもやもやするのが自分で嫌になって、急いで弁当を食って、トイレに向かった。

 トイレを済ませた後も、なんとなく教室に戻る気になれなくて、廊下を教室とは反対側に行って、階段の踊り場に来た。壁に背を預けて、はぁっとため息をつく。


 ホントに自分が自分じゃないみたいだ。二階堂とさくらが仲良さげにしてるのを見てイライラするなんて、今までの経験では考えられない。どうしちまったんだろう、俺。




 踊り場の壁にもたれかかって、しばらくぼーっとしてたら、急に声が聞こえた。

「あ、ここにいた」

 廊下との角から、ひょこんと顔を覗かせたのはさくらだ。急に心臓がどくんと跳ね上がった。

「ど、どうした? 何か用か?」
「どうしたの、はこっちのセリフ」
「何が?」
「天心君は、妬《や》いてるのかな?」
「えっ?」

 さくらはにやりと意地悪そうに笑って、いきなり訊いてきた。

 いきなり図星。自分でもなんで妬いてるのかよくわからないけど、これは間違いなく嫉妬だってことくらいはわかる。

 でもそんなのを認めるわけにはいかない。なんでいきなりそんなことを訊くんだよ?
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