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【38:妬いてる?】
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階段の踊り場で一人いたら、ひょこっとさくらが現れた。
さくらは意地悪そうに笑いながら、いきなり「天心君は、妬いてるのかな?」って訊いてきた。
「いや、別に。妬いてなんかない」
「ふーん、そうなんだ」
「なんで俺が、お前と二階堂に妬かなきゃいけないんだよ」
できるだけ無愛想を装って、そんなことに興味はないって感じを出した──つもりだ。
「なーんだ。めちゃくちゃ残念!」
「え? なにが?」
「天心君に、妬いてほしかったなー。 そっかぁ。妬いてないのかぁ」
さくらは照れくさそうに上目遣いをして、俺の顔を見てる。その表情に、また鼓動がどくんと跳ね上がる。
「いや、あの……」
「だって私が二階堂君と近くにいると、天心君はすっごい怖い顔になってるんだもーん。てっきり妬いてくれてるのかと思った」
か、完全にバレてた。なんてこった。恥ずかしすぎる。俺は──自分では認めたくないけど、確かに妬いてる。
さくらはじっと俺の目を見て、目をそらそうとしない。ど、どうしたらいいんだ? これは、ごまかしにくいぞ……
「いや、あの、その……」
どう答えたらいいのかわからない。頭が真っ白になる。
「まあいいや。天心君って、すぐ顔に出るんだねー。今までずっとクールな感じだったから意外」
さくらはそう言って、ふふふと笑ってる。
くそっ、見破られてる。顔が火照って熱い。俺だって自分で意外なんだよ。
でもさくらは、二階堂と仲良くして喜んでるわけじゃなかったんだ。さくらの『妬いて欲しかった』っていう言葉に、ホッとしてる自分がいる。
「そうだよ。俺は隠キャでクールな生き物だ。だから妬くなんて……」
さくらはじっと俺を見つめたままだ。
コイツは元々清楚を装って、ホントの自分を隠してたのに、素直に好きなものは好きと言うようにしたって言ってた。
そして『妬いて欲しかった』なんて、今までのさくらなら考えられないようなことを言った。そんなことを言うには、コイツもホントはすっげぇ勇気がいるんだろう。
なのに俺は、ホントの気持ちを隠したままでいいんだろうか? なんかそれって、コイツにすっごい失礼なんじゃないのか?
「だから妬くなんてことは、俺にはありえない! ……はずなんだけど……」
「はずなんだけど?」
さくらは何かを期待するように目を輝かせてる。そっ、そんなにわくわくした顔をするな。
「……はずなんだけど、さくらが他の男と仲良くしてると、なぜだか妬いちゃうんだよ」
あ、言っちまった。めちゃくちゃ恥ずい。顔がめっちゃ熱い。恥ずい、恥ずい、恥ずい。
さくらは、にっこぉーと笑ってる。
「やったぁー。天心君、可愛いー」
おちゃらけたように言いながらも、さくらも顔を真っ赤にして、「じゃあまた後で」と手を振って、教室の方に戻って行った。
さくらも平気そうにしてながら、ホントは相当恥ずかしかったんだな。
ああ、でも、とうとう本音を言っちゃったよ。どうしよう。恥ずかしくて、もうさくらの顔をまともに見れないかも。
「俺のキャラじゃない」
ついつい独り言が口から出た。
「いやいや、素直でよろしい」
おわっ! 誰だ?
──と思って見たら、ロリ神様がそこにいた。
「い、いつからいたんだ?」
「ん~、巫女がここに来た時に、一緒に来た。こっそり廊下の角に隠れとったけどなぁ」
ロリ神様はにやにやしてる。
「覗き見なんて趣味悪ぃな」
「おかげで楽しいものを見せてもらった」
くそっ。意地悪な、にやにや顔をしてやがる。
「とうとう天心も恋に落ちたか」
恋? これは恋なのか?
正直今まで、本気で女の子を好きになったことがない。だからこれが本当に恋なのかどうか、わからない。
「うーん、残念じゃ。天心を巫女に取られたわい」
取られた? おいおい本気か?
コイツは見習いと言えども神様だよな?
俺が動揺して固まってたら、ロリ神様はニヤッと笑った。
「冗談じゃ。いくらなんでも、神が人間に惚れるなんてありえんわ。巫女を大事にしてやれよ」
「そ、そんな冗談はやめてくれ」
「でも恋は女を変えると言うが、男も変えるのぉ」
「何が言いたい?」
「真面目だけども、いつも拗《す》ねたような顔をしてた天心がなぁ。今は照れて素直な顔をしとるぞ。なかなかかわいいぞよ」
かわいい小学生女子のような見た目のロリっ子に言われたかないぞ。にやにやしやがって、からかわないでくれ。
「だが天心よ。お前、もっと素直に自分の感情を出せ。その方が心が解放されて、お前が持つ霊力がもっと出るようになるぞ」
そうなのか? あれよりももっと強い霊力。そんなのを俺が出せるなんて本当か?
「ロリ神様。俺の霊力って……いったいなんなんだろ? 俺って何者?」
「さあ、それはワシにもよくわからん。けど、そんな強くて美しい霊力を持つ人間を見たのは初めてじゃ」
神様にもわからないのか。
だけどコイツは見習いだからなぁ。
「あのオッサンの神様でもわからないかな?」
「ふむ。どうじゃろ。また聞いておくぞよ」
自分がいったい何者なのか、わからないままってのはもやもやして嫌だ。オッサンが何か知ってたら、それがわかるヒントになるかもしれない。
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「またオッサンに聞いといてくれ。俺は教室に戻るわ」
「ああ、またな」
俺はロリ神様を残して、教室に戻った。さくらは机を並べた二階堂の方を向いて、彼と何やら話し込んでる。
さくらと顔を合わせるのは恥ずいから、ちょうど良かった。ホッとして、静かに自分の席に座る。
椅子を引いたらガタッと音が鳴ってしまって、さくらが振り向いて目が合った。彼女はニコッと笑う。
あ、めっちゃ可愛い。ダメだ。顔が緩むのが自分でもわかる。こんな顔をさくらに見せてしまうのは恥ずかしいし、なんだかちょっと悔しい。
しかも邪々神がさくらを宙から落として両腕で受け止めた時のことが頭をよぎった。柔らかいさくらの身体の感触が腕に蘇る。
やっぱりこれが恋というやつなのか?
顔をそらせて反対側を向いたら、今度は左側の席の日和と目が合った。
「天心君、なんだか嬉しそうですぅ。何かいいことありましたかぁ?」
「あ、いや、別に」
あ、ヤバい。俺がこんな気持ちでいることが、日和にまでバレそうだ。もしも俺がさくらに恋してるとしたら──日和はどう思うんだろか?
「天心君が幸せそうな顔をしてたら、私も幸せな感じがするから、それはそれでいいですぅ」
にっこり笑う日和。コイツ、ホントにいいヤツだ。でも他の女の子のことで幸せそうな顔をしてるなんて、なんだか日和を騙してるみたいで悪い気がする。
ああ、どうしたらいいんだ。俺にはこんな経験がないから、よくわからない。
さくらは意地悪そうに笑いながら、いきなり「天心君は、妬いてるのかな?」って訊いてきた。
「いや、別に。妬いてなんかない」
「ふーん、そうなんだ」
「なんで俺が、お前と二階堂に妬かなきゃいけないんだよ」
できるだけ無愛想を装って、そんなことに興味はないって感じを出した──つもりだ。
「なーんだ。めちゃくちゃ残念!」
「え? なにが?」
「天心君に、妬いてほしかったなー。 そっかぁ。妬いてないのかぁ」
さくらは照れくさそうに上目遣いをして、俺の顔を見てる。その表情に、また鼓動がどくんと跳ね上がる。
「いや、あの……」
「だって私が二階堂君と近くにいると、天心君はすっごい怖い顔になってるんだもーん。てっきり妬いてくれてるのかと思った」
か、完全にバレてた。なんてこった。恥ずかしすぎる。俺は──自分では認めたくないけど、確かに妬いてる。
さくらはじっと俺の目を見て、目をそらそうとしない。ど、どうしたらいいんだ? これは、ごまかしにくいぞ……
「いや、あの、その……」
どう答えたらいいのかわからない。頭が真っ白になる。
「まあいいや。天心君って、すぐ顔に出るんだねー。今までずっとクールな感じだったから意外」
さくらはそう言って、ふふふと笑ってる。
くそっ、見破られてる。顔が火照って熱い。俺だって自分で意外なんだよ。
でもさくらは、二階堂と仲良くして喜んでるわけじゃなかったんだ。さくらの『妬いて欲しかった』っていう言葉に、ホッとしてる自分がいる。
「そうだよ。俺は隠キャでクールな生き物だ。だから妬くなんて……」
さくらはじっと俺を見つめたままだ。
コイツは元々清楚を装って、ホントの自分を隠してたのに、素直に好きなものは好きと言うようにしたって言ってた。
そして『妬いて欲しかった』なんて、今までのさくらなら考えられないようなことを言った。そんなことを言うには、コイツもホントはすっげぇ勇気がいるんだろう。
なのに俺は、ホントの気持ちを隠したままでいいんだろうか? なんかそれって、コイツにすっごい失礼なんじゃないのか?
「だから妬くなんてことは、俺にはありえない! ……はずなんだけど……」
「はずなんだけど?」
さくらは何かを期待するように目を輝かせてる。そっ、そんなにわくわくした顔をするな。
「……はずなんだけど、さくらが他の男と仲良くしてると、なぜだか妬いちゃうんだよ」
あ、言っちまった。めちゃくちゃ恥ずい。顔がめっちゃ熱い。恥ずい、恥ずい、恥ずい。
さくらは、にっこぉーと笑ってる。
「やったぁー。天心君、可愛いー」
おちゃらけたように言いながらも、さくらも顔を真っ赤にして、「じゃあまた後で」と手を振って、教室の方に戻って行った。
さくらも平気そうにしてながら、ホントは相当恥ずかしかったんだな。
ああ、でも、とうとう本音を言っちゃったよ。どうしよう。恥ずかしくて、もうさくらの顔をまともに見れないかも。
「俺のキャラじゃない」
ついつい独り言が口から出た。
「いやいや、素直でよろしい」
おわっ! 誰だ?
──と思って見たら、ロリ神様がそこにいた。
「い、いつからいたんだ?」
「ん~、巫女がここに来た時に、一緒に来た。こっそり廊下の角に隠れとったけどなぁ」
ロリ神様はにやにやしてる。
「覗き見なんて趣味悪ぃな」
「おかげで楽しいものを見せてもらった」
くそっ。意地悪な、にやにや顔をしてやがる。
「とうとう天心も恋に落ちたか」
恋? これは恋なのか?
正直今まで、本気で女の子を好きになったことがない。だからこれが本当に恋なのかどうか、わからない。
「うーん、残念じゃ。天心を巫女に取られたわい」
取られた? おいおい本気か?
コイツは見習いと言えども神様だよな?
俺が動揺して固まってたら、ロリ神様はニヤッと笑った。
「冗談じゃ。いくらなんでも、神が人間に惚れるなんてありえんわ。巫女を大事にしてやれよ」
「そ、そんな冗談はやめてくれ」
「でも恋は女を変えると言うが、男も変えるのぉ」
「何が言いたい?」
「真面目だけども、いつも拗《す》ねたような顔をしてた天心がなぁ。今は照れて素直な顔をしとるぞ。なかなかかわいいぞよ」
かわいい小学生女子のような見た目のロリっ子に言われたかないぞ。にやにやしやがって、からかわないでくれ。
「だが天心よ。お前、もっと素直に自分の感情を出せ。その方が心が解放されて、お前が持つ霊力がもっと出るようになるぞ」
そうなのか? あれよりももっと強い霊力。そんなのを俺が出せるなんて本当か?
「ロリ神様。俺の霊力って……いったいなんなんだろ? 俺って何者?」
「さあ、それはワシにもよくわからん。けど、そんな強くて美しい霊力を持つ人間を見たのは初めてじゃ」
神様にもわからないのか。
だけどコイツは見習いだからなぁ。
「あのオッサンの神様でもわからないかな?」
「ふむ。どうじゃろ。また聞いておくぞよ」
自分がいったい何者なのか、わからないままってのはもやもやして嫌だ。オッサンが何か知ってたら、それがわかるヒントになるかもしれない。
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「またオッサンに聞いといてくれ。俺は教室に戻るわ」
「ああ、またな」
俺はロリ神様を残して、教室に戻った。さくらは机を並べた二階堂の方を向いて、彼と何やら話し込んでる。
さくらと顔を合わせるのは恥ずいから、ちょうど良かった。ホッとして、静かに自分の席に座る。
椅子を引いたらガタッと音が鳴ってしまって、さくらが振り向いて目が合った。彼女はニコッと笑う。
あ、めっちゃ可愛い。ダメだ。顔が緩むのが自分でもわかる。こんな顔をさくらに見せてしまうのは恥ずかしいし、なんだかちょっと悔しい。
しかも邪々神がさくらを宙から落として両腕で受け止めた時のことが頭をよぎった。柔らかいさくらの身体の感触が腕に蘇る。
やっぱりこれが恋というやつなのか?
顔をそらせて反対側を向いたら、今度は左側の席の日和と目が合った。
「天心君、なんだか嬉しそうですぅ。何かいいことありましたかぁ?」
「あ、いや、別に」
あ、ヤバい。俺がこんな気持ちでいることが、日和にまでバレそうだ。もしも俺がさくらに恋してるとしたら──日和はどう思うんだろか?
「天心君が幸せそうな顔をしてたら、私も幸せな感じがするから、それはそれでいいですぅ」
にっこり笑う日和。コイツ、ホントにいいヤツだ。でも他の女の子のことで幸せそうな顔をしてるなんて、なんだか日和を騙してるみたいで悪い気がする。
ああ、どうしたらいいんだ。俺にはこんな経験がないから、よくわからない。
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