夢追い旅

夢人

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追突

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 相変わらず、轟からは連絡はない。彼女の店に連絡するが、何日も帰ってこないことはよくあるということで、ケロッとしている。轟が彼女のために危険を冒しているとはつゆ知らないのである。金が入らなければ、縁の切れ目もありうる。だが、周平も同じ環境である。もし、今回舅側に回らなかったら、離婚もありうる。いや、今の地位もないだろう。舅に従っても、国崎に逆らうことになるかもしれない。
 結局、あの夜は藤尾と朝まで飲んだ。藤尾はどうも、ここ1週間ほど赤坂に籠りきりのようである。女房と子供は、実家に帰したようだ。
「課長、今朝会社に電話があったのですが、轟という名前ご存知ですか?」
 加瀬の声である。
「ああ」
「今言う病院にすぐに来てほしいということです」
 病院名と、部屋番号を教えてくれる。熱海である。
 熱海の病院まで、列車とタクシーでつなぐ。
「どうしたんだ?」
 4人部屋で、足をつるされて、轟が笑っている。
「労災やな。でも訴えるとこがない。車もやってもた」
「監査役の車を尾行してた。こちらの後ろにもう一台ついていたのや。バクミラーを見たときは遅かった。後ろの車に見事にお釜されて崖を真っ逆さま」
「携帯は?」
「山の中かな?」
「警察は?」
「調べてみると言ったきりや」
「どこから尾行した?」
「鎌倉の自宅からや」
「運転は監査役が?」
「いや、横浜ナンバーの車が迎えに来ていた」
「運転手に見覚えは?」
「背広を着ていたが、見覚えはない」
「追突した車は?」
「サングラスをかけた・・・」
頭も打ったらしく、顔をしかめる。
どうもそこまでである。
国崎には簡単に今の状況を知らせる。
何か、予想していたような反応である。




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