夢追い旅

夢人

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架空名義

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 タクシーで轟の彼女の店に向かっている途中、藤尾部長から携帯が入った。赤坂の現場に来てくれということだった。もう日が暮れていて、この地上げの現場は赤坂の墓場のように不気味だ。慎重に、少し離れたところで車を降りて、路地を後ろを気にしながら歩いていく。
 4階の部屋は、今日はしっかり鍵がかかっている。
「田辺です」
という声でゆっくり扉があく。
 藤尾は手酌で湯呑に入れながら、日本酒の一升瓶を飲んでいる。
「当ては缶詰しかないがいいかな?」
「ええ」
「あの赤坂の記事を書いたのは、お前さんかね?」
「いえ、それで今日はこちらも走り回っているわけですよ。スクープを横取りされたわけですから、えらい雷を落とされましたよ」
「あれは俺じゃないぞ」
「分かりました。M商事の監査役でした」
「何でまた?」 
「3つの勢力がぶつかっているんですよ」
 藤尾が湯呑に注いでくれる。
「それで俺の事件は?」
「分かりました。あれは柳沢が仕組んだ仕事です。会長の依頼ですよ」
 あえて取締役と、轟の名は伏せた。
「そうか。これは書いても証拠がないぞ。実は地上げをするのに、架空名義の口座が必要だった。それを会長に言うと、昔からの引き継ぎの口座があると言って、個人名義の口座を5冊貰った。それに融資額のうち、領収書が貰えない分を捻出して貯めこんでいた」
「どの位の金額がありました?」
「合わせれば、500億にもなったな。こちらは不正を言われてら困ると、メモ書きをつけていた」
 このメモ書きは決め手だ。
「残念ながらここにはない。何かあったら出るところに出す」
「それはそうですね」
「ところがつけているうちに、50億ほどが合わない。通帳は取引のない時は会長の手元にあった。そのことを伝えると、会社の補てんに回したという返事が返ってきた。仕方がないので、取引のない部分に金を使ったように資料を改ざんせざる得なくなった」
「誰かそのことに?」
「柳沢係長がその時の上司の不動産部長に漏らした。それが元で二人が検査部に呼ばれた」
 でもその記録は検査部にはない。
「ほとんど同時に、あの強姦事件が起こった」








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