42 / 248
架空名義
しおりを挟む
タクシーで轟の彼女の店に向かっている途中、藤尾部長から携帯が入った。赤坂の現場に来てくれということだった。もう日が暮れていて、この地上げの現場は赤坂の墓場のように不気味だ。慎重に、少し離れたところで車を降りて、路地を後ろを気にしながら歩いていく。
4階の部屋は、今日はしっかり鍵がかかっている。
「田辺です」
という声でゆっくり扉があく。
藤尾は手酌で湯呑に入れながら、日本酒の一升瓶を飲んでいる。
「当ては缶詰しかないがいいかな?」
「ええ」
「あの赤坂の記事を書いたのは、お前さんかね?」
「いえ、それで今日はこちらも走り回っているわけですよ。スクープを横取りされたわけですから、えらい雷を落とされましたよ」
「あれは俺じゃないぞ」
「分かりました。M商事の監査役でした」
「何でまた?」
「3つの勢力がぶつかっているんですよ」
藤尾が湯呑に注いでくれる。
「それで俺の事件は?」
「分かりました。あれは柳沢が仕組んだ仕事です。会長の依頼ですよ」
あえて取締役と、轟の名は伏せた。
「そうか。これは書いても証拠がないぞ。実は地上げをするのに、架空名義の口座が必要だった。それを会長に言うと、昔からの引き継ぎの口座があると言って、個人名義の口座を5冊貰った。それに融資額のうち、領収書が貰えない分を捻出して貯めこんでいた」
「どの位の金額がありました?」
「合わせれば、500億にもなったな。こちらは不正を言われてら困ると、メモ書きをつけていた」
このメモ書きは決め手だ。
「残念ながらここにはない。何かあったら出るところに出す」
「それはそうですね」
「ところがつけているうちに、50億ほどが合わない。通帳は取引のない時は会長の手元にあった。そのことを伝えると、会社の補てんに回したという返事が返ってきた。仕方がないので、取引のない部分に金を使ったように資料を改ざんせざる得なくなった」
「誰かそのことに?」
「柳沢係長がその時の上司の不動産部長に漏らした。それが元で二人が検査部に呼ばれた」
でもその記録は検査部にはない。
「ほとんど同時に、あの強姦事件が起こった」
4階の部屋は、今日はしっかり鍵がかかっている。
「田辺です」
という声でゆっくり扉があく。
藤尾は手酌で湯呑に入れながら、日本酒の一升瓶を飲んでいる。
「当ては缶詰しかないがいいかな?」
「ええ」
「あの赤坂の記事を書いたのは、お前さんかね?」
「いえ、それで今日はこちらも走り回っているわけですよ。スクープを横取りされたわけですから、えらい雷を落とされましたよ」
「あれは俺じゃないぞ」
「分かりました。M商事の監査役でした」
「何でまた?」
「3つの勢力がぶつかっているんですよ」
藤尾が湯呑に注いでくれる。
「それで俺の事件は?」
「分かりました。あれは柳沢が仕組んだ仕事です。会長の依頼ですよ」
あえて取締役と、轟の名は伏せた。
「そうか。これは書いても証拠がないぞ。実は地上げをするのに、架空名義の口座が必要だった。それを会長に言うと、昔からの引き継ぎの口座があると言って、個人名義の口座を5冊貰った。それに融資額のうち、領収書が貰えない分を捻出して貯めこんでいた」
「どの位の金額がありました?」
「合わせれば、500億にもなったな。こちらは不正を言われてら困ると、メモ書きをつけていた」
このメモ書きは決め手だ。
「残念ながらここにはない。何かあったら出るところに出す」
「それはそうですね」
「ところがつけているうちに、50億ほどが合わない。通帳は取引のない時は会長の手元にあった。そのことを伝えると、会社の補てんに回したという返事が返ってきた。仕方がないので、取引のない部分に金を使ったように資料を改ざんせざる得なくなった」
「誰かそのことに?」
「柳沢係長がその時の上司の不動産部長に漏らした。それが元で二人が検査部に呼ばれた」
でもその記録は検査部にはない。
「ほとんど同時に、あの強姦事件が起こった」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる