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家族
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薄暗くて長い廊下を抜けてカオルの病室に入る。まだ、朝食の最中の患者もいる女性専用の大部屋だ。
「来てくれた!」
べそをかいたようなカオルの顔がある。
「どう?」
団長が心配そうに言う。
「狐が来たからもう元気!」
「先生からも言われたけど、しばらくここにいた方がいいわよ」
首を激しく振る。
「今日はいい話を持ってきたの。駄々をこねないで」
団長は周平がサインと判を押した婚姻届を広げて預かっている小さな印鑑を出す。
「結婚してくれるんだ!へえ、狐の名前田辺周平というのね?」
「カオルは吉川薫か」
「この印鑑と戸籍謄本が服に縫い付けてあったそうよ」
団長がカオルを起こしてボールペンを持たせる。
「これで生まれて来た子もちゃんと籍に入れるわ。名前も考えないとね」
「タナベカオルか」
カオルが何度も繰り返しながら絵文字のような字を書く。
ひとしきりはしゃいでいたかと思うと、いつの間にかうとうとしている。周平と団長は娘を見舞いに来た夫婦のように先生に挨拶をして区役所に続く路地を歩き続ける。
「あの押入れの金を使ってくれ」
「あの黒革の鞄ね」
「1000万ある。やましい金じゃない」
「いいの?」
「これからはすべて3人、いや4人のものさ」
「結婚するからどこか二人は部屋を借りないとね」
「だめだ。4人で暮らす」
なんだかこれだけは崩せないと周平は思った。
「来てくれた!」
べそをかいたようなカオルの顔がある。
「どう?」
団長が心配そうに言う。
「狐が来たからもう元気!」
「先生からも言われたけど、しばらくここにいた方がいいわよ」
首を激しく振る。
「今日はいい話を持ってきたの。駄々をこねないで」
団長は周平がサインと判を押した婚姻届を広げて預かっている小さな印鑑を出す。
「結婚してくれるんだ!へえ、狐の名前田辺周平というのね?」
「カオルは吉川薫か」
「この印鑑と戸籍謄本が服に縫い付けてあったそうよ」
団長がカオルを起こしてボールペンを持たせる。
「これで生まれて来た子もちゃんと籍に入れるわ。名前も考えないとね」
「タナベカオルか」
カオルが何度も繰り返しながら絵文字のような字を書く。
ひとしきりはしゃいでいたかと思うと、いつの間にかうとうとしている。周平と団長は娘を見舞いに来た夫婦のように先生に挨拶をして区役所に続く路地を歩き続ける。
「あの押入れの金を使ってくれ」
「あの黒革の鞄ね」
「1000万ある。やましい金じゃない」
「いいの?」
「これからはすべて3人、いや4人のものさ」
「結婚するからどこか二人は部屋を借りないとね」
「だめだ。4人で暮らす」
なんだかこれだけは崩せないと周平は思った。
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