夢追い旅

夢人

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かなわない願望

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 3日ぶりのホワイトドームだ。11時を過ぎているのだが、まだフランケン達が5人ほどカウンターにとまっている。団長がオムライスを作っている間に寝ているカオルをそっと抱く。この子は周囲の賑やかなのはお構いなく、時間が来たらおとなしく眠ってしまうようだ。背中でフランケン達がお金を投げ入れて出てゆく音がする。
 ビールの小瓶を黙っておく。
「心配をかけるね」
「一日中ベンチャー事件ばかりが流れているものね」
「心配が図に当たってしまったよ」
「でもそれは旗手社長の方針だったのだから仕方がないよ」
 団長には知らず知らず愚痴を言っていたのだろう。
「手は打てるだけは打った。運を天に任せるしかないな」
 それは周平の本音だ。団長は洗い場を済ませると、自分も小瓶を出す。
「ところでケイ君は報告をしたと言っているが?」
「ええ、15件の救急病院から伯母さんが運ばれた病院を探し出したわよ。全身癌だったようなの。3か月ほど病院にいたけど、ある日息子が迎えに来ると言って出て行ったらしいの。その時の看護婦さんを見つけたので詳しく話を聞いたと言っていたわ」
 息子が迎えに来るか。やはり伯母は最後まで周平を息子と認めていたわけだ。それは伯母、いや母のかなわない願望だったのだ。
「その看護婦さん周平の大学入学の時の写真を見せられたって。えらい若いのねって聞いたら、それから会ってないと言ってたらしいの。ケイ君面白い情報を見つけたの。その看護婦さん、半年後にばったり市場で伯母さんに会ったの」
 ケイ君が買った住宅地図を広げる。市場周辺を赤丸で囲っている。
「たった半年で痩せ焦げてお婆さんのようになっていた。買い物かごを首からかけて歩いていたから、そんな遠いところには住んでいないとケイ君の意見。もう一度彼には大阪に行ってもらう。何が何でも周平にお母さんに私を紹介してもらいたい。ここに来てもらって4人で暮らすのよ」
   






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