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動乱9

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 一斉に下忍が火薬玉を投げ入れる。ヒデの隊の先頭に目が奪われていたのか大混乱に陥る。茉緒が煙の中を走り抜ける。だが高官の周りは思ったより警備の兵が多い。切り込んでいくが高官の姿は見えない。
「九郎、下忍を連れて王の元へ行け。王を取られてはお終いだ」
「茉緒さんは?」
「この混乱では数ではなくいかに紛れて高官を見つけるかだ」
 茉緒は屋敷から一旦大屋根に上がる。ヒデの軍勢は裏門まで来ている。ワンバットの兵も表門に来た。高官の兵は1千ほどが後ろの山に登り始めている。やはり一度後ろに下がるようだ。王宮から煙が上がっている。刺客を送ったのだろう。高官はまだワンバットが寝返ったと知らないはずだ。後はワンバットに任せるのだろう。
 茉緒は大屋根から飛び降りると倒れた兵の鎧を身に着けて走る。半刻走ると小高い山の上の古い寺の前に来る。手乱前には兵が守っている。茉緒は鎧を脱ぐと寺の屋根に上る。王宮の煙は消えて白い旗が上がっている。九郎が王宮を制圧したようだ。
「ワンバットはまだか?」
「表門に着いたとか」
「これで勝負がつく。だが攻めてきたのは誰だ?」
「それは日本の忍者藤林の魔王だ」
 茉緒は屋根の梁から叫ぶ。体に綱を巻き付けている。
「ワンバットはもうあなたの味方ではない。王も救い出した」
 次の瞬間茉緒の体が宙を飛んだ。高官は呆気にとらわれて上を向いている。茉緒は腕に高官の首を抱いている。下にいるのは首のない体だけが突っ立っている。茉緒は高官の苦痛のない頭を寺の屋根の塔に突き刺す。下から兵の怒涛の声がする。



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