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遠征7

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 獄の鉄柵から朝陽が入ってくる。目を閉じて浅い眠りについている。微かに鍵の触れる音が近づいてくる。
「迷惑を掛けました。王を狙った弓矢を手裏剣で払ってもらったのですね?」
 ハル王女が自ら鍵を開けて茉緒に頭を下げた。手に茉緒が投げた手裏剣が握られている。
「この手裏剣を握った時どういうのか凄い稲妻が走ったのです。それでこれから私と一緒にあるところに付き合っていただきたいのですか?」
 用意されている馬に跨る。ハル王女は鎧を付けた姿だ。茉緒も女官から黒装束に変えた。2刻半王宮の裏に続くつづら折れの山道を登る。そこからさらに馬を下りて深い森の中を1刻歩くと突き立った岩山に出る。よじ登るように頂上にたどり着くと洞穴がある。
「私は祈祷師にここまで運ばれて1月ここで眠っていたのです。父はあらゆる治療を施し死を迎えた私に死を覚悟してここに送り込んだのです」
 洞窟の中にはチロチロと清水が流れていて、器などがそのままになっている。洞窟の奥には粗末な棺が置かれていて、その上に綺麗に黒い衣装が畳んである。
「ここに私を救った祈祷師が眠っておられます」
とゆっくり棺の蓋を開ける。
 義足だ。その瞬間空気が歪んだ。ハル王女が全裸で立っている。
「待っておったぞ茉緒」
「果心居士ですか?」
「死にかけていたハル王女の体を借りた。再び生まれ変わったのさ。だがまだ空を飛ぶことは出来ん」
 ハル王女は瞳孔が開いたまま足を開いた。
「茉緒入ってこい」


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