けもの

夢人

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生い立ち1

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 この日大仏が焼け落ちた。その日伊賀の村では村に残された老若男女を駆り集めた。イネは急に陣痛が起こっていつもの地獄谷を抜けて風も防ぐことのできなくなった地蔵小屋に飛び込んだ。16歳のイネはこの春に雪の残っているこの小屋で駆り出される若い忍者に抱かれた。相手のことも今は覚えていない。下忍はここで男と女になるのだ。とくにイネはくノ一として育てられていたが性欲を制御できない役に立たないくノ一だった。
 だから今夜イネは下忍に混じって駆り出される数の一人だ。誰もイネが孕んでいたことを知らない。思ったより未熟児かもしれないとイネは小屋に飛び込んだ。出発までに下ろすしかない。半刻でも下ろせそうにない。イネは頭の中で考えたことを実行し始めた。子が生きようが死のうが元から構っていない。自分の膣の中に腕を差し込む。
 村の半鐘が鳴っているのが聞こえる。集合の合図だ。体中から汗が溢れていく。もし今回間に合わなかったらこの村にはおれない。指の先が丸い固形のものを掴む。このまま一気に引きずり出す。苦痛より間に合わない方の恐怖が大きい。見つかれば殺されるし逃げても行くところがない。真っ赤な赤子を引き出すとイネはもう立ち上がって走り出す。
 その後からぬーと破れた板から黒い影が伸びてくる。
「生きてる」
 言葉にならないうめき声だ。辛うじて人だと分かる。この地蔵小屋の奥は地獄と言って忍者も入らない。何人もこの奥で消えてしまっている。だが実はここは忍者同士で生まれた子供の捨て場なのだ。だがこのお婆のように生れ落ち生き延びたものがいるのだ。子供が死んでいればそれを食う。生きていれば育てる。非常に単純だ。お婆は持ち上げる落ちていた腰紐と持ってきた籠に放り込む。
 山入端が山火事で明るい。お婆は獣道を走るように抜けていく。お婆も育ててもらったお婆がいた。そのお婆の話では母はやはり伊賀のくノ一だったそうだ。そのくノ一は赤ん坊のために布に包みお守りを入れてくれていたそうだ。だがこの歳までその母に会うことはなかった。このお婆は狼に育てられたと話していた。言葉を教えてくれたのは同じように育てられた男だ。だがもう10年も前に伊賀の村に狼の一群とともに殺された。
 赤子は死んだように眠っていて洞窟に入って初めて泣いた。





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