冥道

夢人

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叛乱5

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 休日はすることがない。この会社に入っても付き合いはほとんどなかった。飲むのは一人で新橋や有楽町の立ち飲み屋ばかりだ。ただ京都支店長時代に妙に神戸支店長と飲むことが増えた。気は合わない。私は本社から来た社員との橋渡しで使った。彼は私から金融の知識を得たいと思っていたそれだけだ。
 その彼が携帯を入れてきて新橋で会うことにした。昔時々寄った居酒屋だ。中に入るともう彼は来ていた。
「どういう風の吹きまわしだ?」
「いや、こちらも離婚してやもめなのだ」
 もうビールを飲んでいる。最近は離婚組が増えている。彼は私より早く東京に出てきていて、前の審査部長の下で次長をしていたはずだ。審査部長とは肌があわず本社に戻れなかったようだ。
「社長、いや顧問から話があったらしいな?」
「耳が早いな」
 彼の部下に話したのが伝わったようだ。極秘と言ってもそう長くは持たないとは思っていた。このような風通しの悪い会社ではちょとした噂も足が速い。
「いずれそちらにも話す予定だったからちょうどいい。まだ詳しいことまでは決まっていないが顧問が会社を興すのだよ。20人ほどに声をかけてくれと頼まれた」
「そう来なくっちゃな」
「今は債権処理部の事務課長だな?」
 債権処理部は支店にいた社員の吹き溜まりだ。だが赤坂は任されていない。赤坂は部長が身内で固めている。
「まさかうちの部長が来るのか?」
「いや部長は来ない」
「就職活動を54社したが女房が離婚しただけで成果はなかった」
「今就職は難しい。バブルが弾けたところだからな」
 それぞれがビールを3本空けて別れた。彼は本社の社員寮に転がり込んでいる。私のような外人部隊には無理な話だ。今はそれぞれがバラバラに散らばっている。これをどうして纏めて行くのか。それも私に振られているような気がする。
 田町の居酒屋の前に着いたのは10時を回っていた。店に顔を覗いて手を上げて階段を上る。
「晩食べたの?」
 ママの声が背中に聞こえた。










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