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冥シスイと霧島ヒノ。デートする
しおりを挟む昼、今日の日差しも穏やかだ。
大きなショッピングモールのデジタル広告。
駅前のロータリーでバスを待つ人々の列。
制服の学生達の笑い声。
喫茶店、飲食店の匂いが混ざって鼻に届く。
駅前は賑わっている。
私は、ぶらぶらしていた。
目的は無い。
めんどくさい事も嫌なのだけれど、家にいると、色々考えてしまう。
昔から、訳も無く外へ出る癖がある。
家に籠って動画配信やアニメを見たり、ゲームもしくは勉強をしてもいいのかもしないが自分は外の空気が好きだ。
気が晴れるからだ。
私は現実を噛み締める強迫行為をよくする。
人混みの中に混ざって、普通の速度で歩く。
普通の服装で、普通の表情で皆と同じことをする。
そうすれば普通になれる。
一人だけの価値観の孤独な異常者になるんじゃないか?って恐怖に襲われる時がある。
真面目な理性があるままそうなるのは、すごく怖い……
そんなとりとめのない神経質な事をやんわり妄想しながら歩いてると見知った顔を発見する。
向こうの歩道。
自販機の前。
大きめのリュックを背負った女の子がいる。
白いセーラー服、私程に真っ白い肌。
赤い艶のある綺麗なボブの髪。
ピンクの大きな瞳が、磨かれた宝石みたいに光を返してる。
霧島ヒノだ。
最初少し勘違いかなと思った。
羽が無いからだ。
でも、あの気配は、忘れようがない。
「……霧島ヒノ」
口が、勝手に声を出した。
彼女は、こちらに気付き目を大きくした。
淡い桜色の層の奥に、濃いローズが沈んでいる瞳が、きらりと私を捉える。
「おーい!やっほ、シスイ」
やっぱり、霧島ヒノだった。
彼女は駆け足で近寄ってくる。
「偶然だね!運命かもね!?うっれしー」
「ホントに偶然?」
「偶然、偶然だよ!」
偶然にしては出来過ぎてる様な気もするが、反応に嘘が無い気もする。
それより、彼女の大事なものが無い。
彼女が異形である事を象徴する、紅蓮の蝙蝠みたいな大きな翼膜が無い。
「羽……どしたの?無い……」
私が言うと、ヒノは笑いながら後ろへ振り向いた。
「あるよ。隠してるだけよ」
「隠せるの?」
「隠せる!結構窮屈なんだけどね えへへ」
私は、リュックに目をやる。
デカい。登山用みたいな容量だ。
それでいて、背中の部分が妙に不自然。
「……穴あけた?」
「正解。羽用の穴」
だとしても、彼女の大きな羽がどうやって入ってるか不思議だ。
「……痛くないの」
「痛くは無いかな?見ての通りジャストフィットだからね」
「ジャストフィットなんだ」
「これなら全然気づかれないんだ。人になり放題」
「おかしいよ、その言い方」
「ふん」
彼女はあざとく顔を私に近づけてさくらんぼ色の唇を尖らせる。
私は、反射で目を逸らした。また、意識してしまうじゃないか。
「今日は、何してるのシスイ?」
「暇潰しだよ。依頼も無いし。部屋は落ち着かないしね」
「へー暇なんだー」
霧島ヒノはふーんと言うような顔で私の全身をじーと眺め周囲をぐるりと回る。
「何?」
「じゃーさぁ、もしよかった私とデートしない?」
デート?遊ぶんじゃなくて?
同じ意味かな?
……迷うなー、面倒な事に巻き込まれそうな予感はあるし。
私は人に予定を入れられたりして時間を束縛されるのが嫌いなタイプだ。
自由であれば穏やかで入れる。
でも……。
いつもと違う胸の高鳴りが、私のルールを平然と無視してくる。
「まぁ別にいいけど、依頼も無いしね」
ヒノは、嬉しそうに笑った。
「やった!超嬉しい!シッスイちゃんと初デート♪」
「そんな大袈裟に喜ぶことかなぁ?」
「あなたが思ってるより、あなたとデートしたい人って沢山いたと思うよ?ただ近寄りにくいんじゃない?」
「近寄りにくいか.......ヒノ、結構ストレートだね」
「良い意味でね てへ」
……たぶん、そうだ。
鏡の中の自分は、白すぎて現実の人間から一歩外れて見える。
黄金の瞳まで揃えば、声をかける前に相手の足が止まるのも無理はない。
「……デートって、何するの」
「まず喫茶店かなー 私レトロな喫茶店好きなの」
「あ、私も好き」
「ホントー?私達結構お似合いなんじゃない?」
小躍りするように体制を低くて上目遣いするヒノ。
「ふん」
私はなんとなく鼻で笑ってしまった。
霧島ヒノは羽以外はまるで普通の人間だ。遙に普通以上の容姿だが。
極々一般的で万人受けの良い明るい性格でありながら、お嬢様の様なおしとやかな一面もある女の子だ。
でも、その裏には誰にも入らせない領域が合って、上辺だけで話してるのがたまに見える。
そこがすごく私と似ている気がする……
「かもね」
ヒノの笑顔が一段明るくなった。
「でしょ?やっぱりシスイ好っきー。波長が合いまくりー」
「……好きって言わないで、恥ずかしいから……」
「言う。言い続けちゃうもん。慣れてね」
言い続けるか......かつてそう言ってくれた人達もいたな、そういや……。
カウンターに豆の瓶。壁に古い映画のポスター。
この立地のわりに、店は大衆向けじゃないなと思う。
向かい同士に座る。窓の外では通行人が流れていく。
私もヒノもアイスカフェラテ。氷の音が、会話の始まりみたいに鳴った。
「シスイは今、自分がどれくらい強いと思ってるの?」
「んー、そうだね.....正直物理的な勝負なら結構強いと思うんだ。」
「ほう、物理的」
「でもね、概念的な勝負をされたら私の能力で使えるのは未来視か相手のエネルギーの核を見るぐらいだからね.......負けると思う」
簡単に言うが負けは死を意味する……。
「未来視とコアの視認か......それでも十分強いと思うけど」
「そんなことないよ。私自身の肉体は一般的なただの女子高生で、異形はおろか成人男性のほとんどに勝てないだろうし。」
「それは、当然の事なんだけどね。劣等感持つことでもないと思う」
「そうだね、例えだよ。異形で無茶苦茶攻撃が速いタイプに気づく前に殴られたら終わりって話、相手の腕力がなんであれ」
「すごい冷静に客観視できてるねシスイ、えらい!ぱちぱち」
「ありがと、死にたくないから結構考えたりするんだ。自分の能力について」
「うん、まぁそうだよね.......やっぱ怖いよね」
「まぁね........」
ヒノはストローをくるくる回しながら、じっと私を見てくる。
首を傾げると、ボブの真っ赤なルビーみたいな髪がさらりと揺れた。
口元は笑ってるのに、目だけが真剣で――言葉を選んでいるのが分かった。
「ちなみに概念的な敵って?」
「あー幽霊とか、これも同じで私の物理攻撃、属性攻撃、一切効かなくて近づかれたら打つ手無いなーて、あと瞬間移動みたいに急に目の前来られたりも。」
「それとか未知な戦いの仕方を強制する能力が相手にあったりなら、ちょっとやばいかな」
「いい筋いってると思うよ、まだ異形を相手した回数少ないんでしょ」
「両手で数えるくらいかな?」
「それで、そこまで分かるなら、大したもんだよ。今聞いたあなたの弱点、まんま攻撃してくる異形結構いるし。単なる勘で無くて、あなたはほぼ正確に今後の敵をイメージできてるわ、ホント感心する」
「嘘?ちょっとうれしいな。聞く人なんかいないから全部手探りだし、結構不安だったんだ。」
「怖かったよね……ごめん」
「なんでヒノが謝るんだよ ふふ」
ヒノは少し俯き暗い表情をした、自分も異形だから責任を感じたのか?
「今の課題は予知以外に異形に負けない速度を獲得できるか?体が普通の人間と言う弱点をどう補うか?後は幽霊の様な敵と戦って、何かしらの学びを得るかだね」
「全くその通りだと思う。ヒノって実はすごいんだね」
「実はって何よ? ふふ」
「ごめん」
私は、今一番頼りになる存在はヒノだと認識した。
彼女と出会わなければ今後の戦いで死んでいただろうとも思う。まだわからないが、
彼女の情報で作戦が練り直せるかもしれない。
「ちなみに、他に聞きたいことある?」
「あー……魔族について、私を追ってる魔族の集団の事かな?」
「そう……だね」
「私も全部は知らないけど、というか全てを知ってる存在なんていないと思う。この世界は思いの他、無限に広大だからね」
「無限に広大……」
「例えば私達の知ってる世界があるとするじゃん?あなたの戦った異形達とか、あなたがさっき言った幽霊だとか.......それらは、この世界の別の層の住人で、そういう沢山の層の集まりで世界が成り立っている。層の中にも無限に近い存在がいる」
「ふんふん」
「そういう一つの世界のまとまりがあるとしたら、その隣や上下にも同じような、まとまりの世界がある。つまり……無数の層の集合で出来た、ひとまとまりの世界は一つでは無く、無限に存在する……らしい」
「おぉ規模大きいね」
「だから言ったでしょ?全てを知る存在はいないって、私も受け売りだけど」
「仮にあなたが今戦ってる異形とかは、まだあなたの世界のまとまりから来てる異形ね。層は違うけど同じ世界」
「へー……」
「そんな無限に無限をかけたみたいな世界を私達は生まれ変わって輪廻しているんだと思う........この辺はよくわからないけど」
「……難しいね」
少し会話が途切れる。私はその固まった空気を払う様に続ける。
「私の前世って何だったのかな?それと、何が次の生まれを決めるんだろう?」
「前世なんてそんなのわかんないよ、誰にも。」
「もしかして私達は前世で縁があったのかもしれないけどね。そういうのは共業っていうらしいよ」
「共業?」
「複数の存在が共通して積み重ねたカルマによって、同じ結果を辿り、似たような環境に生まれ変わったりする事だよ」
「カルマ――結果――」
「何が次の生まれを決定するかは、個人的には行いの連鎖......とかが重要なのかなーって考えたりもするけど……心の在り方だとか」
「連鎖……心の在り方か……ヒノ本当すごいね」
「ヒノとは出会う縁があった気がする」
「だね」
「で、話は戻ると。あなたを追ってる魔族も、あなたの世界の中の別の層の世界の住人。人の世界より遙に大きい世界よ。そこではそこそこ有名で巨大な魔族組織ね」
「えっやば。逆に笑える、スケールデカすぎて」
「笑うんだ……シスイってホント面白い」
「規模で例えると、日本があって会社があるでしょ?その中でまぁまぁ名前の知れてる会社、そんな感じだよ。大きいんだけど、日本全部からしたら、ただの一部みたいな」
「わかりやすい........先生に向いてるよ。世界観変わっちゃったけど」
「シスイ君、ちゃんと課題提出するんだよ?でないとお仕置きしちゃうわよ?」
ヒノは急にふざけた変顔で先生っぽい真似をする、その仕草一つも可愛い。
「はは なんだそれ」
私はアイスカフェラテを飲み干して、口の中の甘さで気持ちを切り替える。
この優しくて頼りになる愛らしい女の子の事が、恋愛なのか友情なのか分からないが好きになりそうだ。
物凄く久しぶりの感情、恋なら初めての感情……
ヒノも喋りすぎて喉が渇いたと言い、アイスカフェラテの残りを一気に飲み干した。
「いい店だったね。そろそろ場所移動する?シスイ時間大丈夫?」
「そうだね。時間は依頼さえなかったら何時でも大丈夫だよ、母さんに連絡さえすれば」
「そっ じゃあ 街に繰り出しますか?」
「うん」
私は誰かと出掛ける事がこんなにも楽しい気持ちになる事を思い出せた事が嬉しかった。
喫茶店を出た後、私達は街を歩いた。
雑貨屋にも行った。
ヒノと私はへんてこなキャラクターを二人とも可愛いと一目ぼれし、そのキャラのマスコットをお揃いで買って、カバンにつけた。
「これは友達の証だからね?」
ヒノが腰に手を当て、胸を張り満足そうに言う。
「友達?」
私は久しぶりの言葉に困惑した
「違うの?......ショックかも」
「そうじゃないよ、ただずっと一人だったから、友達ってどんなだったかなって。
友達に何が出来るわけでも無い私が、友達になって良いのかな?って」
「いいよ。何もしなくて。何もしなくてもシスイは友達で良い。だってあなたを知ってから、毎日が楽しいの」
私は素直にすごく嬉しい。
「あ……うん……そっか。ありがとう、実は私もヒノと会ってから結構楽しい。魔族に追われてやばいけど」
「ふふふ 大丈夫だよ。もし死ぬんなら、そんな瞬間沢山あったでしょ?でも今あなたは生き抜いてここにいる、生きて何かを成し遂げる縁なの」
「そうだね……成し遂げるか……そういえば最近あの声聞こえないな」
「声?」
「うん、達成しなければ……とか……業の赴くままに……とか……時が来れば力がうんたらとか……]
「へーーー、そう……」
ヒノは一瞬、神妙な顔をしたがすぐ瞳をパチパチとし、化粧品見たい!と私の手を引っ張った。
その後は、おすすめの化粧品を言いあってお互い買ってみたりした。
ヒノはとても美形でお嬢様みたいな品のある顔だけど、私には分かる。メイクがとても上手い。余計な要素の無い洗練された元の良さを引き出すメイクだ。
ついでにメッセージアプリとSNSも交換した。
彼女のアイコンは全部、王冠に羽でやっぱり個性的だと思う。自分が変わってると少し癖のある人の方が安心できたりする。
なんだか今、私しっかり女子高生をしてるっぽい。
その次は巨大なアーケードにあるゲームセンターに行った。アーケードには本屋、飲食店、アパレルショップ、雑貨屋、携帯屋、タピオカの店など所狭しに並んでいる。
ゲームセンターに入った瞬間、音がうるさくて、私は一瞬目をぐっとつむる。
ストレスがあるとやってしまう癖だ。ヒノが笑った。
「今の何?」
「あぁストレス反応かな?やっちゃうんだ、うるさいの苦手だから」
「わかる、私も広いとこ高いとこ静かなとこが好き」
「わかるー!」
私達はハイタッチする。
「じゃあ、わたしの声は?うるさい?」
「いいや、聞きやすいし、綺麗だと思うよ」
言ってから、後悔した。
顔が熱い。
ヒノは一瞬、止まってから、にやっと笑った。
「へぇ」
「……へぇって何」
「近くで聞きたい?」
「それはいい。また変な感じになるじゃん」
「だね。正直あの時さ……ちょっと……キスしかけたよね?……へへ」
屋上の夢を見ていたかのような出来事が蘇る。
「う……うん。正直ね」
「なんでだろね?」
「なんだろね?」
「……」
私は早足で逃げた。
ヒノは追いかけてきて、隣に並ぶ。
クレーンゲームの前で立ち止まる。
巨大なぬいぐるみを眺める
「あれ欲しい」
「え、ああいうのホントに取れるのかな?」
「やらなきゃ、取れるか取れないかもわかんないよ?」
「じゃ―やる?」
「奢ってシスイ!お金あんまし無い」
「全然いいよ、最近結構報酬入ってるから」
「きゃーお金持ちかっこいい」
「なんだよそれ (笑)」
ヒノは巨大なぬいぐるみを取る為に目を細めて下唇を噛み集中している。
巨大だなー……巨大……巨大?
「ねぇヒノ」
「何?」
「その巨大な魔族の組織に魔王的なボスはいるの?」
「いるよー。やっぱり大きい組織だからシンボル的な存在は必要なんじゃない?」
「どんな見た目?強さとかわからない?」
「んーーー難しいんだよねー、私も噂でしか聞いたことが無くって」
「へー」
「ある魔族は、魔王は一つの大陸程に巨大だったとか言ってるし、ある魔族は子供の様に小さくて透明の妖精みたいだったとかも聞くし」
「幅が広すぎ (笑)」
「能力も、全属性を極めてるだとか、虹色の爆発しか扱わないとか、自分の時間を操れるタイムスリッパーとかね」
「全然まばらだね」
「だね (笑)」
「シスイはどんなだと思う?」
「さー、分からないけど……まず敵わないね」
「諦め早いね (笑)」
「でもさ、そもそも戦う必要あるかなって.......例えばさヒノの話からすると魔族の世界は人の世界より広いし、恐らく人間界とは違う風にかなり発達してる可能性がある」
「ふんふん」
「だから、私達は魔族=恐ろしい存在と普通に認識してるけど、単に魔法の使える巨大な世界であって、私達となんら変わりない。前にも言ったけど、苦しみもするし、愛しもする」
「……」
「だからね、話せばわかってくれると思うんだ、そんな世界の、そんな巨大な組織のボスなら。私はその一員を討伐してしまったけど、やつも私を速攻で終わらせに来てたからね?正当防衛っていうとあれだけど」
「確かに、理屈は通るかもね。でも、彼らには彼らのルールが結構あるからあなたの常識の範囲外かもよ?」
「その時はその時かな。どんな結果でも受け入れるよ」
「魔族や人に限らず、みんながそんな風に色んなことを抱えてると思うように最近なっててね。ちょっと考えすぎてやりずらいんだよね……おかしいかな?」
「いいえ、誰よりマトモだと思うわ。種族や形とかで区別して、あれらは傷ついても大丈夫、って平気で考える方がおかしいよ」
「やっぱそうだよね。分かってくれる人いてよかった」
「私こそ、ありがと」
「なんでお礼いうのさヒノが」
「あと、ごめんね」
「そんで、なんで謝るんだよヒノが」
「2000円全部使って失敗しちゃった」
「ホントだ、すごい下手じゃん はは」
「ひどっ (笑) シスイが話かけてくるからじゃん」
「そうだね ふふ ごめん。まだやる?」
「ううん。もう大丈夫」
ヒノはクリアになったような笑顔でこっちを見た。
「じゃあでよっか?ヒノ」
「そうだね」
「ねぇシスイ、ここから海って遠い?」
「そうでもないよ?急行電車で二駅と歩いて十五分ぐらい」
「私、シスイと行ってみたいな海」
「いいよ、行こうよ。コンビニで飲み物とお菓子買ってさ」
私はヒノに笑いかける。
「本当!?それ最高じゃない!今日すごくいい日」
ヒノは女の子らしい仕草で手を後ろに組み、少し俯き幸せに浸るような顔をしてる。
彼女の透き通ったガラス玉みたいなピンクの瞳がユラユラ揺れる。
私達はコンビニでジュースとお菓子をあれでもないこれでもないと選別し合って、足早に電車に乗り込む。
急行列車が来たので停車駅は一つだけ、ものの十分ぐらいで海岸の最寄り駅に到着した。
電車内で私達は夕暮れが近くなる海辺の街に見入って、口数が少なくなっていた……。
海岸は駅から歩いて十五分の距離だ。
普段行かない街を歩くのは楽しい。
知らない店や住宅、路地裏を二人で笑いながら探索した。
まるで二人だけで遠足に来たみたいだ。
私は勝手に、もう親友みたいだなと思った……
海に到着した――
完全なる夕方――
海一面がオレンジ色に染まり、大きな太陽が今この瞬間に沈む一歩手前だ。
空は輝くオレンジ、幻想的な紫、静寂の青の綺麗なグラデーション。
私達は巨大な海を目の前に誰もいない砂浜で二人立ち尽くす。
さっきまではワイワイと女子高生らしく騒ぎ合っていたが、息を呑む程の美しい光景に私達は静かになる。
私はジュースを口に含む。この景色を前に飲むジュースは一段と爽快で美味しい。
ヒノも真似てジュースをゴクリと一口飲む。
その時私はなんとなく思った。
SNSを見たりして、それがストレスでありながらも、丁度良い暇潰しと思って時間を使っていた。
それが当たり前の時間の使い方とさえ思い込まされていた。
しかし、今考えが変わってきている。
自分の大切な相手、好きな相手と肩を並べ、感動する共有する。
そんなリアリティの今の経験こそ重要なのかもしれない。
限られた人生の時間、そんな感動する今をどれだけ作れるかってのが人生で重要なのかもしれない。
ヒノが言う。
「綺麗ね……」
「だね」
「シスイ……私ね、日が沈む瞬間の紫が好き」
「私もだよ」
「それと、夕焼けで沢山の住宅の壁面が一斉にオレンジに染まるのも好き」
「私もだよ」
「合わせてない?」
「ううん。ホントにおんなじなんだ」
「ふふ……気が合うね」
「合うね」
「今日はね……デートしてくれてありがとね……シスイ」
「こちらこそだよ。ヒノ」
「ヒノは私の世界を何倍にも広げてくれる」
「そんな大層なもんじゃ無いよ。シスイ大袈裟 ふふ」
「嘘じゃないよ?今まで誰も私の世界を濁らせるだけだったから不思議なんだ」
「そう……」
「なら私はこうだわ」
「シスイは私の世界を小さくしてくれる。嫌な物を何も見ないでいいように、考えないでいいように、沢山の楽しい美しいを見せてくれて、釘付けにさせてくれる」
「そんな大層なもんじゃないよ」
「ホントだよ?あなたはとっても綺麗。 勿論、見た目だけじゃないよ?
強く輝いて私に押し付けられた沢山の苦しみを忘れさせてくれる」
「……」
「ヒノ……大丈夫?」
「まあね……」
「できることある?」
「あるよ」
「ホント!?何?私見た目に反して結構どんくさいし、あんまり何にもできないけどヒノの為なら頑張れるよ?」
「嬉しい!んーーーでも、引かない?」
「もう、友達だからね……きっと大丈夫だよ」
「じゃあ……」
「はい」
「あのね……」
「……うん」
「……」
「……」
「――キスしていい?……冗談じゃなく」
「……」
私は少し戸惑ったが、決断は当然決まっている
「……いいよ。そんな気がしてた」
「――うそ!?断られると思ってた」
「ホントにいいの?ふざけてないやつだよ?」
「ふざけてないからいいんだよ」
「一応、私女の子なんだけど……えっと……その……シスイはそういうのは大丈夫なの?」
「うん、実は女の子の方がちょっと好きだったんだ昔から。ヒノに出会うまではどっちもほぼ興味は無かったけど」
「あ……えっそうなんだ。私に出会うまでは……?」
「そこは、察して」
「ごめん」
「ヒノは?」
「好きかな女の子が……」
「そうなんだ」
「ねぇシスイ……これなんだかすごく恥ずかしくない!?」
ヒノは顔が真っ赤だ。ついでにいうと私も真っ赤だ。
「確かに……でも……すごく……幸せかも」
私はありのままを口にした。
「そ……そうだね」
「……」
「じゃあ……する?」
私はヒノの気持ちを確かめるように尋ねる。
「うん」
そしてぎこちなく、ヒノに体を寄せ、顔を近づける。
ヒノは結構恥ずかしがり屋で、俯いて瞬きを繰り返す。
「初めてなんだ、リードしてねヒノ」
「私も初めてでして……」
ヒノは「てへへ」と冗談交じりの顔をするが、緊張は隠せて無い。
「シスイがリードくれたら嬉しい」
私は彼女の気持ちを汲んで、頑張ってみたくなった。
「うん」
「……」
「じゃあ、いくよ?」
「はい」
――――――
そして私達は、日が沈み、全てが煌めく世界の中で……
心行くまでキスをした――
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