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世紀の奇術師アルレッキーノまたの名をアーテマ
しおりを挟む夜明け前。
部屋の外がまだ夜の静寂を保つこの時間にスマホが震えた。
(やっほ!起きてる?)
私はスマホが眩しく一度目を瞑り、それからヒノにメッセージを送信する。
(今、起きたよ ねむい)
送ってすぐに既読が付いた。
(りょ!二度寝しないでね! 追記 ちゅっちゅ)
......なんだそれ、と鼻で笑いながらも喜ぶ自分がいる。
洗面所で顔をジャブジャブと洗い、その辺の菓子パンを微糖のアイスコーヒーで流し込んで、そそくさとシャワーを浴びる。
そして真っ黒なセーラー服をすぽっと簡単に着て、手慣れたメイクを施し少し可愛くなった後、母さんに少し遠出するとメッセージを送っておく。
私はセーラー服の上にコートを羽織る。
準備が整い、駅へ向かう。
ヒノをこんな時間に一人で待たせないように、なるべく足早に歩を強める。
駅前のバスのロータリーに到着した時にはもう、少し朝焼けに移り変わりカラスが鳴いていた。
私はバス停の看板の前で立ち止まって、飲食店の外にある大きなゴミ箱に群がるカラスをぼうっと見つめた。
複数のカラスがゴミを漁るとき、それは恋人や夫婦なのかな?
それを見ていると、背後から跳ねる様な軽い足音が走ってきた。
「――シスイ!」
振り向くと愛しの霧島ヒノがいた。
ルビーの髪が朝の光に当たって、艶が一瞬だけ火花みたいに鮮やかに輝く。
ボブのラインは綺麗に揃いながら、心地良いリズムで跳ねる。
「おはようヒノ」
「おはよダーリン」
私の隣に立ち、腕を絡めてくるヒノ。
ヒノは昨日よりもやけにべたべたしてくる。なんかあったのかな?
そして私がダーリンなのはなんで?
相変わらずヒノは距離が近い。
新鮮な果物みたいな、いい匂いだから別にいいけど。
こんな早朝なのにそれを発揮できる女子力に拍手を送りたい。
腕を組まれた事も相まって、昨日の余韻がよみがえってきて、急に恋熱が高まる。
私は一瞬、頭を彼女の肩に預けて、もたれかかる……
ヒノは、口角を片方クイっとあげ、勝ち誇った顔で言う。
「まんざらでもない?」
「ノリ合わせただけだよ」
「好きなくっせにー」
「まーあーね。」
ヒノは私がかっこつけてると言いたいんだろう。
まあねという言葉を真似て顎をクイッとあげた。
「真似すんな」
「だってシスイちゃんって、仕草一つ一つ面白いもん」
「じゃあ私も真似するよ?ヒノいいの?」
「いいもーん全然」
ヒノは口をいーっと広げ両腕で後ろから抱き着いてきた。
私は少しアヒル口をして、私って可愛い?と言いながらヒノに可憐な上目遣いした。
「そんなあざとくありません!失敬な」
いや、滅茶苦茶あざといけど、自覚無いんだこの子
私達は愛が無いと出てこない、いちゃついたじゃれ合いをしてるうちにバスが来た。
ブザー音と、空気を吐き出すプシューという音がして扉が開く。
乗り込む瞬間、ヒノが不安そうに言った。
「ねぇ、泊りになんないよね?お金あんまし無いんだー」
「んーどうかな。最悪なるかも。でも、その時は旅館代ぐらいだすよ。念のため周辺の旅館確認してるし」
「逆に旅館代さえ私が出したら泊り大丈夫?」
「超大丈夫。むしろ……泊りたいかな……きゃっ」
あざと……
好きって顔に書いてると言うとはこういう事なのか?近いうちにもっと親密な行為をしてしまう未来視が微かに見えて。顔が赤くなってしまった。
「じゃあ、泊りになるのなら私が出すという事で……こっほん」
咳で赤面を誤魔化す作戦だ。
「顔赤いよ?大丈夫シスイ?」
バレた、作戦失敗。
私は焦って、話を切り替えた。あなたとの色んな行為の未来が視えたなんて絶対言いたくない。
「ごめんね、いっつもお金無くて。手に入れる術があんま無くて」
ヒノは急に真剣モードで謝る。根が真面目で優しいからそこは疎かにしないのが彼女の素晴らしいとこだ。
お金が無いのも当然だ、異形がこの世界でお金を手に入れるのは不可能に近い、犯罪を除いてはだが。しかし彼女はそれを断じてしてないという事だ。
「大丈夫だよ、そんな事は君が気にする事じゃない」
「うっ......キュンって来た。シスイたまにめちゃかっこいい。見返りの無い優しさとかズル過ぎです。落としに来てますね先輩?」
私は敢えてジョークに反応せず、言葉を返さず、黙って手を出した。
少し笑いながら信じてと言うように。
ヒノが握り、私達の細い指が信頼のある絡みを見せる。
バスの中は、古い座席の匂いがした。この匂いは好きじゃないが電車に乗って行くには行きづらい場所であるから仕方ない。
この高速バスなら二時間ほどで乗り換えなしに着く。
二人分の料金も安いし、ヒノが沢山の目にさらされるストレスをあまり受けなくて良いから安心する。
彼女への負荷は全部私が潰したい。
バス内は少し暖房が効いていて、外気で窓ガラスが冷いので、結露が張り外の景色が薄い膜越しの様になる。
そんな虚ろであやふやな景色がどんどん流れていく。
ビル、飲食店、怪しい看板。次は住宅街。誰もいない公園。映画のシーンの様にテンポ良く景色が切り替わって行く。
いつの間にかトンネルに入り真っ暗になる。
それは都会が終わるエンドロールの様だ……
――完全な山の道。携帯の電波が一段落ちる。
隣のヒノは最初はあれ何ー?とかあの店知ってるー!とか騒いでたが、次第にうとうとしだしてついには隣で眠りこけた。
寝顔には彼女が持っている特有の壁みたいなのが無くて、素直で無防備な女の子に変身していた。
変身した姿では無く、ホントの彼女がこんな感じなのかも……
私は窓の外を見ながら、依頼文の内容を頭の中で反芻した。
サーカスのような集団か……通常のサーカスでも少し不気味なのに、異形が意思もってやってるのは狂気を感じるな。
顔が逆さまの奴もいるらしい。逆さまってなんだよ、想像すらしづらいよ。
言葉が普通じゃないってのは言葉を介すタイプだから知能が高いって事だし。
近づくと寒気ってのは一般人でも本能的に避けたくなる気配だろ?それは相当やばいな。
デカい獣にピエロの装飾。まさに常軌を逸していて笑いすら生まれる。
私の解釈では恐らくペットだ、そんな猛獣に奇術師の装飾をして、平然と飼いならす心底イカレタやつがいるはずだ。
――隣を見る。
ヒノは今だに眠り続けている……
「――絶対に守らないと」
シンプルだがそれだけだ、結局行きつく考えはそれ。
もし私一人で来てたら、ここまでの意志や、やる気が湧かなかっただろう。
その点でも感謝してる。
それらの大きさが生死を分けるからだ。
そうこう考えている内にバスは目的地に着いた。
車掌のアナウンスが流れる。
私達以外乗客はいない。
窓の外を見ると、市街地の森とは全く違うレベルの莫大な森林のボリューム感だ。
冷気か湿気かが霧のようになり生命力みたいに、どんどん流れみなぎっている。
ここは山なのに、まるで巨大な海の、ど真ん中に放りだされるみたいな人間の無力感を感じさせられる。
「ヒノ着いたよ、起きて」
「うそーはやーい。てかずっと寝てた?私」
むにゃむにゃと言い、私に言葉を返しながら伸びをする。
「うん、寝てた。降りなきゃ、運転手さん待ってるよ」
「はーい はぁーよく寝た」
気持ちよさそうに伸びをして、にっこり笑うヒノ。
結構マイペースだなと思いながら荷物を持ってあげてバスをすぐに降りる。
降り際に運転手さんが……
「気をつけてね」
――と一言。
私はそれを警告の様に受け取った。
運転手も何かとてつもない物を見たのかもしれない。
そこから先は、舗装が荒い山道に変わる。十五分ほど歩けば集落に付くはずだ。
住民は避難済み、って依頼メールに書いてあった通り、村へ向かう道は人気が無く静か過ぎた。
鳥の声さえ、薄い。何かを警戒しているようだ。
実は、その理由に当たる奴らの気配を私はむんむん感じている。
森の中から、歩く私達をしーっと見てる。
しかも沢山いる……
私は、歩きながらヒノの様子を確認する。
ヒノは軽い足取り。
でも、彼女の気配の取り方はピアノ線が振動に共鳴する様に鋭く繊細だ。
「……ねえシスイ」
「見られてるね」
「うん、しかもかなりいるくない?」
「だよね、ちょっと笑ってるやつもいるよ?ヒノ」
「ここ、どんだけ不気味なんだよって感じだよね」
私とヒノはあまりの奇妙さに、お互い顔を合わせ何故か笑いが噴き出した。
そうすると逆に、気配たちは沈黙した。全く変な奴らだ。
順路を進むと。
古い看板。
色褪せた地名。
その下に、妙に新しいものが貼り付けられている。
赤い紙。
黒い文字。
手書き。
―――【立入禁止】―――
「まるで、ホラー映画の冒頭ね」
ヒノが肩をすくめそう言う。
「ハッピーエンドならいいけど」
私はバッドエンドの映画が苦手だ、映画ぐらい幸せな世界に浸りたい。
「間違いないね、バットエンド嫌い」
やはり気が合うと思った。
そして私達はとうとう村に入る。
家々は古く、カーテンが閉まり、農具などの道具も道端に置きっぱなしで、
急いで逃げた感じがする。それもすごく怯えながら。
村の中心に向かうにつれて、匂いが変わっていく。
西洋の劇場舞台の裏みたいな、もしくは古い忘れられた遊園地みたいな匂いだ。
そして……
遠くから、音が聞こえた。
最初は小さく、次第にはっきりと……
――リン、リン。
タンバリンの音みたいだ。
その音に、笑い声が混ざり出す。良い大人が高笑いする様な気味の悪い声。
私は、昔ホラー映画を見て夜眠れなった事を思い出した。そういえば昔は普通の怖がりの女の子だったんだ
そして、見えてきた……
サーカスだ……誰が見てもサーカス。場所にそぐわぬ異常なサーカス。
あるはずのない場所にある。ここまでの違和感は中々無い。
和室に冷蔵庫を置いてるような違和感だ。
それを平気で行うのが異形。勿論全てとは言わないが。
ここは村に隣接した巨大な空き地。元は観光名所で巨大な旅館があった場所らしい。
今は現実がねじれているっと言う表現がしっくりくる。
カラフルなアドバルーンみたい丸みを帯びたテント。
金の装飾が風に揺れてる。
中で音楽が流れているのだろう。
かすかにメリーゴーランドみたいな音がする。
その前には――人、人、人。綺麗に一列に並んでいる。
いや、人に見える“もの”。
姿形は人間。でも間接などがよく見るとおかしい。
膝の曲がる角度が逆だったり、首の回し方が、鳥みたいにカクカクしてる。
笑い声が、同じリズムで繰り返されている。
悪夢みたいに不思議な光景だ。
――私は、息を呑んだ。
ヒノが、隣で小さく呟く。
「なんかーさーあー……ほんのちょっとだけ、ほんのちょっとだけだよ?
あいつら、かわいくない?」
「――わかるー」
そうなのだ、不気味なのだが教育番組のへんてこなキャラクターみたいで悔しいが少しかわいい。
――私たちは、一定の距離で止まった。
その、人らしき者達の列と、私とヒノは真正面で対峙して静止し沈黙する。
すると、テントの入口が――“開いた”。
布が揺れる、中は意外と明るくギラギラした光がある。
舞台のスポットライトみたいな光。
―――そして、出てきた……
―――”恐らくここのボスだ”―――
「こいつがボスかな……」
私はヒノに尋ねる?
ヒノは珍しく焦った顔でそいつを睨む
「シスイ気を付けて、少しでも相手が攻撃する予兆が視えたら速攻逃げるよ?」
そんなにやばいのか……
確かに気配は恐ろしい程洗練さてて、もはや深い静寂を感じる。
だが悪意を感じられないのだ、何故だ?
そいつは明らかにサーカスの団長みたいだった。
背が高く、細身で、姿勢がやけに正しい。
服装は、古い貴族の礼装みたいに仰々しい。黒と赤と金。襟が高い。手袋をしている。
しかし――近づくほど、違和感が増える。
関節の部位が全部ごつごつ衣服から出っ張ってる、全部“金属”で補強されているみたいだ。
肘も、膝も、指の付け根も、高貴な礼装の下に、規則正しい硬さが見える。
そして、一番おかしいのは顔。
顔だけ、透明だった。空気がそこにあるだけ。
顔の代わりに、奇妙な仮面を被っている。
笑っているような、泣いているような、どちらにも見える仮面。
私たちを見つけると――深々とお辞儀をした。
やけに丁寧で、やけに仰々しい。それが、逆に寒気を呼ぶ。
「おやおや」
声は、滑らかで、よく通る。
人間の声に似ているのに、どこか“異界の楽器”みたいに音が空間から直接生まれて響く。
「これはこれは。お客様とは珍しい」
彼は、両手を広げた。
その仕草が、舞台の開幕みたいだった。
「ようこそ。奇想天外奇天烈大集団――アンセイン・マリオネットへ」
人らしき者達がタンバリンを激しく鳴らす。
「私の名はアンセイン・マリオネットの団長、アーテマ。またの名を、“世紀の奇術師アルレッキーノ”。」
テントの奥で、何かが動く音がした。
動物園で聞いたことのある、大きな獣が動く音だ。何かデカい奴がいる
私は思った。確かに村の人も動物も逃げ出すな.......村の空気がこの変態達に染めあげられて、少し気分が悪い、悪寒がする。
ヒノが、私の耳元で囁いた。
「油断しちゃだめだよ。おちゃらけてるけどこいつホンモノよ。化物以上」
私は真剣に頷きアイコンタクトをとる
「うん。わかってる」
アーテマが、仮面の向こうからこちらを見た。
透明な顔のはずなのに――視線が分かる。
「あなた方は知りたいですか?」
――――
「それとも――忘れたいですか?」
その言葉で、私にずっと付き纏っていた違和感が確信に変わる。
こいつは、何かを知っているな?
私たちが何者かを。そして、わざわざ“招いている”。気がする。
私は、ゆっくり笑ってみせた。
「……さぁね、内容によるかな?つまらない事はしないでくれよ?――ピエロなら」
アーテマは、楽しそうにクスクスと笑い肩をすくめた。
「答えは、舞台の中で!!!」
そして、仮面の口元が大きく開いたバージョンに変わる。
「さあ。私達の世界に、この乙女たちを招待しちゃってくだーい皆さん、イッツ!!Show time!!」
テントの入口が、口を開ける。
入ったらもう出られないんじゃないかという訳の分からない不安を漂わせながら
音楽が鳴る、一列に並んだような人みたいなやつらが感情の無い歓声をあげる
そして――
私たちは、狂気の境界線を渡ってしまった
昨日の夕陽とは真逆の、底知れぬ不気味な世界の入口に。
テントの中に一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わった。
外の冷たい山の匂いが途切れる。代わりに“壊れた遊園地の様な鉄臭さ”が肺に入ってくる。
明る過ぎる。すごく眩しい。狂気に取りつかれそうだ……
天井から無数の照明がぶら下がり、赤と金の布が波打っている。視界の端が常にきらきらして、落ち着かない。
そして、そこに“客”がいた。
外に並んでいた、人のような人形のような連中が、内側ではさらに増えている。
整列していたはずが、今は観客みたいに座席にぎっしり詰まっていて、同じ笑い声を同じタイミングで繰り返している。
リン、リン、リン!!!!!
全員がタンバリンを持ってる、本当に五月蠅い。
イライラしてきた。
笑い声もイラつく。
拍手もうざい。
ヒノが横で笑いながら言う。
「かわいいって言ったの取り消す。なんかちょっとウザい」
言い終わる前に、スポットライトがぱちんと私たちに当たった。
眩しさで目が痛い。視界が白くなる。
そして、舞台上の中心に――アーテマがいる。
「ようこそ!!!いらっしゃいませ、麗しき乙女たち」
丁寧すぎる声。仰々しい所作。仮面の笑みが、動かないまま笑っている。
食えない奴とはこういうことを言うのか。
その隣に、もう一人。静かに立っている青年がいた。
大人しそうなのに、気怠い目が以上に鋭い。サファイアの様な蒼い瞳が、舞台照明を冷たく反射する。
中性的な美青年。背が高い。髪は少し長くセンターで分けている。服は異国の刺繍が施された上下で、布の色が渋いのに妙に高級感がある。
まるで普通の人間みたいだ。
――しかし。
右腕が、人間じゃない。
真っ黒で、悪魔の腕みたいに禍々しい。左腕より明らかに大きく、関節から骨から全てが人のそれじゃない。
暗黒の中にあるさらなる影みたいな筋肉がうねっている。
その腕だけで、未知災を起こしそうだ
さらに、背中の下から伸びる尻尾。
直径十センチはある太さで、重そうに床に引きずり、時々ぐにゃりと動く。
青年は、私たちを見るでもなく、ただアーテマの隣で“役”を待っているみたいだった。
アーテマが、紹介するように手を差し出す。
「こちらは――ドミノ君。はいお辞儀して!」
青年――ドミノは、一礼だけした。丁寧なのに感情がない。希望も怒りも何も無いみたいな気怠い表情だ
――そして、もう一つ。
床が、震えた。ズン、と、重い音。
観客席の人形たちが、一斉に黙る。
――舞台奥の影が動き、巨体が光の中に出てきた。
アーテマが狂ったように叫ぶ
「こちらの猛獣は我がサーカス屈指の荒くれ魔獣ギガビート!!!世にも珍しい巨大な異界獅子!出くわしたが最後!狂気も恐怖も全て飲み込まれてしまーう!!」
狼と猪を混ぜたみたいな風貌。牙が乱雑に剥き出しで、口の中がやたら広い。角が四本。大小で生え方もバラバラ。目が四つあり、それぞれが別々にこちらを見ている。
白い毛はふさふさしているのに清潔感が無くて、ピエロの様にペイントで落書きされている。
背骨はサメの尾びれみたいに突き出て、動くたびに、それがギザギザと光を拾う。
ヒノの目がひきつる。怯えると言うより、少し引いている感じだ。
「……うっわ」
私が言った瞬間。
アーテマは嬉しそうに両手を広げた。
「――さあ。知りたいのなら、進むべきです」
仮面が笑っている。
「楽しみは――自ら作るべきです」
――その言葉と同時に。
空気が“押した”。
目に見えない力が、私の身体を掴んで引く。これは知ってる、念動だ。
私と同じ力。
強制的に足が床から滑り宙に浮く。抵抗しても意味がない。力の方向が、私の骨格を理解しているみたいに“最短”で引きずってくる。
「シスイ!」
ヒノが叫ぶ。腕を伸ばす。
でも、次の瞬間、彼女の身体も同じ力に絡め取られ押さえつけられた。
私だけ舞台の中央へ――ずるずると引き込まれる。
観客席の人形たちが、歓声を上げた。
「わああああ!」
「すごーい!」
「はじまる、はじまる!」
声が高い。なのに感情がない。
床が割れるように開き、檻がせり上がってきた。
鉄の柵。古い。油で黒光りしている。獣臭が上がる。
私は、檻の中へ閉じ込められた。ガン、と、扉が閉まる。
外側からアーテマが覗き込む。
「ルールは簡単」
彼は優雅に言った。
「生き残ってくださーい。――それだけです!!死んじゃダメですよ!?」
観客席が笑う。
ドミノが、何も言わずに右腕を少し動かした。黒い腕が“合図”みたいにしなる。
ギガビートが、低い唸り声を上げた。四つの目が、檻の中の私を捉える。
口の端から、残酷さを匂わせる野蛮な唾液が糸みたいに垂れる。
アーテマが、楽しそうに宣言した。
「さあ、麗しき宿命を背負う乙女よ。強制バトルの時間です」
檻の何かが外れた音がして、数本の柵が下がる。
――次の瞬間
――ギガビートが、檻の中へ入ってきた……
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