シェアプリズム

電脳探偵ナズナ

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蒼い目のドミノ

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ギガビートが、檻の中へ――入ってきた。



柵が全て締り、檻にこの化物と一緒に完全に閉じ込められた。



檻の床がミシ、と鳴る。振動が膝の骨まで上がってくる。



観客席――人形たちは、息を止めたみたいに静かになった。

タンバリンの音も、ぴたりと止む。変に行儀正しいやつらだ



舞台の中心に司会者の様に立つアーテマが、嬉しそうにワクワクしている。顔なんて無いのにそれがわかる



ドミノは、何の感情も無いように、こちらを見ている。

その時、少し目が合った。奴は気まずそうに眼を背けた。

でもそこには違和感があり、まるで女子と目を合わすのが恥ずかしい様な背け方だった。



檻の外――ヒノが柵に爪を立てるみたいに掴み、焦った声を漏らす。

「シスイ……!!!」



ヒノは自分の魔法を展開しようと考えたそぶりを見せたが、アーテマを見てから

それを躊躇ってやめた。

この場を支配してるのはアーテマで、私達であろうが、異形達であろうが彼の楽しみを邪魔する事は誰にも出来ないという、絶対に近い圧力を全員が感じている。



檻の中。ギガビートは吠えないし、すぐには来ない。



単純に猪突猛進する動物とは違う様だ。知能や理性すら感じる目つきをしてこちらを伺っている。



――ゆっくりと今までの狩りで培った絶妙な歩幅で、私に近づいてくる。



四つの目が、別々に私を測り、同じ結論に辿り着いたようだ。



小さい。柔らかい。噛めば終わる。美味しい。そんな風な単純な何のひねりも無い、結論だろう……



所詮そんな物かと私は思ってしまう。

こいつには魔力の流れは見えていない、気配すら感じきれていない。

目の前の情報だけの単発的思考で判断しているのが丸わかりだ。



「……舐めてるのか?」



私は誰に言うでも無くボソリと呟く。



ヒノは聞こえたのだろう、彼女の表情が変わった。

彼女は私の強気に喜びを感じていない表情をしている。

一抹の不安を抱いた顔で何かを願うように私の名を小さく呼ぶ。

「シスイ……」

――それは、まるでいつまでも優しいあなたでいてね……、という風に。




正直に言おう。檻に閉じ込められてるのは私じゃない。



――こいつの方だ。



それに気づいてるのはこの場で僅かな存在だけだ。



私はギガビートの体内を魔視で見る。

視界の奥で、奴のエネルギーの情報が一瞬で解析された。

ギガビートの体内のエネルギー核は完全に捉えた。



魔力は薄い。ほとんどが肉体。筋肉。骨。反射神経。



筋骨隆々の巨体は速いんだろうけど、速さの種類が私と同じ次元だ。

瞬間移動も、空間の切り替えもできないタイプ。



なら、私の未来視と稲妻の組み合わせの方が遙に速い。

異形の鎌、ゼスパを展開した未来視無しの攻撃でも私の速さが勝る。

今ではあれも雷を纏わせれば時速350kmは超えれるだろうが。

稲妻のみと未来視を組み合わせれば、こいつは私に天地がひっくり返っても速度で追いつけない。



――未来視が告げる。



次の一手――変則的な突進をしてくる。

角、牙、の次の位置。

床の踏み込みは右前脚から。



奴のあらゆる次の位置が手に取るように分かる。

未来視も成長した。格段に精度が上がったし、もう目の奥が傷んだりしない。

これは念動や魔力を使うときも同じで、単純に前は慣れていなかったのだ。



奴のほぼ確実な未来、私は、そこに“雷”を置く事にした。



確実に勝てる未来は設置した。でも一応安全牌も用意しておく。

右手のひらに、銀の塊がきらりと光る。

圧縮された異形の鎌――ゼスパ。

いつでも展開できる。



その時、アーテマが喋り出す。

「おーーー!!!これは懐かしき災厄の鎌。こんなとこで再び見まえる事になりますとは!!!やはりこの舞台は奇跡の巡り合わせ!!!エクセレント!すっばらしい!!」



私はあいつのくだらない話にも微笑む余裕がある。

確実な勝利の予感から湧く物だ。

まぁ、あいつが私の鎌を知ろうが知ろまいが至極どうでもいいんだが、舞台の出演者として笑ってやってもいいかなって気分だ。



力を持って私は少し傲慢になったかも知れない……ヒノはそれを危惧している



そんな私の微笑みを油断と捉えたのか、ギガビートが動いた。



予兆より、ミリ秒早いが――でも、未来視の線は外れない。

床が爆ぜるように沈み、巨体が弾丸みたいに突っ込んでくる。



四つの角が一直線。

空気が割れて、臭い唾液の匂いが鬼気と迫る。



――その瞬間。



私は空間に命じるように、舞台っぽく指を鳴らした



――ズババ―――ン!!!



音ではない。衝撃。



輝く白い線が空間から直接生まれて、ギガビートに轟音と共に直撃した。



超稲妻。



私の出現させた落雷の光が一瞬だけテント内を真っ白にして、次の瞬間、ギガビートのバカでかい巨体がゴムボールの様に跳ねた。



肉の塊が、雷の巨人に掴まれるみたいに痙攣する。



観客席が、固まった。

人形たちの口が開いたまま止まる。



ドミノは目を見開き少し圧倒されるような、それから怒るような顔をしている。



アーテマだけが、楽しそうに目を細めた。

「……ほう」



私は間髪入れない。もう一撃。



ズドン!!!と落ちる。無慈悲な閃光と振動。



ギガビートが吠えた。

それは“猛獣の勇ましい咆哮”じゃなく、痛みと恐怖の悲鳴に近い。



巨体が体を藻掻かせて方向を失い、鉄柵に体を擦りつけ、逃げようとする。

でも逃げ道は檻の中には無い。



「ねえ、シスイ……」

ヒノの声が、少し悲しそうに震える。

心配とは別の何かが混ざった声。



――私は、答えない。



ヒノを守ると覚悟したんだ、自分が生き抜くと決めたんだ。邪魔するやつは許せない。



何かを守るという事は同時に何かを奪わなければいけないと最近知った。

――だから人生は辛いんだ。



私は攻撃を辞めない……



念動を檻全体に張り巡らせ支配した。この場の物質は私の物だ。生命に関しては今の私では操作はできない。



それをするには、その空間に存在する生命のエネルギーと空間の調和を理解して精密に操作する必要がある。出なければ1mmも動かない。



私にはまだその技術は無い。それをやすやすとこなしたアーテマは、恐らく神話級に強いのだろう。この場の本当の敵はあいつだ……



檻の鉄柵が、ミシミシと悲鳴を上げた。

一本、また一本。

固定が外れ、金属の棒が抜ける。



それらが宙に浮かび空中で止まる。

整列し均等に浮かび、鋭い槍みたいな形状に変化し私の周りをぐるぐる回る。




アーテマが叫ぶ。

「おう!!!これは!!!何たる不可思議な奇術!まさかゲストがピエーロより輝くとは!!ブラーボ!私のサーカスに是非入りませんか!!!」



「遠慮しとくよ、だってここ臭うからね。変態の臭いで溢れてる」



観客の人形からブーイングが炸裂する。



アーテマは一本取られたかの様に額に手を当て嬉しそうに盛大に笑っている。心底変態な奴だ。



ドミノは一瞬笑った気がしたがまた無表情に戻り、ギガビートの方を向いてすごく心配そうな顔をする。今すぐにでも助け出したいって感じだ。



ヒノは少し穏やかな顔に戻って、そういう怖くないあなたが大好きよという顔をしてる。



私は柵を操作し続ける。



数十本を超える槍には雷の閃光。腐食をもたらす瘴気が纏わりつく。



そんな全員の盛り上がりとは別に、ギガビートが這い逃げ惑う。

巨大な身体で必死に助けてと言うように。



泣き声みたいな唸りが喉の奥から漏れだしてる。まるで子犬みたいな声

「キュ――――ンキュンキューン」



「ビート!!!」

舞台の外で、ドミノが初めて声を荒げた。

ギガビートの悲鳴を聞いて我慢し切れなくなったか、完全に怒りに満ちた顔のまま私を睨んでいる。



やっぱりこいつらにも愛があるんじゃないか.......と私は前からの疑問が確信に変わる。

どんな生命にも愛や苦しみがあるんだ。人が特別なのではない。




ギガビートが鳴きながらドミノにすがる声、ドミノが大切な存在を傷つける者に向かわせる鬼人の如く怒り、それらは人間と、なんら変わりない。



でもさ、じゃあ何故?お前たちは平気で私達を傷つけてるんだ?この檻だって色んな存在が傷つき続けてき場所なんだろ?

自分は良くて他人は駄目なのか?ふざけるな。それなら今回はお前たちの番だ。



自分でもあまり性格の良い考えでは無いと思う。

実際は傷のつけ合いでは何も解決しない。




――次の瞬間の事だった。




ドミノは、こちらへ猛烈な速度で向かってくる。




「っっっ!!!」




――こいつバカ速い。




下手したらやられる……



黒い悪魔の右腕がさらに禍々しく魔力と腕力で満ち溢れ、私の首に向かって伸びる。



なんて、腕だ。この気配、一つの都市を掌握するのが容易い程の類を見ない別次元の何かだ。気迫のスケールが違う。

とても古い物の気もする、この世界ではないどこかの世界の古い触れてはいけない物。



ヒノが絶叫する――



「シスイ逃げて!!!!!!」



ヒノは魔法を展開する時間すら無いと判断したのだろう。唯一の懇願を思いきり叫ぶ




――その瞬間。



――鎖の音。



カシャン、と軽い音じゃない。不気味な大蛇の動きの様な嫌な音。



ドミノの足元から、黒い鎖が生まれた。

獲物を遊ぶ蛇みたいに容赦なくドミノの全身に絡みつく

ドミノの動きが、強制的に止まった。



さらに。



ドミノの目前に無数のトランプが出現し鮮やかに舞い出す。

赤と黒のカードが、空中で折れ、硬くなり合体して一つの刃になる。



煌びやかな剣になったそれは、薄いのによく切れそうな光を尖らせる。

それらが、念動で浮遊しつつ一瞬でドミノの首筋へ到達して寸前で静止する。



ドミノが歯を食いしばる。

「うおおおおお!!!!!離せ!!!!!!」



鎖がドミノの果ての無いエネルギーに悲鳴をあげてる様だ、だが絶対に緩むことが無いと嘲り笑ってる様にも聞こえる。



アーテマは優雅に指先をチッチッチと振った。

「ゲームを楽しむには」



声が、柔らかすぎて逆に冷たい。



「ルールは絶対ですよ。――ドミノ君」



仮面は不敵に笑っているが、その奥の透明な表情を誰も恐ろしくて直視できない。

歪な気配を纏いながら仲間であろうドミノに警告しだした。



こいつは一体ホントに何者なのだろう?



そしてドミノの脅威から離れた私はギガビートに視線を戻す。

私は、私の周りを回る鉄槍の操作を再開する。




私はアーテマ基準で考えた、ここは奴の遊び場だ、奴の望みさえ満たせばそれでいい様な気がする。



目の前のドミノという青年を攻撃するには縛られている今が間違いなくチャンスかもしれないが、恐らくそれをすると、私にアーテマからの罰が下る。



それに、私はほぼ人間と変わらない存在と戦う決心はついていない.......今後もつかないかもしれない。



よって、目の前の巨体の獣を倒すことが最優先だ。



私は獲物に近付くように、にじり寄る、槍の鉄槌はいつでも下せる。



ギガビートは逃げるように縮こまり、四つの目がぐちゃぐちゃに揺れている。

私は不意に、ヒノに目をやる、目が合った。



ヒノが呟く。

「……シスイ……お願い、好きなあなたでずっといて」

口の動きしか分からないが、そんな感じで喋った気がする。



ヒノが好きな私か、彼女と出会ってからの自分を振り返る。彼女は私の何が一体好きになったんだっけ?



……



可愛い私か?それもあるだろう

だが、それだけでここまでにはならない

じゃあなんだ?



……



……



――なんとなくわかっていた。

何に対しても公平な私。

弱くても大胆に輝こうとする私。彼女を安心させるように優しく囁く私。



そんなことを考えて神妙な顔で固まっている私をアーテマは見ている



結論が出た。導いた答え……それは……




――"どうでもいい"だ。



投げやりでは無い、ヒノに嫌われる以外今はどうでもいい。



例え猛獣やアーテマに終わらせられようとも、誇りを捨てて残酷に他の存在を傷つけたり、それが理由でヒノに軽蔑されるよりか比較にならない程マシだ。



やるだけやって清廉潔白なまま終わるなら、そういう宿命だったのだろう。



そして――

檻の外のアーテマへ、視線を向ける。



「次の演目を始めよう前座は終わりだ」



私は浮遊する槍を全て地面に破棄して、観客にお辞儀する。



会場は静まり返ったが、次第にちらほら拍手が生まれ、最終的には大歓声。



アーテマもそれを見て納得した顔で、パチパチと拍手をしだした。

良い演目ありがとうございました、と私に一礼する。



ドミノは拘束を解かれたが、私の行動が予想外だったかのように呆気に取られて静止してる。

そしてなにかを理解したような顔をし、切り替えたようにギガビートに近付き



「大丈夫かい?ビート?あとで手当てしてやるからな」

と優しく撫でている。



ギガビートも、すごく怖かったよという様に子犬みたいにドミノにすり寄る。



――この青年は物凄くいいやつなんじゃないか?



ヒノに関しては。

「おめでとう!!!シスイすごーい!!!」

と言った後、やっぱりあなたは私が思った通りの人よと言わんばかりに。虹彩をユラユラさせている。あれはガチ恋の目だ。




――その瞬間だった



パチン、と乾いた音。



いや、拍手。



違う、次の開幕の合図。



舞台の中央で、アーテマがくるりと回る。

マントが翻り舞台のスポットライトの光を反射する。



「いやぁ~~!!素晴らしい!実に、実に素晴らしい!!!稲妻!猛獣!恐怖!そして何より――“愛と絆”!!!見せてくれますねー!!!」



「しかーし今夜はこれでは終わりません!!!どんどん行きますよー!!!」



仮面が、陶酔したように傾く。



「では!ではではでは!!次なる演目に参りましょう!!!」



嫌な予感が、背骨をなぞった。



「次は――人と半人の対人演目!その出演者はーーー……」



一拍、溜めて。



「《シスイちゃん vs ドミノ君》!!!!」



……は?



――空気が凍る。



私の視線が、反射的にドミノへ向く。彼も困惑していた。

感情の薄い顔のまま、少し“拒否”が滲んでいる。



……やりづらい



さっきの単発の攻撃だけで分かる。こいつは、恐ろしく強い。



それだけじゃない。やはり人間に、近すぎる。私は人間とは戦いたくない。

ギガビートとこの青年ドミノのやり取りを見るに、もしかしたら――欲深な人間より、ずっと優しいやつじゃないか。



勝てたとしても、そんなやつを傷つける私は、もう化け物だろ?



ドミノも、なんとなく同じことを思っている顔だった。



でも。アーテマの支配は絶対だ。



「ちょっと!!!」

ヒノが声を張り上げる。



「なんでそんなことさせるの!?さっきので十分でしょ!!この変態仮面」



アーテマは肩をすくめ、楽しそうに言う。

「愛ですよ、愛!!!素晴らしき愛の衝突!!!ぶつかり合ってこそ、輝くものがあるのです!!!そ・れ・に!失敬な変態仮面とは!!ワードセンスは称賛しますがね。変態仮面ですって うふふ」



ヒノは完全にはぐらかされた。照明が、切り替わり、もう始まってしまう。



その瞬間

――ドミノが、動いた。




急襲だ!用意が出来ていない



……だが



遅すぎる、さっきより明らかに遅い。やはりこの勝負そのものを嫌がっているみたいだ。



しかし油断は出来ない、相手も命を懸けた勝負として望んできている。



先程の攻撃を見た私にはこいつに手加減する余裕は無い。



私は歯を食いしばり、ゼスパに念動を最大限乗せて超高速回転させる。

さらに稲妻で速度を物理の限界まで引き上げる。それに腐食の属性を追加で上乗せする。

もはや鎌でも回転でも無く、禍々しく存在し閃光の如く移動する、円という名の召喚だ。

この攻撃はとうとう別次元に移行した。



それを奴の動きを未来視し、先回りした場所に向かわせる。

ドミノの猛烈な連撃は全てその円が打ち払う。

歪な金属音。火花というよりは火炎爆発。互いに致命打を避けながら、激しく打ち合う。



――だが。



ドミノの右腕。

悪魔の様なその手には、全く腐食が通らないし傷もいかない。



……これか。



問題は、この腕だ。



私は一瞬、迷い――覚悟を決める。守りでは無く攻撃しなければここで終わる。

悪魔の腕を行動不能にしなければ



自己の命を守る為に、切断するつもりで強引にいく私。




ドミノの腕を捉えれた――



右腕だけをバレずに標的にし、囮の攻撃を繰り出していたからだ。

奴はその部位だけ少し油断した。



命中!!!と思ったが。



……かすっただけで終わる、やはりやつは速い。



きっと二度目は通じないだろう……



――その瞬間。




ドミノの様子が、豹変した。




「……っ、ぐ……」




――呻き声。



右腕から、とてつもない虹色のオーラが噴き出す。

制御を失ったように、彼自身が絶叫しだす。

全身が痙攣しだし、悪魔の腕と悪魔の尻尾が複雑に暴れ出す。

まるでもっと欲しい、戦わせろという風に。

ドミノの人の部分がほんの少し、その別次元の何かに浸食される。





「うああああああああああ!!!!!!」





ドミノは悪魔の手をその場でただ振りかざす、ただそれだけだった。



ズバァァァン!!!!



感じたことない風圧が辺り一面広がる。それはメガトン級の竜巻の中にいる様だった。



奴の斬撃の向かった先を、私は恐る恐る振り返る。



それは観客席の上段から下段までを激しく太く抉っていた。

まるで高層ビル程の巨大な怪獣が爪で思い切り引き裂いたような三本の巨大な爪痕がそこにはあった。



「こいつやば!」

私は危機の焦りというより、桁外れのそれに軽快な突っ込みを入れてしまう。



ヒノは私に近寄ってくる、檻が無いので近寄れるのだ。

しかしゲームに介入したらアーテマの罰則がある。

ヒノはリスクを背負ってでも何かしらの手で私を助けようと急いでる。

「シスイ―――!!!こいつは絶対戦っちゃダメ!!!距離を取って逃げ切るわよ!!!!」



斬撃のあった観客席の人形たちは、吹き飛んでいる。



――舞台は、一瞬で地獄絵図。



さらに、近寄るヒノ。しかし制御不能の乱発されるその衝撃波で、ヒノは吹き飛ばされてしまう。



「きゃっ!」



ヒノが宙を舞い、床に叩きつけられる。

小さな怪我。



――でも……



それを見た瞬間。



――頭が、真っ白になった。



ヒノとの甘い時間が一瞬で頭を駆け巡る



お前……



尋常でない怒りが爆発し、淀みなく溢れる凶暴な思考に私は飲み込まれた。





――許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!!!!




――――絶対許さない!!!!!!!!!!




私は吹き飛ばされた人形達を、念動で一瞬に引き寄せた。

無数の破片が、空中で組み上がる。



かつて私の見た恐怖の空想が形になりだす。



それは子供の頃見て、夜眠れなくなった、異国のマイナーなホラー映画に登場した不

気味な魔人だ。




―― 十メートル級。禍々しくもあり静寂と威厳を持った異界の魔人。




その雰囲気とは裏腹に無数の人形の金属で補強された歪な巨体。手には、超巨大化したゼスパの鎌。



――舞台は、完全な混沌。



私はその暗闇の魔人をドミノに向かわせる、それに嬉々と喜ぶように反応するドミノの右腕と尻尾。



――その時。



「そこまでーーーーーーー!!!!」



アーテマの声が、空間を叩き潰す。



「オーバー・ザ・ムーン・ダンシーーーング!!!」




アーテマが呪文かセリフかを唱えた次の瞬間。





””””ドゥッチ・ドゥッチ・ドゥッチ・ドゥー・ドゥッチ・ドゥッチ・ドゥッチ”””””





小気味いいテンポが、空間そのものから流れ出す。



テント内にいる全員の体が勝手に動きだす。

アーテマ自体も、壊れた人形も、ドミノも、気絶していたヒノも起きて踊る。勿論私も。



くねる。腰がくねる。

私とヒノの制服のスカートが揺れる、白い肌がちらちら見え隠れする。



ドミノが肩を上下に揺らし、リズムを取る。彼は少し落ち着いてきたようだ。体が元に戻っている。



アーテマは心底陶酔したようにスポットライトに万歳して踊る。

「あぁ楽しいあぁあぁあーーーー!!!!!どうにかなりそうだ!!!なんていい日だ!!!」



「な、なにこれ!?」

ヒノが頬を染め上げ、スカートを気にしながら踊る。



「ちょ、勝手に……!」

私も同じく。ただでさえ踊るという行為なんて、物心ついてから一切してない。恥ずかしいのは苦手なんだ



しかも、このタイミングでスカートでってのがより恥ずかしい。

まるでさっきまで怒り狂ってた自分が馬鹿みたいで恥ずかしく感じてしまうじゃないか。



私とヒノも、色気のある動きで意気揚々と踊ってしまう。



宙で腕を回してり、お互いのお尻をぶつけたり、腰をくねくねとして誘惑するようにしたり……



……恥ずかしい。滅茶苦茶恥ずかしい。でもヒノのこんな姿を見れたのは正直嬉しい。



……あれ、私いつのまにか落ち着いてる?



ドミノも、完全に我に返り、顔を真っ赤にして踊っている。

「なんだよこれ?」



そしてヒノがアーテマとドミノを警戒して涙目で私に訴える。

「パンツ見えちゃうーよー!!」



私は突っ込む。

「ちょっと!!インナー履いてないのヒノ!?」



「だってぇ~!えーん!そんな安全牌あるとかわいくないんだもーん!!」



確かに、ヒノの制服のスカートが揺れるたびに、薄ピンクの柔らかそうな生地の下着がほんの少し顔を出す。正直かなり……私得。



私は唾をゴクリと飲み込んでしまった。



そしてドミノが、ちらっとヒノのスカートを見る。

そして耳まで真っ赤になり鼻血が次の瞬間吹き出ますよと言わんばかりの顔になる。



「わっ!あの子、今私のパンツ見ようとした!!!」



私は思う、お前も得するのか!?

「えっ!意外とそっち系?」



「違う!!!俺はそんなんじゃ!!!……うぅ……ごめん」



否定しつつも、素直に謝るドミノ。

そして恥ずかしそうにしながらも、すごく興味があるのが見え見えなドミノをみて、ヒノが私に小声で言う。



「……意外と、可愛いね。あの子」



「……そ、そうだね」



ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ。ジェラシーを感じる。他の異性を見ないで欲しい。私は異性では無いが。



全員が盛大に踊り、なぜか場が和やかになったところで、ふっと、術が解けた。



人形たちはスタンディングオベーションで拍手して、口笛を鳴らす。



――アーテマが、深々と一礼する。



「いやぁ~!!本日は久々に、類を見ない劇場でした!!!真に感謝します、道を進む乙女のお二方」



私とヒノは、顔を見合わせる。

「……え……終わり、もしかして帰って、いいの?」



私はアーテマに拍子抜けしたように尋ねた。

「もちろんですとも」



仮面が、優雅に微笑む。

「また気が向いたら――お越しくださいませ」



テントの出口が、開く。私たちは、半信半疑のまま外へ出た。



その時微かに、声が聞こえた。アーテマがドミノに何か言っている。

「ドミノ君、仲良くなれるかもしれませんね?あと……パンツ好きなんですか?」

「……ち、ちがうよアーテマさん」



日は明るい、結構経った気がする。

だが、まだ正午過ぎだ。早朝から出たからだろう。

出発が遅ければ、もう日が暮れていたかもしれない。

吹きすさぶ山の匂いが安心感をくれた。

私達は生き延びた。



ヒノが、ぽつりと呟く。

「……なんだったんだろ」



私は、少し考えてから答えた。

「……さあね」

「悪い奴らじゃないのかもね」



背後で、テントの中から楽しげな音楽が、まだ微かに聞こえていた。
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