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忘れ形見

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「今、現実世界では現政権と対立派閥との争いが加速化しています。その一因として、主立った政治家達が実権を持ちながらパーフェクト・ワールドに移住し、現実世界の政治を行っているという現状があります。」

「某国の国家元首が実権を持ちながら移住したから攻撃を受けてるって噂は聞きました!」

レンが口を挟む。

「それも本当です。その一件も今回の争いのきっかけのひとつです。」

まるで教師のような口調でイズモ博士は話す。

「主権を現実世界に戻そうとする世論が強くなってきています。その中でも攻撃的な過激派が現れて、パーフェクト・ワールド自体への攻撃を企てるようになりました。
…が、基本的に現実世界とのネットワークが繋がっていないことと、パーフェクト・ワールドのセキュリティの高さのおかげで事なきを得てきたのです。」

「素人に何とか出来るセキュリティでは無いですから。」

カズヤが自分のことのように口を挟む。

「ところが最近になって、セキュリティホールが発見されました。」

「!」

「ひとつはパーフェクト・ワールドと現実世界を繋ぐ通信回線。」

「この神殿の通信室は大丈夫だが、一般の通信室はずさんな管理のところもあるらしいのだ。」

カズヤが付け加えて言った。


「そして、もうひとつは…」

イズモ博士は続ける。

「脳とパーフェクト・ワールドを繋ぐ接続デバイス。通常、安全な施設で保管されているはずの各人の脳が物理的に取り外され廃棄される事件が多発しています。」

(脳が取り外されて廃棄!?)

「過激派達はこのセキュリティホールを使い攻撃システムを送り込んできています。」

「でも、そんな程度でダメージを受けるシステムじゃなかったんだ。」

カズヤが自分のことのように悔しがる。

イズモ博士は更に続ける。

「その攻撃システムの一部がパーフェクト・ワールドのセキュリティを逃れ侵入してしまいました。あなた方が冒険フィールドのボス部屋で見た人の形をした物がそのシステムを視覚化したものです。」

(僕の顔をしたアレが…)

「アレは自ら魔法を放ったり、モンスターを変異させたりします。神殿の森で出現したモンスターもそのひとつです。」

「アレもか!」

ジョーが身を乗り出した。

「その攻撃システムのことを我々は”ツェータ”と呼んでいます。このツェータの特徴はそれにもたらされた攻撃に触れることでその者のデータが失われ、紐付けされたデータまで攻撃し消滅させます。」

「消滅…」

「グラシアスは、攻撃を受けた直後サーバとの接続を遮断しましたが間に合わず、多くのデータが失われてしまいました。別サーバに保管されていたバックアップまでも。」

「……」

「修復を可能な限り試みましたが元の人格と記憶までの修復はかないませんでした。」

「そんな…」

「グラシアスは消滅したって言うんですか!?」

ジョーが悲痛な声で叫ぶ。

「ジョー、気持ちは分かるがイズモ博士も自分の分身を亡くしたようなものなのだ。つらい気持ちは同じだよ。」

カズヤが慰めるようにそう言うが、カズヤ自身も涙声だ。

「なんとかならないのかよぉ…」

ジョーはガックリとその場に膝を折る。

イズモ博士はグラシアスと同じ顔で目を潤ませてジョーに語りかける。

「ジョー、グラシアスはあなたの話をよくしていたわ。任務にしか興味のなかったグラシアスが最後はあなたを庇った。あの子は自分の意思でそうしたの。危険を承知で、そうしたのよ。」

ジョーは涙顔でモニターを見つめる。

「あの子の代わりにお礼を言うわ。最後に楽しい想い出をありがとう。」

イズモ博士もグラシアスを本当の子供のように愛していたのか。

「それで、ジョーにお願いがあるの。」

「え…?」


「グラシアスの僅かに残っているデータをかき集めて作り直したAIの教育係になって欲しいの。もちろん、グラシアスの記憶は無いのだけど。」

魔法陣のような模様が床に現れ、そこから人が現れた!


グラシアスの面影がある小さい女の子。

グラシアスより紫が濃い…

「グラシアスは元々成長型のAIだったの。この子もその影響を受けて初期状態は子供の姿なの。」

「この子がグラシアスの…忘れ形見…」

「ジョー、教育係を了承してくれるのなら、この子に名前をつけてあげて?」

小さな女の子はキョトンとしてジョーを見ている。

「名前…」

ジョーはその女の子の瞳の中にグラシアスを探しているかのように見詰めて、こう言った。

「ビオレッタ…」

すると、女の子は僅かに微笑んだ。

「すみれ…ね。ありがとう、ジョー。」

「俺は教育係としてじゃなく、父親としてビオレッタを育てたい。」

ジョーはビオレッタを抱き締めてそう言った。


ジョーとビオレッタとレンは通信室を後にした。

僕とカズヤとモニター越しのイズモ博士だけがそこには残された。



「ルクス、あなたは真実を知る必要があります。」

「…はい。」

「何故、攻撃システム”ツェータ”があなたと同じ顔をしていたのか、何故あなたの周りで頻繁に事件が起こるのか。」

「……」

「創始者ソルに会いなさい。」

「…!」

「彼は何かを隠しているわ。」

カズヤがその言葉に反応する。

「カズヤも。本当のことを聞いてきなさい。」
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