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初めての海
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「是非、キミと話がしたいと思ってさ。」
パーフェクト・ワールドの住民、全員の脳を人質に取られてしまっている状態で、選択の余地も無く、僕は現実世界に戻されることとなった。
数ヶ月ぶりの自分の身体。
しばらく使ってなかった身体ではあったが、今の技術は進んでいてリハビリもほとんど必要がなかった。
(筋力や内臓機能が衰えないようにケアがされているようだ)
それでも、久しぶりの重力に少し戸惑う。
(仮想空間でも重力は意識して付けていたけどリアルとはやはり違うなぁ)
僕の身体はイズモ博士の研究所に保管されていた為、新政府の代表との会談は研究所内の一室で行われることになったのだが、その代表が先程からずっと僕にまとわりついているのだ。
新政府の代表は” レックス ”と名乗っているということのみで、性別、経歴等全て不明。
(『王』か…)
会議室のような部屋で、レックスと二人っきり。
「そうだ!海に行こうか!」
「なんで!?」
「いいじゃん!いいじゃん!」
(軽…)
トゥクトゥクで移動する。
レトロブームなのか?
(いやいやいや、なんで海?)
(人質取られてなんで今、海?)
(新政府の代表だというのに護衛も無しで)
エイジング加工されているのかサビサビのトゥクトゥクの手摺りを擦りながらレックスは言う。
「懐かしいでしょ?」
「や、僕は病院から出たこと無かったから…」
「あー、そうだっけw」
こののらりくらりと躱されてるようなやり取りに少し苛立つ。
「何をさせようとしてるんですか」
レックスはそれには答えず、僕に顎で合図した。
「海だぜ!」
(海!)
太陽の光が反射してキラキラと光っている。
「わぁ…」
僕は思わず色めきたってしまった。
僕らは白い砂浜に立っていた。
穏やかな波が寄せては返す。
レックスはすぐさま海にザバザバ入っていく。
「コレみんな塩水なんだぜ?」
「さすがにそれは知ってるし!」
「ネットの知識だろ?」
「まあ、確かに。」
僕も裸足になって恐る恐る海に近付く。
水面に足が触れ、その冷たさに少し驚く。
(キレイな水だ…)
「ルクス!」
レックスに呼びかけられてそちらを向くと
『バシャーン』
思い切り水をかけられた!
「な…!?」
「水も滴るなんとやらだな!」
「……」
「お?やり返すか!?」
「しょっぱい…」
海水ってこんな味だったのか。
海の匂いも砂浜の感触も水の冷たさも…
(どれもこれも初めてだらけだ…)
「どうした?ルクス、大丈夫か?」
『バシャーン!!』
顔を覗き込んできたレックスに僕は思い切りお返しをしてやった。
「やったな!」
びしょ濡れになったレックスが応戦してきたので激しい水の掛け合いになってしまった。
砂浜で2人並んで座る。
(なんだこれ…)
相手は僕の世界を終わらせようとする敵で…
「地球は…」
「?」
「地球は、ルクスが眠る前よりキレイになったんだよ。」
「……。」
「地球の治癒能力は素晴らしいね。」
「……」
「地震や津波や…本当に色々あったんだよ。」
そりゃそうだろう。
細かい時期は分からないが何百年か経っているだろうし。
色々あって、それでもキレイな環境を維持出来てるのは奇跡的だと僕だって思う。
蟹が、僕らの前を通り過ぎていく。
「僕らはただの遺伝子の方舟で…」
「……」
「生きることにそれ以上の意味は無いかもしれないけど理由はある気がするんだ。」
「理由…」
「こうして、僕がルクスに会えた理由とか」
僕はギュッと砂を握った。
なんとも言えない感触だ。
「現実世界も進歩していて、人の寿命も延びたし、有機細胞で体の損傷も補える。実際、仮想世界で生きるのともうあまり遜色が無いかもしれない。」
「……」
「それでも限りがある。」
レックスは立ち上がり海に向かって石を投げている。
「……」
「有限だからこそ、美しく愛おしいんだと思うんだ」
「……」
鳥が飛んでいる。
僕や誰かがプログラムしたわけじゃない生き物が生きている。
脳が信号を受けてなくても、それは存在している。
僕が勝手に海風を陽射しを心地よく感じている。
「僕も永遠の世界を求めているわけでは…」
「意識の電子化と仮想世界の永久保存を考えているんだろう?」
「……!」
(こいつ、どこまで知っているんだ?)
「僕は別にそれも構わないと思ってるんだよ。でもキミはこちらに残って欲しい。」
「なぜ?」
「キミの頭脳を僕は必要としているからね。現実世界では人類はまだクリアすべき問題が山程あるのさ。」
「それならば、仮想世界を認めてくれればいいじゃないか!そうすれば、意識の電子化をする必要は無くなる!」
「それは難しいんだよね。」
「何故!?」
「そろそろ戻ろう、風が冷たくなってきた。」
レックスは砂を払って、僕に手を差し出した。
その手を僕は取るわけにはいかなかった。
パーフェクト・ワールドの住民、全員の脳を人質に取られてしまっている状態で、選択の余地も無く、僕は現実世界に戻されることとなった。
数ヶ月ぶりの自分の身体。
しばらく使ってなかった身体ではあったが、今の技術は進んでいてリハビリもほとんど必要がなかった。
(筋力や内臓機能が衰えないようにケアがされているようだ)
それでも、久しぶりの重力に少し戸惑う。
(仮想空間でも重力は意識して付けていたけどリアルとはやはり違うなぁ)
僕の身体はイズモ博士の研究所に保管されていた為、新政府の代表との会談は研究所内の一室で行われることになったのだが、その代表が先程からずっと僕にまとわりついているのだ。
新政府の代表は” レックス ”と名乗っているということのみで、性別、経歴等全て不明。
(『王』か…)
会議室のような部屋で、レックスと二人っきり。
「そうだ!海に行こうか!」
「なんで!?」
「いいじゃん!いいじゃん!」
(軽…)
トゥクトゥクで移動する。
レトロブームなのか?
(いやいやいや、なんで海?)
(人質取られてなんで今、海?)
(新政府の代表だというのに護衛も無しで)
エイジング加工されているのかサビサビのトゥクトゥクの手摺りを擦りながらレックスは言う。
「懐かしいでしょ?」
「や、僕は病院から出たこと無かったから…」
「あー、そうだっけw」
こののらりくらりと躱されてるようなやり取りに少し苛立つ。
「何をさせようとしてるんですか」
レックスはそれには答えず、僕に顎で合図した。
「海だぜ!」
(海!)
太陽の光が反射してキラキラと光っている。
「わぁ…」
僕は思わず色めきたってしまった。
僕らは白い砂浜に立っていた。
穏やかな波が寄せては返す。
レックスはすぐさま海にザバザバ入っていく。
「コレみんな塩水なんだぜ?」
「さすがにそれは知ってるし!」
「ネットの知識だろ?」
「まあ、確かに。」
僕も裸足になって恐る恐る海に近付く。
水面に足が触れ、その冷たさに少し驚く。
(キレイな水だ…)
「ルクス!」
レックスに呼びかけられてそちらを向くと
『バシャーン』
思い切り水をかけられた!
「な…!?」
「水も滴るなんとやらだな!」
「……」
「お?やり返すか!?」
「しょっぱい…」
海水ってこんな味だったのか。
海の匂いも砂浜の感触も水の冷たさも…
(どれもこれも初めてだらけだ…)
「どうした?ルクス、大丈夫か?」
『バシャーン!!』
顔を覗き込んできたレックスに僕は思い切りお返しをしてやった。
「やったな!」
びしょ濡れになったレックスが応戦してきたので激しい水の掛け合いになってしまった。
砂浜で2人並んで座る。
(なんだこれ…)
相手は僕の世界を終わらせようとする敵で…
「地球は…」
「?」
「地球は、ルクスが眠る前よりキレイになったんだよ。」
「……。」
「地球の治癒能力は素晴らしいね。」
「……」
「地震や津波や…本当に色々あったんだよ。」
そりゃそうだろう。
細かい時期は分からないが何百年か経っているだろうし。
色々あって、それでもキレイな環境を維持出来てるのは奇跡的だと僕だって思う。
蟹が、僕らの前を通り過ぎていく。
「僕らはただの遺伝子の方舟で…」
「……」
「生きることにそれ以上の意味は無いかもしれないけど理由はある気がするんだ。」
「理由…」
「こうして、僕がルクスに会えた理由とか」
僕はギュッと砂を握った。
なんとも言えない感触だ。
「現実世界も進歩していて、人の寿命も延びたし、有機細胞で体の損傷も補える。実際、仮想世界で生きるのともうあまり遜色が無いかもしれない。」
「……」
「それでも限りがある。」
レックスは立ち上がり海に向かって石を投げている。
「……」
「有限だからこそ、美しく愛おしいんだと思うんだ」
「……」
鳥が飛んでいる。
僕や誰かがプログラムしたわけじゃない生き物が生きている。
脳が信号を受けてなくても、それは存在している。
僕が勝手に海風を陽射しを心地よく感じている。
「僕も永遠の世界を求めているわけでは…」
「意識の電子化と仮想世界の永久保存を考えているんだろう?」
「……!」
(こいつ、どこまで知っているんだ?)
「僕は別にそれも構わないと思ってるんだよ。でもキミはこちらに残って欲しい。」
「なぜ?」
「キミの頭脳を僕は必要としているからね。現実世界では人類はまだクリアすべき問題が山程あるのさ。」
「それならば、仮想世界を認めてくれればいいじゃないか!そうすれば、意識の電子化をする必要は無くなる!」
「それは難しいんだよね。」
「何故!?」
「そろそろ戻ろう、風が冷たくなってきた。」
レックスは砂を払って、僕に手を差し出した。
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