咎の園

山本ハイジ

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人工楽園にて(16)

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 ただの産毛が硬く、太くなってしまう前に、リンボの手術室で電気針を使って全身の毛根を破壊してもらいました。とても痛くて大変でした。腋と陰毛は好むお客さまが結構いらっしゃるので、除去するかしないか旦那さまと使用人が相談していましたが、結局は旦那さまの命令で処理しました。旦那さまが――影次はお客さま方に奉仕する奴隷だがね、あくまで私の子だ。私好みにしておきたい、と。ああ、保護されているのだなと安心感があり、嬉しかったです。私の外見に著しく影響を及ぼすような遊戯は、旦那さまが禁止していますね。
 しかし、いくら私の肌が女性のように美しくとも、やはり年を取ると離れてしまうお客さまがいます。でも、新しいお客さまも増えました。やや筋張ってしまいましたが、伸びてモデルの持ち物のようになった私の脚に名家のご子息で大学生の、株で儲けていらっしゃる知的なお客さまが恋をしてくださいました。その方は私の脚にキスの雨を降らし、かわいい靴下やセクシーなタイツをプレゼントして、うっとりと綺麗な脚だと賛美してくれます。私自身、脚は体でいちばん自信のある部位です。
 お礼を述べると――淫売は黙ってろ、と言われてしまいました。私は思わず言葉を失い、お客さまは――ああ、こんなに美しい君がなんでこんな嫌らしい奴にくっついているんだい? と、嘆きながら脛に頬を擦りつけます。お客さまが恋をしているのは、あくまで私の脚なのでした。
 うっかり脚に傷をつけたら、このお客さまから大変怒られると思って、ほかのお客さまに鞭などは間違っても脚に当てないでくれと必死に頼み込みました。笹沼家の意地悪なご子息に頼んだら、心底後悔する結果となりましたが……。
 あと、私の容姿が大人に近づいてくると、熟しつつも小綺麗な女性のお客さまからご指名をいただきました。この方との遊戯は、使用人の協力が不可欠です。まず、お客さまはアバヤと呼ばれる目元と手以外をすっぽり隠す、アラビアの黒い民族衣装をまとい、使用人と一緒に私の部屋にこもりました。そのあいだ、私は部屋の外で男性用の民族衣装、カンドーラという白く丈の長いワンピースのような服を着て、頭にターバンを巻きます。そしてドアに耳をつけて、お客さまの悲鳴と喘ぎ声に聞き入りました。
 そのうち――あたし、なんだか変ですわ。という台詞の声の下から、絶頂を知らせる悲鳴が響きます。用意してあった半月刀を装備して……もちろん偽物の、ほとんど玩具のような代物です……ドアを開け、室内へ踏み込みました。ベッドの上、アバヤを乱したお客さまの開いた脚のあいだで、股間を露出していた使用人が慌てて足首にまるまっているスラックスと下着をあげてから、私を押しのけて部屋を飛び出します。
 私は眉間に皺を寄せて怒りの表情を作るよう努め、お客さまに近づきました。お客さまの陰毛は破瓜を演出するための血糊と、おびただしい愛液で濡れそぼっております。私は女陰に乱暴に触ると、ねばつく手をお客さまのヴェールに覆われた顔の前にかざし――嫁入り前に純潔を失い、そのうえ快楽を感じてしまうとは恥知らずな娘よ。と、台詞を吐きました。お客さまは体を起こし、私の服の裾を掴んで――違うのお兄さま! 暴漢が無理やり……と、すがってきます。私はお客さまの兄という設定でした。
 お客さまの官能を冷まさないよう、頬を手加減なしで張りました。そのまま語調を荒らげて――言い訳をするな! 純潔を守れなかったほうが悪い! いや、お前が誘惑したんだろう? こんなに濡らして! と、怒り狂いながらお客さまを何度も叩き、ベッドから引きずりおろして、体中を蹴りました。――許してっ! 許してっ! と、泣きわめくお客さまに、私は厳格なイスラームの教えに則って――お前は家族の恥だ。俺は長男として、家族の名誉を守るためにお前を殺さなくてはいけない! と、容赦なく死刑宣告をしました。
 半月刀を抜き、すすり泣きつつ首を差し出すお客さまのうなじに刀をあてがいます。――お前のような恥さらしは赤子のうちに殺してしまうべきだった。と、悔やみ、刀を振りあげ、首筋を打ちました。お客さまはバタッと床に伏し、二、三回痙攣して見せたあと、そのまま沈黙しました。性的なことに触れる機会のなかった、禁欲なイスラームの少女が結婚まで死守しなければならない処女を強姦で奪われ、あろうことか初めての性交に興奮を覚えてしまい、肉親から名誉の殺人として私刑に処される……という筋書きの少女の死体にお客さまがなりきって、快楽の極みを漂っているのを邪魔しないよう静かに部屋を退出します。これで遊戯はおわりです。
 このお客さまの趣味は共感するところが多く、遊戯がおわってからよく手淫しました。
 ……最後に、奴隷たちから神様と称されている、屈強そうな体と顔つきをした男性のお客さまをご紹介したいと思います。噂だとこの方はたまにエデンにいらっしゃっては、とくにこだわりのない様子で奴隷を選び、それからはほぼ毎日選んだ奴隷のために一定期間エデンへ通うらしく、ある日ついに私をご指名してくださいました。お客さまは真顔で――肛門で達したことはあるかい? と、たずね、私は正直に――薄ら快感はありますが、後ろだけだと放出するほどではありません。と、答えました。すると、お客さまは――真の肛門快楽は放出などしないよ。俺が教えてあげよう、と。これでお客さまのお相手をすることが確定したのです。
 で、なぜに神様と呼ばれているのかというと……。まず、お客さまは私の部屋に来るとすぐに性行為はせず、使用人にお菓子を運ばせて、歓談を楽しもうと誘ってくれます。失礼は承知の上で、私の目にはお客さまはちょっと怖面に映っていたのですが、お話ししてみると非常に気さくな方でした。十分リラックスしてからベッドに仰向けに寝て、お客さまは私の脚のあいだに座ります。
 ――なにかスケベな想像でもしてな、と、お客さまは私のショーツを脱がせ、後ろをローションで濡らしてから、きちんと爪を切っている指で優しく前立腺を叩いてくださいます。もどかしく、なんだか切なくなってくるような独特の気持ちよさと、かすかな尿意を感じました。さらにもう片手で、羽毛が触れていると錯覚しそうな絶妙な加減で、太腿や乳首を撫でてくれます。お客さまの愛撫の技術は講習のときの戸渡さん以上です。
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