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恋の罪(6)
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撫でながら、再度彼女を観察します。身じろぎすらしないほど深く眠っていて、死体と勘違いしてしまいそうだなと思っているとふと、体の両脇に投げ出されている手の手首にいくつもの線状の傷痕が走っていることに気がつきました。とくにそれは左手に多くありました。感受性の強いお客さま方の手首にも、似たような傷痕を見たことがあります。……夏のあいだ、私はたんに日焼けしたくなかったから長袖を着ていましたが、彼女はこういう理由だったのかと痛々しく思いながら納得しました。しかし傷痕はすべて白く、最近新たにつけたものはないようでした。
しばらくそうしていましたが、旦那さまに声をかけられ、彼女の髪に指を差し込んだまま振り向きます。――彼女の講習中のご褒美役は、お前に頼みたい。では、いいところですが今宵はこの辺で」
大半は外界の娘とのデート話になってしまったが、二人、俺の話に耳を傾けながら女奴隷を使っていた客がいる。一人は男。かんざしが散らばる床に女奴隷は手をつき、後背位で犯されていた。もう一人は婦人で、煙草を吸いつつ女奴隷に女陰を弄らせていた。二人とも、こちらを凝視していて女奴隷を見てすらいなかったから、この恋の話をネタに手淫を楽しんでいたと言ってもよいかも知れない。
舞台をおりて、原稿を客たちに捧げる。それから、広間をどうオリエンタルに飾ってもこの像が邪魔しているなと思いつつ、サテュロスの陰茎に吸茎をしてから客たちと交わった。しかし断りを入れて、長引きすぎないうちに広間を出ていく。
これからデートの約束があるのだ。大浴場へ向かい、入浴を済ませ、裸で自室に入るとベッドの上には使用人が奴隷たちの衣装保管部屋から取ってきてくれた、俺の戦利品が広がっている。透明のカバーがかけられ、俺の名前の記されたタグがついているヴィヴィアンの真っ赤なワンピース。胸元がやや開いていて、裾が薄い豹柄のそれは今から会う客がくれたもの。ほかにハンドバッグ、箱に入ったパンプスも用意されていた。
ベッドの下の引き出しを開けて、身支度をはじめる。黒のレザーのコルセットを締めて、Tバックのショーツを穿いた。その上からワンピースを着て、化粧をし、頭をどうしようかと悩んだ。悩んだ末、長い黒髪のと迷ったがシルバーのボブのかつらをかぶった。
丈の長い黒の靴下を脚にまとわせ、パンプスを履いて化粧品をしまったバッグを持つと、片手で携帯電話を使い客と連絡を取りながらエントランスへおりる。エデンを出ると少し冷たい風が、ワンピースの裾をはためかせる。背中に翼を有した青年の像のあいだを通り、門前で待っていた車に乗り込めば、ほとんど明け方に近い夜のなか、街に向かって使用人が車を走らせた。
二十四時間営業しているバーで、中年に達しつつも筋肉質で若々しい男の客と会った。しかし忙しさからか、表情はやややつれて見える。カクテルを飲みながらカウンターの下で遊戯をはじめると、すぐに生き生きとしたが。
時間帯を考えると、客――高田さまは趣味を満喫することができないのではないかと思ったが、幸いにもスツールを一脚あいだに置いた隣で一人、疲れた様子の女が飲んでいた。歓談しつつ高田さまの腿を撫であげ、スラックスのポケットに手を入れる。――ただでさえ派手で目立つうえに、俺の声が明らかに男のものだからか、女は怪訝そうな視線をちらちら向けてきた。
ポケットの底には穴が開いており、そのまま下着の中に手を潜り込ませれば、高田さまの陰茎をじかに刺激することができる。高田さまも俺の脚を撫で、スカートの中に手を入れてくる。あまり激しく手を動かすと、さらに女から訝られるかも知れない。会話の声量をあげて、下品な話をしてみれば女の視線に心なしか刺々しさを感じた。あくまでさわやかな笑顔を張りつけて接客してくるバーテンダーは、なにを思っているのか察せられない。
早々とカクテルを飲み干した女が去ると、高田さまは悪戯っぽい笑みを浮かべた。いつもならもっと人がいるところで、バレるんじゃないかという緊張を感じながらポケットに手を入れ、周りの反応を見る。それで、高田さまは楽しむのだ。……高田さまは下着の中を濡らすと、俺の手をポケットに突っ込ませたまま会計を済ませ、バーを出る。閑散とした、まだ人通りの少ない早朝の街を時折下半身を弄り合いながら歩いた。
今度はホテルに入り、この子供のような悪戯好きの性質を持っている客とおまけ程度に戯れてから、一緒に入浴し、同衾した。起きて、身支度をし直すと、十分に高田さまと別れの挨拶を交わす。
もう、高田さまのスケジュールに空きはない。「影次くんの催しの映像、絶対買うよ」「引退は残念だけれど、それが君の快楽のためならしかたない」と、言ってくれた。エデンに帰り、自室でかつらとワンピースだけ脱ぐと、ビーズのチョーカーをつけて、レースのロンググローブをはめた。出かけるときに迷った、前髪を横一列にそろえてある長い黒髪のかつらをかぶり、原稿を持つと広間へおりる。少し、遅くなってしまった。
「……ああ、あなたほど綺麗な男の人、ほかにいないわ」
穏やかなピアノの曲が流れているなか、前座がはじまっている。舞台の上で、少女と美男子が座って寄り添っていた。男女のラブロマンス劇のつもりらしい。……クリーム色のパフスリーブのワンピースを着て、亜麻色の髪を三つ編みにした少女が、相手が有する絹のような質感の灰色の長髪――アフガン・ハウンドの美しい被毛――を撫でながら、表情はうっとりとしているが、棒読み気味の台詞で語りかけている。
少女がそっと、相手の細長い口吻に幼い顔を寄せた。べろりと出た鮮やかなピンクの舌に小さな舌を合わせ、濃厚な接吻をして見せる。体高が一メートル近くはある相手の舌は、少女の口には――いや、少女にかぎらず人間には――大きすぎて、舌を絡ませながら唇を重ねるような接吻は無理だ。舌を舐め合ったり、少女が相手の舌を吸って飲み込もうとしているようだったり、相手が少女の舌や唇どころか顔中に舌を這わせはじめたりする様は、もはや接吻と呼んでいいのかわからない。
「好きよ、好き……抱いて!」
唾液で顔が光沢を帯びはじめてきたところで少女が座ったまま後退り、ワンピースの裾をまくった。純白のショーツを脱いで、大きく脚を開いて見せる。白い内股に烙印があるのを一瞬だけ、確認できた。黒子姿の使用人が舞台にあがり、情交を手伝いにくる。
しばらくそうしていましたが、旦那さまに声をかけられ、彼女の髪に指を差し込んだまま振り向きます。――彼女の講習中のご褒美役は、お前に頼みたい。では、いいところですが今宵はこの辺で」
大半は外界の娘とのデート話になってしまったが、二人、俺の話に耳を傾けながら女奴隷を使っていた客がいる。一人は男。かんざしが散らばる床に女奴隷は手をつき、後背位で犯されていた。もう一人は婦人で、煙草を吸いつつ女奴隷に女陰を弄らせていた。二人とも、こちらを凝視していて女奴隷を見てすらいなかったから、この恋の話をネタに手淫を楽しんでいたと言ってもよいかも知れない。
舞台をおりて、原稿を客たちに捧げる。それから、広間をどうオリエンタルに飾ってもこの像が邪魔しているなと思いつつ、サテュロスの陰茎に吸茎をしてから客たちと交わった。しかし断りを入れて、長引きすぎないうちに広間を出ていく。
これからデートの約束があるのだ。大浴場へ向かい、入浴を済ませ、裸で自室に入るとベッドの上には使用人が奴隷たちの衣装保管部屋から取ってきてくれた、俺の戦利品が広がっている。透明のカバーがかけられ、俺の名前の記されたタグがついているヴィヴィアンの真っ赤なワンピース。胸元がやや開いていて、裾が薄い豹柄のそれは今から会う客がくれたもの。ほかにハンドバッグ、箱に入ったパンプスも用意されていた。
ベッドの下の引き出しを開けて、身支度をはじめる。黒のレザーのコルセットを締めて、Tバックのショーツを穿いた。その上からワンピースを着て、化粧をし、頭をどうしようかと悩んだ。悩んだ末、長い黒髪のと迷ったがシルバーのボブのかつらをかぶった。
丈の長い黒の靴下を脚にまとわせ、パンプスを履いて化粧品をしまったバッグを持つと、片手で携帯電話を使い客と連絡を取りながらエントランスへおりる。エデンを出ると少し冷たい風が、ワンピースの裾をはためかせる。背中に翼を有した青年の像のあいだを通り、門前で待っていた車に乗り込めば、ほとんど明け方に近い夜のなか、街に向かって使用人が車を走らせた。
二十四時間営業しているバーで、中年に達しつつも筋肉質で若々しい男の客と会った。しかし忙しさからか、表情はやややつれて見える。カクテルを飲みながらカウンターの下で遊戯をはじめると、すぐに生き生きとしたが。
時間帯を考えると、客――高田さまは趣味を満喫することができないのではないかと思ったが、幸いにもスツールを一脚あいだに置いた隣で一人、疲れた様子の女が飲んでいた。歓談しつつ高田さまの腿を撫であげ、スラックスのポケットに手を入れる。――ただでさえ派手で目立つうえに、俺の声が明らかに男のものだからか、女は怪訝そうな視線をちらちら向けてきた。
ポケットの底には穴が開いており、そのまま下着の中に手を潜り込ませれば、高田さまの陰茎をじかに刺激することができる。高田さまも俺の脚を撫で、スカートの中に手を入れてくる。あまり激しく手を動かすと、さらに女から訝られるかも知れない。会話の声量をあげて、下品な話をしてみれば女の視線に心なしか刺々しさを感じた。あくまでさわやかな笑顔を張りつけて接客してくるバーテンダーは、なにを思っているのか察せられない。
早々とカクテルを飲み干した女が去ると、高田さまは悪戯っぽい笑みを浮かべた。いつもならもっと人がいるところで、バレるんじゃないかという緊張を感じながらポケットに手を入れ、周りの反応を見る。それで、高田さまは楽しむのだ。……高田さまは下着の中を濡らすと、俺の手をポケットに突っ込ませたまま会計を済ませ、バーを出る。閑散とした、まだ人通りの少ない早朝の街を時折下半身を弄り合いながら歩いた。
今度はホテルに入り、この子供のような悪戯好きの性質を持っている客とおまけ程度に戯れてから、一緒に入浴し、同衾した。起きて、身支度をし直すと、十分に高田さまと別れの挨拶を交わす。
もう、高田さまのスケジュールに空きはない。「影次くんの催しの映像、絶対買うよ」「引退は残念だけれど、それが君の快楽のためならしかたない」と、言ってくれた。エデンに帰り、自室でかつらとワンピースだけ脱ぐと、ビーズのチョーカーをつけて、レースのロンググローブをはめた。出かけるときに迷った、前髪を横一列にそろえてある長い黒髪のかつらをかぶり、原稿を持つと広間へおりる。少し、遅くなってしまった。
「……ああ、あなたほど綺麗な男の人、ほかにいないわ」
穏やかなピアノの曲が流れているなか、前座がはじまっている。舞台の上で、少女と美男子が座って寄り添っていた。男女のラブロマンス劇のつもりらしい。……クリーム色のパフスリーブのワンピースを着て、亜麻色の髪を三つ編みにした少女が、相手が有する絹のような質感の灰色の長髪――アフガン・ハウンドの美しい被毛――を撫でながら、表情はうっとりとしているが、棒読み気味の台詞で語りかけている。
少女がそっと、相手の細長い口吻に幼い顔を寄せた。べろりと出た鮮やかなピンクの舌に小さな舌を合わせ、濃厚な接吻をして見せる。体高が一メートル近くはある相手の舌は、少女の口には――いや、少女にかぎらず人間には――大きすぎて、舌を絡ませながら唇を重ねるような接吻は無理だ。舌を舐め合ったり、少女が相手の舌を吸って飲み込もうとしているようだったり、相手が少女の舌や唇どころか顔中に舌を這わせはじめたりする様は、もはや接吻と呼んでいいのかわからない。
「好きよ、好き……抱いて!」
唾液で顔が光沢を帯びはじめてきたところで少女が座ったまま後退り、ワンピースの裾をまくった。純白のショーツを脱いで、大きく脚を開いて見せる。白い内股に烙印があるのを一瞬だけ、確認できた。黒子姿の使用人が舞台にあがり、情交を手伝いにくる。
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