咎の園

山本ハイジ

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恋の罪(10)

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 観客たちの一部がざわついたので、俺は苦笑を向けて言った。
「もちろん、嘘ですよ。……そのまま言葉をつづけました。――騙して、君までここの住人にしてしまったことは本当にすまないと思っている。などと伝え、彼女の反応をうかがいます。彼女は、なにも返事をしてくれません。彼女の心に波紋を起こせたことを祈りながら、部屋を出ました。
 それから私はほぼ毎日、外界の心を忘れていない振りをしながら伊織の部屋に通いました。伊織まで失いたくない、これは彼女を救うためなんだと思うことで罪悪感を抑えつつ、映像で享楽はしっかりと得つつ……自分もエデンには騙されて連れてこられた存在なのだ、君と同じ境遇なのだとアピールしました。まあ、別にこの辺は嘘じゃありませんしね。
 その甲斐あってか、彼女は少しずつ普通に私と口をきいてくれるようになりました。ある日の夜、部屋を訪ねてドアをノックすると、ちょうど彼女が手で胸の前を押さえながら廊下からやってきます。乳房を隠している手は自傷癖が再発しているのか、ひっかき傷だらけでしたが私はそれにはとくに触れないようにしていました。私のそばまで来ると、彼女は急に――ここって、どこまで監視されているの? と聞いてきます。
 ――どこまでって? と返しながらドアを開けてあげます。彼女は――あまりうろちょろするなって怒られた。と、眉をひそめて言いつつ部屋に入りました。私も彼女につづいて部屋に入りながら――カメラのないところがないな、と正直に答えます。彼女はベッドに腰かけて――なら、ここも当然見られているわけね。と、部屋の中を見廻す素振りをしてから、ため息を吐きました。――こっそりコルセット外したら、あとですごく怒られたし。
 普段は奴隷の一挙一動なんてそこまで見張られてはいないでしょうが、まだ講習中の上にこんな調子の彼女に対する監視は厳しいようです。私は自分の講習の時はどうだったかな……と思い出しつつ言いました――外から来た君に対してはとくに神経質になっていると思う。俺も最初は……そのとき子供だったけど、つねに見張られてた。
 そのまま言葉をつづけます――つらいだろうけれど、とりあえずは使用人たちの言いつけに従って、エデンと同調したほうがいい。と言うと、彼女の目つきが険しくなったので、私は念のため声を小さくして――フリでいいんだ、淫売になったフリで。と付言しました。さらに――すれば監視もいつかは緩くなる。と、足します。
 黙っている彼女の体の至るところにある青痣に目を遣り――痛いだろう? あの鞭。君には傷ついて欲しくない。それに……講習を乗り切れないと、死ぬほどつらいだろうけれどとりあえずはエデンで過ごさないと、本当に恐ろしいことになるんだ。
 私のこの説得は、少々危険ですが彼女に“とりあえず”の希望を漠然と感じさせる目的がありました。その希望は、タイミングを見ていつかはっきりと口にするつもりでした。エデンにとってあまりよろしくないことでしょうけれど、私が彼女の支えになるにはこれしかないなと思い至っていたのです……。
 それから、彼女は私の話に出てきた“外から来た”と“本当に恐ろしいこと”という部分に引っかかりを覚えたのか、色々と質問をしてきました。すべて答えてあげます。ついで、すでに説明を受けているであろう事柄も含めてエデンについて丁寧に教えてあげました。恐ろしいこと、この情報は私が彼女を騙していたことに対するさりげない弁明になります。そんな会話をしているうちに、ふとあることを思いつき、彼女に寄りました。
 両手で自分の肩を抱いたまま身を硬くする彼女の、ブルーのコルセットに手を伸ばします。――それ、ここの制服みたいなもんなんだけどさ、苦しいだろう? 少しのあいだ外して、休ませてあげるよ。と、バスクに触れました。彼女は――部屋は監視されてるんでしょう? と不安げに聞いてきましたが、私は――大丈夫、俺が勝手にやったことだから。怒られるのは俺だよ。と、笑って見せます。
 内心、これは私が彼女にあげる“ご褒美”だから、そう咎められることはないだろうと安心していました。屈んで、彼女からかすかに香る柑橘系のソープのにおいを楽しみながら、バスクを外します。彼女はほっと息を吐いて、強制的に伸ばされていた背筋を曲げました。お腹がコルセットの締めつけで赤くなっています。それからの日々、こんなふうに彼女に配慮をし、エデンについて質問されたら答えるようにしました。
 しばらくして、伊織の性交講習がはじまったことを映像で知りました。ようやく輪姦の傷が癒えた様子の女陰から、ディルドショーツで拡がった後ろを丹念に愛撫され、貫かれる映像は私を思春期の少年の気持ちにします。
 執拗に陰核を舌でなぶられながら、膣を掻き廻されてはさすがの彼女も堪らないらしく、気を遣っている様子がありました。白い肌を紅潮させ、下肢を震わせつつも口に手を当てて嬌声を必死に押し殺す、そんな奥ゆかしい乱れ方です。このいじらしい所作、お客さまのお相手をするときに真似してみようと思いました。
 しかし、やはり彼女は快楽なんて卑しいもの求めていないようです。罰が怖くないのか、私の言ったことが伝わっていないのか……彼女は気持ちよいはずの愛撫も、もうさほど痛みは伴わないはずの膣か肛門を使った性交も、舌使いの訓練のとき以上の嫌悪と抵抗を見せていました。戸渡さんが彼女を強引に抱きながら――あなたのその清純さは最初のうちは受けるかも知れませんがね。ですがきっとそれはすぐに飽きられるし、思い通りにならない、自分の快楽に従順に奉仕してくれないあなたにお客さまはいらいらします。快楽って、エゴイストなんですよ。と、怒鳴っていました。
 この期間、彼女の部屋を訪ねると、彼女は犯されていることをはっきりと言いはしませんでしたが――もう嫌だ! 家に帰りたい! などと、よく私にヒステリーを起こしながら叫びます。家、というのは天使の家のことなのか、彼女の無い実家のことなのかはわかりませんが。鬱積しているものを吐いて、ある意味、私に甘えてくれていました。
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