咎の園

山本ハイジ

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辺獄にて(3)

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 語りながら情景を生々しく思い出すと電撃のような快感が走り、後ろに仕込んでいたエネマグラを思わず締めつけた。命消える彼女。
「失礼しました。映像を見ている私がどんな状態だったのか、これで察せられちゃいますね。脳内で彼女と同化して歓喜し、片手は股ぐらに遣りつつ、もう片手でそっと自分の首を絞めていました。ああ痛い苦しい、どうしてあたしを裏切ったの? すべては嘘だったの? あんなに愛していたのに。と、伊織の亡霊が私を責めます。
 それから私の淫蕩生活は彼女の死を糧にして、ずいぶんと充実しました。お客さまやお友だち、自分までをも相手に淫乱を極めてしまいます。脳内の彼女に没入しすぎて、鞭で打たれるとき想像遊戯でとくに設定があるわけでもないのにむやみやたらに謝ったりして訝られることもありましたが、私の人気はこの時期あがっていたように思います。
 催しの第一回目でお話しした私の趣味ですが、猟奇的な妄想を楽しんできたりはしつつもはっきりと認知はしていませんでした。手淫に耽りながらも、そんな恥ずかしいことをしただなんて信じられず受け入れられない思春期みたいな感じですね。……しないようにしていたのです。死が関わってはさすがに禁忌である気がして。しかし二人もの恋した少女をエロスへの贄に供してしまっては、もう認めざるをえません。
 ある程度が経ち、過剰な性欲が落ち着いてきてから伊織を喪った悲しみをやっと感じはじめました。表情が整えられ、あちこちも補修された綺麗な剥製に会いにいっても虚しさ募るだけです。話しかけてみても返ってきません。笑いかけてくれません。動かぬ彼女の前で、出会いはじめのころのデートや安らぎを覚えられたころの同衾などのきらめく情景を思い出し、しくしく泣いてしまいました。
 私、タナトの気はあってもネクロの気はないようです。改めて彼女に恋人解消を告げました。そして、また急速に涸れていきます。……しかし、虚無的な日常を送るうちに私はあることを思いつきました。淫楽と死の結びつきを自覚したのです、気がつかないわけがありません。自分にとっての究極の快楽とはなにか? 死んでみれば得られるはずだと。
 あれほど死にゆく愛しい乙女に感情移入して官能に乱れ、そのうえ憧憬を抱いてきたのです。妄想でおわらせず、自分も死の苦しみを味わってみたらいい。きっと気持ちいい。頭の中は……女体化していましたが……自身の死でいっぱいになりました。そういうわけで旦那さまに快楽主義に殉教したい旨を伝え、こんな方法でのエデン引退を望んだのです」
 かたわらの小刀を持ちあげて、観客たちに示す。
「普通、死ぬ、それもこんなつらそうな手段を選択しての引退だなんてリンボの奴隷がすることですが、楽にやってしまってはつまらないだろうと思いまして。ひどい形相になってしまうでしょうから、厚化粧で臨みました。……引退という言い方は正しいのか疑問ですがね。おわったあと私の体は伊織の隣に展示されて、死姦趣味をお持ちのお客さま方に供されるようになるらしいので。
 承諾してくださった旦那さまは、引退する前に人生を振り返られる催しをご提案しました。原稿を書きながらしみじみ思ったことですが、私はエデンに来て本当よかったなと思います。快楽を貪る豚のようなみなさまに揉まれなければ、こんな爆発的な快楽、知らないままだったでしょう」
 ざわつきと笑い声が広がった。もう引退するんだ、気にしなくていい。旦那さまはソファーで優雅に脚を組み、彼女の肩を抱いて微笑を浮かべている。愛してはいるけれど、食えない父親。
「外界で平穏無事に過ごしていたら、これほどまでの美貌を持ち、保つこともできなかったでしょうし……ああ、もう劣化することもなく半永久的ですね。ああ、今、戸渡さんが私の背後に来ましたが、彼が介錯してくれます。万が一、私が怖じ気づいたりしても戸渡さんがちゃんとしてくれます。そんな情けないことにならないよう、みなさまを楽しませられるよう、精一杯努めてみます。では、この辺で。私は幸せでした」
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