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しおりを挟む「やだっ、何あれキモ」
「チカンとかしてそう」
女子高生二人組がそばを通り過ぎた男に対し、笑って言った。男は肌が白く、肥えていて餅のようだった。
(興味ないわお前らのようなビッチなど……)
男、山田ノブヲはそう心の中で毒づき、家路をたどる足を速める。
はやく家に帰って、気に入りのBLやショタの本かゲームを摂取したかった。彼らはノブヲを傷つけない。
(興味ない、てかこぇえ……。女子高生とか世界一怖い生き物だ)
ノブヲの脳裏に学生の頃、「キモい」だの「臭い」だの「ブサイク」だのと罵ってきた女子たちの姿が浮かぶ。
(まあ……こんな見た目だし、どんなひどいこと言われてもされても何にもやり返せない自分が悪いんだろうけど)
横断歩道で信号が赤だったから足をとめて、ノブヲは卑下した。
その時、どこからともなく白い猫が現れノブヲの足元を通る。
(あ)
猫は赤信号でとまらない。
ノブヲは反射的に飛び出して、自分を傷つけないもうひとつの存在を抱き抱えていた。
車が、迫った。
血に塗れた両腕から猫はするりと抜け出て、のんきな鳴き声をあげた。
はっと気がついたノブヲは薄暗い空間の中にいた。息をしてじめじめとした空気を吸うとカビ臭い。
「どこだここ? あの世か……?」
思わずそう独り言ちながら、ノブヲは視線を弱い光を発しているランプやヒビの入った石壁や鉄格子に向けた。牢屋のようだった。
(そんな、確かに俺はいい歳してニートだったりフリーターだったりしていたダメ人間だが地獄行きにならなきゃいけないほどかー?)
閻魔から地獄行きの判決を下されて、地獄へ行く前にとりあえず牢屋に入れられているのかとノブヲは想像しつつ、あちこちにやっていた視線を目の前に戻す。それから何となく視線を少し下ろした。何だかいつもより視界が高いような気がした。
「……え」
キラキラした青と金の目がノブヲを見上げていた。
途端、ノブヲの頭の中で男なのか女なのか大人なのか子供なのか判別のつかない声が響いた。
『もしもーし、神だけどー』
「うわっ、何……!?」
一人で騒いでいるように見えるノブヲを、左が青で右が金の目の持ち主は不思議そうに上目で見つめつづけている。
『お前の死、手違いでさー。お詫びにお前の理想の世界に理想の姿で転生させてやったから、許してくれな』
「は? 軽っ……」
『その美少年もお詫びの品だからお好きにー。じゃ』
声はやんだ。
ノブヲは改めて青と金のオッドアイの少年を見下ろした。
少年の髪は白く、肌も雪のように白かった。真っ白ななか、青いサファイアと金のトパーズが輝いているのだ。
神の声など幻聴ではないかというノブヲの疑惑は、少年の非現実的な美しさを見ていたら薄れた。
「どうしたのですか? 僕にひどいことするんじゃないんですか……?」
少年が鈴のような可憐な声で訊く。
「え? ひどいこと……」
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