一般ノームに生まれ変わった俺はダンジョンの案内人から成り上がる

山本いとう

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5.水の精霊

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フマに付き合い、幾つかのヤバい内容の契約書を食べた俺たち(食べたのは俺だけ)は、ようやく契約書だけはまともと思える魔女を見つけた。

契約は軽い内容で、いつでも辞めて良い日払いの仕事だ。

俺は魔女の仕事なんてやるべきじゃないと思うのだが、魔女との契約に失敗し続けたフマの精神状態が、徐々に危険な事になったので、契約書がまともならと今回は妥協したのだ。
フマによると、働かない精霊は精霊失格という自責の念に駆られるそうだ。

俺?
俺は正直働くとか働かないとかは、どうでも良いかなと思っている。
契約に失敗しようがフマのように自責の念なんて抱かないし、ノームへと変化したので固着した分のマナ量の一部はMPとなりこれからは自動回復するのだ。
まだ最大MPが少ないので、酒はガブガブ飲めないし、つまみだって頼めない。
けれども精霊種は空気中のマナを取り込めるので餓えて死ぬ事はない。
そんな身体になったので、就活に失敗したら、最終的には、この世界レーベン川の畔の大樹を出て、どこか旅にでも出ようかなと思っている。
ブーマンさんやフマ的には、この世界の精霊種は働く物なので、目立たぬように一応は就活はする。
だから旅に出るのは、あくまで、どうしても就職が無理だったらの話だ。
契約書を片っ端からパクパクしてる俺が言っても、説得力はないかもしれないけれど。

魔女達に連れられて俺とフマがたどりついた仕事場は、この世界を支える大樹の根っ子が競り出す土の中の広い空間だった。
所々にランプがついている。

「自分の持っている属性の初級魔法をこの玉に当て続けるのがあなたたちの仕事だよ」

大樹の根っ子にくっついている真珠のような綺麗で大きな白い玉。
休み休みでも良いので、白い玉に魔法を当て続けると、報酬としてウルを1日2ウル貰える。
たくさんこなすと、ボーナスもある。
ウルとは精霊種が更に先へと進化するために必要なエネルギーだ。
ウルはマナのように売買も可能で、他種族では貨幣のように扱われている。
精霊種はみんなこのウルを稼いで、その一部を上役に納めるらしい。
俺は一度は進化してみたいので一切納めるつもりはない。
白い玉の周りには、木がぐにゃりと形を変えたような椅子が複数個あって、座りながら作業しても良いようだった。

「モモモ(ステータス)」

土谷陸
種族 ノーム
lv 1
HP 24/24
MP 26/26
状態 健康

スキル

言語理解Lv-
格闘Lv1
土魔法Lv2
契約Lv1
精霊の身体Lv5
精霊の心Lv1
取得可能スキル▼

加護 精霊王の寵愛
称号 大食らい 転生者

保有マナ 73,956
保有ウル 0

俺は、白い玉に向かって、土を生成するようにMPに働きかける。
すると、白い玉は表面に波紋を広げて魔法で生成された土を吸収した。
隣でフマも火を生成して、白い玉に吸収させている。
ステータスを確認してみる。
土生成のMPの消費は4。
俺は続けて6回土を生成させると、この仕事場を見て回る事にした。
これまでの経験上、魔女の仕事にはどんな危険が潜んでるのか解らないからだ。
フマはMPも切れているだろうに、取りつかれたように白い玉を見ている。
そんなに仕事がしたいんだろうか?
なんだか尋常じゃない執念をフマから感じる。
他の精霊は用意された椅子に座って、適当に魔法を打っているようだ。
MPの自然回復量を確認してみる。
おおよそ5分でMP1くらいの回復だろう。

「モモモ」

「ちゃんと帰って来るのよ。やっと見つけた仕事場なんだから…」

「モ」

なんだか情けない気持ちになりながら、大樹の根っ子を辿って歩いてみると、他の仕事場もやることは同じで、みんな椅子に座りながら魔法を打ったり、うつらうつらしていたりする。
この仕事場を管轄している魔女は一人で、フワフワと空に浮いて精霊たちを見張っていた。

俺が異常を見つけたのは、そんな時だった。
椅子と身体が癒着して境目のわからなくなっている精霊種がいたのだ。
その精霊種は特に何も気にしてないようで、時折思い出したように魔法を白い玉に当てている。

「やあ、大食らい。君もここに来たんだねぇ…」

他の方向から声をかけられたので、そちらに向く。
声の主は、水色の少年が甲羅を背負った姿の水の精霊だった。

「良い所に来たね。ここなら永遠に仕事が出来るんだよ。他の所に行こうにも、どうせボクはもう動けないしねぇ。あ、それだとウルが納められないや。あははは。君、ボクの代わりにウルを精霊の上役に届けてくれないかな?」

水の精霊をよく見ると、椅子から菌糸のような物が出ていて、彼を捕まえていた。
きっとこれが進むと、椅子と身体が癒着してしまうのだろう。

「ああ、後ろの彼かい? 彼はここの仕事をボクより長くやっているそうでね。ずっと椅子に座ってるとああなるんだ。もう彼は喋れもしない。最後はいつのまにか椅子の中に消えちゃうんだけれど。まぁ今は大変な時だから仕方ないよね?」

なんてこった!
ここも最悪な仕事環境の魔境だったのだ。
俺は水の精霊の話を聞いて、大慌てでフマの所へ戻る。

「なに? 大急ぎで戻ってきて?」

幸いフマは椅子に座らず立ったまま、白い玉を見つめていた。
仕事が出来ない期間が長かったのか目が病んでやがる…。
俺は椅子と癒着した精霊を見せるために嫌がるフマの手を引き連れ出した。
途中、よくよく見れば椅子から離れられなくなり、死んだ目のまま魔法を使っている精霊種はたくさんいた。
そして、肉体と木の椅子の境目が無くなった精霊種の所へと到着する。

「…こうなると終わりだって事は私にも解ったわ」

「モモモ」

スキル精霊の身体はかなり自由の効くスキルだ。
口を現実じゃないみたいに大きくしたり、物理的にあり得ない動きだって出来る。
だがその身体が椅子となり、椅子が身体となれば、もう動けはしないだろう。

「おおい、大食らい」

「誰?」

振り向けば、同期の水の精霊が椅子に縛りつけられながら怒っていた。

「せっかく稼いだウルなんだ、誰かが届けてくれなきゃ困るじゃないか」

「モモモ」

俺は突然離れてしまったことを、水の精霊に侘びる。

「所で大食らいの隣にいる火の鳥の精霊。君はどうして大食らいと一緒にいるんだい? ひょっとして大食らいの事を知らなかったりする? ああ、ボクの名前はラッツ。よろしくね」

「フマよ。大食らいの事は知ってるわ、姿が変わっていてもね。食らいとは腐れ縁でね。一緒に働いているの」

何気に二人の俺に対する扱いが悪い。
死ぬところを何度も助けてあげたよね、フマさん?

「それなら同期なのか。フマ、同期のよしみでボクのウルを納めに行ってくれないかい? ボクはほら、もう動けそうにないから…」

フマはちらっとラッツを縛る椅子から出る菌糸のような糸を見る。
フマの目が驚きで見開かれる。
そして数瞬考え、天を仰ぐ。

「ああ、もう。大食らいのせいなんだからね。私は本当は働き続けたいのに…!」

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