14 / 32
14.トレントのマンドュー様
しおりを挟む「君たち、いったいどうしてここに居るのさ? 魔女に見つかったらどうする気だい?」
ここはかつて俺たちが追い出された水精霊のラッツがいた仕事場である。
ラッツが苦笑いをしながら俺たちに問いかける。
「モ!」
「ここで仕事して、本当にウルは貰えるんでしょうね、大食らい?」
俺の付与魔法による耐火属性のかかった茶色のフードを被って、フマは怪訝な顔だ。
大丈夫だ。
俺の持つスキル契約は、契約の有無を感知できる。
破棄しなかったのか、そもそも精霊の見分けがつかなかったのか、フマを追い出した魔女は、俺とフマの契約を未だに解除していないのだ。
ならばと、俺は新しい昼の職が見つかるまで、比較的条件の良かったここに潜り込む事にしたのだ。
たとえ火属性の魔法を使えようが、この世界に魔法はありふれているのだ。
需要が生まれる訳がないではないか。
他に直ぐ仕事が見つかる訳もないので、ここで働く羽目になるのは仕方ないのだ。
あまり働かないとフマの目が死んだ鯖の目みたいになってしまうからな。
なあに、たくさん働く精霊に対して、見張りの魔女はたった一人。
フマの姿を適当に変えておけば、誰が誰だかわかるまい。
ここは椅子に座りさえしなければ、安全に稼ぎが得られるのだ、多分。
そして俺たちが配属されたのは、偶然にもラッツの組だった。
他に働ける所なんて簡単に見つからないのだから、たとえひどい目にあってる精霊を見たとしても暴れないでくださいよ、フマさん?
「大食らいとフマ、君たちが暴れたのは昨日の今日なんだけど…見つからないとでも思っている?」
実際気付かれず入りこめただろうと、俺はジトっとラッツを見る。
「モ!」
静かにと俺はラッツに手をばってんにして、目の前の白い玉へと土生成の魔法をぺぺぺんと発動する。
フマも黙々と仕事をしていく。
やはり平気な顔をしながら、本当は仕事に飢えていたのだろう。
「ここが危険だってわからないのかい? 見てごらん、一つ間違えたらあんな目に会うんだよ? それに君たち二人ならもっと良い仕事場を見つけられただろうに」
ラッツがここは危険だと、物も喋れなくなった椅子と一体化している同僚を指差す。
甘いなラッツ。
お前は知らないかもしれないが、外の方がここよりもっと地獄だ。
俺は大量に増えたMPを土生成で消費する。
「まぁ、常識知らずの二人が増えて、心強いと思っておくことにするよ…」
そう言って、ラッツは諦めた顔をした。
◆
結果として、潜りこみは上手くいった。
魔女は俺たち精霊の違いをあまり認識してないらしい。
中でも最大MPの多い俺は大量にウルを稼いだ。
最大MPが多いと回復量に差が出るのだなと俺は理解した。
出来ればフマとラッツも最大MPの増えるスキルをとって欲しいが…、二人とも何故回復量に差が出るのかわからないらしい。
俺が喋れたら良かったのだが。
フマのフードに試してみた付与魔法は、低レベルながら色んな事が可能だ。
今回はフマの火が燃え移らないように、耐火属性の付与をしてみた。
もっとも効果は最低レベルで、フマの火は見た目通りではなく、普段は人の体温くらいまで下げているので、必要なかったそうだが。
いつか良い触媒を見つけたら、俺の付与魔法で二人に最大MPの増える道具をつくってやろう。
そうして首尾良く仕事を終えた俺たちは、動けなくなった精霊達の代わりに、精霊の上役にウルを納めに行く事にした。
「大精霊は変わった精霊が多いんだ。レーベン川の畔の大樹に所属している大精霊は全部で4柱。ホルッカプウ様とカスーヌ様、イヌババ様、マンドュー様だよ。今から会うのは中層で僕らを管轄するマンドュー様だよ」
「わたし上役に会うのって初めてだわ。マンドュー様って凄い精霊なんでしょうね」
トコトコと中層の中でも寂れた方へと向かうと大きな空間に出た。
そこには、おどろおどろしい顔のついた木の化け物が静かに鎮座している。
その根っ子は杭に刺されるように、魔法の効果があるだろう紋様のかかれた石碑がある。
「こんにちはマンドュー様。ウルを届けに来ました」
「この方が大精霊様…」
「ドロロロ…」
ラッツが皆から預かったウルを木の化け物に差し出すと、ブルブルと震える小さな枝がウルを受け取った。
マンドュー様と呼ばれる木のウロへと吸い込まれるウル。
「ドロロロ…」
「モモモ…」
大精霊だけど俺と同じように喋れないのか?
大丈夫かこの精霊と俺は訝しげにマンドュー様を観察する。
何かトレントが誰かにとっ捕まった格好にしか見えないんだが。
「ウルの回収ゴクロウ。…精霊おうさまと、正体ふめいの、てきとの戦いは、イマナオ、ツヅイテイル。コレからモ、精霊タチの助力ヲ期待スル」
「はい! これからも頑張ります!」
「ドロロロ…」
ラッツが期待に満ちた目でマンドュー様を見る続けると、マンドュー様は激しく振動し始めた。
「うるの回収ゴクロウ。…精霊王様と、正体不明の、てきとの戦いは、イマナオ、ツヅイテイル。コレからモ、精霊タチのじょりょくを期待スル」
コイツ、全く同じ事を言い始めやがった…。
「ね? マンドュー様は変わった方なんだ」
「そ、そうみたいね」
大精霊がブーマンさんみたいに俺と喋れれば何かわかると思ったんだが、別のヤバい問題がわかりそうだと、俺は頭を抱える羽目になった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる