一般ノームに生まれ変わった俺はダンジョンの案内人から成り上がる

山本いとう

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14.トレントのマンドュー様

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「君たち、いったいどうしてここに居るのさ? 魔女に見つかったらどうする気だい?」 

ここはかつて俺たちが追い出された水精霊のラッツがいた仕事場である。
ラッツが苦笑いをしながら俺たちに問いかける。

「モ!」

「ここで仕事して、本当にウルは貰えるんでしょうね、大食らい?」

俺の付与魔法による耐火属性のかかった茶色のフードを被って、フマは怪訝な顔だ。
大丈夫だ。
俺の持つスキル契約は、契約の有無を感知できる。
破棄しなかったのか、そもそも精霊の見分けがつかなかったのか、フマを追い出した魔女は、俺とフマの契約を未だに解除していないのだ。

ならばと、俺は新しい昼の職が見つかるまで、比較的条件の良かったここに潜り込む事にしたのだ。
たとえ火属性の魔法を使えようが、この世界に魔法はありふれているのだ。
需要が生まれる訳がないではないか。
他に直ぐ仕事が見つかる訳もないので、ここで働く羽目になるのは仕方ないのだ。
あまり働かないとフマの目が死んだ鯖の目みたいになってしまうからな。
なあに、たくさん働く精霊に対して、見張りの魔女はたった一人。
フマの姿を適当に変えておけば、誰が誰だかわかるまい。
ここは椅子に座りさえしなければ、安全に稼ぎが得られるのだ、多分。
そして俺たちが配属されたのは、偶然にもラッツの組だった。
他に働ける所なんて簡単に見つからないのだから、たとえひどい目にあってる精霊を見たとしても暴れないでくださいよ、フマさん?

「大食らいとフマ、君たちが暴れたのは昨日の今日なんだけど…見つからないとでも思っている?」

実際気付かれず入りこめただろうと、俺はジトっとラッツを見る。

「モ!」

静かにと俺はラッツに手をばってんにして、目の前の白い玉へと土生成の魔法をぺぺぺんと発動する。
フマも黙々と仕事をしていく。
やはり平気な顔をしながら、本当は仕事に飢えていたのだろう。

「ここが危険だってわからないのかい? 見てごらん、一つ間違えたらあんな目に会うんだよ? それに君たち二人ならもっと良い仕事場を見つけられただろうに」

ラッツがここは危険だと、物も喋れなくなった椅子と一体化している同僚を指差す。
甘いなラッツ。
お前は知らないかもしれないが、外の方がここよりもっと地獄だ。
俺は大量に増えたMPを土生成で消費する。

「まぁ、常識知らずの二人が増えて、心強いと思っておくことにするよ…」

そう言って、ラッツは諦めた顔をした。

     ◆

結果として、潜りこみは上手くいった。
魔女は俺たち精霊の違いをあまり認識してないらしい。
中でも最大MPの多い俺は大量にウルを稼いだ。
最大MPが多いと回復量に差が出るのだなと俺は理解した。

出来ればフマとラッツも最大MPの増えるスキルをとって欲しいが…、二人とも何故回復量に差が出るのかわからないらしい。
俺が喋れたら良かったのだが。
フマのフードに試してみた付与魔法は、低レベルながら色んな事が可能だ。
今回はフマの火が燃え移らないように、耐火属性の付与をしてみた。
もっとも効果は最低レベルで、フマの火は見た目通りではなく、普段は人の体温くらいまで下げているので、必要なかったそうだが。
いつか良い触媒を見つけたら、俺の付与魔法で二人に最大MPの増える道具をつくってやろう。

そうして首尾良く仕事を終えた俺たちは、動けなくなった精霊達の代わりに、精霊の上役にウルを納めに行く事にした。

「大精霊は変わった精霊が多いんだ。レーベン川の畔の大樹に所属している大精霊は全部で4柱。ホルッカプウ様とカスーヌ様、イヌババ様、マンドュー様だよ。今から会うのは中層で僕らを管轄するマンドュー様だよ」

「わたし上役に会うのって初めてだわ。マンドュー様って凄い精霊なんでしょうね」

トコトコと中層の中でも寂れた方へと向かうと大きな空間に出た。
そこには、おどろおどろしい顔のついた木の化け物が静かに鎮座している。
その根っ子は杭に刺されるように、魔法の効果があるだろう紋様のかかれた石碑がある。

「こんにちはマンドュー様。ウルを届けに来ました」

「この方が大精霊様…」

「ドロロロ…」

ラッツが皆から預かったウルを木の化け物に差し出すと、ブルブルと震える小さな枝がウルを受け取った。
マンドュー様と呼ばれる木のウロへと吸い込まれるウル。

「ドロロロ…」

「モモモ…」

大精霊だけど俺と同じように喋れないのか?
大丈夫かこの精霊と俺は訝しげにマンドュー様を観察する。
何かトレントが誰かにとっ捕まった格好にしか見えないんだが。

「ウルの回収ゴクロウ。…精霊おうさまと、正体ふめいの、てきとの戦いは、イマナオ、ツヅイテイル。コレからモ、精霊タチの助力ヲ期待スル」

「はい! これからも頑張ります!」

「ドロロロ…」

ラッツが期待に満ちた目でマンドュー様を見る続けると、マンドュー様は激しく振動し始めた。

「うるの回収ゴクロウ。…精霊王様と、正体不明の、てきとの戦いは、イマナオ、ツヅイテイル。コレからモ、精霊タチのじょりょくを期待スル」

コイツ、全く同じ事を言い始めやがった…。

「ね? マンドュー様は変わった方なんだ」

「そ、そうみたいね」

大精霊がブーマンさんみたいに俺と喋れれば何かわかると思ったんだが、別のヤバい問題がわかりそうだと、俺は頭を抱える羽目になった。

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