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15.俺がなんとかしてやるんだ!
しおりを挟む世知辛ぇぇえ!!
この世界の精霊詰んでやがる!!
せちがらい【世知辛い】
抜け目がない。
世渡りがむずかしい。 暮らしにくい。
精霊たちの上役である大精霊マンドュー様の様子を見て、俺はとある事に気づいてしまった。
おそらく精霊種は魔女か他の種族との争いに敗けて、搾取される所か、資源として消費される存在へと成り下がってしまったのだ。
少なくとも、このレーベン川の畔の大樹という世界では。
マンドュー様は、精霊王が何者かと戦っていると言っていたが、俺が見聞きする限りそんな戦いなんて気配は、この世界には無いのだ。
戦いなんて噂さえ聞かない。
つまり無いのだ、そんな精霊王が戦っているような大きな争いは。
そして、精霊王は精霊を総動員しているが、ウルを貯める所か、多くの精霊種が生まれては次々と魔女に魔石や資源にされてしまっている。
そして精霊をまとめ、ウルを集めている上役の大精霊は、何故か壊れてしまっているのだ。
それも、恐らくはマンドュー様は誰かに捕まって動けなくされている。
これらの情報をまとめよう。
細かく何があったかわからないが、精霊種は詰んでいる。
一刻も早く外の世界に逃げるべきだが、俺を除く精霊種は名付けの際に、ここで働く事を義務付けられてしまう。
「はぁ、はぁ、ひぃ。大変だね、こっちの仕事は」
「もっこに石を入れ過ぎたわ…。こんなに重くなるのね」
俺の後ろではもっこを担いだ火の鳥の精霊で顔は少女のフマと、少年が亀の甲羅を背負った姿の水の精霊ラッツがひいひい言いながら坂道を登っている。
名付けによって労働を義務付けられている可哀想な二人だ。
ボーマンさんによれば、雇い主の意向であれば外の世界に出れるハズだが。
俺はラッツに貸してやったもっこに手を当てて、軽量化(微)の付与をつけてやった。
おっ、付与魔法のスキルレベルが1あがった。
「あっ! 何だか少し軽くなったよ。それ付与魔法かい大食らい?」
「えっ?! 付与魔法で軽くなるの?! わたしのもっこにもそれ付けられる大食らい…って、あんた、もっと働きなさい!」
もっこは二つしかないので、ラッツに俺の分を貸してしまった今、俺は少ししか石を運んでいない。
むしろ片手が空いている。
というか昼に結構稼いだので、夜は頑張る気がないんだよなぁ。
「そういえばあんたマンドュー様にウルを納めなかったわね…。ちゃんと仕事やる気あるの?」
フマによると精霊は収入の3/4を上役に納め、残ったウルで成長していくらしい。
当然だが俺は1ピリウルも納めていない。
マンドュー様の様子を見れば、そんなのは当たり前だ。
あのマンドュー様に渡したウルがどこに行ってるかでさえ、俺たちにはわからないのだから。
「あっ、ありがとう大食らい…。確かに心なし軽くなった気がするわ」
哀れなフマ…、そんな小さな効果の付与魔法で話を誤魔化されて、その挙げ句お礼を言うなんて。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ。ここで普通に働くだけでスキルが上がっちゃう気がするよ。でもボクは夜のうちに帰って皆を見て回らないとな」
可愛そうな精霊たち、椅子と同化して話せなくなったとしても、ラッツが話かければ、上納分のウルを渡してくるらしい。
意識はまだあるのだ。
だが、いつ椅子に消えてしまうかもわからないので、魔女の居ない夜半にラッツが話かけて回ってやるのだ。
その渡したウルが、いったいどうなってるかも精霊にはわからないというのに…。
「モッ!」
やっぱりダメだ!
精霊たちのウルがどこに行くのかは解らなくても、精霊が安全に働ける場所だけは増やさなければ!
俺は抱えていた石を放りだすと、当てもなく猛然と走りだした。
「あっ逃げた」
「走ると危ないわよ大食らい。夜は真っ暗なんだから」
俺は真っ暗闇の中盛大に転ぶと、すごすごと明るいフマの方へと歩いて戻った。
◆
「じゃあまたね」
「また」
「モ」
夜のうちにラッツを元いた職場に送り、俺とフマは鉱石運びに戻る。
埃まみれで働くと、やがて真っ暗い下層の壁を、上の方から徐々に、朝の白い光が照らしだす。
がらんがらん。
汚い金属の音が辺りになり響く。
薄汚れたアナグマ族が中層の倉庫前に集まり始めた。
働きずめだった俺もフマも、中層の倉庫前に向かう。
見れば、俺もフマも薄汚れている。
「ぐーぐまぐま!」
「「「ぐまぐま!」」」「モ!」
本日もお疲れ様でした!
終業の挨拶を終えて、思い思いの方へと解散し始めるアナグマ族。
今日も何人かのアナグマ族が、俺たちに付いてくるようジェスチャーしてくる。
「お風呂のお誘いかしら?」
「モ」
見知った道を、個体差の見分けのつかないアナグマ族と一緒に行進し、白い湯気を吐くキノコの形の銭湯へとたどり着く。
「自分の分は自分で払うわよ」
俺は首を振り、フマを止める。
俺が払うのはどうせ回復するMPなのだ。
80MPを魔力の玉にして、受付の蜘蛛人の女性に渡す。
二人分だ。
「ありがとね」
「モ」
女性用の湯へ進むフマ。
俺は男湯へと進む、足取りは重い。
奥から薬湯のツンとした匂いがしてきた。
疲れ果て、一様に頭を垂れて座り込み、並んでいるアナグマ族。
そのアナグマ族の横に、俺もちょこんと座る。
少し待てば、ガシッとせり上がる壁。
ゆらゆらと揺れだす床。
脇からはずざーっと薬湯が飛び出し、俺達はゴロゴロと転がされながら洗われた、まるでジャガイモのように。
「「ぐまま…」」
「モモモ…」
俺たちが薄汚れたジャガイモから綺麗な里芋になる頃に揺れは止まり、壁は無くなる。
俺達は、皆が皆、ふらふらになりながらも湯船へと向かった。
ゆっくりと湯船につかる。
水泳のように飛び込むアナグマ族もいる。
湯船の温度は、今日も熱めだ。
「「ぐま~」」
「モー」
──お風呂! お風呂!
ホムも喜んでいる。
風呂は、疲れ果てた魂の洗濯場所だ。
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