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17.スペードの7号
しおりを挟むダンジョンの横穴は奥に進むと幾つかの分岐があった。
途中には使い道のわからないガラクタがいくつも転がっている。
やがて、二足歩行のシベリアンハスキーであるリッキーは一つの小部屋に入った。
俺はボロボロの扉の前で、聞き耳を立てながら、近くに転がるガラクタを探ってみる。
とんがり帽子で、槍を持っていて、胸にはスペードのマーク。
これは、壊れたおもちゃの兵隊…?
大きさは俺より一回り小さいくらいだ。
この世界の動力は魔力である事が多い。
魔法を吸収する石がついていないか、ぐるりと兵隊を回してみるが、ざっと見た感じ石はどこにも無かった。
「久しぶりの獲物だワンねぇ。剣が2つ。斧が1つ…ワンワンワン」
ボロ扉の穴から部屋を覗き見ると、ランタンが仄かに部屋を照らしている。
中には大きな黒い箱がいくつか置いてあり、リッキーは部屋中央に敷かれた魔方陣の真ん中に置いてある武器や防具を吟味していた。
「これはありふれた物ワン。ウルにするワン」
リッキーが特徴的な形の剣を黒い箱に入れる。
すると黒い箱は一瞬光って横についている小さなコインを吐き出した。
リッキーの話からすれば、あのコインはウルなんだろう。
「この斧は強化出来るワンね。強化して宝箱に入れるワン」
リッキーが大きめな斧を別の黒い箱に入れる。
すると黒い箱に赤いスロットのリールと、スロットのバーが現れた。
俺には黒い箱の見分けはつかないが、箱によって役割が違うようだ。
黒い箱には犬だけに解る見た目の違いがあるのだろうか?
もしそうでないなら不便極まりない。
「リールは1つだったかワン。ショボいワン。赤は武器スキルだから当たりだワン」
ドゥルルルル
リッキーが箱にコインを入れる。
そして、スロットのバーを叩くと箱に現れたスロットのリールは回りだした。
ティロンティロン
音ともにリールは止まる。
★1、自己修復、+5
「おお、修復だワン! レアスキル来たワン。星は低いけど目玉武器だワン」
リッキーは嬉しそうにしながら、強化された斧を黒い箱から取り出し、他の箱へと移した。
「次は防具だワン」
なんか日本のゲームみたいだな。
賑やかなリッキーの作業を片目で見ながら、俺は転がっていたガラクタの兵隊を弄くる。
とんがり帽子を外すと、兵隊の頭に小さな石を見つけた。
よく観察すると、質感は仕事で魔法をぶつけている石のようだ。
魔力を貯める石なのだから、これがおもちゃの兵隊のバッテリーのようになっている可能性が高い。
「いつもこんな感じで獲物が引っかかると良いんだけどワン…」
一人寂しく呟く二足歩行のシベリアンハスキーの背中。
聞く限り、剣や斧が手にはいる機会は少ないようだ。
リッキーは、一人でダンジョン運営をしているんだろうか?
こんな意味のわからない壊れたガラクタの人形に囲まれて。
「モ…」
俺は兵隊の頭に土生成手前の魔法を発動する。
封印されし、みんなからひんしゅくを買う魔法だ。
パァッと兵隊の頭の小石に魔力が貯まる。
兵隊はすくっと立ち上がり俺の顔を見て顔を傾げると、俺からとんがり帽子をぶんどってかぶり直す。
そして、ボロボロの扉をあけ、リッキーの方へ走っていった。
お、おい。兵隊くん。
俺は今隠密行動中なんだが。
カッチャカッチャと足音を鳴らすおもちゃの兵隊は、リッキーの元へたどり着くと、胸に手を当て敬礼した。
「お前は…スペードの7号ワン。何で動いてるんだワン?」
問われると、おもちゃの兵隊スペードの7号は俺の方を指差した。
リッキーと俺の目が合う。
せっかく助けてやったのに、う、裏切り者め!
「不審者だワン。7号は捕まえるワン」
おもちゃの兵隊は槍を構えてカチャカチャと俺の方へと戻ってくる。
俺は不審者ではない。
リッキーの誤解を解くために、俺は両手を挙げ、敢えてその場に留まった。
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