一般ノームに生まれ変わった俺はダンジョンの案内人から成り上がる

山本いとう

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27.軍曹の権限

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日が照らし始めた下層への坂を、とてとてと下っていると、寂れた穴ぐらが見えてきた。
リッキーのダンジョンの木の扉をギギギと音を立て開くと、奥からすぴすぴというイビキが聞こえてきた。
どうやらリッキーはお休みのようだ。
聖霊種と違い、ダンジョンマスターという種族には睡眠が必要なのだろう。
待て、本当に必要か? 普通は必要だよな?
俺みたいに、睡眠は必要ではないが、ただの趣味で、ぐうたら寝ているとかじゃないよな?
ダンジョン運営の上手くいっていない今、呑気にサボってるのではないと信じたい。

俺はそろりそろりと音を立てないよう、部屋に入る。
リッキーはダンジョンの入っている木箱の近くで、地べたに雑魚寝していた。 
かつてはリッキーが栄華を誇ったダンジョンマスターだった事を考えると、何とも哀愁を感じる光景だが、俺の目から映るそれは、ただの眠った犬である。
むしろ、ただの犬の方が、喋るダンジョンマスター犬よりも好ましいとさえ思う。

俺は、リッキーが起きないように、木箱の隙間からダンジョンコアに魔力を少し補給する。
今日は他にやる事があるから、魔力を残しておくのだ。
俺は口元にニヒルな笑みを浮かべると、静かに転移陣の部屋からダンジョンの中へと向かった。


       ◆

アバターの姿でダンジョンに進んだ俺は、早速軍曹の権限を使ってみる。

「モモモ!」

近くをたむろする雑魚モンスターのスライムたちに、集収をかけたのだ。
ヌメリヌメリと合流するゼリー状のモンスター達。
スライムは、ダンジョンが獲物を分解するための消化を助ける掃除屋兼、分解屋だ。
マナにもならない生物から出る老廃物を回収したり、役に立たないゴミを分解したり、倒れて動かなくなった死骸を細かくする役目を負っている。
スライムを食物連鎖の底辺として成り立っているダンジョンもあるらしい。

「モモモ!モモモ!」

スライム達は俺の号令に従って綺麗に整列する。
何気に俺の言葉が通じているな。
試しに敬礼!と命じてみると、スライム達は一斉に身体の右側をボコと膨らませた。
訓練されたかのような綺麗な動きである。
スライムたちはダンジョンマスターのリッキーよりも高性能である。俺は理解した。
俺は高級幹部であろう軍曹の兵隊監督の権限に満足して頷くと、スライムたちを解散させた。

次に確認する権限はダンジョンの記録保存である。
ダンジョンは破壊されたり、地形を変えられてもいずれ元の姿に戻る。
そのダンジョンの元の姿を改変するのが記録保存である。
リッキーによると、俺に与えられた権限は細かい所のみという事だが…。

「モモ!」

試しに土魔法を使い、床に桶型のオブジェクトを作成してみる。
底がダンジョンと繋がったままの桶だ。
そして、そのまま権限を使って記憶。
記憶保存の権限にはMPを使うようで、俺の身体からフッと魔力が飛んで桶型のオブジェクトを包んだ。

「モモモ…」

俺は桶型のオブジェクトの縁を撫でながら呟いた。
うん。これは成功したか、全くわからないな。
仮に失敗したとして、桶がダンジョンに吸い込まれるまで、いったいどのくらいかかるのだろうか?
重要な事なんだが…。
様子を見てみるしかないか。

しばらく桶型のオブジェクトを眺めていたが、数分で何が起こる訳でもない。
俺は時間を有効活用するために、桶型のオブジェクトは後で様子を見ることにして、ダンジョンの出入口の方向へと顔を向けた。

正直に言えば、このダンジョンにとって必要なのは中の仕組みではない。まずは外の情報である。
俺は自らと変わらないアバターの手を見る。拳を握っては開いてを繰り返し、そして出入口へとゆっくり歩き出した。
ダンジョンの外に出るのだ。
多少のリスクはあるかもしれない。
それでも、ジリ貧状態のリッキーのダンジョンを改善させるなら外に出るしかない。
情報を握る物は世界を制す。
状況を好転させる答えはダンジョンの中にはないのだから。

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