30 / 32
30.ダメな上司の目
しおりを挟む前世であったのならば、汗を拭わなければならないであろう暑さの中、日本とは植生の違う、奇妙な木が石畳の道の外側に生えている丘を登っていく。
道を外れれば草は茂り、ノームの身体になって縮んだ俺からすれば数倍、普通の人の背丈程もある。
上を見上げれば、時折、鳥が空を飛んでいくのを見かけた。
───よいしょ!よいしょ!
ようやく丘の上につくと、丘の頂上にも石壁があった。
石壁の隙間から中に入ると、石壁はぐるっと丘の頂上を囲むように立てられているようだ。
俺は石壁を見上げる。
「モモ…」
これでは辺りを見渡せないので、スキル精霊の身体を使って、両手を鉤爪状態にし、よいしょよいしょと相棒のホムの声に合わせて石壁を登っていく。
石壁の上に立ち見渡せば、予想通り石壁は丘の上をぐるりと囲むように立てられていた。
俺は石壁の上をのんびり歩き、見下ろしながら、周囲の地形を探る。
丘の下では、照りつける太陽が細く揺れる水面を反射している。
「モモモ(川か)」
───ぜっけい、ぜっけい!
外の世界の景色にホムも喜んでいる。
目を細めて見れば、しっかりと幅のある川が流れている。
ならばと、川の付近に人の生活の跡が見えないかと探すが、人の気配はないようだ。
捨てられた理由は解らないが、相当古い廃墟だな、こりゃ。
そして相当デカイ。
丘の下を見れば谷状になっている方には、民家であったろう石壁がずらりとならんでいる。
近くに人がいなさそうなのは解ったが、出来ればダンジョンの糧になる動物がいるかも見たい。
ハイエナのような動物がダンジョンに入って来たのだから、ハイエナの身体が維持出来る程度の、食物連鎖の下位である草食動物も居るハズだった。
遠くから鳴き声が聞こえるかもしれないと、動物の鳴き声に耳を澄まし、スキル精霊の身体で目を望遠鏡のようにして強化する。
「モモモ…、モ、モモモモ(鳥しかわかんねぇ。でも、居るんだろうな多分)」
───おおきなけはい、かんじない
これだけ暑いと、夜行性、または夕暮れか朝明けに活発的になる種が多いかもしれないな。
しかし暗くなればいざという時、戻れないリスクが高まる。
俺は自分の身体を見た。
アバターとはいえ、価値は高いから破壊されるなと言われているからなぁ。
「モ(少し早いけれど、帰るか)」
ダンジョンのスポットからレーベン川の畔の大樹に戻って来た俺は中層へと向かうべく、ダンジョンコアの置いてある部屋を通る。
やはりこちらの世界の方が涼しく、気温だけでいえば圧倒的に住みやすいだろうなと感じる。
すると、ダンジョンコアの上に鎮座し、遅い朝飯を食べているダンジョンマスターのリッキーと目があった。
今の俺の上司だ。
朝飯は貧相な干し肉1枚だった。
器用に立派なフォークとナイフで食事していやがる。
「大食らい軍曹、来てたんだワン? 丁度いいから土のマナを寄付して欲しいんだワン。土のマナから胡椒をつくるワン。ほんのちょっとで良いワン」
リッキーが話しかけてくるが無視する。
これから行く買い物にMPが必要なためだ。
良いかホム?
うだつの上がらない上司の行き着く先はいつだって孤独だ。
俺たちはああはならない。絶対にのし上がるぞ。
───かなしそうな、めを、してるけど?
「モモモモ、モモ(学生だったから知らんけれど、多分、ダメな上司の目だアレは)」
───ダメなじょうしの、め!
「モモモモ(そうだ、ダメな教授の目もあんな感じだったからな)」
中層へとトコトコと登り、前にモッコを買った子鬼のお婆さんの雑貨屋を通り過ぎる。
俺が買いたいのは、ダンジョンの外の獣達をおびき寄せる物で、前世でも価値ある必需品だった物だ。
それは、陸上生物に必須の栄養素であり、時に労働者の給料として支払われた物だ。
大小の袋の並んでいるリザードマンの店員の店へと入る。
「モモモモ(たのもう)」
───たのもーっ!
成り上がりを賭けたこの買い物、気分は武士である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる