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31.どうしたもんかなぁ…

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「いらっしゃい」

従業員であろうツナギの綺麗めの作業服を着たリザードマンが縦の瞳孔を俺に向ける。
喋り方は低い声で流暢だ。

「精霊…? どこかのお使いで来たのか?」

「モ!」

お使いではないが、どうせ言葉は話せないので、俺は大きく頷いた。

「どの客の使いだろう? 精霊を使う奇特な客といえば、ラサシュ肉店?」

質問されても答えられので俺は黙りながら、麻袋の並んだ店内を見渡す。
麻袋の他には大きな壺もいくつか置いてある。

「喋れないのか? なら普通、言伝を買いた紙でも預かってるもんだが…」

俺の欲しいアレ、量はそんなに多くいらないんだよなぁ。
俺は小さな、といっても俺からすればそこそこ大きな袋を選んで手にとった。

「まぁ、金さえ払うんなら客は誰だって良いんだがね。持ってきた容器は無いんだな? そうか。なら、小さな袋は一つ5ピリウルだ」

袋の価値の高いこの世界では、容器代が高くつく。
そこそこの袋代が増えているんだろうけれど、この値段ならMPで買えるな。
俺は100MP分のウルを玉にして出すと、リザードマンの店員に渡す。
リザードマンは受け取った玉を暫し眺めて価値を確認する。

「…丁度だ。毎度あり」

俺は麻袋を両手で抱えてリザードマンに礼をする。
そこまで重い物ではなく、中はさらさらとした感触だ。
俺がリッキーのダンジョン再建計画のために買った物とは…、そう。塩である。
リザードマンの店は塩を取り扱う店だったのだ。

リッキーのダンジョンに戻り、記録保存と土魔法で作った桶型のオブジェクトが無くなっていないかを確認する。
どうやら桶型のオブジェクトはまだ形をそのまま残している。
俺はその桶型のオブジェクトに買ってきた塩を少量入れた。
塩の入った桶型オブジェクトを見た俺はいったん満足するが、ここで疑問が浮かんできた。
これで草食動物は来てくれるようになるのだろうか?
動物の生存に必要不可欠な栄養素ナトリウム。
自然界では、肉食動物は草食動物の捕食によってナトリウムを補う。
一方で草食動物は、ナトリウムの少ない植物からしか補う事しか出来ない。
特に大型の草食動物となると、食事の他にナトリウムを取るための何らかの手段が必要になってくるのだ。
そして、塩は人にだって必要だ。
給料の語源にもなり、お隣中国が世界の中心だった時代では巨万の富を産み出しつ続けた塩。
だから塩場をダンジョンに作れば良いと思ったが…。

「モモモ…」

でも、塩って匂いがないんだよなぁ。
無いよな?
俺はクンクンと塩の匂いを嗅ぐ。

───しお、においしない

やっぱり匂いは、ない。
しかも、ダンジョンは外気が遮られてるっぽい。
これじゃ塩の存在を嗅ぎつけて動物はダンジョンに来ないだろう。
冒険者だってこんな怪しい粉をペロペロしたりしないだろうし…。
しかも追加したこの塩は、時間経過かスライムの吸収で、恐らく無くなるという悪循環。
いやー、考えてなかったなー。
…どうすんべか。

ダンジョンで牧草でも育てるか?
いや、そんな権限は持っていない。
俺の持つ権限はダンジョンに住むものを変える事ではなく、構造の変化の権限なのだから。
俺は困ったと、頭をガリガリと掻きながらダンジョンの外へと目を向ける。
塩を撒いたら、客って来なくなる気がするんだが…。


      ◆


MPが思ったより残っていた俺は、フォークとナイフを持ちながらちゃぶ台にうつ向くシベリアンハスキーに、土のマナを補給してやった。
残ったMP分のありったけのマナである。
これで、胡椒でも何でもつくればいいワン。

───しっぽが、さゆうにゆれはじめてるよ

チョロいな。
俺は武士の情けでリッキーを見て見ぬふりをしてやる。
午前中でMPがからっけつになった俺は、ダンジョンでやれる事もなし、どうしたもんかなと考えて、フマ達の仕事場に様子を見に行く事にした。

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