転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう

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禁書庫

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「なるほどな、こりゃ見つからない訳だ」

俺は人気のない静かな部屋で独り言ちる。
歴史の裏に消された一族に、こんな理由はあるとは。
時の王家によって、当時何があったかを徹底的に隠されている。
騎士団の権限を使って様々な伝手を探ったが、結局手がかりさえ掴めなかった。
俺でさえこんな所へ来なければ、解らなかったのだから。

「見慣れない人が禁書庫で何かを調べていると思ったら、精霊使いの情報ですか」

城の中でも限られた者しか入れない禁書庫だ。
当然人気もない中で調べ物をしていたのだが、突然背後から声をかけられた。
第一王子のクアルドだ。
夢中になっていたとはいえ、この俺が、まったく気配を感じなかった事に驚く。
王子の身分でありながら、随分武人として成長しているようだ。
グアルドは机に積まれていた本を一つ取って表紙を指でなぞった。
王国がかつて滅ぼした、精霊使いの一族について書かれている書物だ。

「…何の用だ?」

「そんなにバツの悪い顔をしないで下さい、叔父上。最近、第十三騎士団が不思議な物を調べていると影から報告がありましてね。報告していただけると助かるのですが?」

「私的な調べ物だよ。友人に頼まれてな」

「これは、かび臭い歴史の遺物ですよ。こんな物を欲しがるには、友人とやらにも相応の理由があるのではないでしょうか?」

モールド伯爵令嬢とは、精霊使いの事は内密にと約束している。
しらばっくれるしかないが、隠し通せるだろうか。

「禁書庫に入ってまでも手に入れたい情報。叔父上を疑っている訳ではありませんが、友人のお名前を伺っても?」

だが、クアルドは全てお見通しのようだ。
いったいどこから情報が漏れた?
王の影と呼ばれる第十三騎士団の他にも、いくつか王家直属の影は居るのだが、随分と優秀なようだ。
事が表立ってしまっては、第十三騎士団団長として、もう王家に報告しない訳にはいかないだろう。
なにせ今をときめくモールド伯爵家の欲しがる情報だ。
脳裏に能天気そうな令嬢の微笑みがちらついた。
恨まれるだろうな。
俺は両手を挙げて降参のポーズを取った。

「わかった。わかったよ。モールド伯爵令嬢からの依頼だ。モールド伯爵家に随分ご執心のようだな」

俺の言に呆気に取られたのはクアルドの方だった。

「当然でしょう叔父上。王家は今、総出で、かの家の情報を求めているのいうのに。それにしても精霊使いですか。もし、生き残りが居たとしたら、先日の戦のカラクリが一つとけましたね」

「何もない辺境の伯爵家だ。モールド伯爵家の苦境の歴史からすれば、居なくなった精霊使いが今も生き残っているとは思えんがね」

詳しい内容は俺も知らないが、現モールド伯爵家は精霊使いではなく、精霊使いを探す側だ。
もし、精霊使いが生き残っていて、そして、精霊使いの強さが戦争を左右するものであるなら、歴代のモールド伯爵家は魔物に苦労などしなかったろう。
しかし、同時にこうも思う。
恐らく現モールド伯爵家の強さの秘密は、精霊に関係する事なんだろうと。
クアルドの言う事は、遠からず、近からずといった所か。
なにせモールド伯爵家当主の調子を崩している事を、精霊使いが解決出来るハズなのだから。
俺はせめてもの抵抗でクアルドを睨む。
俺の目にクアルドは困ったように微笑んだ。

「単独で魔の森の魔物も撃退出来ないような、何もない辺境の伯爵家。しかし、そんな無力な伯爵家がロムスタ家に勝利し続ける事なんて本来ありえないハズなのですよ。叔父上」

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