霧生さんは話がしたい

雷舞蛇尾

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2 岡峰くんは疑いたい

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 4月6日。
 新しい学期に入り、クラス替えも行われ、俺は新しい教室に向かって廊下を歩いていた。

「えっと、1組はこの教室か……」

 俺の通う中学校は、各学年4クラス制で1クラス30人ほど。
 故に毎年クラス替えが行われており、今年は俺は1組に割り当てられた。
 張り出されたクラス表をざっと見る限り今年も同じクラスの奴は何人か居る。

「よう、和也。今年も同じクラスだな」

「うっす、荒山あらやま。よろしく」

 今、俺に話しかけてきたのは親友の荒山健あらやまけん
 1年の時に席が近く、何かと話していたら仲良くなっていつの間にか親友になっていた。
 俺もそこそこ顔は広いほうだけれど、親友と呼べるこいつが同じクラスなのは正直嬉しい。

「やっぱあいうえお順だから席近いよな」

「な」

 俺は荒山の後ろの席にどかっと腰を掛ける。
 ちなみに俺は前から4番目だ。
 荒山で3番目ということは他に「あ」から始まる名字の人が2人居るのか。

「というか男子で去年とクラスが同じ奴あんまいねーな」

 荒山のその言葉を聞き、俺も周りを見回す。
 が、その言葉の通り、男子で知った顔は他に2、3人といったところだ。

「だなー。女子は何人か知った顔が居るんだけどなー」

 ちらほらと目につく女子は多分去年同じクラスだった子たちだろう。
 全員と話したことは無いから定かではないけれど……、あっ、鈴白すずしろさんも同じクラスか。

「鈴白さん。同じクラスで良かったな」

「なっ!」

 ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながらそういう荒山に、俺は少し動揺してしまった。
 鈴白琴音すずしろことね。物静かでお淑やかな美少女だ。
 俺もイベントごとで何度か話をしたことがあるけれど、決して不愛想という訳ではなく、ちゃんと笑顔を見せたりしてくれる。
 その笑顔に心がときめいた男子は少なくはないだろう。俺も例に漏れない。

「別にそんなんじゃねえって」

「はいはい」

 荒山は尚もニヤニヤした顔をこちらへ向けてくる。
 これはうざいやつ。

 そんなバカなやり取りを荒山としていると、教室に一人の女の子が入ってきた。
 その子はポニーテールを揺らしながらテクテクと俺の方へ歩いてくると、俺の一つ後ろの席へ着席する。
 俺の後ろは女の子か。
 男だったら話しやすくて良かったんだけど、これは仕方がない。
 とりあえず挨拶とかしておいた方がいいのかな?

「ねえ」

「……?」

「君だよ」

「あっ、俺?」

 あまりに急に話しかけられたもんだから、一瞬俺に対してだと思わなかった。
 てっきり仲の良い友達でも見つけたのかと思った。

「岡峰君だよね?」

 何やら彼女は俺のことを知っているらしい。
 どこかで話したことあったっけか? 覚えてねーな。

「えっと……」

 俺は彼女の胸ポケットに付いた名札を見る。
 霧……生? 何て読むんだ?

霧生夏織きりゅうかおり

 すると彼女は俺の考えていることが分かったのか自分の名前を読み上げてくれた。

「霧生……さん?」

「そう、霧生です!」

 彼女は自分の名前を呼ばれたのがよほど嬉しかったのか、満面の笑みを俺に向けてくれる。
 その可愛らしい笑顔に、不覚にも俺は思わずドキリとしてしまった。

「私、ずっと岡峰君と話してみたかったんだよね」

 そしてこの一言。
 いやいや、俺ってば霧生さんみたいな美少女にこんなこと言ってもらえることした記憶がないんですけど?
 新手の詐欺か? 壺とか買わされるのか?

「どうしたの、岡峰君?」

 警戒する俺を不思議に思ったのか、彼女はコテンと首を傾げる。

「い、いや。なんでも……」

 ここにきて女子とのコミュニケーション不足がたたる。
 くそっ、男子だったならまともに話せるのに!
 俺は居てもたってもいられず、壁にかかった時計を見た。
 時刻は8時30分になりかけている。そろそろHRが始まる時間だ。

「そろそろHR始まるから」

 俺はこの苦行から脱するべく、そう切り出した。

「そうだね」

 霧生さんは少し残念そうな表情。
 だがこれでとりあえずこの状況は打破できたはず。

「また、後でお話してもいいかな?」

「っ!」

 再度コテンと首を傾げながら尋ねてくる彼女に、俺は思わず言葉に詰まる。
 なんなんだ? 何が目的なんだ? 彼女は俺をどうしたいんだ?

「じ、時間があれば……」

 いきなりな展開に頭がついていかず、そんな曖昧な言葉を返してしまう。

 俺ってやつはもっと気の利いた言葉があるだろ。
 何だよ時間があればって。そっけなさすぎるだろ。

 しかし言ってしまったものは仕方がない。俺はそれで最後とばかりに今度こそ体を黒板の方へ戻した。
 ヘタレと罵ってくれて構わない。今はそれを甘んじて受け入れよう。

「ふふふ」

 気のせいか後ろから笑い声が聞こえてきた気がする。
 いや、気のせい。絶対気のせい!
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