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1章
0歳 -土の陽月3-
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金さんと浦さんの手によって急ピッチで拠点作りが進む中、私も桃さんと一緒に、早急に作ってしまいたいものがあります。
それは石鹸。
お風呂には入れるようになったので、今までに比べれば清潔だとは思うのですが、元が元だけに石鹸でしっかりと洗いたいのです。特に髪とか服!
なにより浄水や流水の技能を籠めた深棲璃瑠を使う事で、ようやく晩夏の向日葵型シャワーが作れる目処がたちましたしね。水栓をどう作れば良いのかが解らず、水道代が無いのだから出しっぱなしで行くか……と本気で思っていましたし、濁り湯シャワーでも諦めようと思っていたのです、つい先日までは。
でも技能を籠めた深棲璃瑠のおかげで綺麗なお湯を使う時だけ出す、前世のシャワーとほぼ同じものが作れます。他にもわざわざ川に水を汲みにいかなくても厨まで水を引いてくることも可能になりましたし、良い事尽くめです。
そうそう深棲璃瑠とか火緋色金とか一々言うのは面倒なので三太郎さんと私の間だけで通じる「霊石」という単語を作ってしまいました。精霊の石という意味ですね。赤ん坊の私にとってそれらの発音は少々大変だったのでどうにかしたかったのです。できるだけ早く心話から会話に移行していきたいので、発音しやすい単語は大事です。
その技能を籠めた霊石ですが、シャワー一つとっても「浄水」と「流水」の二つが必要になります。シャワーだけでなく拠点のあちこちで様々な事に使う事を考えると、それなりにまとまった数が必要になりそうなのです。なので三太郎さんたちには出来るだけ霊石を集めてほしいとお願いしました。そもそも霊石って精霊力の凝りのようなものらしく、採取・採掘される場所は例外無く精霊力が極めて高い場所なのだそうです。だったら三太郎さんの精霊力を凝縮すれば出来るのでは?と尋ねたら
<またあなたは無茶な事を……>
<おまえ、自分が何言ってるか解ってるか?>
<……これぞ櫻であるな……>
と三太郎さんから呆れた表情と発言を頂きました。
えと、これ何度目だったでしょうかね。最早数える事もできません。
でも土蜘蛛を含めた様々な事で意思の疎通と認識の共有の大事さを知ったので、疑問に思った事は即質問するようにしますよ、えぇ呆れられようともね。
それに霊石の耐久度が解らないので、ある程度ストックも欲しいのです。一番試しやすい「着火」の霊石で試したのですが、一度技能を籠めれば永遠に使えるなんてことはなく、何度も使っているうちに霊石に浮かんでいた模様が徐々に薄れていく事が解りました。少しぐらい薄れても使えるのですが、ほんの一部でも模様が消えてしまうと発動しなくなります。そうなった霊石にもう一度「着火」を籠める事は可能でしたが、別の技能……例えば「発光」を籠める事は出来ませんでした。
また同じ技能ならば籠め直しが可能でしたが、何回も籠められるのかは今のところ不明です。そのうち割れたり壊れたりする可能性もゼロではありません。
そういった耐久力を含めた様々な検証は金さんんがワクワクしながら色々と試してくれているので助かります。今も拠点作りの合間に試してくれているので、新たな発見や使い方が見つかるかもしれません。だからなおの事ストックが欲しいんですけどね。
それで話を戻して石鹸づくりです。
そもそも石鹸というものがこの世界にはないので、三太郎さんたちに説明するのに手こずりましたが、私には強い味方のフレーム映像があります。あれを見せて大まかに理解してもらいました。そのうえでこちらの世界ではあの黒い米からとれる糠を使った糠袋が石鹸に近いモノらしいのですが、あれ匂いがちょっと……。
しかも華族やお金をそこそこ持っている人は、糠に鳥の糞を混ぜた物を使うらしいのです。えぇ、私だって知識としては知ってますよ、日本でも鶯の糞を洗顔に使っていた事は。でも自分が使いたいかと聞かれたら全力でお断りします!
なので目標は私が気持ちよく使える石鹸です。
相変わらずの私が基準です。
そんな訳で小学校の時の記憶を思い返します。小学校の頃は里山学習の時間に作った石鹸をバザーで販売していたんですよね。なので最低でも6回は見ているはず。それでも思い出せなかった所はフレーム映像で確認したりして必要な物を確認していきます。
まずは灰汁。小学校の時は夏休みの登校日に校庭で宿泊学習という名のキャンプがありました。その際に使用したキャンプファイヤーや炊飯時の燃えた薪から出る灰を保管したのを使っていました。それに水を混ぜで出来た灰汁の上澄み使っていたと思います。
次は貝灰。夏休みに児童の各家庭に貝がら回収の要請が出るのですが、おかげで夏休みのお味噌汁はアサリ率が異常に上がりました。この貝殻は秋のバザー用の竹炭を焼くときに一緒に焼いていたように思います。私は竹炭班じゃなかったのでちょっと記憶が曖昧ですが、たぶんかなりの高温で焼く必要があったはず。そうして真っ白に焼けた貝殻を粉になるように潰して、水に混ぜて使います。ここ危ないので私たちは少し離れての見学でした。この貝灰に水を入れると高温になるんですよね。その水と先程の灰汁を合わせると凄い危険な液体が出来て、目に入れば失明するから絶対に近寄るなと言われた覚えがあります。
最後は油。基本的には低学年が花壇……というよりアレは畑と呼びたくなるような面積に植えた向日葵の種から絞っていました。田舎の学校は本当に面積だけは贅沢に使えます。後は学校や公民館、神社にあった椿の種を前もって貰ったりもしていました。他にも村の人が持ち込む変わった材料もあったりしました。どうしても油が足りなかった時は仕方なく買う事もあったようにおもいます。
さて、この3つの中で現状すぐに用意できそうなのは灰汁だけです。他は貝殻だったり油を抽出できる何かを探してこなくてはいけません。一応、油に関しては桃さんと夜にあちこち徘徊している時に気になった種やら実を集めましたが、どれぐらい油が搾れるかはまだ解りません。だからといって母上たちが毎日大事に使っている油をこっそり盗むなんてできませんしね。
あと貝殻に関しては前もって浦さんに情報を貰う事ができました。初めて拠点に来た際に見つけた湖。あそこには食べる事ができる貝が生息しているのだそうです。浦さん自身は食べた事がないので味は不明との事でしたが、とりあえず食べられるって事は大事!
<桃さん、今日はあの湖に行きたい!>
<あそこかぁ……。水辺はあまり好きじゃないんだが……>
と少し嫌そうな顔をする桃さん。
<温泉には入るくせに……>
と突っ込むとグッと言葉に詰まるのですが、アレは火の精霊力がそれなりにあるから良いのだそうです。でも貝殻が欲しいですし、食べられる貝の確認もしたいので譲歩する気は欠片もありません。
<美味しい貝の料理が出来るかもしれないよ?>
そういうと桃さんの視線が彷徨いだします。
<あー、仕方ねぇ。おまえに協力するって約束だしな>
決して食欲に負けた訳じゃないと言いたげな桃さん。まぁ実際に彼らはお腹が空くという訳ではないので、食欲に負けたというよりは未知の味を「味わう」という好奇心に負けたという感じかもしれません。
夜の闇の中を桃さんが私を抱っこして湖まで連れてきてくれました。途中で拠点予定地にも寄ったのですが、金さんも浦さんも作業が忙しいらしく、結局桃さんと二人きりです。前もって湖に危険があるかどうか、浦さんが確認してくれているからこそだろうけど。
最近では誰かと手を繋いでなら歩けるようにはなりました。ハイハイならお手の物ですが、外でハイハイはしたくありません。桃さんと手を繋いで月夜の水辺を散歩という場景だけを思い浮かべたら(私が大人なら)ロマンティックなんですが、私達の目には食欲とガッツリ書かれていて、甘い雰囲気なんてものは欠片もありません。だって明かりがあるとはいえ、夜の闇の中を貝殻を探すのは大変なんです。
……大変だと思ったんです。
いえ、別の意味で大変でした。
<私、一度この世界を作ったという三神に苦情を言いたい気分……>
<なんでだよ?>
<だって、これ!!!>
私が指さした先にドドーーン!と鎮座している巨大な貝殻。あまりにも大きすぎて遠近感が狂いそうなレベルです。有名な絵画のビーナス誕生の足元にあるあの貝殻よりも一回り以上は大きいように思います。まぁあちらはホタテ貝で、目の前にあるのは貝殻の厚みや丸みからハマグリに近い形で、その二枚貝の片方のみですが。
<これがあれば、火の極日の間もお風呂に入れたんじゃ……>
余裕でベビーバスにできそうなサイズに、お湯だけ運んでもらえれば……とか考えてしまいますが、既に終わった事。今更どうこう言っても仕方がありません。
<なんでこの世界のモノって何でもかんでも大きいのっっ!>
蜘蛛といい……(思い返したくない)
林檎と良い……(美味しかったのでアレはあり)
他に雁もどきも柚子もどきも何もかもが私の知っているものよりも大きいのです。
そして当然のように人間も。
叔父上なんて身長が2m超えですよ。確か設定集では203cmだったはずです。基本的にヤマト国、或はその流れをくむ人はとても体格に恵まれていて、男性なら2mぐらいが平均身長、女性でも190cmぐらいはあったはずです。前世で高身長の国というと北欧とかオランダ辺りの人を思い出しますが、あそこよりも更に高い。
逆に一番体格に恵まれていないのはミズホ国。でもそんなミズホ国ですら先程出たオランダの平均身長を少し下回るぐらいなので、前世の感覚が抜けきらない私からすればこの世界の人たちはみんな巨人です。
碧宮家の皆は代々いろんな国の血が混じっているので、叔父上なんかはヤマト国の平均身長とほぼ同じ身長ですが、母上はミズホ国の女性の平均身長より少し高いぐらいです。
そんな体格に恵まれているこの世界の人たちは、とにかくよく食べるんですよ。なので保存食も大量に必要で……。湖で採れる貝が食べられるかどうかがとても大事なポイントだというのは、彼らの食事量が原因の一つでもあります。
<コレが特別大きいとは思わねぇが、大きいのは良い事だろ?
とりあえずはコレ一つ持って帰れば事足りそうだな>
そう言いながら桃さんは貝殻の中に私を入れて、その貝殻をよいしょと持ち上げました。
<待って待って!
貝殻も欲しいけど、調理法とか保存法の検証もしたいから中身入りが欲しい!>
<あぁ、そうかぁ……。
うがぁ……やりたくねぇなぁ………>
すっごく嫌そうだけど一応は納得してくれたみたいで、私を入れた貝殻を下におろすと、桃さんは一つとっても大きなため息をついてから湖を睥睨します。
何が見えているのかは私からは解りませんが、何度か見渡しているうちに何かを見つけたらしく、そこに向かってざぶざぶと入っていきました。と、ザブッと頭まで潜って水面から姿が消え……少ししてからザバッと大きな水しぶきを飛ばして浮かんできました。
<あーーーっ、二度とやんねぇぇ!!
次に水の中の奴を取る時は浦に頼め!!>
ドンッ!!と超重量級な音を響かせて巨大な貝を横に置いた桃さんは、ブルブルと身体に着いた水をふるい落としながら愚痴ります。
<本当にごめん。うん、次からは浦さんに頼む>
火の精霊である桃さんに水に潜ってもらうのは流石にダメでしたね、反省です。
一度私の中に戻ってから再び実体化した事で、服が完全に乾いた桃さん。相変わらずどういう仕組みなのか解りませんが、三太郎さんは一度私の中に戻る事で衣類なんかは初期化されるようで……。今も桃さんはすっかり乾いた服に。
それから、そこらへんに落ちている折れて枯れた枝や柴に火をつけて、そこそこ大き目の焚火を作ったら桃さんの気持ちも少し落ち着いたようで……。
<じゃぁ、殻をぱっかーんとやっちゃってください。
食べられるって話だったけど……>
そう桃さんにお願いすると、桃さんは腰に差していた短刀を貝殻の隙間に差し込んで、グリグリゴリゴリとちょっと苦労しつつも貝を開いてくれました。
どれどれ……と中をのぞいた私の目に入ったのは
「ぎゃぁああああああああああああああ」
慌てて逃げようとしたけど腰が抜けて膝にも力が入らず、後ろにひっくり返って後頭部を最初に見つけた貝殻にぶつけて悶絶。まるでピタ〇ラ装置のように流れ作業で後頭部強打です。こんな痛いピタゴ〇スイッチは嫌です。
桃さんはといえば私が後頭部をぶつけた事に慌ててたけど、私の絶叫を含めた態度には不思議そうに首を傾げています。
でも私の気持ち、前世の人なら理解してくれると思う……。
貝の見た目は超巨大だけど貝殻の厚みや形はハマグリっぽい。これはOK
中はビックリ、帆立のような貝柱が巨大なタイプの貝だった。これもOK
だけどヒモも大きくてどちらかといえば帆立より平貝っぽい。これもOK
問題は
問題は
そのヒモ部分にビッッッッッシリと無数の目があって、
それがギョロリとこちらを睨んできた事。
<な、な、なんで、何で目玉がこんなにあるのよっっっっ!
もうやだぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!>
そう夜の静寂に私の悲鳴と心話が響き渡ったのでした。
それは石鹸。
お風呂には入れるようになったので、今までに比べれば清潔だとは思うのですが、元が元だけに石鹸でしっかりと洗いたいのです。特に髪とか服!
なにより浄水や流水の技能を籠めた深棲璃瑠を使う事で、ようやく晩夏の向日葵型シャワーが作れる目処がたちましたしね。水栓をどう作れば良いのかが解らず、水道代が無いのだから出しっぱなしで行くか……と本気で思っていましたし、濁り湯シャワーでも諦めようと思っていたのです、つい先日までは。
でも技能を籠めた深棲璃瑠のおかげで綺麗なお湯を使う時だけ出す、前世のシャワーとほぼ同じものが作れます。他にもわざわざ川に水を汲みにいかなくても厨まで水を引いてくることも可能になりましたし、良い事尽くめです。
そうそう深棲璃瑠とか火緋色金とか一々言うのは面倒なので三太郎さんと私の間だけで通じる「霊石」という単語を作ってしまいました。精霊の石という意味ですね。赤ん坊の私にとってそれらの発音は少々大変だったのでどうにかしたかったのです。できるだけ早く心話から会話に移行していきたいので、発音しやすい単語は大事です。
その技能を籠めた霊石ですが、シャワー一つとっても「浄水」と「流水」の二つが必要になります。シャワーだけでなく拠点のあちこちで様々な事に使う事を考えると、それなりにまとまった数が必要になりそうなのです。なので三太郎さんたちには出来るだけ霊石を集めてほしいとお願いしました。そもそも霊石って精霊力の凝りのようなものらしく、採取・採掘される場所は例外無く精霊力が極めて高い場所なのだそうです。だったら三太郎さんの精霊力を凝縮すれば出来るのでは?と尋ねたら
<またあなたは無茶な事を……>
<おまえ、自分が何言ってるか解ってるか?>
<……これぞ櫻であるな……>
と三太郎さんから呆れた表情と発言を頂きました。
えと、これ何度目だったでしょうかね。最早数える事もできません。
でも土蜘蛛を含めた様々な事で意思の疎通と認識の共有の大事さを知ったので、疑問に思った事は即質問するようにしますよ、えぇ呆れられようともね。
それに霊石の耐久度が解らないので、ある程度ストックも欲しいのです。一番試しやすい「着火」の霊石で試したのですが、一度技能を籠めれば永遠に使えるなんてことはなく、何度も使っているうちに霊石に浮かんでいた模様が徐々に薄れていく事が解りました。少しぐらい薄れても使えるのですが、ほんの一部でも模様が消えてしまうと発動しなくなります。そうなった霊石にもう一度「着火」を籠める事は可能でしたが、別の技能……例えば「発光」を籠める事は出来ませんでした。
また同じ技能ならば籠め直しが可能でしたが、何回も籠められるのかは今のところ不明です。そのうち割れたり壊れたりする可能性もゼロではありません。
そういった耐久力を含めた様々な検証は金さんんがワクワクしながら色々と試してくれているので助かります。今も拠点作りの合間に試してくれているので、新たな発見や使い方が見つかるかもしれません。だからなおの事ストックが欲しいんですけどね。
それで話を戻して石鹸づくりです。
そもそも石鹸というものがこの世界にはないので、三太郎さんたちに説明するのに手こずりましたが、私には強い味方のフレーム映像があります。あれを見せて大まかに理解してもらいました。そのうえでこちらの世界ではあの黒い米からとれる糠を使った糠袋が石鹸に近いモノらしいのですが、あれ匂いがちょっと……。
しかも華族やお金をそこそこ持っている人は、糠に鳥の糞を混ぜた物を使うらしいのです。えぇ、私だって知識としては知ってますよ、日本でも鶯の糞を洗顔に使っていた事は。でも自分が使いたいかと聞かれたら全力でお断りします!
なので目標は私が気持ちよく使える石鹸です。
相変わらずの私が基準です。
そんな訳で小学校の時の記憶を思い返します。小学校の頃は里山学習の時間に作った石鹸をバザーで販売していたんですよね。なので最低でも6回は見ているはず。それでも思い出せなかった所はフレーム映像で確認したりして必要な物を確認していきます。
まずは灰汁。小学校の時は夏休みの登校日に校庭で宿泊学習という名のキャンプがありました。その際に使用したキャンプファイヤーや炊飯時の燃えた薪から出る灰を保管したのを使っていました。それに水を混ぜで出来た灰汁の上澄み使っていたと思います。
次は貝灰。夏休みに児童の各家庭に貝がら回収の要請が出るのですが、おかげで夏休みのお味噌汁はアサリ率が異常に上がりました。この貝殻は秋のバザー用の竹炭を焼くときに一緒に焼いていたように思います。私は竹炭班じゃなかったのでちょっと記憶が曖昧ですが、たぶんかなりの高温で焼く必要があったはず。そうして真っ白に焼けた貝殻を粉になるように潰して、水に混ぜて使います。ここ危ないので私たちは少し離れての見学でした。この貝灰に水を入れると高温になるんですよね。その水と先程の灰汁を合わせると凄い危険な液体が出来て、目に入れば失明するから絶対に近寄るなと言われた覚えがあります。
最後は油。基本的には低学年が花壇……というよりアレは畑と呼びたくなるような面積に植えた向日葵の種から絞っていました。田舎の学校は本当に面積だけは贅沢に使えます。後は学校や公民館、神社にあった椿の種を前もって貰ったりもしていました。他にも村の人が持ち込む変わった材料もあったりしました。どうしても油が足りなかった時は仕方なく買う事もあったようにおもいます。
さて、この3つの中で現状すぐに用意できそうなのは灰汁だけです。他は貝殻だったり油を抽出できる何かを探してこなくてはいけません。一応、油に関しては桃さんと夜にあちこち徘徊している時に気になった種やら実を集めましたが、どれぐらい油が搾れるかはまだ解りません。だからといって母上たちが毎日大事に使っている油をこっそり盗むなんてできませんしね。
あと貝殻に関しては前もって浦さんに情報を貰う事ができました。初めて拠点に来た際に見つけた湖。あそこには食べる事ができる貝が生息しているのだそうです。浦さん自身は食べた事がないので味は不明との事でしたが、とりあえず食べられるって事は大事!
<桃さん、今日はあの湖に行きたい!>
<あそこかぁ……。水辺はあまり好きじゃないんだが……>
と少し嫌そうな顔をする桃さん。
<温泉には入るくせに……>
と突っ込むとグッと言葉に詰まるのですが、アレは火の精霊力がそれなりにあるから良いのだそうです。でも貝殻が欲しいですし、食べられる貝の確認もしたいので譲歩する気は欠片もありません。
<美味しい貝の料理が出来るかもしれないよ?>
そういうと桃さんの視線が彷徨いだします。
<あー、仕方ねぇ。おまえに協力するって約束だしな>
決して食欲に負けた訳じゃないと言いたげな桃さん。まぁ実際に彼らはお腹が空くという訳ではないので、食欲に負けたというよりは未知の味を「味わう」という好奇心に負けたという感じかもしれません。
夜の闇の中を桃さんが私を抱っこして湖まで連れてきてくれました。途中で拠点予定地にも寄ったのですが、金さんも浦さんも作業が忙しいらしく、結局桃さんと二人きりです。前もって湖に危険があるかどうか、浦さんが確認してくれているからこそだろうけど。
最近では誰かと手を繋いでなら歩けるようにはなりました。ハイハイならお手の物ですが、外でハイハイはしたくありません。桃さんと手を繋いで月夜の水辺を散歩という場景だけを思い浮かべたら(私が大人なら)ロマンティックなんですが、私達の目には食欲とガッツリ書かれていて、甘い雰囲気なんてものは欠片もありません。だって明かりがあるとはいえ、夜の闇の中を貝殻を探すのは大変なんです。
……大変だと思ったんです。
いえ、別の意味で大変でした。
<私、一度この世界を作ったという三神に苦情を言いたい気分……>
<なんでだよ?>
<だって、これ!!!>
私が指さした先にドドーーン!と鎮座している巨大な貝殻。あまりにも大きすぎて遠近感が狂いそうなレベルです。有名な絵画のビーナス誕生の足元にあるあの貝殻よりも一回り以上は大きいように思います。まぁあちらはホタテ貝で、目の前にあるのは貝殻の厚みや丸みからハマグリに近い形で、その二枚貝の片方のみですが。
<これがあれば、火の極日の間もお風呂に入れたんじゃ……>
余裕でベビーバスにできそうなサイズに、お湯だけ運んでもらえれば……とか考えてしまいますが、既に終わった事。今更どうこう言っても仕方がありません。
<なんでこの世界のモノって何でもかんでも大きいのっっ!>
蜘蛛といい……(思い返したくない)
林檎と良い……(美味しかったのでアレはあり)
他に雁もどきも柚子もどきも何もかもが私の知っているものよりも大きいのです。
そして当然のように人間も。
叔父上なんて身長が2m超えですよ。確か設定集では203cmだったはずです。基本的にヤマト国、或はその流れをくむ人はとても体格に恵まれていて、男性なら2mぐらいが平均身長、女性でも190cmぐらいはあったはずです。前世で高身長の国というと北欧とかオランダ辺りの人を思い出しますが、あそこよりも更に高い。
逆に一番体格に恵まれていないのはミズホ国。でもそんなミズホ国ですら先程出たオランダの平均身長を少し下回るぐらいなので、前世の感覚が抜けきらない私からすればこの世界の人たちはみんな巨人です。
碧宮家の皆は代々いろんな国の血が混じっているので、叔父上なんかはヤマト国の平均身長とほぼ同じ身長ですが、母上はミズホ国の女性の平均身長より少し高いぐらいです。
そんな体格に恵まれているこの世界の人たちは、とにかくよく食べるんですよ。なので保存食も大量に必要で……。湖で採れる貝が食べられるかどうかがとても大事なポイントだというのは、彼らの食事量が原因の一つでもあります。
<コレが特別大きいとは思わねぇが、大きいのは良い事だろ?
とりあえずはコレ一つ持って帰れば事足りそうだな>
そう言いながら桃さんは貝殻の中に私を入れて、その貝殻をよいしょと持ち上げました。
<待って待って!
貝殻も欲しいけど、調理法とか保存法の検証もしたいから中身入りが欲しい!>
<あぁ、そうかぁ……。
うがぁ……やりたくねぇなぁ………>
すっごく嫌そうだけど一応は納得してくれたみたいで、私を入れた貝殻を下におろすと、桃さんは一つとっても大きなため息をついてから湖を睥睨します。
何が見えているのかは私からは解りませんが、何度か見渡しているうちに何かを見つけたらしく、そこに向かってざぶざぶと入っていきました。と、ザブッと頭まで潜って水面から姿が消え……少ししてからザバッと大きな水しぶきを飛ばして浮かんできました。
<あーーーっ、二度とやんねぇぇ!!
次に水の中の奴を取る時は浦に頼め!!>
ドンッ!!と超重量級な音を響かせて巨大な貝を横に置いた桃さんは、ブルブルと身体に着いた水をふるい落としながら愚痴ります。
<本当にごめん。うん、次からは浦さんに頼む>
火の精霊である桃さんに水に潜ってもらうのは流石にダメでしたね、反省です。
一度私の中に戻ってから再び実体化した事で、服が完全に乾いた桃さん。相変わらずどういう仕組みなのか解りませんが、三太郎さんは一度私の中に戻る事で衣類なんかは初期化されるようで……。今も桃さんはすっかり乾いた服に。
それから、そこらへんに落ちている折れて枯れた枝や柴に火をつけて、そこそこ大き目の焚火を作ったら桃さんの気持ちも少し落ち着いたようで……。
<じゃぁ、殻をぱっかーんとやっちゃってください。
食べられるって話だったけど……>
そう桃さんにお願いすると、桃さんは腰に差していた短刀を貝殻の隙間に差し込んで、グリグリゴリゴリとちょっと苦労しつつも貝を開いてくれました。
どれどれ……と中をのぞいた私の目に入ったのは
「ぎゃぁああああああああああああああ」
慌てて逃げようとしたけど腰が抜けて膝にも力が入らず、後ろにひっくり返って後頭部を最初に見つけた貝殻にぶつけて悶絶。まるでピタ〇ラ装置のように流れ作業で後頭部強打です。こんな痛いピタゴ〇スイッチは嫌です。
桃さんはといえば私が後頭部をぶつけた事に慌ててたけど、私の絶叫を含めた態度には不思議そうに首を傾げています。
でも私の気持ち、前世の人なら理解してくれると思う……。
貝の見た目は超巨大だけど貝殻の厚みや形はハマグリっぽい。これはOK
中はビックリ、帆立のような貝柱が巨大なタイプの貝だった。これもOK
だけどヒモも大きくてどちらかといえば帆立より平貝っぽい。これもOK
問題は
問題は
そのヒモ部分にビッッッッッシリと無数の目があって、
それがギョロリとこちらを睨んできた事。
<な、な、なんで、何で目玉がこんなにあるのよっっっっ!
もうやだぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!>
そう夜の静寂に私の悲鳴と心話が響き渡ったのでした。
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