未来樹 -Mirage-

詠月初香

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1章

0歳 -土の極日1-

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「あの娘の扱いが心配だと仰るのなら
 毎年、施薬院に一定額の寄付を申し出ても構いません。
 それならば向うも粗雑に扱う事はないでしょう」

などなど、他にも色々言って山吹は母上を説得しようと試み続けました。ギュッと胸が痛くなった私は、思わず耳を塞いで目を閉じてしまいました。おかげで山吹の言葉は聞こえなくなりましたが、不安はどんどん膨らんでいきます。その耳を塞いでいた腕を引っ張られ、

「おら、寝ちまえ。お前には俺様たちがいるだろうが」

と心話ではなく耳元で小さく囁くような声に吃驚して顔を上げると、桃さんが実体化していて私をぎゅっと胸に閉じ込めるようにして抱きしめてきました。

「お前は一人じゃねぇよ。俺様もあいつらもいる。
 それに恐らく、お前の母親のあの女もお前を手放さねぇ……そんな気がする。
 だから安心して今日はもう寝ちまえ」

こうやって抱きしめられると不思議と落ち着きます。浦さんとは反対に体温が少し高めの桃さんに抱きしめられると、それだけで心までポカポカと温かい気持ちになります。

<うん、大丈夫。桃さんも浦さんも金さんも居るしね。
 じゃぁ今日はもう寝ることにする。だから桃さんも早く中に戻って。
 桃さんの気配に母上たちが気付いてしまう前に>

<解っちゃぁいるが……、本当に大丈夫か?
 お前が目や耳を塞いじまってると、俺様にも外の事は解らねぇ。
 あくまでもお前が見聞きしたものを中で感じてるだけなんだからな?>

<うん、でも流石にいきなり危害を加えられるなんて事はないでしょ。
 だから大丈夫だよ>

そう言って桃さんには再び私の中へと戻ってもらいました。そうしてから再び耳を塞いで目をギュッと瞑って兄上にくっつくように横になりました。

大丈夫、この程度の事はなんてことない……。
前世でお祖父ちゃんやお祖母ちゃんが居てくれたように、今世では三太郎さんたちが一緒にいてくれる。

何度も何度もそう自分に言い聞かせながら眠りについたのでした。




そして朝。私が目覚めた時には既に叔父上や山吹は旅支度を終えて、馬と一緒に岩屋の外に立っていました。

「姫様、どうか……。どうか今一度よくお考え下さい。
 私達全員にとって何が最善なのかを。
 水の月に私が戻り次第、そのお答えをお聞かせ願います」

そう言うと山吹は馬にまたがって旅立っていきました。寒々とした曇り空の下、川の水はとても冷たそうで……。その冷たい水が流れる川の中をチャプチャプと歩いていかなくてはならない馬が少し可哀想になります。

「では姉上。私も行って参ります。
 ……私は姉上のお気持ちのままに……としか申せません。
 私が持ち込んだ騒動ではありますが、
 それにより姉上に笑顔が増えた事を嬉しく思っておりますから」

叔父上はそう言うと山吹と同じように馬に乗って行ってしまいました。

山吹も叔父上も、とても言葉を選んでいた事が解ります。おそらく私や兄上が側にいたからでしょうね。そういう意味では山吹も私の事を気遣ってはくれているのでしょう。

ただ、それ以上に碧宮家が大事なだけで。




ともかく、無の月を母上たちと此処で過ごせる事が確定しました。

決まったのなら早々に行動開始しないと色々と間に合わなくなってしまいます。本日中にやらなくてはならない事と、雪が積もる前にやらなくてはいけない事が山積みですからね。

前もって叔父上たちが出立する日を「決行日」と決めていて、その時に母上たちをどうやって拠点へ案内するかは話し合って決めていました。

拠点を作り始めた頃は、拠点に繋がる道を整備して母上たちには歩いて移動してもらう予定だったのですが、どう考えても時間が足りず。というか、そもそも解りやすい道を作ったら駄目だという事を思い出して没案になりました。道に関しては馬で物資を運び込める程度のモノはどうしても必要になるので作る事自体は確定なのですが、現状では良い案が浮かばず。仕方ないので叔父上たちが戻ってくるまでにどうにかするという事で後回しにして、拠点に全力を注いだんですよね。

なので母上たちの移動手段は、三太郎さんたちに実体化してもらって私のように抱きかかえてもらって運ぶという事になりました。

……なったはずでした。後になって想定外な事が起こったのです。三太郎さんが温泉を気にいってしまい毎日入浴するようになった結果、「やっぱり嫌だ」と言われてしまったのです。

この頃の三太郎さんたちは、以前は気にならなかった汚れや臭いが気になるようになってしまっていたそうで、岩屋の中で実体化する事を極端に嫌がるようになっていました。

<私、そこで寝泊まりして食事もしてるんだけど?>

と言ったら三人揃って視線を逸らしてくれた事を今でも覚えています。まぁお蔭で私の気持ちを心の底から理解してもらえて、私がお願いしなくても積極的に無人の隙を狙って岩屋の中の竹炭の取り換えてくれたので助かりはしましたが。

でも抱っこが嫌だとなると「じゃぁ、どうしよう?」となる訳で。
あーでもない、こーでもないと色々と議論した結果、直接触らないようにすれば我慢できるという事になり、あの巨大なハマグリモドキの貝殻の中というか上?に座ってもらって、三太郎さんたちはその貝殻を運ぶようにすればいけそうだという事になりました。




「はーうえ、はーうえ」

叔父上たちが居ない、何時もより少し静かな朝食を4人で食べ終えた私は、今日の採集やその他の予定を橡と話し合っている母上に呼びかけます。私としては早く拠点に移って朝ご飯はそっちで食べたかったのだけど、三太郎さんから待ったがかかりました。拠点……というより家に入る前に綺麗になってほしいと言われたのです。つまり先に温泉で綺麗に綺麗に全身を洗ってから部屋に入ってほしいのだそうです。

まぁ……うん、その気持ちはわからなくもない。

なので岩屋で朝食をとってから移動することになりました。

ただこの時になって気づいたのですが、移動手段の事は散々話し合ったのに、三太郎さんの存在をどうやって母上たちに紹介するのかとか、拠点の存在をどう切り出すのかといった問題が頭から完全に抜け落ちていました。いきなり部屋の中に三太郎さんが現れたら母上たちが吃驚し過ぎちゃうよねぇ。先日指摘されたばかりの視野狭窄がこんな所にも出ていたんですね、反省です。

そんな私の現在の正直な気持ちを言えば、 逃 げ だ し た い!

これに尽きます。でも、そんな訳にいかない事は百も承知なので、覚悟を決めて深呼吸をしてから行動開始です。

はーうえははうえあのえあのねえーれーせいれいしゃんが……」

まて、私。英霊ってなんなのよっ!
全く別モノになってしまった発音に、もうちょっと発音が上手にできるようにと唇をグニグニと揉んだり摘まんだりしてみます。思い通りに動いてくれない唇と舌が憎い……。

「どうしたの櫻?  えーれーしゃん??」

母上がおしゃべりを始めた私を見て、微笑ましそうに笑顔を浮かべて私を抱き上げてくれました。

「うん、えー、いがうちがう! しぇーれーしゃん。いえたっ!
 しぇーれーしゃんがね、はーうえたちと いっしょ いこって」

伝われー、伝われーーーと念じながら必死に話しかけます。難しい言葉はまだ覚えきれていません。なので現時点で覚えている簡単な単語だけで話そうとすると、言葉がどうにも足らない感じになってしまいます。

「いっしょにいく?」

母上が不思議そうに首を傾げてしまいます。

「うん、しぇーれーしゃん つくった おうち いこっ!」

人間相手でも心話が使えればこんな苦労はしなくてすむのに……と思いながらも、何とか言葉を重ねて説明するのですがどうにも上手く伝わりません。母上も困ってしまったように首を傾げてしまっています。

<出来る事なら驚かす事なく……と思っていたのですが仕方がありません。
 時間が勿体ないですし、私が出ましょう>

そう浦さんの声が聞こえてきたと思ったとたんに、部屋の中にいきなり浦さんが現れました。愕いたのは母上と橡です。

「何者!!」

橡が何処から取り出したのか謎の刃物を逆手に構えて母上を庇うように前に出ました。その母上も私を抱き上げたまま兄上を背後に庇うようにして後退りします。
対し刃を向けられた浦さんは何も言わず、ただ静かに穏やかに微笑み続けていました。緊迫した空気に母上たちに事情を説明せねばと話しかけようとした時、

「橡、控えなさい」

そう静かに母上は言うと私を抱えたまま跪き、頭を下げました。

「精霊様、御無礼をお許しください」

そういえば、母上は霊格が天女だから浦さんが精霊である事に気付けるんでした。橡もその言葉に吃驚したように浦さんを見詰め、そして一気に青ざめてしまいました。

「も、申し訳ございません。精霊様に刃を向けるなど」

と、これぞ平伏といった感じで慌てて跪き頭を下げます。

「構いません。むしろ子らを守る素早い反応に感心しました。
 私が守護を与えた幼子を、これからも守るよう頼みますよ」

「と、申しますと……。
 貴方様は櫻の守護精霊様であらせられる……と?」

母上が平伏したままなので、抱きかかえられている私はちょっと苦しいです。助けてと視線だけ浦さんに向けると、浦さんが「面を上げて、楽になさい」と顔を上げるように促してくれました。

「うらしゃんっ!」

圧迫感が無くなったので、そう言いながら浦さんに手を伸ばします。ここで話すよりも拠点に行って母上たちに見てもらうのが一番早いと思うのです。百聞は一見に如かずと言いますしね。細かい話しは後で、全身綺麗になって、暖かく明るい部屋で、林檎ジュースでも飲みながらやりたいのです。そんな気持ちを察してくれた浦さんが私の手を取って抱き上げると

「えぇ、この幼子……櫻は私の守護下にあります。
 そして櫻のたっての願いで貴方たちを精霊の守りのある地へと
 迎え入れる事となりました」

「水の精霊の守りのある地……ですか?」

天女の母上には浦さんが水の精霊だって直ぐに分かるんだね。

「いや、水だけでなく我の守りもある地だ。
 櫻には我の守護も与えておるゆえな」

と浦さんよりグッと低い声が部屋に響き、母上たちが顔をバッとそちらに向けました。えぇ、そこに居たのは金さんです。浦さんと違って表情に柔和さが欠け、体格が大きい事もあって威圧感たっぷりの金さんがそこに立っていました。

「土の精霊様まで……。
 娘は……櫻は、天女なのですね」

信じられない……といった風情で呟く母上に、呆然と言葉すら出ない橡。ここに桃さんまで出ちゃうと更に説明が大変になるので、桃さんには絶対に出ないでっと心話を飛ばします。

<わーってるよ。出てみてぇって気持ちもあるにはあるが、
 年嵩の女の方が既にいっぱいいっぱいみたいだしな>

と悪戯心をどうにか抑えてくれた桃さん。あまりの事態に理解が追いつかない橡に対し、母上は橡に比べれば落ち着いて三太郎さんたちと話す事ができるようです。そして漸く母上たちに金さんたちが作った拠点に向かう話しができました。ここまで長かったぁ……。


二つの大きな貝殻に母上と兄上、橡と私というペアに別れて金さんと浦さんに運んでもらう事になりました。岩屋の横を流れる川沿いをぐんぐんと駆けのぼり、滝のある崖を飛び越えて……という何時もと同じルートなのに、三太郎さんに抱きかかえられて移動する何時もと違って、貝殻に座っての移動は恐怖を感じるレベルでした。橡が私が落ちないようにと抱き寄せてくれるのですが、その橡ごと身体が浮くこともあり、

<お願いだからもう少し揺れないようにというか、穏やかに!
 怖くないように運んでくださいっ!!>

と心話を飛ばしてしまうのでした。




山頂を越えた先、テーブルマウンテンのような広大な平地に輝く湖、川沿いを中心に幾つも並ぶ建物。その建物の中の一つである温泉の近くまで浦さんたちが連れてきてくれました。

「…………」

母上も橡もその規模に言葉が出ないようで、ポカーンとした表情で目の前の建物を見上げています。逆に兄上は母上の服を掴んだまま辺りをキョロキョロと見回していて、少し不安そうです。そして私も正直なところ辺りを見回したい気分です。何せ昼の明るい時間に拠点に来るのは初めてなので。

母上たちにとっては馴染みのない見た目の建物なので、兄上と同様に少々不安に思うかもしれません。ですがその分、ずっと住み心地は良い物になっています。

が、家の中を案内する前にまずやらなくてはならない事があります。

「はーうえ、こっちっ!」

母上の手を引っ張って温泉の方へと促します。火の月の頃には露天だった温泉も雨や雪の日でも気持ちよく入れるように、一部には屋根を付けたり、脱衣場を作ったりしました。

「まずは此方で禊を……。
 櫻が手順を覚えておりますから、櫻の真似をして入ってください」

そう母上たちを脱衣場へと案内した浦さんが問答無用とばかりに入浴を勧めます。精霊から禊をしろと言われたら、母上たちにNOが言える訳がありません。

「はーうえ、らいじょーぶ。 みずの あやーし、こないよ」

「あぁ、その説明もしておきましょうか。
 この温泉は私と先程の土の精霊が守りの力を働かせていますから
 水の妖が来ることはありません。ですからしっかりと清めてください」

「解りました」

母上が小さく頷いた事に満足したのか浦さんは背を向けてから消えました。私の中に戻ったようです。いきなり消えた浦さんに母上たちは驚いたようですが、

「じゃぁ、精霊様のお言葉通りにしましょうか」

と、脱衣場へと入ろうとした母上を私が引き留めます。

「はーうえ、まって。さきにこっち!」

母上の手を少々強引に引っ張って連れてきたのは、温泉より少し下流にあるトイレです。この拠点には何カ所かトイレがあるのですが、これは温泉に一番近いトイレになります。その……なんと言いましょうか、催してから説明していたら間に合わない事が確実なので、前もって説明しておきたかったのです。

今まで排泄をする場所、つまりトイレを作るという風習が無い世界だったので、母上たちへの説明は大変ですが、見た目が男性の三太郎さんたちに説明してもらうのは、母上たちも嫌かなぁと思って頑張って説明します。


私が三太郎さんたちと作り上げたトイレは完全水洗トイレです。トイレは洋式トイレなのですが、これはフレーム映像の記憶を元に金さんが四苦八苦して作ってくれました。幸いだったのはトイレ洗剤のテレビCMで洋式便器の断面図が出ていた事です。アレで本当に助かりました。

ただ、どうやっても再現できないものもありました。

それはウォシュレットです。紙が高級品でトイレで使うなど言語道断で、木べらを使うのは私が嫌で……。残るはウォシュレットだなとは思っていたのですが、アレを作り上げるのは単なる一女子高生だった私には無理でした。

そもそもあのウォシュレット、私よりずっと頭の良い人たちが知恵を出し合い、実験を何度も繰り返し、企業もお金と時間をかけて作り上げたモノなわけで……。

私個人で再現なんて出来る訳がないんですよ……。

そういう意味では洋式便器もそうですね。
前世で見たテレビ番組では、確か陶器製なうえにサイズが大きい事で部位ごとの収縮率が違うから、乾燥や焼き上げる際に歪まないように熟練の技が必要になるという感じの事を言っていたように思います。

ただ私には無理ですが、私には頼りになる三太郎さんがいます。
金さんに相談した結果「陶器ではなく石で同じ形に成形するのならば何とかなるかもしれない」という事になり、お願いすることになりました。金さん曰く、拠点作りの中で1・2を争う難関だったそうです。


で、結局再現できなかったウォシュレットをどうしたのかといえば、ウォシュレット用の便器を別に作りました。通常便器の横にウォシュレット……というかビデとよばれるやつですね。ただ前世のウォシュレットのように少ない水で綺麗になんて事はとてもできないので、基本的にお尻丸洗いという感じになってしまいました。

流れとしては、通常トイレで用をたした後、横のビデに座ると「人が座ったら流水2」と「浄水9」の技能が籠められた霊石が同時に発動。綺麗になって立ち上がる時に浦さんが先日覚えたばかりの技能を籠めた「人体から撥水4」の霊石が発動して体表面についた水が全て下に落ちる。そして扉を出たところで最後の霊石「人が外に出たら流水5」と「浄水9」が扉の上部にセットされていて、天井の上のタンクに溜められている水が壁伝いに流れる+天井からシャワーで壁と床、便器等を全てを洗い流してして浄化。最後に「撥水」で綺麗さっぱり乾いた状態へ。

こんな感じで自分だけじゃなくトイレ自体をも完全水洗で掃除要らずなのです。トイレでは浦さんの技能を籠めた霊石が大活躍ですね。

そしてトイレに限らず、台所や温泉などなど、全ての生活排水や汚水は地下に作った浄化槽へと流し込みます。拠点を作る際に絶対に設置してほしいとお願いした浄化槽。浦さんからは

<確かに水を故意に、それも極端に汚すような事は止めるべきですが、
 私が浄水を持っている事からも解るように水には自浄作用があります。
 そのようなモノを作らずとも、此処に住む人間が汚す程度なら大丈夫ですよ?>

とは言われました。ですが私の頭をよぎったのはとある神話です。

<うん、水の自浄作用は知っているんだけど、私の前に居た世界の神話に
 川にお箸が流れてきた事で上流に人が住んでいると判断するお話があってね。
 まぁ、そのお話の場合はそれで助かる人が居たから良かったんだけど。
 でも此処でソレをやっちゃうと凄くマズイので、
 人が住んでいる痕跡を下流に欠片も流したくないの>

スサノオとクシナダヒメが出会う切っ掛けの話ですが、アレがここで起こったら目も当てられません。碧宮家の人たちが逃亡中である事を知っている浦さんは理由を聞いて納得してくれました。

そして浄化槽といっても前世と同じものはやはり作れないので、最終的に同じ結果を出せる別のモノで代用しました。

先程のトイレで使った「撥水」とほぼ同時に浦さんが覚えた「分離」、これを使います。これもべとべとさんから覚えた技能になのですが、金さんの「分解」と何が違うのかと尋ねたら至極簡単な事でした。固形物同士を分けるのが分解で、液体同士、或は液体と個体に分けるのが分離とのことでした。前世の頃とは少し意味合いが違うようですが、心話で伝える為に三太郎さんが解りやすさを重視した結果のようです。

その地下の浄化槽は幾つかの槽に別れていて、まずは最初の仮溜め槽に一定量たまったところで処理槽へと流し込み、処理槽で「沈殿」「分離」して汚泥と汚水に分け、汚水は次の槽に流して「浄水」してから川へと放流。ちなみに放流地点は拠点から一番離れた場所(最下流地点)なので安心です。そして残った汚泥は桃さんの「燃焼」で灰にしてから金さんの「成形」と「圧縮」で丸く固形化し、更にカチカチに「硬化」させてから汚泥灰を溜めておく槽へと転がし落とします。汚泥灰のボールはある程度たまったところで、別の保管庫へと移動させます。

汚泥灰は前世でコンクリートに混ぜて使えると何かで見た覚えがあるので、ある程度たまったところで拠点整備に使いたいと思います。


そんな感じでトイレ及び浄化槽は三太郎さんと私の知恵と努力と技能の結晶となりました。ほんと、私も金さんも浦さんも眉間に皺が寄る日々でした……。


さぁ、そんな努力の結晶であるトイレの良さを母上たちにも実感してもらいましょう!


まずは一緒に入って兄上で実演する事にします。母上たちはおっかなびっくりといった感じではありますが、精霊様の謎の御力で作られた「そういうもの」として理解しようとしているようです。

兄上には本当に申し訳ないのですが、身に着けている膝丈甚平さんをエイヤとまくり上げてから便座に座ってもらって説明をします。

「あいうえ、こーやって しーしー」

しーしーというのは母上が兄上に用をさせるときにいう口癖なので、兄上もすぐに意味を理解してくれました。そうやって一通り終えてから外に出て、扉の向うで水が盛大に流れる音が聞こえてきてミッションコンプリートです。

お尻を洗われた時に兄上は吃驚はしたようですが、それが楽しかったようで目をキラキラさせて下を覗き込んでいました。うん、兄上……あまり見るモノじゃないですよ。

次は橡が、橡が出たら母上がトイレチャレンジです。
先に母上ではなく橡が挑戦するのは未知のものに対する警戒心なんでしょうか?
トイレは私も既に使っていますし、先程兄上が使ったのを見て解るように安全なんですけど、見慣れないモノに対する抵抗って理屈じゃないところがありますし、仕方ないのかもしれません。




ちなみに、母上と橡がトイレを使用した際、外で待っていた私が吃驚するぐらい大きな悲鳴をあげた事は、二人の名誉のために忘れる事にしました。
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