未来樹 -Mirage-

詠月初香

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2章

心の底から :???

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なんとなく……そうとしか言えない気分で、私は御簾に指をかけて少しだけ外の風を招き入れました。牛車の中に籠っていた空気が土の極日の少し冷えた風で押し流されて、気分を少しだけですが楽にしてくれます。

外を見れば布を頭上より高く掲げて振ってくれる無数の民の姿があり、私は扇で顔を隠しつつも彼らにそっと目を伏せるようにして目礼しました。その時、沿道の向う側で少し騒動があったようで、女性の笠に男性の手が当たってしまった結果、女性の笠が大きく傾いでしまったようです。随分と小さい女性ですが、もしかしたら子供なのかしら??

その女性のすぐ横に居た男性がその笠を支えていてあげていて、背丈にかなりの差があるので年の離れた兄妹なのかもしれません。その様子を微笑ましく思って見ていたのですが、その男性の顔を見た瞬間、私の心の臓がギュッと何かに握りつぶされたような衝撃を覚えました。

春宮はるのみやさ……ま……」

そこに居たのはとても見知った顔で、でも彼でない事は明らかでした。何せ彼よりもずっと若く、そして逞しくもありましたから。世の中にはとてもよく似た人が数人は居ると伝え聞きます。

(これほど良く似た人がいるものなのですね……)

顔の造りは似ているものの、受ける印象が全く違う為に私は当然ながらそう結論付けました。その少年というよりは年嵩の、青年というには幼い年頃の男性の横に居た少女、その少女の顔が虫の垂衣むしのたれぎぬの間から見えるまでは。

その少女の顔を見た途端、私の呼吸は完全に止まってしまいました。

「ひめ……しゃら、さま……」

自分の口から漏れ出た声が、すごく遠くから聞こえてくるようで……。そこで私はようやく気が付いたのです。あの方があの事件を生き延びていた事を。少なくともお子様たちが無事に生き延びている事を。

(あぁ……。良かった……。本当に良かった)

安堵のあまり涙が眦に浮かびそうです。ずっと長い間、心に重くのしかかっていた事が少しだけ軽くなったような気がしました。

そう、本当に、心から、嘘偽りなく……私は喜んだのです。
あの子供たちが生き延びていた事を、笑顔であった事を。




なのに、どうして心の奥底がざわつくのでしょうか……。
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