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3章
16歳 -水の陽月3-
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私達が今住んでいる島は、アマツ大陸の東側にある常に強風が吹き荒れ、なのに何故か晴れる事のない霧に覆われた海域の中にある島です。大雑把に大陸東側が言いましたが、正確には大陸中央にある天都から見ると東南の方角にあります。その為、今まで住んでいた山とは植生がかなり違っていて、見た事の無い植物もあれば、どうしても欲しい植物が無かったりもします。
「やっぱりアケビの量が少ないのは致命的だなぁ……」
母上と二人で山から下りつつ、今日の収穫物を見て溜息をついてしまいます。島にも一応山と呼べるような場所はありますが、ヤマト国の山に比べると格段に低いので、高地で取れるような植物があまりありません。その筆頭がアケビとよく似た、この世界では「開け目」と呼ばれている果物です。山では開け目の中心にある大きな種から油をとっていました。その油は日々の料理でも当然使いましたが、何より石鹸を作るのに必要でした。あの日から既に5年。色々とやりくりはしてきたのですが、石鹸の残量という意味でも油の残量という意味でも少々切羽詰まってきていました。
「そうねぇ。油が採れる植物が他に見つかれば良いのだけれど……」
母上はそう言いながらも辺りを絶えずチェックしています。この島に住むようになって2年ですが、今でも新しい物を見つける事が多々あります。それらの新しい植物や前世知識も総動員して、油の取れそうな植物をかたっぱしから試してきた2年でしたが、油の質は良くても入手困難だったり、入手が簡単な植物は質が悪すぎて使えなかったりと、なかなか思うようにはいきません。このままでは岩屋に住んでいた頃に使っていた魚油に手を出さざるを得ませんが、アレは臭いと煙が凄いのでできるのならば使いたくない最終手段です。
「母上、アマツ三国では何から油を採っているのですか?」
「国によって違うけれど、どの国でも庶民は魚油や獣油を使っているわ。
お金に余裕がある人は、ヤマト国では椿や榧の木の種から、
ミズホ国では油菜という野菜の種から、
ヒノモト国では油梨という果実から採った油を使うそうよ。
特にヒノモト国の油梨は、種だけじゃなくて果肉からも油が採れるのですって」
アマツ三国は様々な面で明確な違いがありますが、油も原料から違うようです。またどの油にも等級があるそうで、原料の質も当然ながら大事ですが、同じぐらい絞り方も重要なんだそうです。例えば一番最初に絞ったさらりとした油は高級品で、最後の方の搾りカスから強引に絞った油は雑味が入る為に低級品になる……といった感じなのだとか。
そんな母上の話の中で気になったのは、果肉からも油が採れるというヒノモト国の油梨です。油梨という聞き慣れない植物にも興味が惹かれますが、何より他の植物は種からしか油が採れないのに対し、果肉からも油が採れるというのはとても魅力的な話しです。
「その油梨って木、この島で育てる事はできませんか?」
「それは難しいのではないかしら。
私も行った訳ではないから書物から得た知識でしかないけれど、
ヒノモト国は無の月でも薄着が可能なぐらいに暑い国らしいわ。
そんな暑い地の植物にとって、ここは快適な地とはとても言えないもの」
母上の返答はある程度予測はしていましたが、「やっぱり……」と言う言葉と共に落胆の溜息が零れてしまいます。唯一の希望は山拠点でも設置した温室の中で栽培する事ですが、アレは地下からかなり熱いお湯が湧き出ていたからこそのものでした。
この島にも当然ながらお風呂は設置しましたが、山のものとは決定的に違う事があります。それは湧き出ているお湯の温度です。山では火傷する程に熱いお湯が湧き出ていて、それをいかに冷まして使うかに苦労しました。そんな山に対しこの島で湧いているお湯は季節によって若干の変動はあるものの、だいたい25度弱とそのままお風呂として使うには温度が低いものでした。それを桃さんの技能を籠めた火緋色金で温めてお風呂として使用しているのです。
ただ、桃さんは私達の中で唯一の火の精霊です。毎日、お風呂だけでなく様々な場所で大量に消費される火の精霊力、その補充は桃さんにしか出来ません。それらに加えて温室までお願いするのは、流石にちょっと躊躇ってしまいます。
「ヒノモト国かぁ……。一度行ってみたいかも」
ヤマト国は全ての国とそれなりに交流しているので街中で薄い顔立ちのミズホ国人も濃い顔立ちのヒノモト国人も見かけるのに対し、ヒノモト国はミズホ国と仲が悪いので街中でミズホ国人を見かけないそうです。なのでその点だけを見ればアマツ大陸の中で一番安全かもしれません。
それにこの世界に生まれてきて16年。香辛料を殆ど使わない食生活を送ってきましたが、たまにはガッツリ香辛料の効いた料理も食べたいのです!!
一応、山にも香辛料と呼べるような物はあったんですよ?
前世とまったく同じではなかったけれど、近い風味を持つ青じそや山椒、分葱や茗荷などがありましたから。でも胡椒が利いた肉料理や香辛料の集大成ともいえるカレーを、久しぶりに食べたくて食べたくて仕方がありません。
<良いじゃないか、ソレ!!>
カレーを思い出した途端に大音量……と表現するのもおかしい気がしますが、思わず肩がビクッと震えてしまう程の大声の心話が届きました。いきなり固まってしまった私を不思議そうに見つめる母上に「何でもないよ」と返事をしつつ
<桃さん、いきなりは吃驚するからっ!!>
と苦情を入れます。桃さんは私の少し後ろで周囲を警戒しながら歩いていたのですが、どうも私のカレーに対する思いが強すぎて心話となって届いてしまっていたようです。
<悪ぃ悪ぃ。いや、でもよ。ここの所ずっと似たような料理ばかりだからさ。
勿論そうなっちまう理由は解っちゃいるし納得もしているんだが、
やっぱり目新しい料理は気になるだろ?>
そうなんですよねぇ。島で新しい食材を見つけても、その日いきなり食べる訳にはいきません。毒の有無を確認する必要があるし、毒が無いと解っても家族全員に少量ずつ食べてもらってアレルギー反応もチェックしなくてはなりません。
家族はアレルギーに関する知識が無いので不思議がっていますし、そもそもこの世界にアレルギーというものがあるのかどうかも解りませんが、甘く見ていると命に関わる事になるのがアレルギーです。ですから食べ慣れない食材は万全を期すぐらいがちょうど良いと思っています。
そういった理由以外にも、住環境が大きく変わった事で食事ぐらいは慣れ親しんだものを食べたいという心理や、保存が利いて手に入りやすい物を使う事によるメニューのマンネリ化がここ2年ぐらいは続いてしまっていたのです。勿論、島に上陸した直後に比べれば徐々にメニューも豊富になってきていますが、山で食べていた食事のバリエーションの豊かさには及びません。あの頃は本当に恵まれていたんだなぁ……。
「ヒノモト国ねぇ。危険が無い訳ではないけれど、
アマツ大陸で今一番安全なのはヒノモト国でしょうし……。
今晩あたり、一度みんなと相談してみましょう」
一度行ってみたいと言った私の言葉に暫く悩んでいた母上でしたが、ひとまず皆で相談してから決めるという事になりました。母上の表情から察するに積極的に賛成は出来ないけれど、子供たちの行動を制限したくない、或は子供たちの希望を叶えたいという思いもあるようです。
「私としては危ない事は避けてほしいのだが……」
母上と一緒に来ていた山幸彦さんが渋い顔をしますが、積極的に止めるような事はしません。それはこの世界の精霊はあくまでも対象を守護する事が役目で、導く事
は役目ではないからなのだとか。そもそも精霊と会話する事自体がありえない事ですしね。なのでバンバン私に意見を言ったり注意したりする三太郎さんは、特例を通り越して異例中の異例な精霊です。
その日の夜。
夕食を終えた後は家族全員が好きな事をしながらゆっくりと過ごすのですが、今日は全員唸り声をあげたり渋い顔をしながらテーブルを囲む事になりました。
「確かに姉上が仰るようにヒノモト国にはミズホ国の手は及びづらいでしょうが、
絶対に安全とは言い切れません。自身の身を守る術を持つ槐はともかく、
姉上や櫻、橡の安全を考えると賛成は出来かねます」
と叔父上が言えば、その横で山吹もウンウンと頷きます。
「ですが若様、姫様の仰るように油の残りが少ないことが気になります。
精霊様の地に招かれる前と同じ生活に戻せば何とかなるのかもしれませんが、
果たして今の私達はそれで心健やかに暮らして行く事ができるでしょうか?」
山吹や橡は今でも母上たちの事を姫様・若様と呼びます。やはり一度慣れ親しんだ呼び方は、なかなか簡単には抜けないようです。そんな橡の言葉に叔父上もグッと言葉に詰まってしまいました。叔父上や山吹が無の月の出稼ぎを止めた理由の一つに、山での恵まれた生活に慣れた結果、町での生活が苦痛になった事が上げられます。数日だけならば我慢も出来るでしょうが、この先ずっとあの生活を送らないといけないというのは絶望でしかありません。
そもそもそれが嫌すぎて絶対に受け入れられないから、16年前に三太郎さんを巻き込んで無茶を通したんです。そんな訳で私にあの頃の生活に戻るという選択肢はありません。
(アレさえ完成すれば叔父上たちを説得できると思うんだけど……)
島で暮らす為の家が完成した後、金さんと浦さんにはあるお願いをしました。そのお願いを聞いた途端、金さんも浦さんも天を仰いで目を覆い、桃さんは
「出たな、久しぶりの超無茶振り……。
10年以上一緒にいて慣れたから、
もう驚かされる事は無いだろうって思ってたが、甘かったぜ」
と遠くを見ながら呟く始末。我ながら無茶を言ったという自覚はありましたが、この先の事を考えると絶対に欲しいモノでした。
<櫻、アレの事を教えれば良いのではないか??>
<金さんが自分で考えて作った事にしてくれるのなら良いよ>
精霊さんたちは基本的に会議にはオブザーバーとして参加するのですが、私にはこうやって時々心話が飛んできます。
<そなたも大人になったのだから、
そろそろ家族と腹を割って話し合うべきだと我は思うが……>
<私もそう思いますよ。何時まで前世の事を隠し通すつもりなのです?>
金さんに続いて浦さんまで心話に参加してきました。ちなみに三太郎さんと私の心話は二幸彦さんたちには届いていません。三太郎さんは心話に指向性を持たせる事が出来ますし、私はそもそも1対1でしか心話を使えないので二幸彦さんを巻き込めないのです。なので前世やそこで得た知識の事は、今でも心話でばんばん話し合っています。
<母上が私の生まれの事を話してくれたら……かな。
実は血が繋がっていないのよと打ち明けられたら「うん、知ってるよ」
って私も打ち明けやすいし>
そう心話で返したら、金さんと浦さんに溜息をつかれてしまいました。
<お前は仕方ねぇなぁ。
まったく大きくなったんだか、なってないんだか……>
更には桃さんからも苦笑混じりの声が聞こえてきます。自分でも臆病だとは思うのですが、今のこの関係を崩したくないと思って何が悪いの?と開き直る事にしました。
そんな感じで三太郎さんがほぼ同時に溜息をついた為、叔父上たちがしていた議論はピタリと止まってしまいました。神の欠片の精霊さんが一斉に溜息をついてしまえば、何か失礼があったのかと不安になってしまうのも当然です。
「コホン、そなたたちが悪い訳ではない」
金さんが咳払いをしてからそう告げれば、明らかにホッとした空気が流れます。
「ちょうど良いから、そなたらに報告しておきたい事がある。
我と浦で作った、とあるモノに関してだ」
そう金さんが切り出せば、サッと全員が姿勢を正して金さんの言葉を聞く姿勢になりました。ただこの後、金さんの告げた「あるモノ」を知った叔父上たちは、余りの事に思考停止する未来が待っているのでした。
「やっぱりアケビの量が少ないのは致命的だなぁ……」
母上と二人で山から下りつつ、今日の収穫物を見て溜息をついてしまいます。島にも一応山と呼べるような場所はありますが、ヤマト国の山に比べると格段に低いので、高地で取れるような植物があまりありません。その筆頭がアケビとよく似た、この世界では「開け目」と呼ばれている果物です。山では開け目の中心にある大きな種から油をとっていました。その油は日々の料理でも当然使いましたが、何より石鹸を作るのに必要でした。あの日から既に5年。色々とやりくりはしてきたのですが、石鹸の残量という意味でも油の残量という意味でも少々切羽詰まってきていました。
「そうねぇ。油が採れる植物が他に見つかれば良いのだけれど……」
母上はそう言いながらも辺りを絶えずチェックしています。この島に住むようになって2年ですが、今でも新しい物を見つける事が多々あります。それらの新しい植物や前世知識も総動員して、油の取れそうな植物をかたっぱしから試してきた2年でしたが、油の質は良くても入手困難だったり、入手が簡単な植物は質が悪すぎて使えなかったりと、なかなか思うようにはいきません。このままでは岩屋に住んでいた頃に使っていた魚油に手を出さざるを得ませんが、アレは臭いと煙が凄いのでできるのならば使いたくない最終手段です。
「母上、アマツ三国では何から油を採っているのですか?」
「国によって違うけれど、どの国でも庶民は魚油や獣油を使っているわ。
お金に余裕がある人は、ヤマト国では椿や榧の木の種から、
ミズホ国では油菜という野菜の種から、
ヒノモト国では油梨という果実から採った油を使うそうよ。
特にヒノモト国の油梨は、種だけじゃなくて果肉からも油が採れるのですって」
アマツ三国は様々な面で明確な違いがありますが、油も原料から違うようです。またどの油にも等級があるそうで、原料の質も当然ながら大事ですが、同じぐらい絞り方も重要なんだそうです。例えば一番最初に絞ったさらりとした油は高級品で、最後の方の搾りカスから強引に絞った油は雑味が入る為に低級品になる……といった感じなのだとか。
そんな母上の話の中で気になったのは、果肉からも油が採れるというヒノモト国の油梨です。油梨という聞き慣れない植物にも興味が惹かれますが、何より他の植物は種からしか油が採れないのに対し、果肉からも油が採れるというのはとても魅力的な話しです。
「その油梨って木、この島で育てる事はできませんか?」
「それは難しいのではないかしら。
私も行った訳ではないから書物から得た知識でしかないけれど、
ヒノモト国は無の月でも薄着が可能なぐらいに暑い国らしいわ。
そんな暑い地の植物にとって、ここは快適な地とはとても言えないもの」
母上の返答はある程度予測はしていましたが、「やっぱり……」と言う言葉と共に落胆の溜息が零れてしまいます。唯一の希望は山拠点でも設置した温室の中で栽培する事ですが、アレは地下からかなり熱いお湯が湧き出ていたからこそのものでした。
この島にも当然ながらお風呂は設置しましたが、山のものとは決定的に違う事があります。それは湧き出ているお湯の温度です。山では火傷する程に熱いお湯が湧き出ていて、それをいかに冷まして使うかに苦労しました。そんな山に対しこの島で湧いているお湯は季節によって若干の変動はあるものの、だいたい25度弱とそのままお風呂として使うには温度が低いものでした。それを桃さんの技能を籠めた火緋色金で温めてお風呂として使用しているのです。
ただ、桃さんは私達の中で唯一の火の精霊です。毎日、お風呂だけでなく様々な場所で大量に消費される火の精霊力、その補充は桃さんにしか出来ません。それらに加えて温室までお願いするのは、流石にちょっと躊躇ってしまいます。
「ヒノモト国かぁ……。一度行ってみたいかも」
ヤマト国は全ての国とそれなりに交流しているので街中で薄い顔立ちのミズホ国人も濃い顔立ちのヒノモト国人も見かけるのに対し、ヒノモト国はミズホ国と仲が悪いので街中でミズホ国人を見かけないそうです。なのでその点だけを見ればアマツ大陸の中で一番安全かもしれません。
それにこの世界に生まれてきて16年。香辛料を殆ど使わない食生活を送ってきましたが、たまにはガッツリ香辛料の効いた料理も食べたいのです!!
一応、山にも香辛料と呼べるような物はあったんですよ?
前世とまったく同じではなかったけれど、近い風味を持つ青じそや山椒、分葱や茗荷などがありましたから。でも胡椒が利いた肉料理や香辛料の集大成ともいえるカレーを、久しぶりに食べたくて食べたくて仕方がありません。
<良いじゃないか、ソレ!!>
カレーを思い出した途端に大音量……と表現するのもおかしい気がしますが、思わず肩がビクッと震えてしまう程の大声の心話が届きました。いきなり固まってしまった私を不思議そうに見つめる母上に「何でもないよ」と返事をしつつ
<桃さん、いきなりは吃驚するからっ!!>
と苦情を入れます。桃さんは私の少し後ろで周囲を警戒しながら歩いていたのですが、どうも私のカレーに対する思いが強すぎて心話となって届いてしまっていたようです。
<悪ぃ悪ぃ。いや、でもよ。ここの所ずっと似たような料理ばかりだからさ。
勿論そうなっちまう理由は解っちゃいるし納得もしているんだが、
やっぱり目新しい料理は気になるだろ?>
そうなんですよねぇ。島で新しい食材を見つけても、その日いきなり食べる訳にはいきません。毒の有無を確認する必要があるし、毒が無いと解っても家族全員に少量ずつ食べてもらってアレルギー反応もチェックしなくてはなりません。
家族はアレルギーに関する知識が無いので不思議がっていますし、そもそもこの世界にアレルギーというものがあるのかどうかも解りませんが、甘く見ていると命に関わる事になるのがアレルギーです。ですから食べ慣れない食材は万全を期すぐらいがちょうど良いと思っています。
そういった理由以外にも、住環境が大きく変わった事で食事ぐらいは慣れ親しんだものを食べたいという心理や、保存が利いて手に入りやすい物を使う事によるメニューのマンネリ化がここ2年ぐらいは続いてしまっていたのです。勿論、島に上陸した直後に比べれば徐々にメニューも豊富になってきていますが、山で食べていた食事のバリエーションの豊かさには及びません。あの頃は本当に恵まれていたんだなぁ……。
「ヒノモト国ねぇ。危険が無い訳ではないけれど、
アマツ大陸で今一番安全なのはヒノモト国でしょうし……。
今晩あたり、一度みんなと相談してみましょう」
一度行ってみたいと言った私の言葉に暫く悩んでいた母上でしたが、ひとまず皆で相談してから決めるという事になりました。母上の表情から察するに積極的に賛成は出来ないけれど、子供たちの行動を制限したくない、或は子供たちの希望を叶えたいという思いもあるようです。
「私としては危ない事は避けてほしいのだが……」
母上と一緒に来ていた山幸彦さんが渋い顔をしますが、積極的に止めるような事はしません。それはこの世界の精霊はあくまでも対象を守護する事が役目で、導く事
は役目ではないからなのだとか。そもそも精霊と会話する事自体がありえない事ですしね。なのでバンバン私に意見を言ったり注意したりする三太郎さんは、特例を通り越して異例中の異例な精霊です。
その日の夜。
夕食を終えた後は家族全員が好きな事をしながらゆっくりと過ごすのですが、今日は全員唸り声をあげたり渋い顔をしながらテーブルを囲む事になりました。
「確かに姉上が仰るようにヒノモト国にはミズホ国の手は及びづらいでしょうが、
絶対に安全とは言い切れません。自身の身を守る術を持つ槐はともかく、
姉上や櫻、橡の安全を考えると賛成は出来かねます」
と叔父上が言えば、その横で山吹もウンウンと頷きます。
「ですが若様、姫様の仰るように油の残りが少ないことが気になります。
精霊様の地に招かれる前と同じ生活に戻せば何とかなるのかもしれませんが、
果たして今の私達はそれで心健やかに暮らして行く事ができるでしょうか?」
山吹や橡は今でも母上たちの事を姫様・若様と呼びます。やはり一度慣れ親しんだ呼び方は、なかなか簡単には抜けないようです。そんな橡の言葉に叔父上もグッと言葉に詰まってしまいました。叔父上や山吹が無の月の出稼ぎを止めた理由の一つに、山での恵まれた生活に慣れた結果、町での生活が苦痛になった事が上げられます。数日だけならば我慢も出来るでしょうが、この先ずっとあの生活を送らないといけないというのは絶望でしかありません。
そもそもそれが嫌すぎて絶対に受け入れられないから、16年前に三太郎さんを巻き込んで無茶を通したんです。そんな訳で私にあの頃の生活に戻るという選択肢はありません。
(アレさえ完成すれば叔父上たちを説得できると思うんだけど……)
島で暮らす為の家が完成した後、金さんと浦さんにはあるお願いをしました。そのお願いを聞いた途端、金さんも浦さんも天を仰いで目を覆い、桃さんは
「出たな、久しぶりの超無茶振り……。
10年以上一緒にいて慣れたから、
もう驚かされる事は無いだろうって思ってたが、甘かったぜ」
と遠くを見ながら呟く始末。我ながら無茶を言ったという自覚はありましたが、この先の事を考えると絶対に欲しいモノでした。
<櫻、アレの事を教えれば良いのではないか??>
<金さんが自分で考えて作った事にしてくれるのなら良いよ>
精霊さんたちは基本的に会議にはオブザーバーとして参加するのですが、私にはこうやって時々心話が飛んできます。
<そなたも大人になったのだから、
そろそろ家族と腹を割って話し合うべきだと我は思うが……>
<私もそう思いますよ。何時まで前世の事を隠し通すつもりなのです?>
金さんに続いて浦さんまで心話に参加してきました。ちなみに三太郎さんと私の心話は二幸彦さんたちには届いていません。三太郎さんは心話に指向性を持たせる事が出来ますし、私はそもそも1対1でしか心話を使えないので二幸彦さんを巻き込めないのです。なので前世やそこで得た知識の事は、今でも心話でばんばん話し合っています。
<母上が私の生まれの事を話してくれたら……かな。
実は血が繋がっていないのよと打ち明けられたら「うん、知ってるよ」
って私も打ち明けやすいし>
そう心話で返したら、金さんと浦さんに溜息をつかれてしまいました。
<お前は仕方ねぇなぁ。
まったく大きくなったんだか、なってないんだか……>
更には桃さんからも苦笑混じりの声が聞こえてきます。自分でも臆病だとは思うのですが、今のこの関係を崩したくないと思って何が悪いの?と開き直る事にしました。
そんな感じで三太郎さんがほぼ同時に溜息をついた為、叔父上たちがしていた議論はピタリと止まってしまいました。神の欠片の精霊さんが一斉に溜息をついてしまえば、何か失礼があったのかと不安になってしまうのも当然です。
「コホン、そなたたちが悪い訳ではない」
金さんが咳払いをしてからそう告げれば、明らかにホッとした空気が流れます。
「ちょうど良いから、そなたらに報告しておきたい事がある。
我と浦で作った、とあるモノに関してだ」
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