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3章
16歳 -水の陽月2-
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うっすらと明るくなり始めた早朝、ゆっくりと浜辺を散歩するのはとても気持ちが良いものです。水の陽月の早朝は吐く息が白くなる程に気温が低く、その冷たい空気や白々とした月の光、刻々と変わりゆく空の色、何もかもが冴え冴えとした爽やかな朝を作り上げてくれます。
……常時身体が吹っ飛んでいきそうになる強風に加えて
ランダムな方向からいきなり襲ってくる突風さえなければですが!
折角の爽やかな朝がとんでもない強風の所為で台無しですが、それでも余程の悪天候でない限り、私は毎朝の日課として散歩をする事にしています。それもこれも自分の身体能力の低さを少しでも改善したいがゆえなのですが、なかなか思うような結果にはつながりません。
それでもモチベーションを保ち続けていられるのは、母上や橡が一緒に散歩をしてくれているからです。浜辺を散歩する時間は、今日一日の予定を話したり他愛のない話、例えばご飯のリクエストを橡にお願いしたりと良いコミュニケーションタイムになっています。
そんな私達の横を信じられないスピードで駆け抜けていく叔父上や兄上たちを見ていると心が折れそうになりますが、そういう時には決まって母上や橡が「比べても意味がありませんよ?」と言ってくれるので、結果が出なくても何とか続けられています。
そんなある日。
今日は寒の戻りで寒さがいつも以上に厳しく、身体が冷えてしまった母上と橡は朝食の準備の前にお風呂で身体を温めたいと、一足先に散歩を切り上げてしまいました。私も早めに切り上げた方が良いと言われてはいたのですが、前世も今世も山育ちの私にとって海というのは特別感のある場所なのです。例えば前世で旅行した際、海が見えると電車や車の中からずっと海を見続けてしまうぐらいには特別でした。
まぁ、ここ数年は海暮らしだったので若干特別感は減ってしまいましたが、それでもやっぱり海が見えるとドキドキワクワクしてしまうのです。
そんな訳で強風にもめげずに波打ち際を歩いていると、見た事の無い物が打ち上げられていました。青緑色をした手のひらサイズのソレは、何枚もの布が重なったような形状をしていました。よく見ると一枚一枚はとても薄い色で、それが幾重にも重なって青緑色になっているようです。そんなものは今まで一度も見た事がありません。
「何だろう、これ」
いきなり触るような不用心な真似はしませんが、もっとしっかりと見たくて屈もうとした途端にドンッという衝撃が襲ってきてバランスを崩してしまい、あっ!と思った時には足元が砂だった事もあってグラリと視界が傾いて、次に襲い来る衝撃に備えてギュッと目を瞑ります。この後は砂に顔から突っ込む未来しかないと思っていた私でしたが、意外にもその未来はやってきませんでした。
「あっぶねぇなぁ。もう少し気をつけろよ」
恐る恐る目を開けた私の頭上から聞き慣れた声がかけられ、その声と胴体にまわされた腕に桃さんが私を抱き留めて助けてくれたのだと解りました。
「ありがとう、助かったよ桃さん」
「小さい頃みたいに抱きかかえた方が良いか?」
「もう、そんな子供じゃないってば」
揶揄うように私の顔を覗き込んだ桃さんに、プィとそっぽを向いて返事をします。16歳にもなって抱き上げられるのは、情けないどころの話しじゃありません。
「で、どうしたんだ?」
「あっ、うん。コレなんだけど、何だろうと思って」
そう言って足元の青緑色をした物体のすぐ横に屈んで指さします。波に洗われるたびに層が一枚ずつ剥がれ落ちてしまう程に脆く、指で触ろうものなら壊れてしまいそうです。
「あぁん? 何だこりゃ。
石っぽいし金に聞けば解るんじゃねぇか?
いや、海から来てるっぽいから浦か??」
ここで山さんや海さんの通称二幸彦さんではなく、金さんと浦さんの名前が出るあたり、私だけじゃなくて桃さんにとっても三太郎という絆はしっかりと作られているのだなと解り、その事が何だかとても嬉しく思える私です。
「てか、これ……なんか妙な気配がするな」
「そうなの?
私は気配は解らないんだけど、何だか妙に気になって仕方なくて」
そう言いながら2人して首を傾げてしまいます。言葉にできるような明確な理由がある訳ではないのですが、その青緑色した物から目が離せないのです。
「なんつーか……あえて言葉を選ばず直感に従って言うのなら、
火緋色金みたいな気配がする」
「それって、コレも霊石って事?」
「いや、それは無ぇな。
コレは火緋色金でも震鎮鉄でも深棲璃瑠でもない。
その時点で精霊石じゃ無ぇって事は確定だ。
ただ、何だか普通とは違う感じが霊石に似てるって思っただけだ」
この世界の神様や神の欠片の精霊は火・水・土しかいないので、精霊石も3種類しかありません。また前世で読んだ小説でも、これら3種類の精霊石以外は登場していませんでした。でも、気になるなぁ……。
「ここで悩んでいても仕方ないから、
持って帰って金さんや浦さんにも聞いてみよう」
そう結論づけたものの触った途端に崩れてしまいそうなソレに、決して触れないようにして周囲の砂ごと袂に入れていたハンカチに包んで持ち帰ることにしました。
ちなみに大人になった私は、もうドーリス式キトンで外を走り回るような事はできません。流石に母上たちから「はしたないから止めなさい」と止められてしまいました。寝間着として着る分には良いそうですが、手足を人前で出すのは成人女性として駄目なんだそうです。そんな訳で私も今では母上たちと同じような小袖と呼ばれる着物の上に褶だつものと呼ばれる巻きスカートみたいなものを付けた格好をしています。これが本当に動きづらくて、最初の頃はよく裾を踏んで転んでしまいました。今もこれで全力疾走しろと言われたら、恥ずかしながら30秒も持たずに転ぶ自信があります。
持って帰った青緑色の謎の鉱石ですが、頼みの綱だった金さんや浦さんも知りませんでした。このアマツ大陸の東側は精霊すら近寄らない場所なので、この地域限定の物ではないかとの事でした。金さんたち三太郎さんはかなりチートな存在ですが、決して万能でも全知全能でもありません。私と出会うまでは自分に割り振られた役割以外の事は無関心だったようで、今でも新しい物を作らなくてはならない時は参考になるような物を見に行ったりしています。
そんな私の手元を覗き込んで
「おや、それはもしかしてクズ石かな?」
と教えてくれたのは驚いた事に叔父上でした。
「む? 鬱金はこれを知っているのか?」
「知っているという程ではありませんが、文献で見た事があります。
春になると浜辺に打ち上げられる事が稀にある青緑色した石があると。
その直ぐに崩れてしまう石の性質から崩れ石と呼ばれ、
徐々にそれがクズ石と呼ばれるようになったぐらいの記述でした」
「ふむ、稀に見つかるという点だけは霊石と似ていなくはないが……。
それに桃の申すようにコレには何か普通ではない気配がある。
だが、我の知識でも現時点で解る事は殆ど無い」
「えぇ、それに謎の石……で良いのでしょうか?
ソレを調べる事よりも早急にやらなくてはならない事が山積みですし
今はそちらを優先すべきです」
浦さんの言葉に、その場に居た全員がウンウンと頷きます。水の陽月って実はかなり忙しいんですよね。収穫や採取に加えて保存食作りに全力で取り組まなくてはならない土の月程ではないのですが、畑を耕して種まきをしなくてはなりませんし、何よりタケノコの採取があります。竹醤の原料となるタケノコは今この時じゃないと採取できないうえに、叔父上たちの行商のメイン商材だけに数が必要で、全員でタケノコ掘りをしないと追いつきません。
その叔父上たちの行商ですが、襲撃後の話し合いでもう止めるべきでは?という意見が上がりました。ただ、塩を始めとした様々な品が自給自足が出来るようになった今でも、自作できないものは幾つもあります。何より他の商人からヤマト国の王家御用達と勘違いされる程に王家に様々な目新しい商品を卸していた新進気鋭の行商人が、ある時を境にパタリと存在が消えてしまったら……。
そもそも超が付くレベルの僻地とはいえヤマト国に住んでいた以上、襲撃者たちはヤマト王家との関係を疑っているでしょうが、現時点では繋がりを確定できるような証拠は残していません。ですが王家に出入りしていた行商人と叔父上がイコールで繋がってしまえば、茴香殿下たちに多大な迷惑を掛けてしまう事になります。叔父上たちとしてはそれは絶対に避けたい事でした。なので行商は今までと同様に続け、殿下たちと相談してフェードアウトなり、取り引き方法を変えるなりするつもりのようです。
「うん、今日はタケノコ掘りを頑張ろう!」
猟や漁は男性陣の、採取や栽培は女性陣の仕事ですが、今回や保存食作りのように少しでも人手が欲しい時はその限りではありません。先日行われた話し合いで叔父上や山吹がタケノコを掘り続け、兄上がそれを運び、母上と橡が運ばれてきたタケノコを即座に大きな琺瑯の鍋で湯がいて皮をむいて適当な大きさに切り、その横で私が麹菌をまぶして再び琺瑯鍋に戻す役目と決まりました。
そして三太郎さんは私や母上たちと一緒に、山さんと海さんは今日の食事の材料の調達をしてくれることになっています。二幸彦さんは一緒に暮らし始めた当初、精霊の仕事ではないと嫌がっていましたが、金さんたちが「働かざる者食うべからず」だと教え、更には食事の楽しさに目覚めた結果、今では嫌な顔一つせずに積極的に食料調達をしてくれるようになりました。
精霊って、もしかすると全員が食道楽なのかもしれません。
そういえば、大人たちの話し合いに三太郎さん経由でなく私自身が参加できるようになったのも、私は大人になったんだなと思わせる事柄でした。15歳になった時から最年少扱いは残ったものの子供扱いはなくなり、こういった話し合いの場にも参加できるようになりました。そして何より精神と肉体の年齢差が縮まった事で、かなり気分が楽になりました。今までは母上たちの前で大人びた言動をしないように気をつけなくてはならなかったのですが、今では素のままで発言できます。
精神年齢という言葉には、単純な経過年数を指していたり精神の成熟度を指していたり色々な考え方があると思います。私の考え方は後者で、精神年齢とは心の成熟度を指すと思っています。極端な話しになりますが、30年間幼稚園児レベルの経験しか積んでいない人の精神がはたして30歳成人と言えるのか?と疑問に思ってしまうのです。やはり精神というのは相応の経験を積んで成熟していくもので、私は0歳から16歳を2回やりましたが大人の経験はありません。なので精神年齢は10代後半程度しかないと思っています。単純な経過年数なら叔父上たちと同じ年ぐらいになるのかもしれませんが、叔父上たちのような大人にはまだまだなれません。
……常時身体が吹っ飛んでいきそうになる強風に加えて
ランダムな方向からいきなり襲ってくる突風さえなければですが!
折角の爽やかな朝がとんでもない強風の所為で台無しですが、それでも余程の悪天候でない限り、私は毎朝の日課として散歩をする事にしています。それもこれも自分の身体能力の低さを少しでも改善したいがゆえなのですが、なかなか思うような結果にはつながりません。
それでもモチベーションを保ち続けていられるのは、母上や橡が一緒に散歩をしてくれているからです。浜辺を散歩する時間は、今日一日の予定を話したり他愛のない話、例えばご飯のリクエストを橡にお願いしたりと良いコミュニケーションタイムになっています。
そんな私達の横を信じられないスピードで駆け抜けていく叔父上や兄上たちを見ていると心が折れそうになりますが、そういう時には決まって母上や橡が「比べても意味がありませんよ?」と言ってくれるので、結果が出なくても何とか続けられています。
そんなある日。
今日は寒の戻りで寒さがいつも以上に厳しく、身体が冷えてしまった母上と橡は朝食の準備の前にお風呂で身体を温めたいと、一足先に散歩を切り上げてしまいました。私も早めに切り上げた方が良いと言われてはいたのですが、前世も今世も山育ちの私にとって海というのは特別感のある場所なのです。例えば前世で旅行した際、海が見えると電車や車の中からずっと海を見続けてしまうぐらいには特別でした。
まぁ、ここ数年は海暮らしだったので若干特別感は減ってしまいましたが、それでもやっぱり海が見えるとドキドキワクワクしてしまうのです。
そんな訳で強風にもめげずに波打ち際を歩いていると、見た事の無い物が打ち上げられていました。青緑色をした手のひらサイズのソレは、何枚もの布が重なったような形状をしていました。よく見ると一枚一枚はとても薄い色で、それが幾重にも重なって青緑色になっているようです。そんなものは今まで一度も見た事がありません。
「何だろう、これ」
いきなり触るような不用心な真似はしませんが、もっとしっかりと見たくて屈もうとした途端にドンッという衝撃が襲ってきてバランスを崩してしまい、あっ!と思った時には足元が砂だった事もあってグラリと視界が傾いて、次に襲い来る衝撃に備えてギュッと目を瞑ります。この後は砂に顔から突っ込む未来しかないと思っていた私でしたが、意外にもその未来はやってきませんでした。
「あっぶねぇなぁ。もう少し気をつけろよ」
恐る恐る目を開けた私の頭上から聞き慣れた声がかけられ、その声と胴体にまわされた腕に桃さんが私を抱き留めて助けてくれたのだと解りました。
「ありがとう、助かったよ桃さん」
「小さい頃みたいに抱きかかえた方が良いか?」
「もう、そんな子供じゃないってば」
揶揄うように私の顔を覗き込んだ桃さんに、プィとそっぽを向いて返事をします。16歳にもなって抱き上げられるのは、情けないどころの話しじゃありません。
「で、どうしたんだ?」
「あっ、うん。コレなんだけど、何だろうと思って」
そう言って足元の青緑色をした物体のすぐ横に屈んで指さします。波に洗われるたびに層が一枚ずつ剥がれ落ちてしまう程に脆く、指で触ろうものなら壊れてしまいそうです。
「あぁん? 何だこりゃ。
石っぽいし金に聞けば解るんじゃねぇか?
いや、海から来てるっぽいから浦か??」
ここで山さんや海さんの通称二幸彦さんではなく、金さんと浦さんの名前が出るあたり、私だけじゃなくて桃さんにとっても三太郎という絆はしっかりと作られているのだなと解り、その事が何だかとても嬉しく思える私です。
「てか、これ……なんか妙な気配がするな」
「そうなの?
私は気配は解らないんだけど、何だか妙に気になって仕方なくて」
そう言いながら2人して首を傾げてしまいます。言葉にできるような明確な理由がある訳ではないのですが、その青緑色した物から目が離せないのです。
「なんつーか……あえて言葉を選ばず直感に従って言うのなら、
火緋色金みたいな気配がする」
「それって、コレも霊石って事?」
「いや、それは無ぇな。
コレは火緋色金でも震鎮鉄でも深棲璃瑠でもない。
その時点で精霊石じゃ無ぇって事は確定だ。
ただ、何だか普通とは違う感じが霊石に似てるって思っただけだ」
この世界の神様や神の欠片の精霊は火・水・土しかいないので、精霊石も3種類しかありません。また前世で読んだ小説でも、これら3種類の精霊石以外は登場していませんでした。でも、気になるなぁ……。
「ここで悩んでいても仕方ないから、
持って帰って金さんや浦さんにも聞いてみよう」
そう結論づけたものの触った途端に崩れてしまいそうなソレに、決して触れないようにして周囲の砂ごと袂に入れていたハンカチに包んで持ち帰ることにしました。
ちなみに大人になった私は、もうドーリス式キトンで外を走り回るような事はできません。流石に母上たちから「はしたないから止めなさい」と止められてしまいました。寝間着として着る分には良いそうですが、手足を人前で出すのは成人女性として駄目なんだそうです。そんな訳で私も今では母上たちと同じような小袖と呼ばれる着物の上に褶だつものと呼ばれる巻きスカートみたいなものを付けた格好をしています。これが本当に動きづらくて、最初の頃はよく裾を踏んで転んでしまいました。今もこれで全力疾走しろと言われたら、恥ずかしながら30秒も持たずに転ぶ自信があります。
持って帰った青緑色の謎の鉱石ですが、頼みの綱だった金さんや浦さんも知りませんでした。このアマツ大陸の東側は精霊すら近寄らない場所なので、この地域限定の物ではないかとの事でした。金さんたち三太郎さんはかなりチートな存在ですが、決して万能でも全知全能でもありません。私と出会うまでは自分に割り振られた役割以外の事は無関心だったようで、今でも新しい物を作らなくてはならない時は参考になるような物を見に行ったりしています。
そんな私の手元を覗き込んで
「おや、それはもしかしてクズ石かな?」
と教えてくれたのは驚いた事に叔父上でした。
「む? 鬱金はこれを知っているのか?」
「知っているという程ではありませんが、文献で見た事があります。
春になると浜辺に打ち上げられる事が稀にある青緑色した石があると。
その直ぐに崩れてしまう石の性質から崩れ石と呼ばれ、
徐々にそれがクズ石と呼ばれるようになったぐらいの記述でした」
「ふむ、稀に見つかるという点だけは霊石と似ていなくはないが……。
それに桃の申すようにコレには何か普通ではない気配がある。
だが、我の知識でも現時点で解る事は殆ど無い」
「えぇ、それに謎の石……で良いのでしょうか?
ソレを調べる事よりも早急にやらなくてはならない事が山積みですし
今はそちらを優先すべきです」
浦さんの言葉に、その場に居た全員がウンウンと頷きます。水の陽月って実はかなり忙しいんですよね。収穫や採取に加えて保存食作りに全力で取り組まなくてはならない土の月程ではないのですが、畑を耕して種まきをしなくてはなりませんし、何よりタケノコの採取があります。竹醤の原料となるタケノコは今この時じゃないと採取できないうえに、叔父上たちの行商のメイン商材だけに数が必要で、全員でタケノコ掘りをしないと追いつきません。
その叔父上たちの行商ですが、襲撃後の話し合いでもう止めるべきでは?という意見が上がりました。ただ、塩を始めとした様々な品が自給自足が出来るようになった今でも、自作できないものは幾つもあります。何より他の商人からヤマト国の王家御用達と勘違いされる程に王家に様々な目新しい商品を卸していた新進気鋭の行商人が、ある時を境にパタリと存在が消えてしまったら……。
そもそも超が付くレベルの僻地とはいえヤマト国に住んでいた以上、襲撃者たちはヤマト王家との関係を疑っているでしょうが、現時点では繋がりを確定できるような証拠は残していません。ですが王家に出入りしていた行商人と叔父上がイコールで繋がってしまえば、茴香殿下たちに多大な迷惑を掛けてしまう事になります。叔父上たちとしてはそれは絶対に避けたい事でした。なので行商は今までと同様に続け、殿下たちと相談してフェードアウトなり、取り引き方法を変えるなりするつもりのようです。
「うん、今日はタケノコ掘りを頑張ろう!」
猟や漁は男性陣の、採取や栽培は女性陣の仕事ですが、今回や保存食作りのように少しでも人手が欲しい時はその限りではありません。先日行われた話し合いで叔父上や山吹がタケノコを掘り続け、兄上がそれを運び、母上と橡が運ばれてきたタケノコを即座に大きな琺瑯の鍋で湯がいて皮をむいて適当な大きさに切り、その横で私が麹菌をまぶして再び琺瑯鍋に戻す役目と決まりました。
そして三太郎さんは私や母上たちと一緒に、山さんと海さんは今日の食事の材料の調達をしてくれることになっています。二幸彦さんは一緒に暮らし始めた当初、精霊の仕事ではないと嫌がっていましたが、金さんたちが「働かざる者食うべからず」だと教え、更には食事の楽しさに目覚めた結果、今では嫌な顔一つせずに積極的に食料調達をしてくれるようになりました。
精霊って、もしかすると全員が食道楽なのかもしれません。
そういえば、大人たちの話し合いに三太郎さん経由でなく私自身が参加できるようになったのも、私は大人になったんだなと思わせる事柄でした。15歳になった時から最年少扱いは残ったものの子供扱いはなくなり、こういった話し合いの場にも参加できるようになりました。そして何より精神と肉体の年齢差が縮まった事で、かなり気分が楽になりました。今までは母上たちの前で大人びた言動をしないように気をつけなくてはならなかったのですが、今では素のままで発言できます。
精神年齢という言葉には、単純な経過年数を指していたり精神の成熟度を指していたり色々な考え方があると思います。私の考え方は後者で、精神年齢とは心の成熟度を指すと思っています。極端な話しになりますが、30年間幼稚園児レベルの経験しか積んでいない人の精神がはたして30歳成人と言えるのか?と疑問に思ってしまうのです。やはり精神というのは相応の経験を積んで成熟していくもので、私は0歳から16歳を2回やりましたが大人の経験はありません。なので精神年齢は10代後半程度しかないと思っています。単純な経過年数なら叔父上たちと同じ年ぐらいになるのかもしれませんが、叔父上たちのような大人にはまだまだなれません。
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