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4章
16歳 -土の陰月2-
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禍都地への上陸は一筋縄ではいきませんでした。
1日目
まずは上陸できる場所を見つけようと海岸線に沿って船を進めても、船を寄せられそうな場所が見つかりません。基本的に海岸線は断崖絶壁なうえに周辺は岩礁が多く、ようやく(私には無理ですが)飛び移れそうな場所を見つけられても、足場が脆くて上陸するには危険すぎました。脆いのなら金さんの技能「硬化」で足場を固めたら良いのではと思って試したのですが、その時はちゃんと固まるのにあっという間に元の脆い状態に戻ってしまい、常に技能を発動させ続けないと駄目な事が判明しました。何があるかわからない未知の大陸なので霊力は極力温存する必要があり、この案はとりあえず却下せざるを得ませんでした。
三太郎さんや龍さんが上陸するだけならここまで神経質に探さなくても良いのですが、のちに私も上陸することや船にある様々な食料や道具類を持ち込む事を考えると、大きく重たい荷物を安全に積み下ろしできる上陸地点が必要です。なのにあの山吹と同じぐらい身体能力オバケの緋桐さんが、「荷物を持って飛び移るのは厳しい」と言うぐらいの距離と高さの場所しか見つけられず、1日目を終えました。
2日目
危険なのは陸地だけでないと思い知りました。
今までは比較的安全地帯だと思っていた海も、マガツ大陸周辺は危険極まりない場所でした。大波が頭上から降り注いで、
「もう、これ海じゃなくて滝でしょ!」
と、おもわずツッコミをいれてしまいます。ふと見れば甲板に作られた畑も波に晒されていて、後で畑の手入れをしたうえで浦さんに「浄水」で塩抜きをお願いしないと駄目かもしれません。荒れ狂う波やいきなり向きを変える激流は、浦さんに霊力を余分に消費してもらうことでどうにかなったのですが、その頻度が上がると霊力の消費を抑える為にも大事にならない程度の不都合は受けざるを得ません。
しかも更に問題が……
「くそっ! まただ!!」
ゴンとかドンッ!という激しい音とともに、船が大きく揺れます。
「櫻嬢、しっかりと捕まっていてくれ!!」
緋桐さんがびしょ濡れの私を慌てて抱きかかえると、不安定な足場をものともせずに一気に船室へと駆け込みました。各人の居室に備え付けられている御帳台はシステム的に当然ですが、御帳台以外の調度品も基本的に床や壁に固定されています。なので床としっかり繋がっている机の足にしがみついて、襲い来る揺れに耐えます。
この激しい揺れは大波のせいではなく、巨大な魚が船に体当たりを繰り返すことで起きています。初めて見た真っ黒いソレは妖かと思うほどに巨大で、小さい個体でも20m以上はありました。もちろん前世でも海には巨大な魚や海獣はいました。ただ海無し県育ちだった私はそれを知識として知るだけで、実際に見る機会はありませんでした。そんな私が先ほどこの目で見た20mオーバーサイズの海獣は、腰を抜かさなかった自分を褒めたいぐらいの迫力でした。あまりの巨大さに圧倒され、悲鳴を上げることすらできないほどでしたから。
アレは何の目的や意図があるのか、何度も何度も繰り返し船に体当たりをしてきます。つくづくこの船を金属で、そして巨大化させておいて本当に良かったと思いました。木造船だったら最初の一撃で木っ端微塵になって、私達は全員海に放り出されていたかもしれません。
この巨大魚以外にも頭に槍のような角がある魚に襲撃されたり、無数の足を持つ軟体生物に襲われたりと、大陸沿岸部の海は息を付く間もないほどに危険でした。
結局、この日は一度大陸から離れて作戦を練り直す事にし、金さんに船の補修と点検、浦さんに畑の塩抜きをお願いする事になりました。
3日目
大陸がある=上陸だ!と無条件に考えていた事を反省しました。これは私だけじゃなく、三太郎さんも緋桐さんも同様に陥っていた思考の罠でした。この船は巨大なうえに浦さんの技能のおかげで揺れはとても小さいのですが、全く揺れない訳じゃありません。だから陸地が見えた時点で、あまり深く考えずに上陸すると決めてしまっていました。
でも長い船旅が可能なこの船は、大陸探索の拠点とすることも可能です。もちろん後々のことを考えれば何れは上陸しなくてはならないのですが、それは浦さんが探索に出るまでにどうにかすれば良い事です。
「そうだな。あの大地はあまりにも不自然だ。
そしてその不自然さの大元は、十中八九第3世代の精霊であろう。
ならば我が先に上陸し、その不自然さを取り除くことで
あの脆い崖も硬化可能となるやもしれん」
「えぇ、このままでは埒が明きません。
まずは金が上陸し、力の吸収と共に周囲を偵察するべきですね。
海岸線だけでなく内陸部の情報が必要です」
そう話し合いをしている私達の中央にある食堂の大テーブルには、大きな白い布が広げられています。それは決してテーブルクロスという訳ではなく、かなり大雑把ではあるものの地図が描かれています。まぁ……大部分がまだ空白なのですが。
そう、真っ白で汚れを受け付けないはずの土蜘蛛の糸から作られた艶糸、その糸で織られたこの布に墨で絵や文字が書けるようになったのです。それは龍さんの霊力のおかげなのですが、「なんて技能を使ったの?」と私が問いかけても龍さんは「うーん」と唸るだけで明確な返事を返してくれません。
少し考えてから始まった龍さんの説明によると、技能とは神が第2世代以降の精霊を作った際に役割として与えたもので、龍さんには技能という概念が無いのだそうです。ならどうやって力を使っているのか訪ねたら
「櫻、おぬしは呼吸をする際、息を吸おうとか吐こうとか考えぬじゃろう?
勿論意識して呼吸をする事もあるじゃろうが、普段は気にしておらぬはずじゃ。
それと同じで、儂は意識せずとも力がそうなるように動くのじゃよ」
と説明してくれました。解るような解らないような??
「じゃぁ、俺様たちは沖合で待機か?」
何故か少し不貞腐れたような桃さんの言葉に、自分の意識を過去から現在へと戻します。桃さんの性格上、刺激あふれる大冒険が待っていると思ったのに、仕方がないとはいえお預けを食らったことが不満なのかもしれません。
「そうじゃなぁ。儂もそこの金太郎と一緒に行くことになるゆえ、
守りの霊力も人数も半減する事を考えたら待機が良いじゃろう」
「しゃぁねぇなぁ……」
龍さんの言葉にしぶしぶ頷く桃さん。相変わらず桃さんは龍さんのことが苦手のようですが、それでも最近は少しは聞く耳を持つようになってくれました。
こうして金さんと龍さんは大陸へと向かいました。さすがの金さんでも沖合に停めた船から一気に大陸まで跳躍することはできないので、龍さんの力を借りて一緒に飛んでいきました。
……あの力で船ごと陸地のど真ん中に飛ばして貰えば良いんじゃ?
と思ったのですが、第1世代の精霊といえど流石にそれは無理でしょうと浦さんに言われてしまいました。残念。
その後、金さんと龍さんは丸1日出かけると、次の日に船へ帰ってきて私の中へと戻り、丸1日霊力を回復させるというサイクルを繰り返しました。
金さんはあまり多くを語らない精霊なので詳しくは聞けませんでしたが、マガツ大陸にいた精霊はもう精霊とは呼べない別の何かになっていたそうです。ただ暴れるだけで自我すらない彼らはアマツ大陸に出没する妖に近い何かとの事でしたが、段違いに強力で凶悪なんだとか。
元が第3世代の精霊、つまり攻撃特化精霊だった所為なのか、それともアマツ大陸の妖の大半が循環する精霊力の穢れや澱が溜まって発生するのに対し、精霊そのものが穢れで妖化した(と思われる)違いなのか……、今はまだ判断できません。ただアマツ大陸でも稀に妖化した精霊が出る事があるそうなのですが、それと比べても禍都地の妖は別格なんだそうです。そうなると理由としては前者、或いは両方って事なのかもしれません。
なんだか悲しいなぁと思ってしまいます。
神様が始めた戦いの攻撃手段として生み出された第3世代の精霊は、ただその命令を遂行しようとしただけなのに、今も穢れにまみれて自我すらなく荒れ狂うのみなのだから……。
金さんの遠征サイクルが少しずつ伸びて4~5日遠征して1日回復が通常となった頃、驚きの情報が飛び込んできました。
「人が居た」
「いや、アレは人で良いのじゃろうか?」
遠征に出た翌日に戻ってくるという異常事態に、私達は何があったのかと集まりました。その私達にもたらされた衝撃の報告に、居残り組は唖然としてしまいます。なにせ海から見た禍都地は生命活動らしいものは何も確認できず、植物も動物も見当たりません。海の中には船を襲ってくる魚はいますが、陸地方面で何か動くものを見た覚えが無いのです。
「てっきり禍都地は死の大地だと思っていましたが……。
人とはどのような?」
浦さんが尋ねると、金さんと龍さんは顔を見合わせてから
「改めて言われると人という括りに入れてよいのか悩むのだが、
二本の腕を持ち二足歩行、更には頭部と体の割合などは人だと思う」
「尻尾があるわけでもなければ、翼を持つわけでもない。
ついでに頭部には1本の髪も無く、服はまとっておらぬ。
つまり外見はかなり特殊ではあるものの人と言えるじゃろう。
ただ肌が……いや、肌の色が全員ありえないほどに赤黒いのじゃよ」
「「「「…………は?」」」」
私と緋桐さん、そして浦さんと桃さんの声が重なりました。
この世界、転生した直後にも思いましたが外見にファンタジー要素は欠片もありません。全員が黒髪黒目で、顔は濃い薄いはあるものの基本的に日本で見かけるような人たちばかりです。なので当然肌の色も色白さんや色黒さんといった違いはあるものの、日本人……というか黄色人種です。
そこにいきなりぶち込まれたファンタジー要素、ダークレッドな肌。
そういえばアマツ大陸各国の歴史書にある禍都襲来の項目には、赤鬼や青鬼のような人ならざる者が襲ってきたと書かれています。でもそれはてっきり船旅で日焼けしていた人を誇張して伝えていたり、敵を人外とする事で自分たちの正当性を高めようとした結果だと思っていました。
まさか本当に赤い肌の人が居るとは……。
「そいつらは敵対しそうなのか??」
桃さんが気になるのはそこのようで、まず私達と敵対関係になりそうなのかを訪ねました。悔しいことに私の原作知識は中途半端なもので、主人公たちがマガツ大陸へ向かうことは知っているものの、そこで何をするのかまでは知りません。受験が終わってからのお楽しみにとっておいたのですが、それが徒となりました。
「敵……か、どうじゃろうなぁ?」
「男女ともに貝殻を身にまとい、武器は石槍のような原始的なもの。
アマツ大陸と比べ、あまりにもお粗末な文明と言わざるを得ぬが、
武器がある以上、接触は危険が伴うと見てよいだろう」
相手が人であった場合、三太郎さんや龍さんは手出しができません。そして緋桐さんは確かに武に秀でた方ですが、わざわざ危険な事をさせたくはありません。
「じゃぁ、極力接触しない方向でいこう。
私達の目的の障害となるのなら対処法を考えなくちゃいけないけど、
今のところそんな事はないのでしょ?」
私の問いかけに金さんと龍さんは頷きました。ならばその方向でと緊急会議は終了し、金さんと龍さんは少し休憩したあと、再び大陸へと向かったのでした。
1日目
まずは上陸できる場所を見つけようと海岸線に沿って船を進めても、船を寄せられそうな場所が見つかりません。基本的に海岸線は断崖絶壁なうえに周辺は岩礁が多く、ようやく(私には無理ですが)飛び移れそうな場所を見つけられても、足場が脆くて上陸するには危険すぎました。脆いのなら金さんの技能「硬化」で足場を固めたら良いのではと思って試したのですが、その時はちゃんと固まるのにあっという間に元の脆い状態に戻ってしまい、常に技能を発動させ続けないと駄目な事が判明しました。何があるかわからない未知の大陸なので霊力は極力温存する必要があり、この案はとりあえず却下せざるを得ませんでした。
三太郎さんや龍さんが上陸するだけならここまで神経質に探さなくても良いのですが、のちに私も上陸することや船にある様々な食料や道具類を持ち込む事を考えると、大きく重たい荷物を安全に積み下ろしできる上陸地点が必要です。なのにあの山吹と同じぐらい身体能力オバケの緋桐さんが、「荷物を持って飛び移るのは厳しい」と言うぐらいの距離と高さの場所しか見つけられず、1日目を終えました。
2日目
危険なのは陸地だけでないと思い知りました。
今までは比較的安全地帯だと思っていた海も、マガツ大陸周辺は危険極まりない場所でした。大波が頭上から降り注いで、
「もう、これ海じゃなくて滝でしょ!」
と、おもわずツッコミをいれてしまいます。ふと見れば甲板に作られた畑も波に晒されていて、後で畑の手入れをしたうえで浦さんに「浄水」で塩抜きをお願いしないと駄目かもしれません。荒れ狂う波やいきなり向きを変える激流は、浦さんに霊力を余分に消費してもらうことでどうにかなったのですが、その頻度が上がると霊力の消費を抑える為にも大事にならない程度の不都合は受けざるを得ません。
しかも更に問題が……
「くそっ! まただ!!」
ゴンとかドンッ!という激しい音とともに、船が大きく揺れます。
「櫻嬢、しっかりと捕まっていてくれ!!」
緋桐さんがびしょ濡れの私を慌てて抱きかかえると、不安定な足場をものともせずに一気に船室へと駆け込みました。各人の居室に備え付けられている御帳台はシステム的に当然ですが、御帳台以外の調度品も基本的に床や壁に固定されています。なので床としっかり繋がっている机の足にしがみついて、襲い来る揺れに耐えます。
この激しい揺れは大波のせいではなく、巨大な魚が船に体当たりを繰り返すことで起きています。初めて見た真っ黒いソレは妖かと思うほどに巨大で、小さい個体でも20m以上はありました。もちろん前世でも海には巨大な魚や海獣はいました。ただ海無し県育ちだった私はそれを知識として知るだけで、実際に見る機会はありませんでした。そんな私が先ほどこの目で見た20mオーバーサイズの海獣は、腰を抜かさなかった自分を褒めたいぐらいの迫力でした。あまりの巨大さに圧倒され、悲鳴を上げることすらできないほどでしたから。
アレは何の目的や意図があるのか、何度も何度も繰り返し船に体当たりをしてきます。つくづくこの船を金属で、そして巨大化させておいて本当に良かったと思いました。木造船だったら最初の一撃で木っ端微塵になって、私達は全員海に放り出されていたかもしれません。
この巨大魚以外にも頭に槍のような角がある魚に襲撃されたり、無数の足を持つ軟体生物に襲われたりと、大陸沿岸部の海は息を付く間もないほどに危険でした。
結局、この日は一度大陸から離れて作戦を練り直す事にし、金さんに船の補修と点検、浦さんに畑の塩抜きをお願いする事になりました。
3日目
大陸がある=上陸だ!と無条件に考えていた事を反省しました。これは私だけじゃなく、三太郎さんも緋桐さんも同様に陥っていた思考の罠でした。この船は巨大なうえに浦さんの技能のおかげで揺れはとても小さいのですが、全く揺れない訳じゃありません。だから陸地が見えた時点で、あまり深く考えずに上陸すると決めてしまっていました。
でも長い船旅が可能なこの船は、大陸探索の拠点とすることも可能です。もちろん後々のことを考えれば何れは上陸しなくてはならないのですが、それは浦さんが探索に出るまでにどうにかすれば良い事です。
「そうだな。あの大地はあまりにも不自然だ。
そしてその不自然さの大元は、十中八九第3世代の精霊であろう。
ならば我が先に上陸し、その不自然さを取り除くことで
あの脆い崖も硬化可能となるやもしれん」
「えぇ、このままでは埒が明きません。
まずは金が上陸し、力の吸収と共に周囲を偵察するべきですね。
海岸線だけでなく内陸部の情報が必要です」
そう話し合いをしている私達の中央にある食堂の大テーブルには、大きな白い布が広げられています。それは決してテーブルクロスという訳ではなく、かなり大雑把ではあるものの地図が描かれています。まぁ……大部分がまだ空白なのですが。
そう、真っ白で汚れを受け付けないはずの土蜘蛛の糸から作られた艶糸、その糸で織られたこの布に墨で絵や文字が書けるようになったのです。それは龍さんの霊力のおかげなのですが、「なんて技能を使ったの?」と私が問いかけても龍さんは「うーん」と唸るだけで明確な返事を返してくれません。
少し考えてから始まった龍さんの説明によると、技能とは神が第2世代以降の精霊を作った際に役割として与えたもので、龍さんには技能という概念が無いのだそうです。ならどうやって力を使っているのか訪ねたら
「櫻、おぬしは呼吸をする際、息を吸おうとか吐こうとか考えぬじゃろう?
勿論意識して呼吸をする事もあるじゃろうが、普段は気にしておらぬはずじゃ。
それと同じで、儂は意識せずとも力がそうなるように動くのじゃよ」
と説明してくれました。解るような解らないような??
「じゃぁ、俺様たちは沖合で待機か?」
何故か少し不貞腐れたような桃さんの言葉に、自分の意識を過去から現在へと戻します。桃さんの性格上、刺激あふれる大冒険が待っていると思ったのに、仕方がないとはいえお預けを食らったことが不満なのかもしれません。
「そうじゃなぁ。儂もそこの金太郎と一緒に行くことになるゆえ、
守りの霊力も人数も半減する事を考えたら待機が良いじゃろう」
「しゃぁねぇなぁ……」
龍さんの言葉にしぶしぶ頷く桃さん。相変わらず桃さんは龍さんのことが苦手のようですが、それでも最近は少しは聞く耳を持つようになってくれました。
こうして金さんと龍さんは大陸へと向かいました。さすがの金さんでも沖合に停めた船から一気に大陸まで跳躍することはできないので、龍さんの力を借りて一緒に飛んでいきました。
……あの力で船ごと陸地のど真ん中に飛ばして貰えば良いんじゃ?
と思ったのですが、第1世代の精霊といえど流石にそれは無理でしょうと浦さんに言われてしまいました。残念。
その後、金さんと龍さんは丸1日出かけると、次の日に船へ帰ってきて私の中へと戻り、丸1日霊力を回復させるというサイクルを繰り返しました。
金さんはあまり多くを語らない精霊なので詳しくは聞けませんでしたが、マガツ大陸にいた精霊はもう精霊とは呼べない別の何かになっていたそうです。ただ暴れるだけで自我すらない彼らはアマツ大陸に出没する妖に近い何かとの事でしたが、段違いに強力で凶悪なんだとか。
元が第3世代の精霊、つまり攻撃特化精霊だった所為なのか、それともアマツ大陸の妖の大半が循環する精霊力の穢れや澱が溜まって発生するのに対し、精霊そのものが穢れで妖化した(と思われる)違いなのか……、今はまだ判断できません。ただアマツ大陸でも稀に妖化した精霊が出る事があるそうなのですが、それと比べても禍都地の妖は別格なんだそうです。そうなると理由としては前者、或いは両方って事なのかもしれません。
なんだか悲しいなぁと思ってしまいます。
神様が始めた戦いの攻撃手段として生み出された第3世代の精霊は、ただその命令を遂行しようとしただけなのに、今も穢れにまみれて自我すらなく荒れ狂うのみなのだから……。
金さんの遠征サイクルが少しずつ伸びて4~5日遠征して1日回復が通常となった頃、驚きの情報が飛び込んできました。
「人が居た」
「いや、アレは人で良いのじゃろうか?」
遠征に出た翌日に戻ってくるという異常事態に、私達は何があったのかと集まりました。その私達にもたらされた衝撃の報告に、居残り組は唖然としてしまいます。なにせ海から見た禍都地は生命活動らしいものは何も確認できず、植物も動物も見当たりません。海の中には船を襲ってくる魚はいますが、陸地方面で何か動くものを見た覚えが無いのです。
「てっきり禍都地は死の大地だと思っていましたが……。
人とはどのような?」
浦さんが尋ねると、金さんと龍さんは顔を見合わせてから
「改めて言われると人という括りに入れてよいのか悩むのだが、
二本の腕を持ち二足歩行、更には頭部と体の割合などは人だと思う」
「尻尾があるわけでもなければ、翼を持つわけでもない。
ついでに頭部には1本の髪も無く、服はまとっておらぬ。
つまり外見はかなり特殊ではあるものの人と言えるじゃろう。
ただ肌が……いや、肌の色が全員ありえないほどに赤黒いのじゃよ」
「「「「…………は?」」」」
私と緋桐さん、そして浦さんと桃さんの声が重なりました。
この世界、転生した直後にも思いましたが外見にファンタジー要素は欠片もありません。全員が黒髪黒目で、顔は濃い薄いはあるものの基本的に日本で見かけるような人たちばかりです。なので当然肌の色も色白さんや色黒さんといった違いはあるものの、日本人……というか黄色人種です。
そこにいきなりぶち込まれたファンタジー要素、ダークレッドな肌。
そういえばアマツ大陸各国の歴史書にある禍都襲来の項目には、赤鬼や青鬼のような人ならざる者が襲ってきたと書かれています。でもそれはてっきり船旅で日焼けしていた人を誇張して伝えていたり、敵を人外とする事で自分たちの正当性を高めようとした結果だと思っていました。
まさか本当に赤い肌の人が居るとは……。
「そいつらは敵対しそうなのか??」
桃さんが気になるのはそこのようで、まず私達と敵対関係になりそうなのかを訪ねました。悔しいことに私の原作知識は中途半端なもので、主人公たちがマガツ大陸へ向かうことは知っているものの、そこで何をするのかまでは知りません。受験が終わってからのお楽しみにとっておいたのですが、それが徒となりました。
「敵……か、どうじゃろうなぁ?」
「男女ともに貝殻を身にまとい、武器は石槍のような原始的なもの。
アマツ大陸と比べ、あまりにもお粗末な文明と言わざるを得ぬが、
武器がある以上、接触は危険が伴うと見てよいだろう」
相手が人であった場合、三太郎さんや龍さんは手出しができません。そして緋桐さんは確かに武に秀でた方ですが、わざわざ危険な事をさせたくはありません。
「じゃぁ、極力接触しない方向でいこう。
私達の目的の障害となるのなら対処法を考えなくちゃいけないけど、
今のところそんな事はないのでしょ?」
私の問いかけに金さんと龍さんは頷きました。ならばその方向でと緊急会議は終了し、金さんと龍さんは少し休憩したあと、再び大陸へと向かったのでした。
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