【本編完結済】未来樹 -Mirage-

詠月初香

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4章

16歳 -無の月6-

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「さっっっっっむい!!」

洗濯物を持つ手が寒さでかじかみ、指先が痛いぐらいです。桃さんの技能「乾燥」を使えば洗濯物を干す必要はなくなるのですが、精霊力を使わなくても済むのならそれに越したことはありませんし、何より桃さんが探索に出る際の予行練習にもなります。それに一応干し場自体は温室となっている畑の端に作られているので、干したり取込み中は寒いという程ではなく。問題はその行き帰りなんですよね……。

ここはヤマト国の山の上ほど気温は下がらないのですが、無の月の海上は風がとんでもなく強く……。龍さんの力がない状態だと、甲板に立っていたら私なんて吹っ飛びそうなぐらいの突風も吹きます。なので一定以上の強風は龍さんに抑えてもらっているのですが、そんな突風を差し引いても真冬の甲板は寒くて仕方がありません。幼い青藍せいらんには精霊力で適温をキープしてある室内で待機してもらい、私は甲板を全速力で駆け抜けて階下の船室へと戻ります。

「しゃーら、てて、ちーたい!」

洗濯物を抱えて部屋に駆け込んできた私に抱きついてきた青藍は私の手が冷たい事に驚いたようで、私の手を自分の小さな手で包んで温めようとしてくれます。

「大丈夫。それに青藍のお手々が冷たくなっちゃうよ」

そう言ってゆっくりと手を引き抜くと青藍の髪のない頭を撫でようとして、冷たい手で触るのは良くないかなと思い留まります。

「洗濯物が終わったら、温かいミルク入れてあげるからちょっと待っててね」

そう言えば「うん!」と元気の良い返事が帰ってきました。島から連れてきた毛美もみ2匹は船旅のストレスにも負けず、しっかり美味しいミルクを提供してくれます。そこに甘葛煎を入れた甘いホットミルクは青藍のお気に入りです。

蛇足ながら洗濯物は私と青藍、そして緋桐さんの服の一部です。精霊の三太郎さんと龍さんは、精霊力の補給のために私の中に戻ると何故か着ている服が綺麗になります。便利で羨ましい限りです。そして緋桐さんに関しては着物はともかく、下履き下着まではちょっと手を出しづらく、それだけは入浴時に自分で洗ってもらって自室で干してもらっています。お互いに気まずいので……。




その報告は突然もたらされました。

「見つけましたよ、水の神座かむくら!」

何時もなら晩ごはん直前ぐらいの時間に戻ってくる浦さんがお昼過ぎに戻ってきたと思ったら、開口一番にそう告げました。その報告に対し

「良く見つけられたな」

「随分と時間がかかったじゃん」

とほぼ反対の反応を示したのは金さんと桃さんでした。金さんは自身が土の神座を見つけられなかった事から良く見つけたという感想を抱いたのに対し、精霊力が特に強い方向を探せば良いのにと思っていた桃さんは「なぜ見つからないのか?」と疑問に思っていたようです。

金さんや浦さんがこの大陸にいた頃とはすっかり変わってしまった地形。なので金さんも浦さんも地形を目安に探すことはせず、精霊力頼りで探していました。ですがそれが仇となっていたようです。

「心底、この世界が危機的状況にあるのだということを実感いたしました。
 水の神座があのような事になっているとは……」

「あのような……って?」

浦さんに言葉の続きを促します。三太郎さんの予想では、この大陸で人が過ごせる場所は神座と呼ばれる神の力の満ちた場所だけだろうということでした。つまり青藍の家族や知人がいると思われる場所の第一候補です。そこがあのような・・・・・なんて表現を使う有り様になっているということは……。

「霊力ではなく……澱み、つまり妖力の溜まり場となっていました」

「それって……。青藍の家族は居なかったの?!
 何か痕跡は!」

青藍がここに居たら聞くことはできませんが、タイミング良く青藍は昼食後のお昼寝の時間です。最近ではようやくお昼寝の時間だけなら一人で寝てくれるようになり、私はその間に昼食の片付けと午後の畑仕事の段取りが出来るようになりました。

「おそらく人が住んでいたであろう痕跡はありましたが……」

「おそらくな上に痕跡なんだね」

ソレが意味することは、口に出さなくても解ります。

「希望があるとすれば、集落の規模の割に遺体の数が少なかったことでしょうか」

浦さんは私を慰めるようにそう言いますが、それを希望と呼んでよいのか少し悩みます。推定4~5歳の青藍が、あの過酷な大陸で長期にわたって一人で生きていける訳がありません。なので青藍が家族と離れてしまったのは、極めて最近の事だと想定していました。だからこそ早く親元に返してあげなければと焦っていたのです。あちらも青藍の事を探しているでしょうから……。

「幼子は親元で暮らすのが一番だとは俺も思うが、
 そのような状況では青藍を連れて行くのは止めておいたほうが……」

渋い顔をするのは緋桐さんです。私だって連れて行った挙げ句、家族の遺体と対面なんてトラウマを青藍には植え付けたくはありません。

「ねぇ、遺体が複数放置されていたということは、
 天災・人災・妖災問わず何かしらがあったって事だよね?」

「えぇ、そうですね」

「そして集落規模の割に死者は少ない……。
 それって早急に助けに行った方が良くない?
 って言うか助けにいかないと!!」

疑問形から断言に変わった私の言葉に、みんなは一瞬呆気にとられてしまいます。この世界の人たちはとにかく強くて、何かあった時は自分(とその家族)で対処してしまいます。友人や知人なら助け合う事もありますが、見ず知らずの人までは救いの手をのべません。それはその人の家族や友人知人のやるべきことであり、規模によっては王族の仕事だと思っているからです。

私からすれば災害時に助け合わなくて、何時助け合うんだ?と心底首を傾げたくなる価値観です。価値観の違いは命の関わらない事ならこちらの世界に合わせもしますが、命がかかっている以上私は……。

ただ助けに行きたいと私が言っても、それを実際に行うのは三太郎さんや龍さんです。私一人が駆けつけても何も出来ないに等しいですし、何よりこの船からあの大陸までたどり着くことすら不可能です。

「お願い!」

「危険過ぎます!」

即座に浦さんに反対され、桃さんもその後方で激しく頷いています。看護師やお医者さんじゃない私の医療知識なんて、怪我をしたら傷口を綺麗に洗ってから止血すると良いらしいって程度です。それでも私が行かなかったら、三太郎さんや龍さんは動いてくれません。

「儂は行っても良いと思うが……。
 ただし、おぬしは限りなく後方で坊主と共に待機すると約束するの……」

「約束する!!」

龍さんの言葉を最後まで聞く前に返事をします。そんな私達のやり取りに金さんはため息をつくと、

「致し方あるまい。あの子供を親元、或いは親族の元に返さねば
 このままアマツ大陸にまで連れて帰らねばならなくなる。
 混乱や騒動の元となるような事態は避けたい」

つまり青藍を帰す先が無くなればこちらも困るのだから、助けざるを得ないと金さんは判断したようです。

金さんがそう判断したら、話は一気に進みました。とはいえ今から準備をして水の神座に向かっても、到着するのは完全に日が落ちて暗くなった頃です。それは流石に危険すぎて許可が降りず、今日はしっかりと準備をして明日の日の出と共に出発することになりました。

そうと決まれば念の為に持ってきていた消毒用アルコールや綺麗な布を、袋に自分で持てるだけ詰め込みます。保存食は自分の首を締めるどころか緋桐さんの首まで締めかねないので、本当に厳選してから袋に入れました。大部分は補充がしやすい干し魚ですが、それだけでは栄養の偏りが心配なので干した野菜も入れておきます。本当は生野菜からしか取れない栄養がある事もふまえて、畑で取れた生野菜も入れておきたいところですが、重量がとんでもないことになるので今回は断念しました。




翌朝、青藍を起こして朝食を食べさせてから着替えさせ、念の為に私の革の防具を青藍に着せます。これはつるばみからの贈り物で、

「これを身につけるような事態にならないことが一番ですが、
 万が一にも何かあった時の為にお渡ししておきます。
 本来であれば常時身につけているべきなのでしょうが、
 お嬢様の体力ですとそれも厳しいでしょうし……」

と出航前に渡されました。ヒノモト国で私が攫われたり頭に怪我を負ったりしたことや、叔父上の一件で橡も思う所があったのだと思います。厚手の革で作られたベストのような形状の防具は、動きやすさと最低限の防御力の両立を目指したもので、元々は橡が現役時代に使っていたモノらしいです。私ですら重く感じる革ベストを青藍に着せるのはどうかとは思いますし当人も嫌がるのですが、安全のためなので我慢してねと宥めて着せます。そしてその革ベストの上から防寒用の外套を掛けてあげて、青藍の準備は完了です。

そして私も予備の外套を着込みます。こちらのほうが若干薄手な上に、青藍に着せたモノと違って表面にべとべとさんの撥水液を使っていない為に水も風も通しやすいのですが、流石に外套無しで出かけるには寒すぎます。


こうして私と青藍は龍さんに抱かれ、緋桐さんはとても居心地が悪そうに金さんに担がれて大陸へと向かうことになりました。

実はこの人選になるまでに、軽く一騒動がありました。龍さんは三太郎さんと違って跳ぶじゃなく飛ぶ事ができます。なのでいざとなったら私と青藍を抱えたまま、被害を受けないぐらい上空で待機という離れ業が可能です。なので私と青藍の移動を龍さんが請け負うというところまでは直ぐに決まりました。問題は緋桐さんです。私としては出来れば緋桐さんも龍さんにお願いしたかったのですが、龍さんが

「儂の腕は2本しか無いのじゃが??」

と拒否。なら同じ火属性の桃さんにと思ったのですが、最前線に出る可能性が高い桃さんが緋桐さんを抱えるのは双方にとって危険すぎます。そして今から向かう場所を考えれば浦さんも多忙になるのは目に見えていて、消去法で金さんしか残りませんでした。その決定に緋桐さんは190cm強の身体を小さくしてしまいます。そんな様子に申し訳なさのあまり船を守る為の留守番も提案したのですが、それは絶対に駄目だと却下されました。

ヒノモト武人の誇りとか、そういうものなんでしょうかね?

なので海に残していくことになる船には、浦さんと龍さんの技能を籠めた霊石で守りを固めました。更には船体には金さんの硬化技能まで施し、守りを万全にしてから出発しました。




「後……どれぐらいです……か?」

「この速度じゃと、あと半時といったところじゃな」

大陸までは龍さんの助力で大ジャンプをした三太郎さんwith緋桐さん。その後は脆く崩れる足場を警戒しつつ走ったり飛んだりを繰り返す所為で、緋桐さんの声が途切れ途切れに聞こえてきます。

<船ごと移動できれば一番良かったのだろうが>

<船が陸地を進める訳無いでしょう。
 ましてや最初に船をかなり高くまで上げる必要もあるというのに>

対し三太郎さんは心話が使えるので、何時もと変わりない流暢な言葉が心に届きます。常識的に考えれば浦さんの言う通りではあるのですが、前世の知識がある私としては

<出来なくは無いけれど……。時間と資材さえあれば>

と返してしまいます。途端に三太郎さんが、ギュンッ!とこちらを向いて

「「「は???」」」」

と驚いた表情で見つめてきました。驚いたのは緋桐さんと青藍で、何があったのか解らずきょとんとしています。

<説明は心話でするから、とりあえず進もう。時間が惜しいから>

<えぇ、解りました……。
 ですが水は高きから低きに流れるもの、逆は自然の法則に反しますよ?>

そう釘をさしてくる浦さんです。浦さんは私が無茶振りして、陸地と同じ高さまで水を持ち上げて船を移動させると言い出すと警戒しているのかもしれません。

<自然の法則を捻じ曲げるような事はしないよ。
 そもそも前世の知識だから精霊力は使わずともできる事だし>

そう前置きしてから話したのは、前世の社会科で学んだパナマ運河の事でした。水門を複数造り、水の注入と排出で水位を変化させて船を高い場所へと移動させる方法です。パナマ運河の例だと、約26メートル高い場所へと船を移動させることができます。これを習った時、

(26mって事はプールの長さぐらい? 大したことないなぁ)

なんて思いましたが、9階建てのビルの上に船を乗せられるぐらいの高さ変動と聞いて、考えを改めた覚えがあります。

<そんな方法が……>

<でも時間も資材も人もお金も、とにかくたくさんかかるんだよ。
 世界でもトップレベルの国力を持つ国が国家事業としてやって10年。
 工事従事者も延べ35万人って習ったような……>

<それは継続的に使う為であろう?
 我らが望むのは一度限り。正確には1往復出来れば良いのだ>

<……そういえばそうだね>

言われてみれば……と、目からウロコな気分になります。

<ただ実際に見て思ったけれど、これだけ土が弱いと何も建設できないよ>

前を行く三太郎さんの足元は、トンと地に足が付くたびに大きく崩れてしまっています。そんなところに何か建築するなんて、危険すぎて出来ません。

<つまり地盤の脆ささえ克服出来れば良いのだな。
 ならば話しは簡単だ>

<お前ら話はソレぐらいにしろ、そろそろヤベェぞ!>

私達の心話は、一番先頭を行く桃さんの心話で中断することになりました。桃さんの言葉に視線を前方のはるか先へと向ければ、大きな峡谷がいくつも大地に口を開けていました。その峡谷は上空からでは底は全く見えない程に深く、その峡谷を通る風なのか不気味な音があたりに響きます。

その音を聞いた途端、青藍がバッと急に動いたかと思うと耳を塞いでガタガタと震えだしました。

「青藍、大丈夫だよ。大丈夫……」

龍さんに抱っこされながらも腕を伸ばして、青藍の頭を撫でてから青藍を抱き寄せます。私の動きを察知した龍さんが協力してくれたおかげで無事に青藍を抱きしめることができましたが、その小さな身体から震えが消えません。

その間に金さんは周囲の大地を固めてくれ、全員でそこへと降り立ちました。ようやく地面に戻れて思わず安堵の笑みが零れた私とは反対に、浦さんは綺麗な眉を顰めると

「水の精霊力の澱……それもかなり強固な気配が、この先から感じます」

そう呟きます。周囲には大小いくつもの峡谷があり、その全てから大なり小なり気配を感じるのだそうです。ただその中でも一際強く感じる峡谷があり、それが一番大きな峡谷でした。

「アレか……。俺様も何だか嫌な気分だ」

「水の妖からすれば、そなたは明確な敵だからだろう」

心底嫌そうな顔をした桃さんですが、その顔に怯えの色は全くありません。これが15年前だったら向こう見ずな桃さんだからと評したでしょうが、今は違います。桃さんはこの15年で自分の力量を無駄に大きく見せることはなくなり、同時に出来ないことは出来ないで良いし頼れるところは他人に頼れば良い。それでこそ自分も頼ってもらえるんだと言うようになりました。だから私も率直に尋ねる事ができます。

「桃さん、大丈夫そう??」

「誰に言ってんだ、誰に」

そう笑う桃さんに、

「安心なさい、私も一緒に行きますから」

「我もな」

自信満々な桃さんに、浦さんと金さんがまるで保護者のように言葉を重ねます。そんな二人の言動に桃さんが「おい!」とちょっと不貞腐れてしまいますが、そんなやり取りが出来るぐらいに三太郎さんは気心が知れた仲となりました。

まぁ……、浦さんと桃さんは認めないでしょうけど。




三太郎さんが大峡谷へと向かい、固められた足場には私と青藍と緋桐さん、そして龍さんだけが残りました。その間も青藍の身体は震えが止まらず、私は声をかけながら抱きしめることしかできません。必死に耳を塞いでいる事から、おそらくこの風の音が苦手なのだと思います。

何か気が紛れるような童謡でも歌ってあげようかと思った時、

「何か聞こえないか??」

そう緋桐さんが言い出しました。なので目をつぶり私も耳を済ましますが、聞こえてくるのは悲鳴のような峡谷の風の音ばかりです。

何も聞こえない……そう言おうとした時、風の音の合間に明確に違う音が聞こえました。その音にバッと目をあげて聞こえた方へ向き直り、同時に青藍を庇います。ところが龍さんは私達が見ていた遠くではなく、自分の足元を見ていました。

「いや待て、これはいかん! 緋桐、坊主を抱き上げろ!!!」

その声に反射的に緋桐さんは私から青藍を奪うようにして抱き上げ、その緋桐さんと私を龍さんが抱えて空へと飛び立ちます。途端に金さんが固めたはずの大地が再びヒビ割れはじめ、大きな音を立てて崩れていきました。

「危機一髪助かったって感じ……じゃないわ。まだ危険だった」

助かったと胸をなでおろし、笑顔で龍さんにお礼を言おうとした視線が途中で固定されてしまいました。そこには見慣れないモノがあり、その荒唐無稽さに思考が動きません。

大きな峡谷からにょっきりと出てきた巨大なモノは、今は薄汚れた黄色い犬や熊といった獣の足のように見えますが、先ほどまでは翼のようなものが見えていました。そして今は更に姿を変えて尻尾のようなものが見えます。それらが一時いっときも止まる事なくウヨウヨと蠢いては姿を変え続け、徐々に峡谷から這い出てくるのです。その情報を脳がようやく処理出来た途端、

「ひっっ!」

短い悲鳴が私の喉から漏れ出ました。本能がこれはやばいヤツだと警告を発し続けています。そんな私の悲鳴より少しだけ早く龍さんが高速で後退を開始しましたが、それを止めたのは緋桐さんでした。

「龍様! あの峡谷です!!」

そう緋桐さんが指さしたのは、良くわからない何かが出てきた大峡谷から少し離れたところにある峡谷でした。

「あそこから明らかに何か声が聞こえたのです!」

その方角は、さっき私が異音に気づいて見た方角でした。その報告に龍さんはそちらを見てから、グッと目に力が入りました。何かを悩んでいるかのようですが、龍さんの口から出た言葉は

「櫻、おぬしはどうしたい?」

と私の意思を尋ねるものでした。

「おぬしがあそこに行きたいというのならば、儂は力を貸そう。
 おぬしが逃げたいというのならば、それも力を貸そう。
 全てはおぬし次第じゃ」

優しいのか厳しいのか……、ソレを判断するには龍さんとの時間の積み重ねが足りません。ですがこの場合の答えは一つしかありません。

「行きたい。助けられるモノがあるのなら助けたい!」

私の答えに龍さんは頷くと、緋桐さんが示した峡谷へと向かいました。その間にもあの化け物は這い出てこようとしていて、見たくないのに怖いもの見たさなのかそちらへと視線が向いてしまいます。

「おらぁあ!!! てめぇは消えろ!!!」

曇天に響き渡る大爆音と桃さんの声が聞こえたのは、私達が緋桐さんが指し示した峡谷へ足を踏み入れる直前でした。

「浦、浄化を!!」

「えぇ!! ここから出させません!!」

幾つもの大岩が浮かんでキュルキュルと回転すると、それらがまるで巨大な槍のようになって化け物の上に降り注ぎます。そうすると黄色い布の切れ端のような何かが千切れ飛び、その切れ端を浦さんが次々に浄化していきます。それでも大峡谷から出ようともがく足や翼などに変化する何かを、桃さんが大火球を飛ばして妨害しているようです。

絶え間なく響く爆音の中、三太郎さんたちの声が私に届いていたのは心話で聞いていたからなのかもしれません。

「降りるぞ、しっかり捕まっているのじゃぞ!」

そんな三太郎さんの姿は龍さんの掛け声と同時に見えなくなり、私は闇に包まれたのでした。
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