底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第一章

砂漠

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 僕は今、見知らぬおじさんと旅をしている。熱い砂漠を歩き続けたせいでサンダルスーリの底には大きな穴が開いたし、そこから上がる熱で足の裏はぐちゃぐちゃだ。それに僕なんか気にせずにずんずん歩くから、それを追っかけるのに精一杯でもう倒れそうだ。

「坊主、倒れるなよ」

そう言うならさ、休ませてくれたらいいのに。
僕は歩くのが早い方だって思ってたけど、おじさんの一歩は僕の大股で歩いた一歩くらいに差があるから、朝から晩までそれで歩くのは辛いんだ。でも…文句を言っても変わらない。

「…はい」

 僕の生まれた村は先月、この国の地図から消えてなくなった。国が戦争をして負け、村のあった地域はどっかの国の、別の名前の、知らない人達の住む村になった。

 僕の村の人はみんな死んでしまって、家族では僕1人だけが生き残った。あの日、僕は林の奥に住む大叔母の家に母さんの料理を届けに行った。寝たきりでまともに食事もとれない人だったからそれは毎日の事で、それが僕の命を繋ぐとは思ってもみなかった。急に鳴り響く爆発音に慌てて家に戻った時には…全てが灰になってた。何故僕だけだったのか…。

 きっと生きてる。母さんや兄さん達がそんな簡単に死ぬもんか!そう思って村中を走って名前を呼んだ。けれど、鎮火した家の中からは父さん、母さん、兄さん…まだ幼い妹の丸こげになった遺体があった。未だに僕はそれが現実だとは思えなくて、死んだという事実がまるで他人事の様で…泣けないでいる。

「はぁっはぁっ…こほっ…はぁっはぁっ」 

気が付けば僕は役人に捕まって、知らない場所で売られていた。それまでそこには僕の村の住人がいたけれど、どんどん居なくなって、最後には僕と水車小屋の管理人をしていたばあちゃんの2人だけになった。そしておじさんが僕を買った。

「後半月もすればレークイスに着く、それまで死ぬなよ」

おじさんは人買い。
でも叩いたり蹴ったりする事はなくて、ご飯も食べさせてくれる。良い人でも、悪い人でもない。おじさんと旅に出る前に、別のおじさん達から言われた。

『敗戦国の人間の売り買いはこの世界では合法だから、俺を恨むな』

そう、ただ仕事として人を売り買いしているおじさんに悪意はなくて、ただ…淡々と僕に接していた。

帰りたい。
母さんと父さんに会いたい…
兄さんや妹に会いたい。

「…はぁっ…な、なぁ…何で…僕が売られるの」

何度聞いたか分からない質問を僕は今日もする。何度説明されても理解出来ないから。

「何度も聞くな」

深緑のフード付きのマントに、体をすっぽりと隠す程大きな使い古されたリュックにウエストポーチと革の水入れをぶら下げたおじさんは僕を見た。おじさんの表情は変わらない。笑顔も無ければ怒りもしない。まるで神殿に居た神官みたいに石像の様な顔をしている。髪に隠れて顔もはっきりとは見えないけど、父さんよりも若いだろうってのは何となく分かった。

「だって分からないんだ」

立ち止まって僕は薄汚れた手足を見た。
何で僕は今、こんなに泥だらけなんだろう?
僕は何で歩いている?

「国が負けた、勝った国の戦利品にお前が入った。それだけだ」

おじさんは前を向いて歩き出した。
そんな説明でどう納得したらいいんだよ!
誰に僕を商品にする権利があるだ!
僕の人生は僕の物だ。なのに、なんでおじさんが決めるのさ。

「僕はっ…物じゃない」
「命だって物なんだよ」
「なんで…僕。この国に人間はっ…沢山いるのに…」
「そりゃ、村が割譲された時点でお前は敗戦国ロレントの人間じゃ無くなったからだ。だからと言ってレークイスの人間でも無い。属する場所が無い者を人として扱う事は無いからな…物なんだ」

 熱くて、喉が張り付いて痛い。砂が目に入って涙が止まらない。さっき飲んだ水が出ていってしまうから、泣いちゃ駄目なのに。

「…」
「売られる事は始まりだ…生きるしかないんだ」

少し柔らかくなったおじさんの声に僕はその背中を見上げた。おじさんは日差しから僕を遮る様に右斜めに立っていて、その背中には沢山の荷物が背負われている。僕はぼんやりと、おじさんは人買いをしたい訳じゃ無いのかな?そんな事を思った。









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