底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第二章

戦いの準備

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 暑い。アル…おじさんにイシャバームまで連れてこられた時よりも暑く感じる。頑張って歩くけどアルおじさんの足には追いつけなくて、もう20歩分位先にアルおじさんはいる。

 たまに停まってくれるのは優しくしてくれてるって事だろ?
 だから文句は言えないよな。——うん、良くしてもらってる。

「ハァッ…ハァッ…」

にしても辛ぇよ!

「ユリアー——!砂——だっ!こっちに——っ!」

「え?」

 声が聞こえて顔を上げたけど、アルおじさんがなんて言ったのか聞こえなくて僕はただ立って、もう一度言ってくれるのを待った。

おじさんが駆けてくる。
物凄い顔だっ!怖っ!

ドンッ‼︎

「わっぷ‼︎」

バサッ!

「口を閉じてうつ伏せっ!腕は腹の下だっ!」

慌てて言われた通りにした。
音が怖くて、アルおじさんに抱きつきたかったけど我慢した。

砂嵐だった。

おじさんは荷物を置いて、マントで僕ごと包んで覆い被さってくれていて、それからどれだけ経ったのか分かんないけど、すごい音の中で怖くて、怖すぎて僕はアルおじさんの手首を掴んでた。

「ユリアーナ、大丈夫か」

「……ん」

「良くある事だ」

「…ん」

「…怖かったか」

「ん」

おじさんはマントや荷物の砂を叩き落とすと荷物を抱え直して僕の方を向いた。

砂嵐は本当に怖くて、目の前に見える世界に僕は歩けなくなった。
僕は村で育ったけどそこに知らない事は無かったから。
でも今の僕には全部が怖い。

「これが自然だ…俺達はこれと共に生きていく」

「…うん」

「砂嵐が見えた時、砂丘の上か、下か。状況に応じてどうすれば生き延びられるのかを…俺が教えてやる…怖がるな」

少し笑って見えるアルおじさんの顔に僕はほっとしたんだ。
そしてその顔が父さんと母さんみたいで力が抜けた。

母さん、父さん。
僕は守られてたんだね。
怖く無かったのは守ってくれてたからだ。
だから知らない事ばかりだなんて知らなかったよ。
でもさ、母さん…アルおじさんが一緒なんだ。
父さん、アルおじさんが教えてくれるって言ったんだ。

大丈夫。大丈夫だよ…うん、大丈夫なんだ。

「沢山覚える…ます!だから…教えてくれよ!」

「教えて、下さい —— だ」

「教えて下さいっ‼︎」

大きな手で撫でられた。
一つ覚えたなら撫でて欲しい。
沢山覚えるからさ、
沢山撫でてよ。



 砂嵐が過ぎた後、アルベルトとユリアーナは黙々と歩いて昼前には旅人が集まる休憩所に到着した。

「ユリアーナ。砂漠を渡る時は調理をするな。燃料の無駄だ…ここはまだ良いが別の砂漠は風が強すぎたり、砂爆発が起きたりするからな。干し肉やビスクビスケット、ドライフルーツで腹を満たすんだ」

レークイスに入国する前にある、関所と言って良い中央特区が管理する水上都市サザンガード。イシャバームとサザンガードの間にはそこまで広くはないが砂漠があり、そこには2つのオアシスがあった。

今2人はその1つ、テカハにいる。そして暑さを避ける為に一時休息を取っていた。一息ついた後、アルベルトはイシャバームでのアルシャバーシャとのやり取りをユリアーナに話して聞かせた。だが、その説明にユリアーナはどう自分の立ち位置を理解すれば良いのか考えあぐねている。

「ユリアーナ」

「んぁ?あ、あぁ…うん。果物食べるよ」

「…乾物のな」

「うん」

マグを持つ小さな手、その人差し指がピクピクと痙攣している様に震えていた。アルベルトはテントの中で横になり、棟を見上げ目を瞑る。バサバサと風に揺れるタープの音がやけに煩かった。

「…怖いのか?」

「うん。あ、いや…なんつーか…」

「怖くて当然だ」

だが、自覚すらしてなかった自分の体質にユリアーナは恐怖だ何だのの前に、何故アルシャバーシャは魔力貯蔵タンクを保護していたのかを考えていた。
そして、もしかしたらアルシャバーシャはその弟の様に保護といいつつ彼等から魔力を搾取しているのだろうか、レークイスに行けば自分も…そして自分の所為で争いが起きるのか、そんな恐怖が胸中には渦巻いていた。

「な、なぁ…アル…おじさん」

「…」

「僕…どう…」

「大丈夫だ」

「え?」

「準備はしてある」

「準備?」

そしてアルベルトは起き上がると荷物の中からいくつかの瓶を取り出した。

「姿を変える、権力を盾にする、情報で戦い…儲けて逃げる」

「そんな事…出来るのかよ」

「底辺にいるから出来る事がある…それを知る良い機会だ」

アルベルトの顔に戸惑いや恐怖は無く、一寸の隙も作らない。そんな余裕すら見て取れた。
そんな彼を師と出来た事の幸運に、ユリアーナはマグから伝わる水の冷たさと共に落ち着きを取り戻した。































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