ようこそお嫁様

えみ

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銀行員×20代OL

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男の名前は、ジンという。
職業は銀行員らしい。
今日は休みだったので、ゆっくり私にこの世界のことを説明できるからよかった、と言っていた。


初対面なのに至れり尽くせりで、私は恐縮しっぱなしだった。
ジンはとても優しくて、親切で、初対面の彼の家にいきなり現れた私を、丁寧に扱ってくれる。


朝食を作ってくれて、この世界で食べたサラダと食パン、ベーコンと卵は元の世界と味が変わらずおいしかった。
ジンは私がおいしそうにご飯を食べる姿を見て、小さく微笑みながら、自らもご飯を食べていた。

なんだか照れくさいけど、女の人が少ない世界では、私の存在は珍しいから気になるのだろう。と思っておく。


「少し買い物に行ってくる」

何を買うのかは言わなかったけれど、ジンは私に部屋から出ないように言って、部屋の電子機器の使い方を教えた後に買い物に行った。
テレビや冷蔵庫を見ると、私がいた世界と文明があまり変わらないように思えた。

勝手に使っても良いと言っていたから、お言葉に甘えてテレビをつけた。


テレビにはどのチャンネルも女の人は出なかった。
男の人ばかりで、テレビの中の人も「魔力」とか「魔法」という単語を使い、実際魔法を使っている人が何人もいた。

「本当に、異世界なんだなぁ…」

その言葉をぽつりと呟いたら、少し寂しくなった。

私はこの世界で独りぼっちだ。

前の世界でも肉親はもういなかったけど、それでも私の存在を知っている学友とか会社の人とか、居場所はあったのに。
この世界で、私はどうなるんだろう。



少し自分の考えを整理するために、テレビをつけたまま天井を見つめた。
雑音の中の方が自分の考えを整理できるからだ。


私がこの世界で暮らしていく。
そのために、私が頼れるのはジンしかいない。
そして…この部屋から出るためには、ジンに抱いてもらうしかない。
ジンに抱かれるということは、ジンと生涯を共にすると誓うということだ。
ジンに抱かれず、この部屋から出ようとしたら…男にさらわれて、やはりその男に抱かれるのだろう。男に抱かれたら、もうずっとその人の嫁になるのだ。
私に残された選択肢としては、ジンに抱かれるか、他の男に抱かれるか、だ。
この家から一生出ないという選択肢もきっとあるだろうけど、現実的じゃない。
独りで生きていくことが困難なら、もう結婚以外に選択肢はないようなものだ。


…どうせ、私は処女じゃないし、付き合っていた彼氏にも振られている。
結婚予定だった彼氏ではなく、それ以外の人と結婚するだけのこと。
と、思えば気楽だっただろう…。

”生涯を共にする”相手を、簡単に決められるはずもない。

どれほど相性が良い男、と言っても、互いのことを知らないのに、付き合ってもいないのに、契るのは嫌だ。

…というか、ジンの方がいやなんじゃないかな。
あれだけイケメンなんだから、もっとマシな女の人の方が良かったと思うんだけど。



ごちゃごちゃと考えていたら、ジンが帰ってきた。
1時間くらい家を空けていただろうか。

ドアが開く音がしたので、ソファから立ち上がったら、ドアの前に大量の荷物を持ったジンが立っていた。


「あ、荷物持ちます!」

「大丈夫だ。お前に重いものを持たせられない。」

両手がふさがっているのに、器用に荷物を置いていく。
何か手伝えることが無いかと近づくと、ジンがもっていた荷物のいくつかが見えた。

食料が入っている袋以外に、服が入っている袋もあった。

ジンは、食料が入っている袋以外のものだけを持って、「部屋に案内するから、ついてきてくれ」と言った。

私の部屋を用意してくれるということか。
そして、ジンの持っている荷物は、私のこれからの生活に必要なものってことだろう。
…買い物って、私のものを買いに行ってくれていたんだなぁ。

「ジンさん、あの、そんなにいろんなことをしてもらうのは、申し訳ないです…!」

ジンを追いかけて、廊下に出たところで彼に声をかける。
すると、ジンはちらっと私の方に視線を向けて、ぽつりと呟いた。

「…お前は、俺の元に渡ってきた。だから…」


それ以上は、言葉を発することなく、ちょっと頬を染めて、ジンは再び歩き出した。


ジンが用意してくれた部屋は、ジンの部屋の隣だった。

「俺の横の部屋の方が、何かあったとき安心だから」

何かあったとき、って…何かあるんですか?
もしかして、魔法なんてものがある世界だから、命を狙われたりするの??

と、ちょっと怖くなったけど、ジンがいたら大丈夫ってことだと信じる。



「部屋の中に荷物を入れておく。女が渡ってきたときに必要と聞いているものだけ買ってきただけから、他にも必要なものがあったら、遠慮なく言ってくれ」

部屋の中は、ベッドも毛布もあって、収納に必要なタンスやクローゼットもあった。
誰かが泊まりにきたら、いつでも使えるようにしていたらしい。
使ったためしがないってことなので、すべて新品みたいだ。

「こんなに親切にしてもらって…ありがとうございます。この恩は、いつか返しますね」

至れり尽くせりな待遇で、本当に申し訳なくなってくる。
しかし、ジンは気にした風もなく、じっと私を見つめた。
ふと我に返ったかと思うと、「この部屋は好きに使ってくれ」と言ってそそくさと部屋を出て行った。






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