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銀行員×20代OL
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ジンとの生活は、はじめは戸惑うことがいくつもあったけれど、十日もあれば大分慣れてきた。
家事は私が基本、ジンがいたら一緒にするように決まった。
というか、家事をする権利を一週間かけて勝ち取った。
ジンは私の手料理をとてもおいしそうに食べてくれるけど、この世界は女の人に料理をさせるという文化があまりないようで、抵抗があったみたいだ。
それでも、私が家の中で肩身が狭い思いをしちゃうからちょっとくらい家のことをさせて欲しいと説得を試みると、「負担にならない程度にする、と約束してくれるなら…」ということで、承諾してくれた。
仕事をしていた人間が仕事もせず、家で何もすることが無い人生を送れ、と言われてもストレスがたまるだけだ。せめて家事くらいさせてくれと私は食い下がって、一週間かけて説得した。
一週間かかっちゃった、と言うべきか。
家事以外にも、私は時々ジンに関して思うところはある。
毎日のように、何か欲しいものはないか、足りないものはないかと聞いてくるのだ。
ご飯の準備に必要なものだけをお願いすると、ちょっと落ち込んで、私がお願いしたものを買ってきてくれる。
私が家から出られないから、不自由ないように気遣ってくれているのだ。
こんなふうに、ジンは私を過剰に大切にしようとしてくれるから、恋人でもないただの居候にそんなことをしたら勘違いされちゃうぞーと言ってやりたいんだけど、
ジンの様子を見ていると、「勘違いしろ」と言ってきそうな雰囲気を持っているから、下手なことは言えない。
だから、私はいつも「やりすぎ」という言葉を飲み込んで「ありがとう」と伝えるようにしている。
ジンにブレーキをかけてもらう方法を私は知らないから、下手なことを言って変な関係性になるくらいなら、お礼を言ってジンの嬉しそうな顔を見ている方が楽だからだ。
夕食の準備をしていると、玄関の鍵があく音がする。
家主の帰りを知らせる音として、ドアがあいたら小さな鈴が鳴るようになっている。
その音を聞いて、私は鍋の火を消して、玄関にパタパタと駆け足で向かった。
「ただいま」
私が玄関に着くと、ジンはとても幸せそうな顔をして、やさしく微笑んだ。
うーん…。新婚さんみたいだ。
「ご飯の準備ができるまであと少し時間があるから、先にお風呂に入る?」
鞄を受け取ろうと両手を出すと、ジンは自ら鞄を抱えなおして「重いからいい」と言って、あいた手で私の頭をぽんぽんと撫でた。
うー-ん…甘い…!
何て反応を返したら良いかわからないから、取り敢えずそのままにしておく。
拒否したら悲しそうな顔をするんだよね…。
2日前に私の髪の毛にほこりがついてるのを取ってくれようとして、私が思わず身体を反らしたらとても悲しそうな顔をされた。いや、イケメンが頭に手を触れようとしてきて正常でいられる女子はそんなに多くない。私は特に免疫がない方なので、取り敢えず驚いてしまうのだ。
一先ず、驚いただけだと説明してちゃんとほこりを取ってもらったら、昨日から時折頭をなでられるというオプションが付きました。
「ご飯の準備、一緒にしていいか?」
「え、でも、疲れてるでしょ?」
「まゆみと一緒にご飯を作りたい」
玄関まで来てから、ジンはソファに鞄と上着を置いて、シャツを腕まくりした。
イケメンのそういう仕草は本当に格好いいから、やめてもらいたい…!
見てはいけないものを見てしまっているように思えて、さっと視線を外して鍋に火をつけた。
するとすぐにジンは私の横に来て、鍋の中を見て「今日もうまそうだな」とご飯の初見の感想を言ってくる。
…うん、頑張って作ったからそう言ってくれることは嬉しいんだけどね!
耳元で低温ボイスで呟かれると、胸が煩くなって仕方がない。
一先ず、気にしないフリをして、悟られないように会話を続ける。
「今日は肉じゃがにしたよ。この世界にもあったよね?」
「ああ、まゆみの作る肉じゃが、楽しみだ。こっちは…焼き魚か?」
「うん、昨日買ってきてくれたサンマを焼いてみたんだ。塩焼きだけど、大丈夫だった?」
「まゆみが作るものに問題があるわけないだろ。昨日のオムライスもおいしかった」
甘い甘い…!
こう、何かしらべた褒めしてくるから、こっちとしては何て返して良いかわからず、恥ずかしくなってしまう。
普通に「ありがとう」って返したとしても、ジンの目を見ることができない。
…多分、すごく“愛しい”みたいな目をしていると思うから。
「あと少しで魚が焼きあがるから、そうしたら食べちゃおうか」
「それなら、ご飯を装うのは俺がする」
するりと私の手からお玉を奪う。
私が言葉を発する前に、ジンは「器に入れるときに汁が飛んだら大変だ」と過保護を通り越したようなことを言う。
この世界の女の人がすごく大切にされているのは分かるんだけど、これは行きすぎじゃないのかな?と思っちゃうくらいだ。
…比べる人がいないからわからないけど、こうまでお嬢様扱いされると、むずむずしてしまう。
でも、反対したらジンが悲しそうな顔をすると思うので、ご飯を装うのは任せることにした。
代わりに飲み物の準備でもしよう。
「あ、まゆみ。サンマも俺がもっていくから、椅子に座ってて。料理頑張って疲れただろ?」
こんな人相手に、料理をする権利を勝ち取った私は褒めて良いと思う。
家事は私が基本、ジンがいたら一緒にするように決まった。
というか、家事をする権利を一週間かけて勝ち取った。
ジンは私の手料理をとてもおいしそうに食べてくれるけど、この世界は女の人に料理をさせるという文化があまりないようで、抵抗があったみたいだ。
それでも、私が家の中で肩身が狭い思いをしちゃうからちょっとくらい家のことをさせて欲しいと説得を試みると、「負担にならない程度にする、と約束してくれるなら…」ということで、承諾してくれた。
仕事をしていた人間が仕事もせず、家で何もすることが無い人生を送れ、と言われてもストレスがたまるだけだ。せめて家事くらいさせてくれと私は食い下がって、一週間かけて説得した。
一週間かかっちゃった、と言うべきか。
家事以外にも、私は時々ジンに関して思うところはある。
毎日のように、何か欲しいものはないか、足りないものはないかと聞いてくるのだ。
ご飯の準備に必要なものだけをお願いすると、ちょっと落ち込んで、私がお願いしたものを買ってきてくれる。
私が家から出られないから、不自由ないように気遣ってくれているのだ。
こんなふうに、ジンは私を過剰に大切にしようとしてくれるから、恋人でもないただの居候にそんなことをしたら勘違いされちゃうぞーと言ってやりたいんだけど、
ジンの様子を見ていると、「勘違いしろ」と言ってきそうな雰囲気を持っているから、下手なことは言えない。
だから、私はいつも「やりすぎ」という言葉を飲み込んで「ありがとう」と伝えるようにしている。
ジンにブレーキをかけてもらう方法を私は知らないから、下手なことを言って変な関係性になるくらいなら、お礼を言ってジンの嬉しそうな顔を見ている方が楽だからだ。
夕食の準備をしていると、玄関の鍵があく音がする。
家主の帰りを知らせる音として、ドアがあいたら小さな鈴が鳴るようになっている。
その音を聞いて、私は鍋の火を消して、玄関にパタパタと駆け足で向かった。
「ただいま」
私が玄関に着くと、ジンはとても幸せそうな顔をして、やさしく微笑んだ。
うーん…。新婚さんみたいだ。
「ご飯の準備ができるまであと少し時間があるから、先にお風呂に入る?」
鞄を受け取ろうと両手を出すと、ジンは自ら鞄を抱えなおして「重いからいい」と言って、あいた手で私の頭をぽんぽんと撫でた。
うー-ん…甘い…!
何て反応を返したら良いかわからないから、取り敢えずそのままにしておく。
拒否したら悲しそうな顔をするんだよね…。
2日前に私の髪の毛にほこりがついてるのを取ってくれようとして、私が思わず身体を反らしたらとても悲しそうな顔をされた。いや、イケメンが頭に手を触れようとしてきて正常でいられる女子はそんなに多くない。私は特に免疫がない方なので、取り敢えず驚いてしまうのだ。
一先ず、驚いただけだと説明してちゃんとほこりを取ってもらったら、昨日から時折頭をなでられるというオプションが付きました。
「ご飯の準備、一緒にしていいか?」
「え、でも、疲れてるでしょ?」
「まゆみと一緒にご飯を作りたい」
玄関まで来てから、ジンはソファに鞄と上着を置いて、シャツを腕まくりした。
イケメンのそういう仕草は本当に格好いいから、やめてもらいたい…!
見てはいけないものを見てしまっているように思えて、さっと視線を外して鍋に火をつけた。
するとすぐにジンは私の横に来て、鍋の中を見て「今日もうまそうだな」とご飯の初見の感想を言ってくる。
…うん、頑張って作ったからそう言ってくれることは嬉しいんだけどね!
耳元で低温ボイスで呟かれると、胸が煩くなって仕方がない。
一先ず、気にしないフリをして、悟られないように会話を続ける。
「今日は肉じゃがにしたよ。この世界にもあったよね?」
「ああ、まゆみの作る肉じゃが、楽しみだ。こっちは…焼き魚か?」
「うん、昨日買ってきてくれたサンマを焼いてみたんだ。塩焼きだけど、大丈夫だった?」
「まゆみが作るものに問題があるわけないだろ。昨日のオムライスもおいしかった」
甘い甘い…!
こう、何かしらべた褒めしてくるから、こっちとしては何て返して良いかわからず、恥ずかしくなってしまう。
普通に「ありがとう」って返したとしても、ジンの目を見ることができない。
…多分、すごく“愛しい”みたいな目をしていると思うから。
「あと少しで魚が焼きあがるから、そうしたら食べちゃおうか」
「それなら、ご飯を装うのは俺がする」
するりと私の手からお玉を奪う。
私が言葉を発する前に、ジンは「器に入れるときに汁が飛んだら大変だ」と過保護を通り越したようなことを言う。
この世界の女の人がすごく大切にされているのは分かるんだけど、これは行きすぎじゃないのかな?と思っちゃうくらいだ。
…比べる人がいないからわからないけど、こうまでお嬢様扱いされると、むずむずしてしまう。
でも、反対したらジンが悲しそうな顔をすると思うので、ご飯を装うのは任せることにした。
代わりに飲み物の準備でもしよう。
「あ、まゆみ。サンマも俺がもっていくから、椅子に座ってて。料理頑張って疲れただろ?」
こんな人相手に、料理をする権利を勝ち取った私は褒めて良いと思う。
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