私の番はこの世界で醜いと言われる人だった

えみ

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獣人さんの手がふるふると震えだした。

そして、またすぐに泣き声を我慢する音が聞こえた。

あぁ、折角(多分)泣き止んでたのに…と思ったけど、後の祭りだ。

獣人さんはぐずぐずと泣きながら、「私だってこんな見た目じゃなければ…」「君が獣人だったなら…」と小さく呟いた。


あぁ、となんとなく察した。

今までの言葉を繋げて、恐らく、この推測は間違いない。

多分この獣人さんは、醜いとかブサイクと言われるタイプの人で、
劣等感を抱きながら育ってきて、
番に対してとても執着しちゃう種族だったんだけど、
番を見つけたと思ったら相手が人間だった。


私はあんまりよく分からないけど、聞いたことがある。
獣人の番が人間だった場合、悲惨な最後を迎えることは結構あるらしい。
人間は番とか分からないから、獣人が番として見つけた人間が結婚してたり、恋人がいたりすると、獣人は一生独身を貫いたり、別れさせようと画策したりするならまだ軽い方で、種族によっては狂ったり、殺したり自殺したり…。
もしも人間に恋人がいなくて、獣人からのアプローチで付き合っても、人間は番がいないと生きていけないわけではないから、人間が別れたがって修羅場になっちゃったりとか。
全部聞いた話だし、私の周囲に獣人の人がいても番に出会ってる人はいないから、あんまり信じてなかったけど…この目の前にいる獣人の様子から、噂は本当らしい。

人間からは番は分からないけど、相手の獣人が世間的にイケメンと言われる見た目であれば結婚できることは多いだろう。
(好みもあるとは思うけど)
しかし、目の前の獣人さんは…

ブサイクなんだろうなぁ…
この世界基準で。


私がこの世界で好みの人と恋愛するのを嫌がった理由は、そこだ。
結構見た目を重視する人が多いのだ、この世界は!
そうなると、ブサイクと言われる人たちはもう自尊心も低いし劣等感でいっぱいだから、ひたすらこちらがアプローチを続けなければいけないのだ。

こちらは愛して欲しいのに、なんでまた前世と同じように一方的に愛を捧がないといけないんだ…!!

相思相愛って言葉知ってる!?と聞きたくなる!


なんだか、目の前の獣人さんに対する同情心が、怒りに変わりそうだ。
だめだ、目の前の人を落ち着かせないと。
と、気持ちを切り替えようとしたその時、

獣人さんは、私の目を隠している手を離した。


え、と思った時には、獣人さんは私をぎゅうぎゅうと抱きしめていた。


「すまない、すまない…分かっている、私のわがままなんだ…!君は、私に見つけられなかったら、こんなことにはなってなかった…!」

私の肩が少し濡れた。
それでもお構いなしに、獣人さんは私の身体を掻き抱いて、私の肩に顔を押し付ける。

泣き止んでくれるならいくらでも肩を貸すけど、目を隠さなくて大丈夫なの?と一瞬慌てたが、獣人さんはそれどころじゃない。
ぎゅうぎゅうと離してくれそうにないので、まぁ確かにこれだと顔は見えないからセーフか?と思い直して、私はされるがまま抱きしめられていた。


「君のことが好きなんだ!愛してる…!でも、この世では私は君に愛してもらえないから…お願いだ、私の愛しい番…一緒に…」

「あれ?」


思わず声が出た。

獣人さんはびくりと身体を跳ねさせたが、私は今それどころじゃない。


気づいてしまった。

そうだ…!今まで相手が人間だったから、うまくいかなかったのか…!

なぜ思い至らなかったのか…
これで、私の16年間の悩みも、この獣人さんの悩みも全て解決する…!

愛し愛されたい私は、一人でいることを選んだ。
同じく愛し愛されたい獣人さんは、一緒に死ぬことを選んだ。

都合の良いことに、私と獣人さんは番なのだ。
ならば、最も良い解決方法ができたじゃないか…!


「獣人さん、もう一つお願いがあります。」

「な、なんだ…?」


恐る恐るといったふうに、獣人さんは返事をした。
突然言葉を遮った私が、どんな行動をするのか不安なのだろう。
それでも、尋ねてくれるのは優しいなぁと思った。

ならば、やはり私の取る選択は一つだけだ。



「恋人になってもらえませんか?」
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