私の番はこの世界で醜いと言われる人だった

えみ

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恋人になりました

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私の動きを少しは予想していたのか、獣人さんは私の顔の動きを追うように、私の目を隠そうと手で覆った。

顔は見えなかった。

しかし、私はこれで引く女じゃない。
使えるものは使うべきだ。
多少それが卑怯なことであっても、命がかかっているのだから…!

「痛っ…!」

あえて、獣人さんの手が目の近くに当たるように持って行った。

私の声に反応した獣人さんは、咄嗟に手を引いて、私の怪我の安否を確認するために私の腰を引いた。

「すまない!痛かったのか!どこが当たった!?見せてくれ…!」

さっきまで殺そうとしてたのに、私がちょっと痛がったら心配して顔を隠すのも忘れてしまうなんて…本当に私のことが好きなのだろう。

とても真剣に私の顔を見て、どこか赤くなってないか必死に探している。
すまない、と何度も謝っていて、そんな姿を見ていると、この人がどんどん愛おしくなってきた。

一人のことをとても深く気にかけるなんて、それを私に向けてくれているなんて…
まだお互いのこと、名前も知らないのに、とても大切にしてくれている…

私も、同じように気持ちを返したい。


衝動的にそう思った私は、騙してしまったお詫びも含めて、獣人さんの唇に触れるだけのキスをした。





ピタリと本日数回目の硬直をした獣人さんの顔を、その隙にまじまじと見る。

うん、眉毛も結構太くて、目も険しい。唇は緊張のためか、かさかさしていて…多分私より10歳くらい上かな、26歳くらい?
顔はがっしりしてる身体とマッチしてる。

なんだ、一応覚悟して見たんだけど、結構好きだよ。

あぁ、この人が私の恋人なんだ…って、ちょっときゅんとした。


しかし、私が何か言葉を発する前に、獣人さんは「ぁあぁああ…!」と言って、顔を両腕で隠して、身体を小さくさせた。

あぁ、隠さなくて良いのに…

それにしても、私より年上の人が私の行動でこんなに動揺するのは、なんだかとても嬉しい。
みっともないとか思わないのも不思議だ。

「見ないでくれ…!」

いや、しっかり見させてもらいますよ。
恋人の姿だもん。
あ、まだ恋人じゃないのか。

私が何かを発する前に、恐らく察したであろう獣人さんは、「やめてくれ!」と私の言葉を遮った。

「頼む、何も言わないでくれ…!君に言われたら、私は…!」

私が何を言うというのか。
醜いとかブサイクなんて一切思っていないのに。

それにしても、私がさっき痛がってから、獣人さんは私の目を覆いたくても口を塞ぎたくてももう私に触れてこなくなった。
どれだけ愛情深いんだろう。
そういうところも好感が持てる。
またちょっと好きになった。

だから、早く誤解をときたい。


私は獣人さんの顔を覆ってる手に自らの手を重ねて、努めて愛情深い声で呼びかけた。

「見た目は好みですよ。そうじゃなかったら、キスしないです。」

顔を見る前にキスしちゃったけどね。
でも顔を見る前からもうこの人と恋人になりたいと思ったのだから、問題ない。

「好きって言ってくれて、すごく嬉しかったんです。」

私のことをこんなに深く愛してくれる人、見たことがない。
一緒に死のうとするのはいただけないが、それは相思相愛になって、獣人さんに私のことを分かってもらえたらお互い死なずに済む話だ。

「貴方の中身も知りたいんです。だから…」



獣人さんは、目を大きく開いて、恐る恐る腕を退けた。




「恋人に、なってくれませんか?」





獣人さんは、たっぷり間を置いて、小さく、本当に小さくだけど、頷いた。
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