古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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intermission 9 真昼の珍事!?

騒がしい夜更け

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Side-デュエル 9

 夜も更けて明かりもまばらになった街中で、帰路につく俺とラスファは疲れ切っていた。

 あれからの後始末や報告書の作成、犯人の送検や被害状況の確認…。こんな面倒なことをラインハルトは生業にしているのかと思うと、マジで尊敬するよ。

 そう言っている間にも、美人局に引っかかったアーチが戻ってきて、さらに詰所は多忙を極めることになった。夕食もすっ飛ばして粗方の処理が終わる頃には真夜中に近くなっていた。二つの事件が一気に片付いたとは言え、ハードすぎる一日だった。

「そういえば…あの被害者、見逃したんだな」
 だるそうにラスファが呟いた。ああ、やっぱり彼にはバレていたか。

「知ってたのか?」
 俺の短い疑問に、彼は黙って頷く。
「いいんじゃないのか? 結局は返却されてるんだし、あのドサクサだ。誰も疑問にすら思わなかっただろうな」
 その言葉に苦笑いで返すと、俺はあの後のことを思い返した。



 犯人の女を捕まえた、その後。
 口をつぐんだまま俯く彼女の髪飾りに、俺は黙って解除キーである花飾りを挿し込んだ。
「『想いは届き、咲き誇る』」

  ———ぱきん!

 やっとの思いで女から聞き出した合言葉コマンドワードを小声で呟くと、髪飾りから細かい花がこぼれ落ちた。それまで派手で個性的なデザインだった髪飾りが、急にシンプルで上品なものに変わる。なかなか粋な演出だ。

 ラナさんは驚いたように俺を見上げた。何か言おうとする彼女を制して、俺は一言だけ言葉をかけた。
「あんたはもう、十分に罰を受けただろ? 過ぎたぐらいのお仕置きを」

  衝動的な万引きの自業自得とはいえ、一日中呪いにかけられた挙句に荒くれ者に絡まれ続けて逃げ回ってきたんだ。相当な恐怖だったろうことは想像に難くない。彼女のほおが紅潮して、目に涙をたたえている。気まずさを誤魔化して、俺は仲間に声をかけた。

「なあ、彼女はもう家に帰していいよな?」
「ああ、呪いは解けたんだな? 良かった、本当に良かった!」
 近くにいたエドガーが満面の笑みで大きく頷いた。万引きのことに気づいた様子もない。言っちゃ悪いが、こいつが鈍くて本当に助かった。

  遅くなったこともあり、詰所から大きな通りまで送る道中で。不意に彼女は振り返った。
「デュエルさんは散々な一日って言いましたが…やっぱり私には特別な一日でした」
「?」
「大変な目にはあいましたがラスファさんやエドガーさん、そして…貴方に出逢えたんですから」
 それだけ言うと、俺の手に髪切りを押し付けた。
「いつかもっと女を磨いて、この髪飾りにふさわしくなったら…また取りに来ます。それまで、預かって下さいね」

 いたずらっぽい笑みを残して彼女は雑踏に消えて行く。手の中の髪飾りが涼やかな音を立てた。
  


「勝手なことだったか?」
 回想から我に帰ると、連なって浮かぶふたつの月を見上げながらラスファがかぶりを振る。
「かえって助かった。あの上万引き事件まで上乗せされたとなれば、帰りは日付が変わっていただろうな」

  彼らしいバッサリとした返答に、俺は吹き出した。確かにそうだ!
 ちなみにアーチは面倒な調書が終わり次第、夜の街に駆け込んで行った。本当に懲りない男だ。

  冒険者の都にして、観光都市エルダード。そこでは大小取り混ぜて日常的に事件が起きる。
  こんな日があっても、別段おかしくないじゃないか。刺激的な日常は、いつものこと。
「よーう、お二人さん! 帰る前に、どっかで飯食わねぇ?」
 後ろから能天気なアーチの声。今夜はどうやら、空振りだったようだな。
 
「貴様、どのツラ下げて!」
「まーまー、堅てェ事言うなって!」
「お前ら、夜中にあまり騒ぐなよ…」
 ふたつの月に見守られ、今日も夜が更けて行った。
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