古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は（俺・オレ・私・あたし・わたくし）のターン〜

mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者！

ラスボス戦だ、全員集合！

Side-アーチ 7

 最前列のデュエルに続き、オレとラドフォードの旦那はさりげなく前列に出て改めて武器を握り直す。アーシェは召喚札の準備を始め、弟子は小声で聖句を唱えて聖印を握りしめる。よしよし。いい反応だ。師匠として鼻が高いぜ？  しっかりやれよ！
 もはや敵の怒りは、理性を飛ばす寸前だ。そこで、弟子が小声で注意を促す。
「気をつけてください、魔族を宿した敵なら通常の武器は効きません。神官魔法をかけますのでお待ちください」
 さほど長くない詠唱とともに、オレらの武器が一斉に白い光を放つ。仕掛けようとしたラドフォードのダンナを、ラスファは引き戻した。
「絶対に怪我するな。借り物の体なんだろう？」
 その言葉にハッとして、神妙にうなづくラドフォードのダンナ。そのオレらの前には、魔法防御の結界が張られた。こいつは、アーシェの古代語魔法だな。
「召喚の前に、まずはこれよね。次は何か出すから！」
  ラスファが小さくうなづく。
「準備はできたのか？ 全て耐え切って、丁寧に叩き潰してくれる！」
 なるほど、自信たっぷりに準備が揃うのを待って効かない攻撃で絶望させるつもりか。一握り残った理性が仇にならなきゃいいけどな？
 そこにジャブとばかりの数本の矢が一斉に放たれた。どういう射ち方してやがんのか、全てが奴に叩き込まれる。ラグの神聖呪文が功を奏したか、さっきと違って大きく仰け反り苦痛を露わにするパズス。よし、いけそうだ！
 「偉いぞ弟子！ 次はオレだ！」
弟子の活躍を確信し、オレとデュエルが同時に短剣と槍を閃かせる。同時攻撃は避けられず全て食らって苦痛の呻きをあげた。薄い手応えの割に、結構な苦しみようだ。効果はあったみてぇだな。なんでぇ、たいしたことねぇな。散々偉そうなこと言っといて、所詮は低級魔族のあがきかよ？
 畳み掛けるようにラドフォードの旦那は、自前の剣を叩き込む。これで終わるかとも思ったが、唯一ビクともしなかった足元から反動をつけるように勢いよく立ち直った。足に重しでも仕込んでいたような動きだ。あーあ、かなり人間離れが進んでんな。
「が…あ…何故…？」
 しかしおかしい。変な動きの割に奴の苦しみようは尋常じゃねぇ。その様子を見て何か悟ったのか、ラスファが嫌悪を込めたため息をついた。
「なるほどな。本来、貴様の中の魔族が受けるべき苦痛を肩代わりさせているのか。今までは通常の武器だからごまかしは効いた。だが、魔力を帯びた武器ともなれば話は別だ」
 そして、再び淡い輝きを放つ弓を向ける。
「結局、貴様は利用したつもりの魔族に利用されたわけだ」
「そ…そんな！ 何とかできないんですか？」
 慌てたような弟子の問いかけに、奴は「無理だ」とかぶりを振る。
「過ぎた力を求めた、その代償だ。最初から、救えるはずもない」
 苦しむパズスに、デュエルは重々しい口調で槍を向ける。
「なら…俺たちがしてやれることは、ただ一つ」
どうも後味悪くなりそうだが、オレもデュエルに続いた。
「そうだな、せめてこの場で終わらせてやるか」
『ああ。…昔馴染みのよしみだ。楽にしてやる』
 それまでのやりとりを聞き、ラドフォードの旦那が剣を構えたところで一気に逆上したらしい。奴は何か、呪文の詠唱を始めた。まずい！
「おのれええええええっ！」
「だめえっ！ 止めて、『ついんずぱんさあ』！」
 その時、呪文の準備をしていたアーシェが召喚札を投げた。その着地地点から、光の輪が瞬時に広がる。…っておい！ よりによってありゃ、暗殺者もどきを足止めした黄色い双子ネコじゃねぇか！
「きゅー！」「きゅきゅー！」
 アーシェが召喚した双子ネコは片方は顔面に飛びつき、もう片方はローブの裾に食いついて引っ張りヤバげな魔法を妨害した。やるじゃねぇか！ そいつらはそのまま、パズスの周りを跳ね回ってうまく動きを封じてやがる。ナイスだ、黙ってりゃ愛玩動物のくせに、いい仕事するじゃねぇか！ あとで小魚買ってやる！