古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!

未来を目指せ、英雄候補!

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Side-デュエル 17

  ラドフォード卿が何に気づいたのか、俺たちには分からなかった。だが、何処となく空気が変わったことはわかる。そして、彼が抱えていた装飾剣を傍らのテーブルに静かに置いた。
「なっ…!」
その途端、そこに立派な騎士姿の半透明の人影が現れた。見覚えがあると思ったら、あの遺跡にあった遺体と同じ鎧を着ているんだ。ということはこれが、ラドフォード卿の真の姿ということか。
 って…ちょっと待て、俺ってこの手のやつ視たの初めてなんだが?そう思って思わずラスファを振り返った。彼は無言で頷く。ああ、そういうことか。気を利かせたラスファがうまく魔力を貸して、俺たちにも視えるようにしているんだ。やるな。
『やっとわかった、私に会いたいという相手が。マリーナ、君なんだろう?』
 その声に呼ばれたように、同じく半透明の上品な白髪の老婦人が 彼に寄り添うように現れた。
『五十年も待たせてすまなかった。これでやっと、約束が果たせたな』
 彼の言葉に、マリーナさんは静かに涙を流す。
『もう少し、待っていられればよかったんだけどね。ふふ、待ってる間にこんなおばあちゃんになっちゃったわ…でも会えて、よかった』
『いや、私こそ…こうして会えて嬉しい。あれからだいぶ時が経ってしまったが、変わらないな、君は。いい人生を送ったのだろうね』
『次こそは、あなたと歩んでみたいわね。でも…』
 この光景を見たら、ロマンス小説が大好物の少女二人は感動するだろう。あの二人のことだ、この場にいなかったことを後悔するに違いない。だが、ロマンスはこれで打ち止めだった。

『元はと言えば、私が死んだ途端に短剣をさっさと売りに出したうちの孫のせいでこんなややこしいことに…本当にごめんなさいね、あの子には私が夢枕に立って、きっちりとお説教しておくわ。全くもう、いつまで経ってもギャンブル癖が抜けなくて困ったものだわ。…本当にごめんなさいね』
「いや、トラウマ残るからやめとけ」
 最後の一言は、こっちに向いての謝罪だ。俺たちを見回して頭を下げる幽霊に、中継しているラスファがツッコんだ。全くだ。

 あの時に彼がもたらした情報は、彼女から実際に聞いたことだったそうだ。当時の当事者に聞いただけに、疑いようもない情報だ。その話と引き換えに出された条件が『ラドフォード卿と引き合わせること』だったんだそうだ。
『あなたはそれで、これからどうするの?』
 マリーナさんがラドフォード卿に向き直って、小悪魔的な笑みを向ける。きっと若い頃にも相当、魅力的だったに違いない。
『あなたのことだから、まだまだ冒険したりないんじゃないの?』
 その言葉に、ラドフォード卿が言葉をつまらせた。
『まだまだかなわないな、君には。体を貸してくれたレオン殿と体が回復するまでの間、何度も話し合ったんだが…』
 今まで黙っていたレオンが、そこで口を挟んだ。
「オレ…鍛治修行もするけど、ラドフォード卿みたいに人を救える冒険者にもなりたいって思うようになったんだ! オレの両親は、無実の罪を着せられて放浪した挙句に死んでいった。その仇だっていつか討ってやりたいし、オレみたいに苦しむ奴を少しでも助けたいんだ。そのために強くなりたいし、勉強もしたい!」
 思わぬ彼の強い志に、全員が押し黙った。無言でラドフォード卿に視線が集まる。
『立派な志じゃないの。もう少しなら、いいんじゃないの? この坊やの修行に、しっかりと付き合ってあげなさいな。私のバカ孫にも爪の垢をたっぷりと煎じて飲ませてやりたいわね…。そうそう、その志に免じてその短剣は私からの遺言ってことにして坊やにあげるわ。大丈夫、直筆の遺言状を孫の枕元に置いてあげる。あとで孫が文句言ってきたら、いくらでも化けて出てあげるから、遠慮しないでいいわ!』
「…あんた、化けて出るの楽しくなってきてないか?」
  ラスファのツッコミをよそに、レオンが戸惑った声を上げる。
「いいのか? オレ、何の縁もないのに…」
『縁ならあるわ。彼に体を貸してくれたじゃないの。そのお礼をさせてちょうだいな。もちろん、商人からの買い戻しも孫に実費でさせるから心配しないで』
 あ、これ短剣売った孫に相当キレてるな絶対。
 それだけ言うと、彼女は姿を消した。言った通りのことを実行するつもりなのだろう。言っちゃ何だが…ここまでアクティブな幽霊、初めて見た。いや、幽霊自体初めてなんだが。
 この先、彼女の討伐依頼が宿に舞い込んで来ないことを俺は祈らざるを得なかった。
 
 残されたレオンは、静かに短剣を手に取った。
「その…これから師匠って呼んでもいいか?」
『私から教えることは、剣術や体術が中心になる。他の勉強については…最近の出来事をとんと知らないので、役に立てそうもないが』
 苦笑いを含む表情で、ラドフォード卿は優しく頷く。それを聞くと、レオンは表情を輝かせて力強く頷いた。
「よろしくお願いします、師匠!」
 
 そして今度は、俺たち三人に向き直った。
「先輩! オレ、師匠に体貸してる間も周りの状況が見えてました。先輩たちの活躍も、ばっちり! すげーカッコよかったです! これからも、よろしくお願いします、先輩!」
「お…おう…」
 まさか、こっちにもくるとは思わなかった。いきなりきた慣れない展開に、俺たちはそれぞれ目を逸らす。まあ、悪い気はしないが。


 そのレオンだが、たまに鍛治師の師匠でもあるガルドのおやっさんに稽古をつけてもらっているようだ。気がつけばオレやラインハルトのことを兄弟子と呼ぶようになった。
 勉強の方も、たまにアーチやラスファがそれぞれの得意分野を教えているが…こっちはかなり苦労しているらしい。ラスファはともかく、アーチは要らんことも教えそうで怖いんだが…。まあ、これからに期待だ!


 未来の英雄候補が、誕生したかもしれないのだから!
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