古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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intermission 1 ~観光大使の野望~

昼のアクシデント ~緊急事態!~

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Side-フランシス 6

 さて、宿を出てレッスン場所に向かわなくては!
 
 宿に面した通りは整然とした石畳が並ぶ美しい景観で、観光客の目を楽しませている。果実水や焼き菓子の洒落た屋台が並び、酒や焼き鳥の屋台も点在して行列をなしていた。僕としては早くレッスン場に行きたいんだけど…この完璧な美しさだからね。当然、観光客も放っておかないのさ。ただ歩くだけで屋台に並ぶ観光客達が、僕の姿を見つけて注目を始める。女性客は華やいだ声をあげ、陽気な酔っ払いからは背中を叩かれる。まあ見た目から観光大使って丸わかりだし、歩くだけで注目の的なのさ。いやあ、人気者は困るなあ♪

 しかしその時、異変は起こった。

 僕のいるすぐそばの建物は『立入禁止』の立て札とバリケード、そして簡単な魔法陣で閉ざされている。大抵の観光客達は「『冒険者』の街って感じ。 面白い!」という感想を持つが、ここはそんな呑気な場所じゃない。街中にあっても調査が後回しになっている場所…『空白地帯』だ。さっきも言ったように、ここは未探索地帯。逆にいえば魔物がいつ出て来るかわからない。
 その危険地帯で、その建物が内側から何かの体当たりを受けてヒビが入り広がってる! これはヤバい!

「皆さん、ここから離れてください! 早く!」
 とっさに左右の観光客に向かって警告をするけれども、誰も聞こうとしなかった。
「お? なんだなんだ、何かイベントか?」
 「うわあ、これって最近噂のシークレットイベントかな? まさか見えると思ってなかったわ! 超ラッキー!」
 ダメだ…こんな観光大使姿の僕が言っても、平和ボケした観光客相手には説得力がなさすぎるんだ! その時、近くを通りかかった人たちの中に見知った顔を見つけた。たまたま通りかかったらしい。同じ観光大使をしているが、主に悪役専門の『悪の魔導師』役で赤獅子亭に所属するデレクだ。所属する宿屋としてはライバル勢力にあたるが、非常時にそんなことは言ってられない。それに彼は見た目が怖そうで悪役に収まっているが、実は結構義理堅くいいやつだ。
「デレク、頼む! 宿に行ってデュエル達を呼んで来てくれ! 『空白地帯』から何か出て来る!」
 寡黙な彼は、ただ頷くと人並みをかき分けて走り出す。それを見て観光客達は「さすが観光大使、真に迫っているね!」などと笑っているが、構わずボクは観光客を背にかばいながら『空白地帯』に向き直ると装飾でゴテついたレイピアを抜いた。
「皆さん、ボクの後ろに下がっていてください!」
 たとえ観光大使と言えども、ボクだって冒険者だ! そのボクがここで逃げるなんて選択肢、最初からない。せめて、デュエルたちが来るまでは持ちこたえてみせる!
 観光客が拍手をしながら下がるのが、やけにゆっくり感じられる。その間にも、出入り口のヒビ割れが大きくなっていった。そこまでくると流石に観光客たちにも小さく動揺が走り始める。

 やがて建物の一部を巻き添えに倒壊させながら、中にいたモノがぬらりと巨体を伸ばして現れた。本来なら、親指にも満たないほどの大きさの生き物だったはず。しかし出て来たそれは、その常識を大きく覆した。一言で言えば、建物並みの大きさの巨大ナメクジ!

「きゃああああっ!」
「でけぇ! なんだアレ! ナメクジか?」
「おー、よくできてるなあ。これってアレだろ、幻影魔法? ってやつ?」
「だ、大丈夫よね…だってここには冒険者がいるんだし?」
「あ、あの人知ってる! さっきショーに出てて、すごく強かった人だ!」
  あたりには逃げる者、留まってことの行方を見守る者、目を輝かせてショーと思ったまま見入る者が溢れている。巨大なナメクジだったのは、ボクにとっては幸いだった。とにかく歩みが遅いので、比較的避難誘導がしやすいんだ。
「今のうちに避難してください!」
 叫びながら、ボクは斬りかかる。確かこのタイプの魔物は、ただひたすらにスタミナがあったはず。 
  ボクは以前のショーで演じた巨大生物と戦うシナリオを思い出した。あの手の台本は、殺陣ががメインで子供ウケがいいんだ。特に男の子からの声援を浴びて盛り上がったんだが…現実に戦うことになると思わなかった。
 随分と久しぶりの切り刻む重い感触がレイピアに伝わる。装飾メインの細身の剣だが、流石に冒険者の街で作られただけあって、ある程度の戦闘にも耐えられるのが幸いした。これならしばらく持ちこたえられそうだ!
 
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