古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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intermission 1 ~観光大使の野望~

昼の番外乱闘! ~救援要請~

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Side-フランシス 7

 巨大ナメクジ相手に、レイピア一本で対抗するには荷が重い。重い感触の割りには、傷は浅いように思えた。それはそうだ、観光大使になってから冒険に出ることなどなくなったし鍛錬もできていない。
 
 今朝、早朝の鍛錬から帰って来たデュエルの汗だくな姿が一瞬だけ目に浮かんだ。そうだ、ボクも最初はあんな風に強い冒険者になりたくてエルダードに出て来たんだっけ…。本当は分かっていたんだ。ボクがあんな風に冒険者として大成するには、決定的に足りないものがあるってことは。できないと見切りをつけて、逃げたのはほかでもないボク自身。現実にいるのは観光客を避難させることもままならない、ただの小さな自分…。その時、隙ができたんだろう。分厚い壁のように立ちふさがる巨大ナメクジが、不意に体を縦横に大きく伸ばした。まずい! ボクを巻き込んで押しつぶす気か! 観光客たちから、本気の悲鳴が上がる。
 大きすぎて避けきれないと覚悟したその瞬間、そのまま覆いかぶさろうとするナメクジがボクを慌てて避けた。
 あれ、なんでだ?
 疑問は、次の瞬間に氷解した。さっき、リンダが浴びせてきた大量の塩だ!とっさにのけぞるナメクジの胴体を横薙ぎに剣で一閃する。

 直後、背後から何かが回転しながら飛んできた。銀色に光を跳ね返す見慣れたそれは、白銀亭で使っているシルバートレイ…?
 苦し紛れのボクの一撃とシルバートレイの直撃で、ナメクジはバランスを崩してそのまま後ろに倒れこんだ。再び建物の一部が巻き添えで倒壊して、巻き起こる砂埃が視界を塞ぐ。

「よお、頑張ってるじゃねぇか観光大使。こりゃ、援護は要らなかったか?」
 後ろからの聞き慣れすぎた軽口に振り返れば、予想通りの三人がそれぞれ武器を構えていた。当然と言えば当然だが全員が給仕姿で、トレイを投げたのはどうやらアーチらしい。寝起きと一目でわかるくしゃくしゃな頭のまま、いつものワイルドな笑みがボクを見て目を細める。
「キミ達…! 助けにきてくれたんだね、助かったよ、ありがとう!」
 感極まったボクの声にラスファは素っ気なく、デュエルは油断なく返事を返した。
「うちの店のそばで魔物が出た以上、さっさと始末するのが筋だ。勘違いするな」
「油断するな、まだ生きてるぞ!」
「ああ!」
 ボクの隣に並んだデュエルが、迷いなく槍を振るう。その光景に観光客からは新たなどよめきが生まれていた。

「あれ、あの三人も冒険者?」
「えー、でもアレどう見ても給仕さんでしょ? どっかの店から来た」
「ああ。でも、あの動きは只者ではない!」
「どっちでもいいさ。兄ちゃん達、やっちまえー!」

 さっきまでのパニック寸前の状態に比べて一転、辺りには妙な熱気が生まれつつあった。路上で不定期に行われる、シークレットイベントだと思われているのだ。まあそのショーの成り立ち自体が、街中での魔物退治を観光っきゃ国見られた時のパニック防止策という噂だけれど。
「援護する。こいつには、火が効くぞ」
 いつの間にか追いついていたデレクが、小さくアドバイスしながら古代語魔法で僕たちの武器に炎の魔法を乗せて観客に素早く紛れる。いざとなれば観客を守れる位置に陣取っている辺り、彼も律儀ないいやつだ。

 うーん、これは観光ショー並みの派手な演出だね。実用的かつ、派手でカッコよく見える。ショーの時にも使われている、派手さを上乗せするアレンジを加えた魔法って聞いたな。魔術の業界も、日々進化してるんだなあ…。案の定、観客達から歓声が上がった。いや、約一名ノリの良い給仕からも。
「いやっほう!そうこなくちゃな!」
  当社比二倍の派手な魔法に、アーチがテンションを上げる。このノリで観光大使やってないって、どういう事だろう? 彼のおかげで、観客達も落ち着いて見物しようという気になったらしい。無理な押し合いが激減したのがその証拠だ。…やるな。
 実用性からは程遠い装飾付きレイピアを振るって戦うボクの姿に、観客からため息が漏れる。でも、わかってるさ。純粋な腕前としては、デュエル達現役冒険者に叶わないってことはさ。

 観客から漏れ聞こえる、感想の声からもわかってしまうのが今は辛かった。




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