古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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intermission 1 ~観光大使の野望~

昼の場外乱闘 ~解決編~

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Side-フランシス 8

 観光大使を始めた頃からずっと、ボクは観客からの声援に混じって聞こえる感想を聞きながら殺陣をこなす癖がついていた。それは、観客のニーズを読み取るため。客が何を求めているのか、何をすれば良いのか。それは、観光大使にとっての命綱。人気がなくなれば、僕たちはたちまち不要の存在になってしまう。そんなのはごめんだった。
 
 今は、それがアダになってしまっているけどね。
   
「ほほう、あの給仕たち…やるな」
「えー、でもあの格好でしょ? サポートするだけのスタッフさんなんじゃないの?」
 ポツポツと聞こえる、そんな反応。
 迷う事なく豪快な槍さばきで、斬撃を叩き込むデュエル。
 両の短剣で、鋭く的確な斬撃を次々と刻み込むアーチ。
 素早く正確無比な援護射撃を撃ち込むラスファ。
 素人目にも、わかる人にはわかるんだ。ボクとデュエルたちの身のこなしが、根本から違うということは。
 自覚したその瞬間から、ボクに対する声援が急に色あせて聞こえた。何をしても中途半端な自分。
ボクには、あまりに足りないものが多すぎる。

 劣等感に心が沈み始めたその時だった。ボクや観客に聞こえるように、アーチが大声で言い放ったのは。
「おい、ここはオメーの必殺技しかねぇ! 一つ、でかいの頼むぜ!」
 アーチが不意にボクを振り返って意味ありげな目配せをする。その時、唐突に思い出した。彼と共演した舞台の台本! 彼のいう必殺技とは、以前にショーで使った火の魔法…と見せかけて、裏方からの幻影魔法という簡単なカラクリだ。実際にボクに使えるはずないんだけど、こっそりとアーチはラスファに耳打ちしている。そうか、あの演出を実際の精霊魔法でやるつもりか! それを裏付けるように、彼らが声を張り上げる。
「そうだな、このままでは不利だ! 頼む、派手にやってくれ!」
「後のタイミングは合わせるからよ。だから、思いっきり最大火力でぶちかませ! オメーの炎の魔法だけが頼りだ!」
「…実際、合わせるのはこっちなんだがな…」
 下手くそな棒読みセリフのデュエルと、それなりにこなれたアーチがこぞって調子を合わせ、それにラスファが目をそらしつつこっそりと小声でツッコむ。…これはもう、乗るしかない!
「ああ、それじゃ行くぞ! 後の援護は頼む(文字通り)!」
 そして、ステージで幾度も唱えた呪文を詠唱する。同時にラスファもこっそりと精霊魔法の準備を始めていた。
 しかし、よく覚えていたなアーチ…これ、一年と半年近く前の演出なんだけど。
「『深遠なる闇に眠りし、炎の申し子よ…我が呼びかけに答えよ!  我が眼前の敵を焼き尽くせ!』」

 そして、大げさな身振りで細身の剣を高々と掲げる。同時に、強大な炎の魔法が放たれる…はずなのだが、ラスファ自身が合わせる元ネタを知らないためか、数秒ほど遅れて魔法が発動した。どういうわけか、近くに店を構えていた焼き鳥屋から観客をかすめて数本の炎の矢が飛んでくる。…え、よりによって、なんでそこから?

「オメー、ちょっと遅ェよ! 合わせるっつったろうが?」
「観光大使の偽呪文が長すぎるんだ! なんだってあんな無駄に長い?」
「てか、なんで屋台から魔法が飛ぶ? むちゃくちゃかっこ悪りぃだろうが!」
「精霊魔法だからな。火の呪文なんて、他に引っ張りどころがないだろうが?」
「観客いるんだぜ? ちっとはかっこいい演出使えよ!」
「知るか! 倒せれば良いだろう!」
「つくづく解っちゃいねぇなオメーは…」

 後ろでアーチとラスファが小声の口論を繰り広げるが、頭上ギリギリを掠めた掛け値無しの『本物の魔法』を見た観客は聞いちゃいない。

 さらに後ろで尻餅ついて腰を抜かした焼き鳥屋の店主さんと、焼き鳥買ってて頭のてっぺん焦げた酔っ払いのおっさん!   驚かせてしまって、本当にごめんなさい…!
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